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蛇狩り

 山道を歩いていると、キリカがガサゴソと音のする度にビクッと震えていた。

 ぴったりと俺の腕にひっついているせいで、ダイレクトに色々な感触が伝わってくる。

 正直色々と良くない。もちろん、ビクビクしすぎなのが良くないってだけだからな!


「キリカ、引っ付きすぎ」

「だ、だって、オロチですよ? 大きくなったら山より大きくなる魔物ですよ?」


「大げさだなぁ。大きいっていっても三メートルくらいだろ?」

「うぅ、ヤマグライが出なければいいけど……」


 大きくても五メートルくらいだし、そもそも直立は出来ないから、正面から見えるサイズはもうちょっと小さい。

 ただ、そこはオロチに実際に遭遇したエイラに聞いておこう。


「で、実際どれくらいの大きさだったんだ?」

「え、えっと、私の目線くらいに下あごの牙が見えたので、五メートルくらい……かな?」


「へぇ、随分と大きなのが出たんだな」


 駆け出しの冒険者では対処出来なかったのも納得だな。

 オロチは大きければ大きい程、他の生命力を食らっていて、その分だけレベルが上がって強くなる。

 ベテランの冒険者パーティでも苦戦は必須だろうからな。


「大きいなんてものじゃないよ! 山みたいだったんだから!」


 恐怖心で大きい魔物はより大きく見えるっていうし、ちょっと大げさに言っているだけだろう。


「分かった分かった。場所はそろそろか?」

「うん、そこの洞窟の前だよ」


 エイラが指さした先を見ると、切り立った壁に穴が空いていた。

 その穴の前には所々赤黒い血の跡が残っていて、何かが生き物に食らいついたことが良く分かった。

 オロチがいるのはどうやら間違いじゃ無いみたいだな。


「師匠! 上です! 上に何かいるのです!」

「オロチよ! でも、昨日のより小さい?」


 何かに気付いたキリカが上を指さすと、そこにはとぐろをまく蛇が十匹はいた。

 しかも、一匹一匹がかなり大きい。太さは丸太くらいはありそうだし、長さも五メートルくらいはあって、動く木みたいだ。


「来るぞ! 二人とも一旦下がれ!」


 その巨体が崖の上から俺達に向かって飛び降りてくる。

 図体が大きいくせに筋肉の塊だからか、かなり素早い。

 ズドンと鈍い音を響かせ、オロチ達が着地する。


「あわわ!?」


 着地の衝撃で地面が揺れ、キリカが尻餅をついてしまった。

 しかも、キリカは魔法使いの素養があるせいで魔物に狙われやすい体質だから――。


「フッシャアアアア!」

「キリカさん! 危ないっ!」


 エイラが叫んだ時にはオロチがキリカに向かって飛びかかっていた。

 けれど、俺はそれよりも速く、キリカをかばうように前に飛び出した。


「師匠!?」

「キリカ、良く見ておけよ。時魔法はこういう時に使うんだ《リ・ライゲーション》」


 俺が杖をオロチに向けて呪文を唱えると、オロチはキリカの前から姿を消して、先ほど飛び降りた場所に転移していた。


「敵が攻撃をする前まで時を巻き戻したら、一方的に俺達は攻撃を加える」


 俺は杖をくるりと回して魔力を込める。

 そして、攻撃魔法を唱えた。


「《フレアショット》!」


 すると、杖の先から炎の塊が発射され、オロチを飲み込んで爆発を起こす。


「こんな感じにな?」

「す、すごいです師匠!」


「俺が時を巻き戻すから、キリカは魔法瓶で敵にトドメを刺すんだ」

「は、はい!」


 キリカのレベルを上げるため、俺はサポートに徹する。

 まずは迫り来るオロチに向かって巻き戻しの魔法を放ち、十秒前にいた場所へと押し返して――。


「キリカ、今だ投げろ!」

「当たって下さい!」


 魔法が詰められた瓶を放り投げると、目が眩むような光とともに雷鳴が轟いた。


「シャアアアアア!?」


 そして、残されたのは黒焦げになったオロチの死体だ。

 この要領で次々に俺とキリカはオロチを焼き殺していき、気がつけば目の前は蛇の焼死体だらけになっていた。


「よし、これで全部だ。二人ともおつかれさま!」

「す、すごい……こんなにすごい人がなんでこんな田舎にいるの? この魔法まるで……あの時助けてくれた……」


 その光景にエイラが戸惑いながら尋ねてきた。


「ユーリさんあなたは一体?」

「ただの魔法道具店の店長だよ」


「そ、そんなワケないでしょう!? だって、あなたのその魔法、刻の賢者ユートリウス様の魔法と同じだし、見た目だって同じ――あっ! あなたは本当にユートリウス様!?」

「あー……、さすがに目の前で使えば、ばれるよな。まぁ、でも、記憶は書き換えるつもりだったから別にいいか」


 ユートリウス、時岡裕利だった俺が、この世界に生まれた時に与えられた名前だ。

 そして、刻の賢者として有名になってしまった名前でもある。


 ここまでばれたら、もう誤魔化しようが無い。

 仕事も無事に終わったし、俺はくるっと杖を回して詠唱を始めた。

 今度の魔法は時を戻すのは同じだけど、今度は場所に左右するのではなく、人の記憶を奪う魔法だ。


「ま、待って下さい師匠!」

「キリカ大丈夫だよ。オロチを倒したのはキリカとエイラの二人って記憶になるだけだから」


「ち、違います! 洞窟の中! 何か光ってます!」

「洞窟? ――っ!? マジかよ!?」


 そこには本当に山みたいな蛇がこちらを睨んでいた。

 先ほど倒したオロチなんて比じゃない。

 顔だけでさっきのオロチの全長くらいはあるぞ。


「フシャアアアアアアア!」


 うなり声とともに頭をあげた巨大な蛇は崖を砕き、山に立ち上がる。

 その大きさはまさにちょっとした山だ。前世の記憶にある日本のモノと比べると、東京タワーとかスカイツリーくらいの大きさに匹敵するんじゃないだろうか。


「でっか!? キリカ、なんだあれ!?」

「ヤマグライなのです! オロチの母蛇でオロチを生み出す世界の蛇なのです!」


 さっき倒した奴らも、あの大きさで子供だって言うのかよ。さすが異世界、化け物揃いだなぁ。


「ヤマグライ!? 嘘でしょ!? あの魔王八大魔獣の!?」

「なのです! エイラさん、師匠、逃げましょう!」


「逃げるってどこに!? 逃げてもあんなのどうしようもないよ!? 山ごと飲まれちゃうって!」


 エイラとキリカが大慌てしている。

 二人が言った魔王八大魔獣とは、魔王が使役する巨大な力を持つ獣の魔物達のことだ。

 今目の前に現れた山をも飲み込めそうな蛇ヤマグライの他にも龍やクラーケンなどがいる。

 転生したからには、いつか出会うのかなぁ。

なんて思ったことはあるけど、まさかそんな大物にこうやって出会うとは思っていなかった。


「シャアアアア!」


 ヤマグライが巨大な口を開いて、俺達を飲み込もうと襲いかかってくる。


「きゃあああ!?」

「師匠! 助けてええええ!」


 エイラとキリカが頭を抑えて叫ぶので、俺は二人の頭の上に手を置いた。

 助けてと言われたら、助けるさ。師匠だからな。


「任せとけ」

「師匠?」


 そして、杖を天にかざして――。


「流れし時をせき止め、連なる過去を断ち切り、繋がる未来を拒絶する。《クロノ・ブレイク》」


 ガキィンと鎖が切れるような音がして、ヤマグライの音が止まった。

 いや、音だけじゃない。動きも完全に止まっている。

 まるで、写真でそこだけ切り取られたかのように、ヤマグライは微動だにしなかった。


「師匠、何をしたんですか?」

「ヤマグライの時を止めた。これでとりあえずは安心」


「この大きさのモノの時を操ったんですか!?」

「そうそう。そのうちキリカにも出来るかもな。後で呪文は教えるよ」


「師匠すごすぎです! さすが刻の賢者様です!」


 キリカが俺の腰に抱きつき、憧れの眼差しで見上げてくる。

 何度も正体を言うなと言ってきたけど、今回は既にばれているから今更だなぁ。


「で、ですが、刻の賢者ユートリウス様! この後どうなされるのですか!? さすがにこのままにしておけば、多くのモノに不安を与えます!」

「分かってるよ。だから、倒すんだ」


「この巨体を倒す!?」

「ううん、このままでは倒さないよ。とりあえず、鑑定っと」


 鑑定の魔法を発動させて、俺はこのヤマグライがどれだけの時を生きてきたかを調べた。

 生きてきた歳は一万年、その多くの時期を地中で過ごし、星の魔力を吸い続けて大きくなったらしい。脱皮は地中でおこなっているが、数百年に一度地表近くにあがり、卵を産んで魔物を増やすらしい。

 なるほど。厄介な魔物だ。魔王八大魔獣に選ばれるワケだ、と妙に納得出来た。


 それにしても一万年か。さすがにいつものリ・ライゲーションだと難しそうだな。


「そんな魔物どうやって倒せば良いの? いくら刻の賢者様でも……こんなの」

「で、出来ます! 師匠なら倒せます!」


「どうして?」

「師匠がユーリ師匠だからです!」


 あー……、キリカ、信じてくれるのは嬉しいけど、それじゃあうさんくさいだけだぞー。

 まぁ、でも、弟子の期待には応えないとな。


「時の流れに逆らう箱船、一万の軌跡をかき消し、原初の姿をここに現せ《リバース・ゼロ!》」


 俺は刻を巻き戻す魔法の上位魔法を発動させた。無数の魔法陣がヤマグライの巨体にまとわりつき、魔法陣が巨大な時計のような姿に変わる。

 その時計の針が反時計回りに高速回転しはじめた。

 そして、パリンと時計の魔法陣が砕けると――。

 地面にボトっと音を立てて、一匹の小さな蛇が落ちてくる。


「これが最初の姿だったみたいだな。思ったより小さいから拍子抜けだけど」


 その蛇を捕まえて、俺はキリカに魔法瓶を投げつけるよう言った。

 もうヤマグライには先ほどまでの力は無い。けれど、遠い未来にまた力をつけたり、魔王によって魔力を注ぎ込まれれば面倒なことになる。

 かなり卑怯だけど、その前に始末はちゃんとつけた方が良いのだ。


「ふぁー! 師匠今の魔法なんですか!? リ・ライゲーションみたいな魔法でしたけど、かなり違いました!」


 けれど、キリカはそんなことよりも魔法に夢中だった。

 それじゃあ、もう一人のエイラに頼もうとしても、エイラも俺の魔法で大混乱している。


「刻の賢者ユートリウス様!? 一体何をなされたんですか!?」

「あー、だから、敬語はいらないってエイラ。敬語で聞く限り教えないぞ? 言っただろ? キリカの立場がなくなる。それに、今の俺はユートリウスじゃなくて、ユーリ」


「あ、その、えっと、ユーリさん、一体何をしたの?」

「言葉にしちゃうとすごく単純なんだけど、ヤマグライが生まれた時まで時を巻き戻した。こいつは星の力を少しずつ取り入れることで巨大になったんだ。逆にいえば、成長前はこんなちんけな姿だったってワケさ」


「だから、あの時、鑑定をしていたんだ」

「そういうこと。さぁ、キリカ。魔法瓶でトドメを刺すんだ」


 俺は袋から炎の詰まったビンをキリカに渡すと、キリカは分かりました! と元気良く受け取って――。


「えい!」


 かわいいかけ声とともにビンを投げつけた。

 そして、ビンから放たれた炎はヤマグライを飲み込み、跡形も無く焼き払うのだった。


「あれ? 師匠、レベルはあがりませんでしたよ?」

「まぁ、貯め込んでいた生命力は星に帰ったからなぁ。残念ながら経験値としては奪えなかったみたいだ」


 そこがこの魔法のちょっと残念なところだけど、強制的に敵のステータスを最低まで引き下げるから、すごく便利なんだよな。

 その便利さをキリカも分かってくれると良いけど。


「えへへ、良かったです。お星様が元気になってくれたら、きっと美味しいお野菜が出来るのです。おじいちゃん達が喜んでくれるのです」

「うん、俺の弟子はやっぱり天使だわ」


 キリカはとても優しい笑みを浮かべていて、全く不満を感じている様子など見せ名手いなかった。

 この子の優しさは底知れずだな。まったく、こんな子を化け物扱いしていたっていうんだから、おかしな話しだよ。

 そのうち、クロノ・ブレイクもリバース・ゼロも教えてあげないと。

 あれ? そういえば、何か忘れているような気がする。


「あ、あの、ユーリさん……私の記憶消しちゃうんですか?」


 あぁ、そうだ。エイラの記憶を改竄しとかないとな。

 さてと、結構大きな出来事が続いたから、矛盾が出ないように弄るのは少し難しそうだけど、何とかなるだろう。


「記憶を消されちゃったら、ユーリさんのこと、忘れちゃうんですよね……?」

「そうだな。でも、安心してくれ。ヤマグライを倒したことは覚えている。ギルドにいけば報酬はちゃんと貰えるよ。これで君は今日から大金持ちだ」


「お願いします! 記憶を消さないで下さい!」

「と言われてもなぁ……。エイラが街に戻ったら、間違い無く俺の名前と居場所が広まるだろ?」


 そうなれば、俺はもうここにはいられない。

 狭苦しい王都に戻らないといけなくなるのだ。


「私が記憶を残したままでも、ユーリさんの名前が街に広まらなければ良いんですよね?」

「そうだけど、何か考えでもあるのか?」


「私、街に帰らずユーリさんと一緒に住みます!」

「へ? ……えええええ!?」


 そんな予想外の結末で、オロチ騒動は幕を下ろした。


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