手紙
親友との電話を切ると机に向かい、僕は大きく深呼吸をする。
そしてペンを手に取り、彼女に手紙を書くことにした。
――――――* * *――――――
その後、元気にしているか?
何からどう書いていいのか。急な手紙でびっくりさせたと思う。
僕から書く、初めての手紙だね。上手く伝えられるか解らないけど、今の正直な気持ちを書こうと思う。
僕の方は……あれから色々考えたよ。最後のあの『エピローグデート』のこと。あの時の想い……。
その後、僕はキミを忘れる努力をした。毎日、毎日。
ムリに仕事に打ち込んだりして、なるべくキミのことを考えないようにしてみたりもした。そんなことできっこないのに。
そうして、ようやく気づいたんだ。お互い嫌いになった訳じゃないんだから、無理に忘れるんじゃなくて、楽しかった想い出を心に刻んでおくべきだってことに。
やっと心に折り合いをつけた矢先。親友から、キミが結婚を取り止めたことを聞いたよ。
すごくビックリしたけど……正直ホッとした。
タイムリミットが延長された気がしたんだ。
その反面、僕の記憶が戻らない限り、一緒にはなれないとも思った。
今度は諦めた。
キミに1つ報告があるんだ。
今更だけど、キミにも色々心配をかけたから、伝えておかないと。
今朝、思い出したよ、全てを。
高校1年生の春、初めてキミを見かけたあの日。
僕は一目でキミの笑顔が好きになった。
それからずっと片想いで、高校2年のあの日。
やっとの思いでキミに告白したこと。
花火大会、初めてのケンカ、遊園地、告白記念日……大学生の頃、社会人になってから、そしてクリスマス・イヴ……。
あの日のこともね。
僕の大好きなキミの笑顔も、泣き虫なキミも。
全部思い出したよ。今更だけどね。
あ、ごめん。これはただの報告だから、気にしないでくれ。
やっぱ、手紙を書くのって難しいな。きっとキミはこの手紙を読んで、文章力のなさに、支離滅裂だって笑っているんだろうな。
でも、最後まで頑張って書くよ、今の正直な気持ちを。
だから、もう少しキミもつきあってくれよな。
親友に、これからどうするのか聞かれたけど、先のことは全く解らない。
キミのことも。今のキミの心も解らないしね。
ただ僕は、今度の日曜日。そう、キミと僕との7回目の記念日に、あの海にキミとの想い出を、全て流してしまおうと思う。あの夕陽とともに水平線の彼方まで。
あの最後のデートの時に、車で聴いたあの曲『エピローグ』のように、全てを海に流そうと思う。
キミはどうする?
よく考えて決めてくれ、じゃあな。
――――――* * *――――――
次の朝。
会社に向かう途中、手紙をポストに投函した。
お読み下さりありがとうございました。
今話より最終章『今までも、これからも。』に入りました。
次話「エピローグ」もよろしくお願いします!