希望と絶望(3)
親友宅での会話を思い出した。
記憶が戻ればまた彼女と元どおり、恋人同士に戻れるだろうという親友の言葉に、僕は今まで胸の奥につかえていた何かが、すっと落ちた気がした。
そしてその言葉で気づいたんだ。
時間は誰にも等しく進んで行く。
たとえそれが楽しい時間であろうと苦しい時間であろうと。
そしてそれは決して止めることも巻き戻すこともできない。
ひとはなにをそんな当たり前のことを、と笑うかもしれない。
だけど、時間はただ過ぎて行くだけじゃないんだ。
いろんなこころや想いを乗せて通り過ぎてゆくんだ。
決して捉まえられない大切な想いも。
時間が捉まえられないのと同じで。
愛しい想い、切ない気持ち、やるせないこころ。
いろんなことがありすぎた。
決して無かったことにはできないほどに。
それらのことを乗り越えて、はじめて次に進める気がする。
なにを堅苦しく考えて、と親友には笑われるかもしれない。
そして「お前らしい」とつけ加えてくれるだろう。
親友宅での会話を思い出してしまった。
そのとき僕はふと気づいた。
そう。気づいてしまったんだ。
例えようのない焦燥感と絶望感が僕を襲う。
「そうだ、何を今更」
ベッドの縁に座って呟いた。もう涙も出ない。
しばらくして、突然鳴り出した目覚まし時計の凄まじい音で、もう朝だと気づいた。
部屋中に響き渡る金切り音に動じることもなく、ゆっくりと停止ボタンを押す。
一瞬にして部屋はまた静寂に包まれた。
少しそのままベッドの縁に腰かけていると、何ごともなかったかのように小鳥たちが庭木でさえずっているのが耳に入る。
いつもならこころが洗われるような気持ちになる清々しい時間帯も、今の僕にとってはただ時計の針を進めているだけの、つまらない1日の始まりでしかない。
僕はそろそろ時間だと、いつものように身支度を整え、機械仕掛けの人形がごとく決められたような動きで会社に向かう。
どんなに楽しくても、どんなに辛くても、同じ速度でただただ時間は通り過ぎてゆく。
今日も1日平穏に過ごせますように。
お読み下さりありがとうございました。
次話「希望と絶望(4)」もよろしくお願いします!