希望と絶望(2)
ああ、何てことだ!
僕の、僕のずっと追いかけていた女神が、飛び切り上等の笑顔で目の前にいる。
ずっと会いたかった。ずっとその笑顔が見たかった。
僕の女神……キミだったんだね。
『僕はずっと、キミに言いたい言葉があったんだ』
そう声に出した時に零れた涙の感触で、目が覚めた。
何が起こったのか理解するのに、時間は必要なかった。頭が妙にスッキリしている。
「あ……」
鼓動が速くなっていく。
想い出した。全て想い出したよ。 頭の奥に隠れていた、彼女との7年間の出来事を。そしていつでも、どんな時でも彼女を、どれだけ彼女を愛していたのかを。
やっと全てを想い出すことができた。
それと同時に、あの頭痛も消えている。なんとも不思議な体験をしたなと思う。
ずっとずっと願ってやまなかった記憶を取り戻すことができた。
僕はいつの間にか溢れ出した涙に気づき、ようやく拭った。
まだ収まらない鼓動が、部屋中に響いている。
僕は舞い上がった。希望の光が見えた。これで彼女と……。
これで彼女を迎えに行ける……。
今までの辛く苦しい出来事も全て水に流して、また一から彼女と、いやゼロからでもいい。彼女とやり直せるなら。
彼女との『エピローグデート』の時から彼女の気持ちは知っている。
そして彼女も僕の気持ちを解ってくれているはずだ。
もう何も悩むことはない。
全ては丸く収まるのだ。
そう、僕の記憶が戻らないのが一番のネックだったのだから、全てを想い出した今では、もうふたりを遮るものはない。
やっと。
やっと未来に進んで歩き出せる。
もう、過去にとらわれて苦しむことなく、ただ前だけを見据えて突き進んでゆけるんだ。
そう思うと全身から喜びが溢れるように、鳥肌が立つのが解った。
とその時、先日の親友とのやり取りが脳裏をかすめた。
『じゃあ、記憶が戻れば問題はなくなるんだな』
親友の言葉だ。
記憶が戻れば。
その言葉に僕は『記憶が戻れば……だけど、今となってはそんな簡単な問題じゃないんだよ』と思ったんだ。そして親友にはこう答えた。
『もっと前ならね。時間は進んでるんだよ。待ってはくれない。ましてや、戻すこともできやしない。……いろんなことがありすぎたよ。この先、どうなっていくのかは解らないけど、大きな気持ちで見守っていてくれないか』
そうだ。時間は進んでいるんだ。
皮肉なことに時間というヤツはいつでも誰にでも平等に時刻を刻んでゆく。
絶え間なく。途絶えることなく。
あの時とはもう違うんだ。
あの『エピローグデート』の頃とは。
せめて彼女が見合いをしたと言った時に戻れたなら。
あの頃ならなんの躊躇いもなく彼女と進んでいけただろうに。
そんな願いが叶うはずもなく。
あれからいろんなことがありすぎた。もう取り戻せない時間。もう戻れないあの頃。
もしかすると僕は逃げているのだろうか。
いや違う。彼女とのことから逃げるなんて。
でも、もう。
記憶が戻ればまた……なんて考えることに。
……もう疲れてしまったのかもしれないな。
その時そう考えて、自分で言った言葉だ。
『解ったよ。でも、よく考えて、後悔しないようにな。どんなことがあっても、俺はお前の味方だ』
僕の言葉に親友はそう返してくれた。
そしてふと気づいた。
そう。気づいてしまったんだ。
お読み下さりありがとうございました。
主人公はなにに気づいてしまったのでしょうか。
次話「希望と絶望(3)」もよろしくお願いします!