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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第12章 希望と絶望
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希望と絶望(1)

 あれから時折頭痛に見舞われるようになった。あの親友宅でジンジャエールを飲み過ぎた日以来。

 きっと疲れているのだろうと、然程気にもかけなかったが、こうやってベッドに横になっていると、また少しばかり頭痛が気になる。


 今日は『イケメンボーイ』くんのビックリ発言に、いささか波風も立ったが若いふたりが微笑ましくもあり……って、かく言う僕もまだ24歳。充分若いのだが。


 僕が何かをどこでどう間違えたのかは解らないが、今まで自分におきた出来事は僕の人生において、決して無駄なことじゃない。

 これから歩んで行く道程みちのりに必要だったことなんだと言い聞かせる。


 妹たちには遠回りしても、自分たちの手でちゃんと幸せを掴んでほしいと願う。

 そのためには、兄としてできる限りの協力はしようと、そう思った。


 さあ、明日も仕事だ。早めに寝て、体調を整えよう。

 僕はジッと天井を見つめる。

 やっぱりこの、眠る前のこの時間は、つい色んなことを考えてしまう。

 入院していた時の彼女との3週間、彼女のいない7ヶ月間、この夏の出来事。

 これでいいのか? このままでいいのか?



 ああ、頭が痛い……一体どうしたんだ?

 今日はいつもに増して頭が重く感じる。

 どうしたんだろう。目の前に白いもやがかかっていくようだ。

 気が遠くなる……薄れゆく意識の中、僕は彼女のことを想い浮かべた。





 遠くで誰かの声がする。


「……」 「…………」


 鈴を転がしたような澄んだ声が、僕の名前を呼んでいる。

 優しい、そしてどこか懐かしいその声に、そっと目を開けると……。



『此処は……』


――全てが真っ白な世界――


 白以外は何も無い、何も無い空虚の中に居た。僕は起き上がって、辺りを見渡してみる。

 前後・左右・上下全てが眩しいほどに純白で、足元には自分の影さえも無い。ただとてつもなく広い〈白〉の中で僕は、呆然と立ちすくんでいた。


『此処は……何処だ?』


 ああ、『女神の居所きょしょ』だ。たしかそう名付けた。


 僕はその白い世界を見渡した。

 すると遙か向こうで誰かが手を差し伸べているのが見える。


 あ、やっぱり。やっぱり。


 あまりに真白ましろい空間でどのくらい離れているかは解らないが、そこに向かって歩いてみよう。

 今日こそ、今日こそその女神をこの目で。

 もう後悔だけの人生はいやだ。自分の手で捉まえてみよう。

 そう決意して、僕はゆっくりと一歩を踏み出した。


 はじめはゆっくりと、次第に早足で。

 かなり歩いたはずだが、不思議と疲れは感じない。

 ああ、夢だからか。

 だけどなんて現実に近い感覚なんだろう。

 

 僕は歩いて歩いて、一生懸命歩いてやっと近くまでやって来た。


 少し手前で一度立ち止まり、深呼吸をする。

 それから僕は恐る恐る近づいて、〈女神のようなその差し出した手〉を掴もうと、そっと右手を伸ばした。

 すると女神のようなその女性ひとは、『ふふふ』と笑い、遠ざかる。


 僕は夢中で追いかけた。もう少し、もう少し。


 顔も見えないはずなのに、神秘の女神のその姿はどこか懐かしく、僕に優しさと、勇気を与えてくれる気がする。純白のドレスを身に纏い、白いベールのその姿を、僕は走って、走って、走って、追いかけて、追いかけて、追いかけて……。


 とうとう追いついた。


 やっと捉まえた。


 やっと。


 僕は透き通るように白く華奢きゃしゃな、その壊れそうな手を手繰り寄せ、顔を覆っていたベールを……そっと上げた。



お読み下さりありがとうございました。


やっと追いついた。

女神のように差しだしたその白い手の主は一体……。


次話「希望と絶望(2)」もよろしくお願いします!

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