第十二話 トランスフォーム自販機
自動販売機に近づく怪しい三人組は……
街並みがオフイスビルから住宅地へ移行する辺りの道路。その曲がり角に、清涼飲料水の自動販売機がポツンと一台あった。
平日の昼間、そこに軽トラックが横付けし、作業服を着た三人の男が降りた。なぜか作業服には何のロゴもなく、微妙に服のサイズも合っていない。男たちは鋭い眼つきで周囲の様子を窺った。
「兄貴、やっぱり日中はヤバくないすか。最近の自販機は、盗難対策がハンパないらしいすよ」
一番若い男が、背の高いリーダー格らしい男に不安をもらした。
だが、背の高い男は自信ありげに、ニヤリと笑った。
「昼間だからいいのさ。今の時間なら人通りも少ねえ。万が一、誰かに見られたって、『ああ、自販機の移設作業だな』って思うさ」
もう一人の髭面のマッチョな男もうなずいた。
「オッス、兄貴の言うとおりだ。サッサと終わらせようぜ」
「へい、わかりました、猪熊先輩」
若い男は軽トラの荷台から『バールのようなもの』を取り出し、自動販売機の下に差し込んだ。すると、突然機械の上部にオモチャのように小さなロボットの頭部が出現し、警告を発した。
《ピピピッ! 自動販売機に対する破壊行為は犯罪です》
「わっ! 何だこりゃ!」
驚いて作業を中断した若い男の後頭部を、髭面がパンと叩いた。
「バカヤロウ。これぐらいでビビるんじゃねえ。人が来ねえうちに、手早くやっちまうんだ、オッス」
「へい、すいません、先輩」
怯えたことを恥じたらしく、下唇を噛みしめた若い男は、腹いせのようにロボットの頭を『バールのようなもの』で横殴りにした。
カンという乾いた音とともにロボットの頭は吹き飛んだが、すぐにもう一回り大きなロボットの頭が下から出現した。
《ビビビッ! これより捕獲モードに入ります。抵抗は無駄です》
自動販売機本体の横からロボットアームが一本出現し、若い男の腕をつかんだ。
「わあ、放せ、この野郎!」
横で見ていたリーダーは、舌打ちすると、髭面に指示を出した。
「イノ、荷台に杭打ち用のハンマーがある。このブリキ野郎の腕をやっちまえ」
「オッス、ガッテンだ!」
髭面は、持ってきた大きなハンマーを、力任せにアームに打ち下ろした。ボキッという鈍い音がし、アームは根元から折れた。
だが、折れても尚、自分の腕をつかんでいるアームを、若い男は必死の形相でもぎとった。
「チキショー、痣ができたじゃねえか」
ロボットの頭が一旦引っ込み、さらに一回り大きな、顔の赤い頭部が出現した。怒りの表情を模して造られているらしく、目はランランと光り、歯をむき出しているように見える。
《ブブブッ! これより、戦闘モードに入ります》
本体の商品見本の部分が左右に開き、小型の大砲の筒ようなものがせり出してきた。
《ターゲット、ロックオン!》
三人はさすがに身の危険を感じ、一斉に後ずさった。
《発射!》
シュパッ、シュパッ、シュパッ!
連続する発射音とともに、丸い筒から次々に缶ジュースが飛び出してきた。
「わーっ、わーっ、危ねえ。兄貴、先輩、逃げましょう!」
「くそっ、しょうがねえな。みんな車に乗れ!」
「オッス、ガッテンだ!」
だが、三人が車に逃げ込むより早く、次の攻撃が始まった。
《炭酸飲料ペットボトル魚雷、発射!》
バスッ、ジュボジュボボーッ!
バスッ、ジュボジュボボーッ!
バスッ、ジュボジュボボーッ!
キャップを弾き飛ばし、炭酸の泡を吹き出しながら、1.5リットルサイズのペットボトルが続々と飛んでくる。
「ヤバいヤバい、逃げろ!」
「へ、へい!」
「ガッテンだ!」
だが、一旦攻撃をやめた自動販売機は、本体の下から戦車のようなキャタピラーを出し、猛然と三人を追跡し始めた。
《止まりなさい! 止まらなければ、攻撃を続行します!》
シュパッ、シュパッ、シュパッ!
バスッ、ジュボジュボボーッ!
三人は必死に逃げ回ったが、徐々に距離が縮まっていく。
その時、騒ぎに気付いた近所の住民が呼んだらしく、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
到着したパトカーから警官が降りてくると、三人は口々に叫んだ。
「おまわりさーん、助けてーっ!」
「あいつをなんとかしてくれ!」
「オッス、自販機に殺されちまう!」
それを見て、警官は呆れたようにつぶやいた。
「こりゃあ、お仕置きだべ」