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冒険者が死んだ理由

「魔法使い様はいらっしゃいますか!?」


 どこか焦るような声で俺を探す声がした。

 その声のした方を見ると、この前死にかけていた冒険者の子が庭先にいた。

 どうやら歩き回れるくらいには魂が定着したらしい。


 時を操れるといっても魂までは操れないので、死にかけた人を蘇生する場合、身体は元通りでも動けるまでは時間がかかるのだ。


 そして、彼女がキリカに気付いたらしく、急に走り出して、キリカの前で跪いた。


「魔女様、この度は命を助けて頂きありがとうございました!」

「ふぇっ!? 違うのです。あなたを助けたのは師匠なのです! ユーリ師匠なのですよ!」


「ユーリ師匠? はて、どこかで?」

「ユーリ師匠はですね。刻の――ふにゃっ!? 師匠!?」


「ハハハ! どうも。師匠のユーリです!」


 またもや正体をばらしそうになったキリカの口を後ろから慌てて塞ぐ。

 村人ならともかく冒険者にばれたら、間違い無く王都まで情報が流れる。

 そんなことになったら、すごく面倒臭い。

 必死の営業スマイルで誤魔化しつつ、口の軽い弟子を追い払わなければ。


「キリカ、お茶の用意を」

「分かったのです。少々お待ち下さいなのです」


 キリカは良い子なんだけどなぁ。ちょっと詰めが甘いというか、抜けているというか。危なかっしいところがあるんだよなぁ。

 俺はエイラを店の応接間に通して、改めて話を聞くことにした。


「ユーリ様、私はエイラと申します。この度は命を救って頂き、本当にありがとうございました」

「そんなかしこまらないで欲しい。困ったときはお互い様というしね」


「ですが」

「そんなにかしこまられると、弟子のキリカの立つ瀬がなくなるからなぁ。あいつ子供っぽいから、しっかりしたあんたを見ると、ムダに暴走しそうでさ」


「そ、そういうことなら……失礼して。うぅ、ユートリウス様に似ているから緊張するよー……」


 エイラは一度咳払いすると、恥ずかしそうに手をもじもじさせながら――。


「ユーリさん、助けてくれてありがとう」

「どう致しまして」


 それにしても、お礼を言うだけなのに、何でこんなに恥ずかしがっているんだ?


「実はその……夢で女神様に会っていたような気がして。それに、憧れだった人にも手を握ってもらったような気がして、私、死んじゃったと思っていたんですよ。でも生きていて、パーティの人達と冒険に出たのは夢なんじゃないかな? なんて思って。とても混乱していて、何が起きたか教えて欲しいなぁ、なんて、あはは……」

「実際、身体は死んでいたからなぁ。剥がれかけた魂が女神様を見ていても不思議ではないかも」


「私、やっぱり死んでいたの? だったら、大変なことが起きるよ!」

「大変なこと?」


 そういえば、何でエイラが死んでいたのかは分からず終いだった。

 血まみれになっていた理由は魔物にでも襲われたと思っていたんだけど、それぐらいならよくある話しだし、と思って特に気にしていなかったんだ。


「この近くの山に大きなオロチが現れたの! 私はパーティのみんなに逃がして貰ったんだけど、かすり傷から入ったオロチの毒で血が止まらなくて、気付いたら動けなくなって……それで……私……」

「こんな片田舎にオロチ? でも、確かにキリカが治せないと言った辻褄もあう」


 オロチと言えば蛇型の魔物の中で最も危険な種族だ。

 巨大な体躯と致死性の毒で獲物を丸呑みにしてしまう習性があり、重くて固い金属鎧だろうと構わず飲み込んで消化する凶悪な魔物だ。


 でも、多くの魔物は魔王に付き従っており、強力な魔物ほど王都とか人の集まるところに集められているはずなんだけどな。


「オ、オロチが現れたのですか?」


 ちょうど俺達の話を聞こえたらしく、お茶をお盆の上に乗せたままのキリカが戸惑うような顔を見せている。


「なぁ、キリカ。ここの地域はオロチの目撃が多いのか?」

「は、はいなのです。小さい頃から、悪いことするとオロチに丸呑みにされるって注意されたのです。それに放牧した家畜が飲み込まれたって聞いた事があるのです」


 子供達に言い聞かせる話しだと笑い飛ばすのは簡単だ。

 でも、キリカの怯え方は普通じゃない。

 それにエイラが嘘をつく理由も無いし、彼女がここに来た時に焦っていた理由がオロチならすごく納得出来る。

 となると、俺を訪ねてきたのは、お礼を言うだけでも忠告をしにきたワケでもないだろう。


「お願いです。ユーリさん、仲間の仇を討つために力を貸して下さい!」


 やっぱりそう来るよな。

 キリカも心配していることだし、力を貸すのはやぶさかではないんだけど。


「良いけど条件がある」

「条件ですか?」


「まず一つは俺が力を貸したことを内緒にすること、二つ目はキリカを連れて行くことだ」

「分かりました。よろしくお願いします!」


 俺の提案に即決でのってくれてエイラが頭を下げた。

 久しぶりの魔物討伐にちょっとだけワクワクしていると、キリカが袖を引っ張って不安そうにこちらを見上げている。


「あ、あの師匠? 今、キリカも連れて行くって言いました?」

「うん。そろそろキリカも魔物討伐を体験しといた方が良いと思ってね。魔物を倒すと貯め込んでいた魔力とか生命力を俺達の力に変えられるから」


「えー!? 無理です! オロチと戦うなんてキリカには無理です!」

「大丈夫。俺がついている」


「うぅ、師匠がそういうなら、怖いけどついていきます。ついていくのです」


 こうして俺達は辺境の村では珍しい大型魔物退治の仕事をすることになった。

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