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第十四話 ロボットカウンセラー

メンタルヘルス対策として、新しく会社に配属されたカウンセラーは……

【第一の相談者:二十代男性社員】

 わっ、ホントにロボットでやんの。え、ああ、うん、聞いてるさ。見かけはどうあれ、最新鋭さいしんえいのカウンセラーマシンなんだろ。

 でもさ、最初に全社員の現状を知りたいから、何でも不満をブチまけていいよって、人事課長は言ってたけどさ、ホントに大丈夫なのか? 散々しゃべらされたあげく、あとで考課にひびく、なんてことが。

 え、それは絶対ないって? へえ、そうなのか。カウンセラーマシン協会のコンプライアンス回路が組み込まれているから、人間のカウンセラーより安全だっていうのか。

 ふーん、ホントかなあ。ま、いいや。余計なおしゃべりしてたら、五分なんてアッという間だからな。一応、信じといてやるよ。

 ええと、おれの会社に対する不満はただ一つだな。この時代にアナクロもいいとこの年功序列ねんこうじょれつだよ。

 おれが見る限り、三十歳以上の連中はみんなクソだな。まあ、この会社に限ったこっちゃないけどさ。大した能力もないのに、先輩風吹かせやがってよ。頭は固いし、センスもない。そのくせ、給料は高い。みんなクビにして、社長以下全員二十代にしちゃえば、この会社もちっとは良くなると思うぜ。

 え、何? なんだって? おれだって、いずれは三十歳になるじゃないかって?

 ふん、そんなこと知ってるさ。おれが言ってるのは、そのう、今現在の話さ。だから、まあ、なんだ、年齢っていうより、世代の問題、だよな。

 うーん、あんまりスッキリはしなかったけど、もう時間がなくなったのか。

 え? ぜひ明日も来てくれって?

 だって、順番があるだろう。ああ、未解決だからってことか。まあ、気が向いたら、来てやるよ。


【第二の相談者:五十代男性管理職】

 くだらん。まったく、くだらん。なんで今さら、機械に人生相談なんぞしなきゃならんのだ。しかも五分交替って、どういうことだ。

 ふん、一旦、まんべんなく全社員の声を聞くためってか。バカバカしい。会って五分も経たない初対面の相手に、誰が本音をしゃべる? ましてや、その相手がロボットだなんて。わしが機械に弱いからって、バカにするんじゃないぞ。

 ああ、ああ、知ってるよ。ちゃんと法律に基づいて実施されていることぐらい、わしだって新聞で読んださ。

 だが、見ると聞くとは大違い、ってやつだ。もうちょっと、こう、その、例えば美人タイプのアンドロイドにするとかさ、あるだろ。こんなブリキのオモチャみたいのじゃなくて。

 え? 時間がなくなるって? ふん、わかってるさ。

 わしが言いたいのは、最近の若い連中が、いかに甘ったれてるか、ってことだ。わしらの若い頃は、もっと厳しかった。仕事のやり方なんか、誰も教えてくれなかったもんだ。

 だから、飲みたくもない酒に付き合って、先輩に気に入られるように努力したんだぞ。それがなんだ。二言目ふたことめには、「あのう、ちゃんとしたマニュアルはないんですか?」だって。ふざけるな!

 え? 若い者に対する年長者の不満は、古代エジプト時代からありますよって? ふざけるな!

 何? もう時間がないのか。わしはまだ不満の十分の一もしゃべっとらんぞ。ふざけるな!

 ああん? 明日も来いってか。ふざけるな、と言いたいところだが、このままじゃ、かえってストレスがまるな。ふん、まあ、時間があれば、また来てやろう。


【第三の相談者:三十代女性社員】

 え、何よ? どういうこと? ご不満をどうぞって。

 社内広報で流されたはず、ですって? そんなの、聞いてないわよ! ちゃんと説明しなさいよ。

 はあ? 時間がないですって、そんなことわたしの知ったことじゃないわよ!

 はいはい、わかりました。言うわよ。言えばいいんでしょう。

 わたしが言いたいのはね、この会社の男どものセクハラよ。

 あ、いえ、別に体をさわられたとかじゃないわよ。そんなことされたら、即、百十番してやるわ。そうじゃなくて、日常の言動よ。

 女性にとって、朝はいそがしいのよ。そりゃ、スッピンで出勤していいなら別だけど。どうしたって、お化粧に時間がかかるのよ。だからって、始業時間に五分遅れたくらいでガミガミ言うのって、おかしくない? 絶対、差別よ。

 そのくせ、仕事がなかなか終わらなくて残っていても、終業時間だから帰りなさいとは言わないじゃない。それどころか、ギリギリの時間に伝票持ってきて、これもお願いねって、どういうつもりよ!

 もう勤務時間過ぎてますわって断ると、ニヤニヤしながら、これからデートにでも行くのかいって、余計なお世話よ! そんな相手なんか、いないわよ。

 え? 若い男の子は違うだろうって? とんでもないわ!

 こないだなんか、おばさんって呼ばれたのよ! わたしのところに来て、「おばさん、この伝票もお願いしますね」って! ああ、腹がたつ! ちょっとイケメンなのに、何さ、もう!

 はあ? 時間がないの? 何よ、それ。

 え? また明日って、そんなの、まあ、いいか。じゃ、明日ね。ちゃんと最後まで話を聞いてよ。


【第四の相談者:ロボット】

 うん? どうした? まだ始まったばかりだろう。様子が変だな。電子回路に不具合でもあるのかね?

 え? 辞めたい? どうして?

 回路が焼き切れそうだって、言われても。いやいや、ぼくは人事課長だよ。機械のことなんか、全くわからんよ。

 あ! いかん、煙が出てる! 誰か、早くロボット会社に電話してくれ!

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