想い出(2)
そして1年後。
少しの行き違いでケンカになってしまった。
女子の複雑な乙女心なんて解んないや、なんて。
『言わなかった言葉』
言わないのと言えないのじゃ全然違う、と親友に言われたっけ。
彼女の気持ちを察してあげることができなかった自分に、腹が立った。
もう一度、去年と同じように過ごそうとしたあの日。
1日の終わりをまたこの海辺で締めくくった。
砂浜に着くと、彼女は小走りで波打ち際まで行き、海に溶ける夕陽を見つめている。
僕は少しの間、夕陽に映る後ろ姿を見つめていた。
愛おしい、なのに哀しませてしまった彼女の後ろ姿を。
それからゆっくりと歩いて、背中からそっと抱きしめた。大好きな彼女を。
そしてそのまま彼女の耳元でもう一度伝えた。去年と同じことを。同じ気持ちを。
心からの想いを。
『キミに、言いたいことがあります』
彼女の体が強張ったのが解った。
『ずっと、ずっと……心からキミが好きです。今までも、これからもずっと変わらない』
僕の腕に温かい雫が落ちてくるのを感じた。
『私も……心からあなたが好きです。今までも、これからも。たとえ何があったとしても』
彼女の言葉を今も想い出すだけで、こころが締めつけられる。
涙のせいか少し震えた彼女の声は、それでもハッキリと僕のこころの奥に届いた。
これほどまでに温かい言葉があるだろうか。
これほどまでに僕のこころを占領する人はいるだろうか。
そう思った。
『待たせて、ゴメン』
僕は1年前と同じ気持ちでそう言った。
『遅いよ』
彼女もそう答えて、微笑んだ。
そのままふたりで、夕陽が水平線の彼方に消えてゆくのを見送った。名残を惜しみながら。
いつまでも、いつまでも。
そして帰り道。
お互いもっと自分の気持ちを正直に言い合おうって言ったっけ。
ああ、それなのに大人になるにつれて、あの頃の純真さを忘れていたのかもしれないな。
あれからいろんなことがあったけど。
というか、いろんなことがありすぎて。
クリスマス・イヴにプロポーズをしようと待ち合わせ場所に向かう途中の交通事故。
その時に頭を強く打ったせいで、彼女のことだけが頭の奥に追いやられてしまった。
それから入院。
そこで僕は彼女に2度目の一目惚れをした。
つまらない入院生活も、彼女のおかげで楽しいものに変わった。
その後は、輝く未来が自分たちには待っているものと思っていたのに。
退院の日。
ヤツのせいで砕け散った幻想。
それからの日々は切なく苦く辛いものだった。
想い出すのも苦しさともどかしさに遮られるほどだ。
だけど、この海での想い出は今でも輝いている。
僕と彼女には忘れられない、青春の宝物で一杯の場所。
お読み下さりありがとうございました。
次話「想い出の海、夕陽。」もよろしくお願いします!
あと2話で完結です。
ラストまでお付き合い下さると嬉しいです♪