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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第1章 オレはずっと
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花火大会(3)     ✩挿し絵あり     

 華やかに空に咲く花々。

 プログラムも終盤になり、名物の『ナイアガラの滝』が始まった。大きく張られたロープからは何本もの紐状のものが下がっている。その大きなロープの端に点火され、みるみるうちに広がって全体に行き渡ると、花火でできた文字になる。


 その文字は、この花火大会開催30回目の記念を祝す言葉だった。




 次はいよいよクライマックスだ。


 ドーン

 ドーン


 パンパンパン


 ドドーン


 連続で色々な種類の花火が打ち上がる。

 僕は、しだれ柳が好きだな、なんて思いながら夜空に浮かぶ夢の世界を眺めていた。


 華やかな空から僕の隣の花に視線を落としてみる。


 彼女のキラキラした瞳にも色とりどりの花が咲いている。


『ホントに大好きだよ』


 今度は心の中で呟いてみた。



 

 大きな拍手とともに花火大会は終了し、駅へと向かう道は一気に人で一杯になる。

 僕たちは地元なので、花火の余韻を楽しみながらゆっくりと歩いて、彼女を家まで送って行くことにした。


「じゃあ、またね」


「うん、おやすみ」


 彼女は門を入ったところでクルッと振り向き、もう一度傍まで駆け寄ってきた。


「ん? どうしたの?」


 その問いかけに答えることもなく、彼女はそのまま僕の左肩に両手を置いた。


 え……。


 そして背伸びして僕の耳元で囁いたんだ。


「私も好きだよ」


「え……!」


「じゃ、おやすみ」


 彼女はニコッとして、玄関まで走って行く。そして鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている僕に、イタズラっぽく笑いながら、小さく手を振ってドアを閉めた。


 その場に残された僕は動揺した。


『あ……聞こえてたんだ』


 今更ながら、花火大会の雰囲気に任せて言ってしまった自分の言葉に、恥ずかしさが込み上げてくる。

 

 もう絶対に言わない。


 耳まで赤くなっているのが、自分でも解った。と同時に、彼女のさっきの言葉を思い出して、その後自宅に着くまでずっと、ドキドキしていた。


 


 シャワーを浴びてベッドに入ったが、今夜はとても眠れそうにない。思い出すと、またこころが高揚する。


『私も好きだよ』



挿絵(By みてみん)




 何度となく彼女の可愛い声と、耳元で甘く囁かれた吐息混じりの言葉を想い出し、ひとりでニヤニヤしながら枕に顔をうずめてみたり、ポンポン叩いてみたり抱きしめてみたり。


 ……今夜はとても眠れそうにない。



 がしかし、今日の人混みに疲れたのか、案外すぐに眠りに……。






 いつものように僕は『女神の居所きょしょ』にいる。

 前後・左右・上下全てが眩しいほどに、純白な世界。


『君は……誰?』


〈女神のようなその差し出した手〉を、オレは今日も追いかける。

 

 風もないのになびいているその長い髪は、白いベールで覆われていて、顔は見えない。


『顔は見えない』はずなのに、美しいその澄んだ瞳が、僕に微笑みかけているように感じる。


〈女神のようなその差し出した手〉は、今日もまた、僕を翻弄ほんろうする。



小声で言ったつもりだったのに。

しかも彼女のあまりの可愛さについ漏れ出した心の声のはずだったのに。

絶対に聞こえていないと思ったのに。

案外そういうのって聞こえちゃうんだよな。

でも、彼女の口から「私も好き」なんて言われちゃって……。


お読み下さりありがとうございました。


次話「言わなかった言葉(1)」もよろしくお願いします!


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