あの日から(2)
今話で100話目となりました。
先日の親友宅での意外な話――彼女が結婚を取り止めたって聞いた夜、僕はまた例の夢を見た。
そう、全てが真っ白い世界のなかに佇んでいるあの夢だ。
そしてその夢の中の〈女神のようなその差し出した手〉を、僕はその日も追いかけた。
後悔したくないから、諦めずに追い続けようと、そう思った。
いつか追いつきたいと、そう願った。
〈女神のようなその差し出した手〉は、掴もうとすると遠ざかる。
純白のドレスを身に纏い、白のベールに包まれた女神のようなその姿は、一定の距離をおいて僕から遠ざかる。
『キミは……誰?』
心の中で問いかけても、誰も答えるはずもない。
もしも声に出してしまったら、消えてしまいそうで……それが怖かった。
僕は敬意を込めてこの場所を、『女神の居所』と名付けた。
次の朝。
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、いつもと違う感覚に気づく。そう、今日は何だか頭が重いと感じた。昨日、親友宅で飲み過ぎたか? ジンジャエールを? なんて、つまらないことを考えながら、いつものように身支度を整え、いつものごとく会社へ向かった。
通勤電車に揺られている間も、朝から続く頭痛は良くも悪くもならず。今日はこんな調子で1日過ごすのかななんて思うと、余計に気が滅入る。
会社に着いて廊下を歩いていると、ヤツが前からやって来るのが見えた。少しバツが悪そうにして、うつむいている。昨日のことを気にしてるんだな。
まあ、無理もない。
嘘をついて僕を自宅に呼び出したんだから。
そして恋人にしてほしいと僕に話したわけだが、そのことで僕自身、中途半端だったヤツとの関係に終止符を打つことができた。
少し気まずい雰囲気ではあったが、別にケンカをしたわけでもない。
お互い知らんぷりをすることもない。
僕は初めて自分から声をかけた。
「おはよう、いつもの元気はどうした?」
「あ、おはよう。普通に接してくれるの?」
「当り前じゃないか」
「昨日はごめんなさい」
「もう、気にするな、友達だろ! お前が元気ないと、調子狂っちゃうよ」
「本当?」
ヤツの顔がパッと明るくなった。
「ああ。恋人にはなれないけど、友達として、これからもよろしくな」
「うん! それで充分。こちらこそよろしくねぇ」
「そうそう、その調子」
「やっぱり、だーい好き」
「こら、調子に乗るな!」
ヤツとはいろいろあったけど、結果的にはこうして冗談を言って笑い合える関係になれてよかったのかな、なんて思える。
会議も無事終わり、平穏な1日を過ごすことが出来たが、相変わらず頭が重い。夏バテかな? それとも疲れが溜まっているのかな。
あの日から。
あの日から今日までずっと続く違和感。
この頭痛は一体いつまで続くのだろうか。
回想シーンは今話までです。
次話「希望と絶望(1)」もよろしくお願いします!
お読み下さりありがとうございました。