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第一話 忘れえぬ日々

マミが学校から帰ると、ロボットのトモゾーに異変が……

 マミはロボットのトモゾーが大好きだった。

 マミが物心つく前からトモゾーは家にいた。パパに聞いたら、パパもそうだと言う。トモゾーを買ったのは、パパのパパ、つまり、マミのおじいちゃんだ。人間ならもう六十歳を超えているはずとパパが言っていた。

 だから、トモゾーは家の中のことは何でも知っている。マミの大好きなリボンがある引出しも、パパがヘソクリを隠している本棚も、ママがお友達とおしゃべりする時だけに使うティーセットのしまってある戸棚も。

 マミが生まれてすぐに亡くなったおじいちゃんのことも、トモゾーからいろいろ教えてもらった。

 まだ家事ロボットというものが珍しかった時代に、体の弱かったおばあちゃんのために高いお金を出してトモゾーを買ってくれたという。その後、元々家事専門のロボットだったトモゾーを、パパが生まれた時に育児機能付きに改造してもらったそうだ。だから、今でもマミと遊んでくれるし、漢字や算数も教えてくれる。

 その日も、学校の宿題でわからないところがあったので、マミは家に帰るとすぐにトモゾーを探した。

「トモゾー、ただいま。どこにいるの?」

 返事がない。

 お風呂掃除かもしれないと思い、バスルームをのぞいてみる。

 いない。

 当惑とうわくしたままリビングに入ると、目の前にトモゾーがいた。

「まあ、いるじゃない。どうして返事してくれないのよ」

 だが、何も答えない。

 その時、マミは異変に気づいた。

 トモゾーの頭のてっぺんでいつもピカピカ光っている、パイロットランプが消えているのだ。

「トモゾー! どうしたの。お願い、返事して!」


 マミの電話であわてて帰宅した両親にも、原因はわからなかった。心配するマミをママが子供部屋に連れて行き、パパはすぐにロボット会社に連絡をとった。

 やってきた係員はトモゾーを見るなり、「これは、またなんと」とつぶやいた。

「何かわかりましたか」

 パパに聞かれて、係員はちょっと苦笑した。

「あ、いや、すみません。TM3型の現物を初めて目にしたもので。非常に初期の型で、わたしも資料でしか見たことがありません」

「古くても、わが家にとっては大切な家族なんです。多少お金がかかってもかまいませんから、なんとか直してください」

「お気持ちはわかりますが、はたしてこれに合う部品があるかどうか。まあ、いずれにしろ、原因を調べてみます」

 リビングで動かないままのトモゾーを調べていた係員は、やがて「やっぱりそうか」とうなずいた。

「原因がわかりましたか」

「ええ。メインメモリーがもう一杯で、新規の情報を処理できないためフリーズしたようです。普通はこうなる前に新型機に交換すると思いますが、当社からご案内が行きませんでしたか」

「それは何度もいただきました。でも、トモゾーを交換するなんて、わたしたちには考えられません。なんとか直してもらえませんか」

「うーん。この型のロボットはもう生産されていないので、これに合う増設メモリーもありませんし。まあ、どうしてもこれを継続して使用されるようでしたら、方法はひとつしかありませんね」

「どうするのですか」

「多少のリスクはありますが、メモリーを初期化すれば、あと何年か使えると思いますよ」

 パパの顔が、みるみる真っ赤になった。

「冗談じゃない! あんたは、何もわかっちゃいないね。そんなことをしたら、トモゾーがトモゾーでなくなってしまうじゃないか。他に方法はないのか!」

 パパの剣幕けんまくにたじろぎながらも、係員は必死で説明した。

「で、ですが、人間と違って、ロボットは上手に『忘れる』ということができないんです。不必要な情報を選択的に忘却させる研究はされていますが、まだ成功していません。このロボットを使い続けるおつもりなら、一旦、すべての記憶を消去するしかないんです」

 真っ赤だったパパの顔は、逆に青ざめていた。

「もう、いい。わかった。帰ってくれ」

「え、でも、まだ、修理が」

「いいんだ。ああ、ひとつだけ、頼みがある」


 係員が帰ると、パパはマミを呼んだ。

 パパの顔を見て、マミは不安そうに聞いた。

「ねえ、パパ、トモゾーはなおるの?」

「いいかい、マミ。これから大事なお話をする。マミにはまだ難しいかもしれないけど、聞いてくれるかな」

 マミの目がうるんだ。

「トモゾー、死んじゃうの?」

「いや、死ぬわけじゃない。でも、もう元には戻らないんだ」

 マミの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。

「お願い、トモゾーを助けてあげて」

 パパはつらそうに首を振った。

「ごめんね。それは無理なんだ」

 マミは泣きじゃくりながら、パパに尋ねた。

「トモゾーはどうなっちゃうの?」

「ロボット会社の人にお願いして、ロボット博物館で冷凍保存してもらうことにした。ロボットに『忘れる』能力を持たせる研究が成功する日までね。それまで待てるかい?」

「うん、待つわ。きっと治るよね」

「ああ、きっと、ね」

 パパはマミをギュッと抱きしめた。

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