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第八話 新しい相方

 ここは場末ばすえにある小さな演芸場。スキンヘッドの体格のいい男が、パンツ一丁の格好かっこうで楽屋の中を行ったり来たりしている。男は時計をチラッと見ると、忌々いまいましそうに舌打ちした。

「どないなってるんや!」

 その時、ドアがノックされ、ポッチャリした若い男が入って来た。ポッチャリはパンツ一丁に向かって、深々と頭を下げた。

「すみません、テスラ師匠。ニコラさんを説得することができませんでした」

「何やってんねん! もうすぐ幕が上がるんやで。わい一人でコントせえっちゅうんかい」

 ポッチャリはちょっとムッとした顔になった。

「ですが、元はといえば、テスラ師匠が『星空ニコラ・テスラは、わい一人の人気で持ってるんや。ニコラは刺身のツマみたいなもんや』とかおっしゃったのが原因でしょう」

「ちょっと酒の勢いで言うただけや。それをに受けて、コンビやめて田舎いなかに帰るっちゅうて出て行ったんや。アホかいな。どうせ、すぐに後悔して戻って来るに決まっとるわ」

「そうかも知れませんが、もうニコラさんは新幹線に乗られましたよ。たとえ途中で気が変わっても、今からでは間に合いません」

 テスラは「うーむ」とうなっていたが、ふと何か思いついたように、ポッチャリの顔をマジマジと見た。

「そうや。マネージャー、あんたが代わりに出ればええやないか。なあに、わいが『ニコラくん、最近えらく太ったなあ』とか言うて誤魔化ごまかしたるわ」

 マネージャーは激しく首を振った。

「無理です、無理です。ぼくじゃニコラさんと体格が違いすぎます」

「そんなこと言うたかて、背に腹は変えられんやろ」

「いや、実は、ここに来る前にプロダクションに相談しまして、代役を借りてきたんです」

 マネージャーは振り向いて「おい、いいぞ、入って来い」と言った。

「失礼します」

 細身の影の薄い男が入って来た。

 すると、テスラの顔がパッと輝いた。

「なんや、ニコラ、気が変わったんかいな。それとも新幹線に乗り遅れたんか。まあ、ええわ。今回のことは水に流したる。それより、早よ段取り決めよ」

 黙ったままの細身の男に代わって、マネージャーが説明した。

「師匠、違うんです。これはニコラさんじゃありません。それどころか、人間ですらありません。ロボットなんです」

「ロ、ロボット?」

「そうです。危険を伴う仕事の際、芸人さんにケガがないよう、代役を務めるスタントロボなんです。容姿ようしコピー機能があるので、遠目では本人と区別がつきません」

「ケッタイな話やな。何でわいがロボットとコントせなならんねん」

「お願いします。もう時間がありません」

 マネージャーはまた深々と頭を下げると、返事も聞かず、逃げるように出て行った。

「しゃあないなあ。ロボットとコントやなんて、前代未聞やで。けど、まあ、ニコラがやってたことぐらい、子供でもできるこっちゃ。やってみるしかないやろ。よっしゃ、ロボット、こっちゃ来い。段取りや」

「かしこまりました」

「うーん、やっぱり動きがぎこちないなあ。まあ、しゃあないか。ええか、最初にわいが『最近、売れて売れて売れすぎて、運動不足や。何かせんと、体がなまるわ』と話を振る」

「本当ですか?」

「ウソに決まってるやろ。そんなに売れてへんし、わいは三度のめしが食えんでも筋トレは欠かしたことのない男や。あくまでも段取りや。すぐに、わいが『ランニングマシンでもないやろか?』と続けるから、おまえは『ちょっと待っててや』と言うて、この機械を舞台の真ん中に持ってくるんや」

「かしこまりました」

「別にかしこまらんでもええがな。そしたら、わいが機械を見て『後ろの方でバチバチいうてるのは何や?』と聞くから、『走るのが遅いと、電気ショックがビリビリくる仕掛けや』と答えるんや」

「大丈夫ですか?」

「大事ないわ。電気マッサージ機程度の電圧や。わいがオーバーに恐ろしがりながら機械の手すりに手をかけて、『ええか、絶対に押すんやないで!』と言うから、おまえは思いっきり押すんや」

「理解不能」

「これは決まりごとなんや。『押すな』と言うんは『押せ』っちゅうこっちゃ」

「理解不能」

「おいおい、わからんことないやろ。空気読まんかい!」

「理解不能、理解不能、理解、理、り、り」

「おーい、どないしたんや。こいつ煙吹いたで。わいはどうしたらええねん。ニコラ、頼むわ、帰ってきてくれえー」

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