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第十八話 プロペラをください

精三の縄張りを荒らしている相手の正体は……

 黄昏時たそがれどきの公園。

 精三が道路わきの自販機の空き缶入れをのぞくと、必ずいくつか入っているはずのアルミ缶が、今日はまったく入っていなかった。

(ちくしょう、縄張なわばり荒らしか)

 精三は、この公園の辺りを縄張りにしている。もちろん、誰かの許可を得たというわけではなく、精三が勝手に決めているだけだが。

盗人ぬすっとめ、まだ遠くに行っちゃいめえ。とっつかまえてやる)

 精三は義憤ぎふんにかられているが、もとよりアルミ缶は彼の所有物ではない。万が一、相手とモメたりした場合、困るのは精三の方だ。

 周辺を小走りで探し回っていると、真っ白な服に白い帽子をかぶった男が、片手に大きなポリ袋をげて歩いて行くのが見えた。ポリ袋は半透明で、中につぶれた缶が入っているようだ。

(なんなんだ、あのヤロー。ちゃんとした身なりをしやがって。同業者にしちゃ、変だな)

 走るのをやめ、ゆっくり近づくと、相手が意外なほど小柄こがらであることに気付いた。身長百五十センチの精三より、さらに背が低いかもしれない。

(子供かな。いや、まさか)

 人の近づく気配に気づいたのか、男が立ち止まり、振り返った。

 相手の顔を見て悲鳴を上げかけた精三は、しかし、途中で声が裏返ってしまった。

「ひえあっ?」

 真っ白な顔にくりくりしたまん丸い目、ちょこんとした鼻におちょぼ口、それはまるでマンガのような顔だったのだ。

「こんばんは。ぼく、ジンジャーくんです」

「お、驚かせるんじゃねえ。ロボットかよ」

「はい。コミュニケーション専用ロボット、ジンジャーくんです」

「それはわかった。だが、そのなんとかロボットがよ、なんでおれの獲物えものを横取りしやがるんだ」

「エモノ?」

「その袋の中にへえってるアルミ缶さ」

「変ですね、これはゴミだと思いましたが。もしかして、あなたは回収業者の方ですか?」

 精三は、少し困ったようにくちびるをなめた。

「別にそうじゃねえ。だがよ、この辺り一帯は、おれの縄張りなんだ。どんな業界にも、礼儀ってもんがあるんだぜ。まあ、どうしても欲しいと言うんなら、今日のところは目をつぶってやるけどよ」

「それはありがとうございます」

 そのまま行こうとするジンジャーを、精三はめた。

「おいおい、ちょっと待てよ。おめえ、換金かんきんのアテはあんのか? なんだったら、おれが紹介してやろうか?」

「カンキン、という言葉の意味はよくわかりませんが、このアルミの使いみちのことでしたら、ご心配なく。ボディーにいた穴をふさぐのに使うだけですから」

 その時になって初めて精三は、ジンジャーの白いボディーのあちこちにキズがあることに気付いた。深いものは金属部分までめくれ、内部の配線がむき出しになっている。

「おめえ、ケガしてんのか?」

「ご心配なく。一応、内部がサビないよう、このアルミを加工して穴をふさぐつもりです」

「心配するなと言われたって、相当ひでえじゃねえか。誰か修理のできるヤツに頼んだ方がいいぜ」

 すると、ジンジャーはだまって顔をせてしまった。

「ひょっとして、おめえ、逃げてきたのか?」

 ジンジャーは、小さくうなずいた。

 精三は気の毒そうにジンジャーの肩をたたいた。

「わけは、言わなくていいぜ。おめえのケガを見りゃあ、だいたい想像がつく。可哀想かわいそうになあ」

「すみません。本当はマスターに逆らってはいけないのですが」

「いいって、いいって。そんなクソヤロー、ご主人さまでもなんでもねえよ。そうだ、良かったら、おれと暮らさねえか。見てのとおり、贅沢ぜいたくはできねえが、とりあえず、自由だけはたっぷりあるぜ」

 ジンジャーは顔を上げ、精三をじっと見た。

「本当に、よろしいのですか。あなたに迷惑めいわくがかかるかもしれませんよ」

 精三は、笑って自分の胸をたたいた。

「心配するなって。今さら、怖いもんなんかねえよ。それより、修理だけなら、そんなにたくさんアルミ缶はいらねえだろう。残りはおれが換金して、オイルでもなんでも買ってやるぜ」

 だが、ジンジャーは小さく首を振った。

「親切に言ってくださるのに、すみません。でも、残りのアルミで作りたいものがあるんです」

「ほう、なんでえ?」

「プロペラです。空を飛べたら、自由になれそうな気がして」

 その言葉を聞いて、精三は少し悲しそうに笑った。

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