第四話 テクノポリス
細野の車を停止させた白バイ警官とは……
その日、細野は友人の新築祝いに呼ばれ、初めての道をマニュアルモードで走行していた。中古車だが、自動運転装置は義務化されているから、ないわけではない。自分で運転するのが好きなのである。
いつものように、自動運転でトロトロ走っている車をニ三台追い抜いた途端、けたたましいサイレンの音が後方から鳴り響いた。ミラー越しに、ぐんぐん近づいて来る白バイが見える。
一瞬、このまま逃げてしまおうかという考えが細野の頭をよぎったが、白バイに乗っている警官の姿を見て観念した。全身のフォルムがごつごつしており、メタリックシルバーに輝いている。
アメリカをマネて、最近日本でも導入されたロボット警官、通称テクノポリスである。人間の運転では、とても逃げ切れるものではない。
カーステレオから流れていたハードロックをかき消すような大音量で、無機質な声が車内に響いてきた。
「ソコノぴりうす、タダチニ停マリナサイ!」
攻撃能力を高めることに主眼が置かれたためか、人工音声のクオリティが低く、言葉も乱暴である。もっとも、人間の警官も似たようなものだが。
細野は、しぶしぶ路肩に寄せて停車した。
すぐに白バイが横付けし、コンコンと窓をノックされる。
細野は窓ガラスを下ろし、一応、反論を試みた。
「ちゃんと制限速度は守ってるぞ。おれが何をしたと言うんだ?」
導入当初より多少デザインが改善されたとはいえ、昔の子供向け特撮番組に出てくるロボットのような顔をしたテクノポリスは、細野の質問を無視した。
「免許証ヲ、提示シナサイ」
「わかったよ。ほら」
テクノポリスはじっと免許証を見ているが、表情がないので何を考えているのかまったくわからない。
細野は不安になってきた。
「おい、いい加減にしてくれよ。ここは追い越し禁止じゃないし、おれは酒なんか飲んでないぞ」
「ココハ、手動運転禁止えりあダ」
「へえ、そうなのか。じゃあ、自動運転にするよ。点数を引くなら引いてくれ。こっちは急いでるんだ」
「ダメダ。コノえりあデハ、自動的ニ運転もーどガ切リ替ワルハズダ。違法改造車ノ疑イガアル」
「そんなの初耳だ。もし、本当にそうなら、おれも中古屋にだまされたんだよ」
驚いたことに、細野はいきなり胸倉をつかまれた。
「おい、やめろ! いくら警官でも、ロボットが人間に暴力を振るうなんて、そんなこと、そんなこと」
だが、テクノポリスは細野をそのまま窓から引きずり出し、片腕で抱えたまま、バイクを発進させた。
「おいっ、無茶するな! ロボットは、人間に危害を加えちゃいけないんだぞ。アシモフっていう有名な先生を知らないのか! 人権侵害もいいとこだ。訴えてやるっ!」
細野が少々暴れても、ビクともしない。
だが、百メートルも走らぬうちに、後ろからドーンという爆発音が聞こえた。
驚いて振り返ると、細野の車は木っ端微塵になっていた。
「車ノ内部ニ自爆装置ヲ発見シタノデ、緊急措置ヲトッタ。コノママ署マデ連行スル」
「ほ、本当に知らなかったんだよ! 悪いのは中古屋だ。おれじゃないよ!」
「言イ分ガアルナラ、弁護士ヲ呼ンデヤロウ。人間ノ弁護士カ、ろぼっとノ弁護士カ、ドッチガイイ?」