希望と絶望(4)
どんなに楽しくても、どんなに辛くても、同じ速度でただただ時間は通り過ぎてゆく。
「今日も1日平穏に過ごせますように」と毎朝思うことだが、身支度を整え、機械仕掛けの人形がごとく決められたような動きで会社に向かい1日を過ごす今日は、いつになく胸の奥がもやもやしている。
そんな中、何ごともなかったかのように振る舞うのは、思ったよりもこころをすり減らす。
会社では当たり前のことを当たり前のように、次々と熟してゆく。それが仕事だ。社会人の務めだ。
考えても、もうどうしようもないことをこころに留めたまま、平静を装い仕事に没頭する。
何かのきっかけで頭を過るが、それでもこころを立て直し自然に振る舞う。
そうして残酷で、平穏な1日をやっと終え自室に戻った。
ベッドの縁に座り、ふうとひと息つく。
しばらくただなんとなくぼんやりしていたが、なにか忘れてないか?
そうだ、記憶が戻ったこと、親友には話さないとな。心配かけたからな。
僕はテーブルの上に置いていたスマホに目をやり、ゆっくりと手に取る。
* * *
スマホの向こうの親友はたいそう喜んで、本当に喜んでくれた。
『で、どうするんだ?』
「どうって……」
一時は舞い上がったけど、気づいてしまったんだよ。
もう遅いってことに。
今更ってことに。
『彼女にはまだ言ってないんだろう?』
「ああ」
『言わないつもりか?』
直接電話をするのも気が引ける。
お互い辛い想いをしながらも、納得して『けじめ』をつけたんだ。
そう。納得して笑顔で『エピローグデート』を終えたんだよ。
彼女が結婚を取り止めたといっても、多くの人に迷惑をかけている。
彼女がそのことを直接僕に言ってこないのも、きっと僕と同じ考えだからだ。
僕だってそうだ。
いくら記憶が戻ったっていっても。
今更記憶が戻っても、「はいそうですか、めでたしめでたし」……とはいかないんだよ。
相手のあることだ。そんなに簡単にはいかない。
僕達は、もう少し自分本位になればいいのかもしれない。
だけど、こんな風にしかできない、こんな風にしか考えられないのが僕達なんだ。
感情のままに行動できない。
それってダメなことかな?
ゆっくり時間をかけることは。
それが大人ってもんだろう?
なら、やっぱり大人にはなりたくないな。
「どう言っていいか……。そうだな、手紙を書くよ」
少し回り道をして、成り行きに任せてみるのもいいのかもしれない。
『手紙? 早く言ってやった方がいいんじゃないのか?』
「いや、言葉じゃ上手く言えそうにない。よく考えて、自分の気持ちを整理して、今の正直な心を書いてみる」
『そうか。それで、これからどうする?』
「何も変わらないよ。平穏な毎日を淡々と過ごしていくだけさ」
『彼女とはどうすんだ?』
「うーん。先のことは何とも。彼女次第……かな。いろいろありがとう。」
『おう。じゃ、また遊びに来いよ』
電話を切って、机に向かう。
お読み下さりありがとうございました。
次話「手紙」もよろしくお願いします!
(次話より、最終章に入ります)