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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第12章 希望と絶望
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希望と絶望(4)

 どんなに楽しくても、どんなに辛くても、同じ速度でただただ時間は通り過ぎてゆく。


「今日も1日平穏に過ごせますように」と毎朝思うことだが、身支度を整え、機械仕掛けの人形がごとく決められたような動きで会社に向かい1日を過ごす今日は、いつになく胸の奥がもやもやしている。


 そんな中、何ごともなかったかのように振る舞うのは、思ったよりもこころをすり減らす。

 会社では当たり前のことを当たり前のように、次々とこなしてゆく。それが仕事だ。社会人のつとめだ。

 考えても、もうどうしようもないことをこころに留めたまま、平静を装い仕事に没頭する。

 何かのきっかけで頭をよぎるが、それでもこころを立て直し自然に振る舞う。


 そうして残酷で、平穏な1日をやっと終え自室に戻った。


 ベッドの縁に座り、ふうとひと息つく。


 しばらくただなんとなくぼんやりしていたが、なにか忘れてないか?

 そうだ、記憶が戻ったこと、親友には話さないとな。心配かけたからな。


 僕はテーブルの上に置いていたスマホに目をやり、ゆっくりと手に取る。




* * *


 スマホの向こうの親友はたいそう喜んで、本当に喜んでくれた。


『で、どうするんだ?』


「どうって……」


 一時は舞い上がったけど、気づいてしまったんだよ。

 もう遅いってことに。

 今更ってことに。


『彼女にはまだ言ってないんだろう?』


「ああ」


『言わないつもりか?』


 直接電話をするのも気が引ける。

 お互い辛い想いをしながらも、納得して『けじめ』をつけたんだ。

 そう。納得して笑顔で『エピローグデート』を終えたんだよ。


 彼女が結婚を取り止めたといっても、多くの人に迷惑をかけている。

 彼女がそのことを直接僕に言ってこないのも、きっと僕と同じ考えだからだ。


 僕だってそうだ。

 いくら記憶が戻ったっていっても。

 今更記憶が戻っても、「はいそうですか、めでたしめでたし」……とはいかないんだよ。

 相手のあることだ。そんなに簡単にはいかない。


 僕達は、もう少し自分本位になればいいのかもしれない。

 だけど、こんな風にしかできない、こんな風にしか考えられないのが僕達なんだ。

 

 感情のままに行動できない。

 それってダメなことかな?

 ゆっくり時間をかけることは。


 それが大人ってもんだろう?


 なら、やっぱり大人にはなりたくないな。

 


「どう言っていいか……。そうだな、手紙を書くよ」


 少し回り道をして、成り行きに任せてみるのもいいのかもしれない。


『手紙? 早く言ってやった方がいいんじゃないのか?』


「いや、言葉じゃ上手く言えそうにない。よく考えて、自分の気持ちを整理して、今の正直な心を書いてみる」


『そうか。それで、これからどうする?』


「何も変わらないよ。平穏な毎日を淡々と過ごしていくだけさ」


『彼女とはどうすんだ?』


「うーん。先のことは何とも。彼女次第……かな。いろいろありがとう。」


『おう。じゃ、また遊びに来いよ』


 電話を切って、机に向かう。



お読み下さりありがとうございました。


次話「手紙」もよろしくお願いします!

(次話より、最終章に入ります)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 希望と絶望(4)まで読みました。 「じゃ、今日はジンジャエールで」 「高校生か!」 ↑ここが笑えました。  後にもジンジャーエールネタを引っ張っているところも良いですね。 イケメンボー…
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