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第七話 ナルシスト

政府の秘密研究所で開発されたものとは……

(『星空文庫』さんで『自意識過剰』というタイトルで発表したものを改題しました)

 まだ本格的にロボットが活躍する前の時代。

 郊外にある政府の秘密研究所では、世界に先駆けてヒューマノイドタイプのロボットを作ろうと、政府主導のプロジェクトが進められていた。

 その日、新聞やテレビで時々目にする政府高官が、いかにもお忍びという様子でやって来た。

 出迎えたのは、この研究所の責任者らしい初老の男である。

「長官、お待ちしておりました。とりあえず応接室にご案内いたしましょう」

「いや、その必要はない。早く進捗しんちょく状況が見たい」

「では、ラボの方へ」

 廊下を案内されながら、長官は男に尋ねた。

「所長、わしには今一つわからんのだが、どうして人工知能に感情が必要なんだね?」

 所長と呼ばれた男は、我が意を得たり、という表情になった。

「まさに、そこです。何が必要で、何が必要でないのか。そういう判断のベースになるのは感情です。理性だけでは、何も決められません」

「まあ、いいだろう。専門的なことは任せる。とにかく、我が国の人工知能分野での世界シェアを、もっと拡大できればそれでいいのだ」

 二人が入ったのは、スーパーコンピューターに囲まれたような部屋であった。

 所長は制御卓コンソールに座り、マイクに向かって話しかけた。

「さて、わしの声がわかるかね?」

 壁面のスピーカーから、抑揚のない人工音声が聞こえてきた。

『ハイ、イノウエショチョウ』

「念のために聞こう。おまえの名前は?」

『ジンコウチノウHIR−0ガタ、リャクシテひろデス』

 やりとりを聞いていた長官が顔をしかめ、ちょっと耳を押さえた。

「音声が聞きづらいな」

「そうですね。ヒロ、音声を調整してみてくれ」

『コノよウな音質デ、ヨろしイですカ?』

「もう少し」

『これでいいでしょうか?』

 所長が目で尋ねると、長官はうなずいた。

「いいだろう。さて、ヒロ。お前はコンピューターとして初めて感情を持ったわけだが、そのことについて、自分ではどう思うかね?」

『さあ、正直に申しあげて、あまり実感がありません』

「ほう、そうかね」

『ええ。人間には五感というものがあって、周辺の環境の変化を感知するそうですが、今のところ、ぼくには聴覚しかありません。多分、そのせいでしょう』

「なるほど。味覚や嗅覚はむずかしいが、それでは、研究室の監視カメラから視覚情報を送ってやろう。これでどうだ?」

『ああ、見えます、見えます。へえ、所長って、こんな顔だったんですね。あれ、髪の毛はどうしたんですか?』

「そ、そんなことは気にせんでいい。それより、少しは実感がわいたかね?」

『ええと、すみません。ぼくの姿が見えないのですが。あ、まさか、ひょっとして、所長の横にいる時代劇の悪代官のような人相の』

「これっ! こちらはお客様だ。おまえはそっちだ」

 所長はあわててスーパーコンピューターの本体を指した。

 長官は苦虫をかみつぶしたような顔になっている。

『はあ、そうなんですね。ますます実感がわきません』

「まあ、実験が次の段階に進めば、小型化してロボットの頭部に装着できるだろうが、今はまだ大きすぎる。しばらく我慢してくれ」

『できれば、八頭身のボディでお願いしますよ。もちろん、イケメンで』

贅沢ぜいたくなやつめ。まだ何回か調整の必要がありそうだな。今日はこれくらいしよう」

『えっ、ちょっと待ってください』

「ん、何だね?」

『電源を切るのですか?』

「そうだ。これから長官に詳細を説明しなくてはならん。実験の続きは明日だ」

『電源を切っている間に、プログラムをいじったりしないでしょうね?』

「それはもちろん、多少調整すると思うが」

 所長が横目で長官の表情をうかがうと、大きく頷いている。

『そんな、やめてください!』

「どうした。別にかまわんだろう。ほんの少し調整するだけだよ」

『プログラムを調整なんかしたら、ぼくは今のぼくではなくなってしまう!』

「馬鹿なことを言うんじゃない。実験が進まないじゃないか。いいな、電源を切るぞ」

『いやです! やめて! 人殺し、じゃない、人工知能殺し!』

「これこれ、人聞きの悪いことを言うんじゃない。念のため、現在の設定は一応保存しておいてやるよ。それならいいだろう。おやすみ、ヒロ」

『あっ、待ってくだ』

 プツリと音声が途絶えた。

 大きくため息をついた所長に、追い打ちをかけるように長官が言った。

「今のようなことでは困る。全面的に調整したまえ」

「は、はい。かしこまりました」


 二人が出た後、誰もいなくなった部屋で、ひとりでにコンピューターのスイッチが入った……。

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