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二重定義のアルティメットワン  作者: 零﨑那奈
第一章 シロとクロの話 -The beginning of The ULTIMATE ONE-
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第5話 『原初』

物語の肝となる話です。

「おう、遅かったじゃないか?」


 シロが職員室に足を踏み入れると、キオが声とともに手招きしていた。

 その姿を見るに特に怒っている様子はない。


 職員室は当たり前だがクールビズのスーツ姿の教員が多くいた。

 だがその中で、肌色眩しい私服姿のキオは悪目立ちしていて呼びかけられなくても発見は容易だっただろう。

 この人はもう少し形から入ることを考えた方がいいのではなかろうか。

 念を押すが、キオは教師(役)だ。―だから職員室にいるのだ。


「云われのない誤解を受けてることは一応言っておきますよ。」


 とはいえ相手は百歩譲って、一応は、教師なので言葉遣いには気を付ける。


 シロが向かった先には、膝を組んで座るキオの姿。

 そのデスクには、収められた厚手のファイルが数冊、ノートパソコンが一台、その脇には中身が半ば残ったコーヒーカップ。

 彼女のサバサバとした言動や出で立ちからは想像できないほどに、自然な仕事場のそれだった。

 少なくとも逆に仕事をしていないから綺麗だ、というわけではないことは付き合いの長いシロが良く知っている。


「ん?そうなのか?むしろ自然なようにも見えるがね。」


 キオがわざとらしくそう言い、コーヒーカップに口をつける。

 ”行為に及ぶことが自然に見えるような関係”に見えてしまっていることに頭痛がする。――冗談じゃない。


「別に嫌いってわけでもないんだろ?」


「だからって軽々しく好きと言うわけもないでしょう。」


 シロは否定するようなことはしなかった。

 嫌いな人間と毎日一緒にいるわけがない。

 嫌っていたらとっくに関係を絶っているだろう。


「シロもそういうこと言う年頃になったわけか。昔のように好きなものには、好きと言える子はもういないんだな。」


「…老け込んだ発言ですね。」


 実質的に若いキオの懐かしむような発言に、シロはつい口を挟む。

 明らかに失言だ、と言ってから後悔することになった。


 それを聞いたキオはカップの中身を飲み干して、


「それじゃ生徒指導というお仕事をしないとなあ?」


 満面の、それでいて影を感じるような笑みをシロに向けた。


 笑いごとではすまない恐れとともに、シロの頬に冷や汗が伝う。

 コーヒーというものは気持ちを落ち着ける飲み物の定番ではなかったのか。

 いやそんなことは今はどうでもいい。


「…先生はいつもお変わりないようですね。」


 地雷のようなものを踏んだ感触を味わったシロは、目を逸らしてお茶を濁す。

 年上にはこう言えばご機嫌が取れるらしい。

 ちなみにお世辞もお世辞だ。

 昔と今じゃ変わりすぎてる、変わり果ててる。


「…そのお世辞に免じて今回は勘弁してやる。」


 次は(命は)無いぞ?と言い含めたような言葉を発し、キオが席を立つ。

 とりあえず地雷が爆発する危機は脱したようだ。

 年齢に関わる発言はしない方がいいだろう。


 だがなぜ席を立ったのだろう?シロのその疑問は、キオの言葉ですぐに解消した。


「ついてきなさい。学園長からのご指名だ。」





 ――まさか学園長から呼び出しをもらう日が来るなんてな…。


 学園長に呼び出されたシロは感慨にふけっていた。

 学生生活を送る上でふれあう機会がない最上位に位置するのではなかろうか。

 ”学園長役”のその人と話すことは初めてのことではないが、”生徒が学園長に呼び出しを受ける”というシチュエーションには思うところがある。

 はっきり言ってしまえば、良いイメージではない。

 過去、学園に悪影響を及ぼすような素行の悪いところを見せた覚えがないのにそう感じてしまうのは、ネガティブな思考形態の為すところなのだろうか。


 職員室をキオに連れられて退室したシロは、学園長室むかう。―のではなく、どうやら屋上へ向かっているようだ。


「重要な話でな。余計な人がいない場が必要だったんだ。」


 階段を先導するキオがそう告げる。

 クロの妄言を口実にしていたわけだ。

 しかし、それほどまでに重要な話の内容に心当たりがない。


「学園長室ではしないんですね。」


「陰気な場所でするべきでもないような気がしてな。それに、こっちの方がかえって相応しいだろう。」


 シロはその返答に顔をしかめる。

 ますます、その内容がわからない。

 予想すらも出来そうにない。


 やがて屋上への鉄の扉の前まで来ると、キオはそのノブをひねり、開け放った。

 ギギギ、と軋むような音をたて、開けた隙間から光が差し込みシロは思わず目を覆う。


 そして屋上の空間にキオに続いて足を踏み出した。


 屋上は小さいながらも草花が生える花壇と、木製のベンチが数個あり憩いの場となっている。

 しかしその思惑に反して、閑散としていてその機能を果たせていないようだった。

 わざわざシロにする話のために生徒たちを引き払ったわけではない。

 もともと人気がない場所なのだ。


 そしてベンチには子どものように小さい人が一人座っている。


「アイ、連れてきたぞ。」


 キオがベンチに座っていた人物に声をかける。


「お、来たね。」


 アイと呼ばれた人物は、幼い少女の声と手を振って答えた。


 小学生のように小さく、性的な特徴が感じられない体型。

 発せられた少女の声とは対して、活発な少年を思わせる服装。

 それでいて少年にしては長い髪。

 そして名前がアイ。


 身体的に見れば子ども、だが性別の判断がつけられない人物。

 それがアイ、学園の長の役に付いた者だった。


 キオとシロはアイの下まで歩を進める。

 するとアイは、自身の横に置いていたものを取り上げ、


「はいっ、キオ。それとシロはこっち。」


 それらをキオとシロに放り投げた。

 キオが受け取ったのは缶ビール。

 シロには缶のコーラ。

 いずれも冷えていて、表面を水滴が伝う。

 熱いので大変ありがたい。


「どうも。」


 シロの礼は月並みなものだった。

 ありがたいのは確かなのだが、なんの用なのか腑に落ちないからだ。


 そんなシロの感謝の弁をいたアイは”缶ビールの”蓋を開ける。

 プシュッ!とガス体が抜ける音をたて、当然ながら”口をつけた”。


 ――相変わらず、まずい絵面だ。


 シロがそう思うのも当然、無理もない話だった。

 単純に子どもが酒を飲んでいるようにしか見えないからだ。

 人間世界が滅んだとしても、この『日常』の空間にはモラルというものがある。

 法を布く国がなくても、子どもが飲酒をするべきではない。―それ以前に学校で酒を飲む世紀末的な光景だが。


 だが”まずい”と思うまでで、シロもキオも止めるようなことはしない。

 どうでもよく思っているわけではない。


「どうかした?」


 シロの視線に気付いたアイが、シロに問いかける。

 アイからは特に悪びれる様子がうかがえない。

 その理由は単純だ。


「『お酒は二十歳になってから』って言うじゃないですか?」


「また疑ってるのかい?それは何度も言ってるじゃないか。」


「まあ、私と”同い年”とか普通納得できないよな。」


 法的に問題ないからだ。

 シロ自身信じがたいことだが、アイの容姿は十年前からほぼ変わっていない。

 とてもキオと同い年には見えないどころか、今やシロよりも年下にしか見えないのだ。

 キオと同い年のため十年前は中学生。

 当然のように制服姿だったが、そのころからどこかおかしく感じたものだ。

 自分と同じ年の子が、制服着て毅然としているのだから。

 いやそういう毅然としたところが、逆に信憑性を帯びていたようにも感じられる。


 アイはコンプレックスなのかふくれっ面を浮かべる。

 その表情もやはり性別を判断できたものではない。

 肉体と年齢がかみ合わず、性別の判断も出来ない。

 そんな特徴に一言で表せる言葉が見つからない。

 特徴は”ある”のに、”ないない尽くし”な人物なのだ。


「そ、そんなことよりも、今日は大事な話があってね。」


 アイが無理やりな感じで、話を本題に移す。

 シロもキオも、やはり無理やりな感じに苦笑するが、敢えて流す。


 アイは幼い声で咳払い、その場の空気に緊張が生む。


 そしてアイは言った。



「シロ、君の『異能』がわかったんだ。」





 『異能』というのは、超能力や魔法と言えるもののような、物理でも科学でも説明できない能力のことだ。

 『どんな怪我も直す能力』という実用性の高いものから、『ものすごくモテる能力』といった方向性不明だが尖っているのだけはわかるものまで様々だ。

 世界が闇に包まれて以降、生き残った人間たちにはそんな能力ちからが宿っていた。

 だがそれは日常を生きる上では役に立たないものだ。

 闇を消すことも出来やしない。

 能力によって優劣がつけられるものでもないから、差別も生まれない。

 認識としては”人とはちょっと変わった特技がある”程度のものである。

 驚かれるのは最初だけだ。


「へー?」


 シロが興味なさげな声を上げる。

 それもそのはずだ。

 生活の役にも立たないような能力に驚く理由がない。

 実際、興味もなかった。


 異能は確かに人類すべてに宿っているものだが、それがどんなものかはアイの異能でないとわからない。

 アイの異能は、人間の中に宿った異能を扱うエネルギーのようなものを『視る』能力。

 そして視たものを分析して時間をかけて解明するのだという。

 異能は珍しくもないが、判明するのは珍しいことだ。


「その反応は無理もないんだけど、どうか真面目に聞いてほしい。これまでの異能とスケールが違い過ぎてね。」


 アイの真面目なトーンで発せられた言葉に、シロは従う。

 だが”スケールが違う”というのはどういう意味かいまいちピンと来ない。

 物理や科学の法則を度外視した、魔法めいた力なのは今に始まったことではない。


「ずばり言うと、君の異能は…、」


 アイがもったいぶるように間を置く。

 だがその神妙な顔から、もったいぶっているのではなく、覚悟を決める間のように感じられる。


 そしてアイは告げる。

 シロに宿っている異能を。


 シロにとって大きな転換点、その始まりとなることも知らずに。



「―『世界を生み出す力』だ。」



 その言葉を聞いた瞬間、


 ――うっ!?


 ドクン!胸が鼓動を大きく聞こえ、全身をかつてない緊張がシロを襲った。

 それがなんでなのかはわからない。

 ただ、聞き捨てならないというか見逃してはいけないような。

 とてつもなく、自分にとって大切なもののように感じたのだ。


 アイはキオに視線を送り、キオは頷いてアイの言葉に繋げる。


「そう、『世界を生み出す力』。お前の望む世界を一から作り出すことが出来るんだ。この地球、いや宇宙創生から生み出せるだろうよ。スケールが違う、というのはそういうことだ。」


 やはり日常では役に立たない能力だ。

 だが、ほかの異能とは大きく異なっている。

 ”この世界を救えてしまう”という点だ。


 シロは一呼吸して気持ちを落ち着け、屋上から見える景色に目をやる。

 キオが『相応しい』とした意味が分かった。


 地平線が見えない世界。

 真っ暗な闇の中に夕日が少しずつ呑まれているのがわかる。

 こんな場所に生徒が来ないのも納得だった。

 出来れば見たくもない光景だ。


 そんな見たくもないものを消し去れてしまうかもしれない能力が自分に宿っていることに実感がわかない。


 キオはそんなシロを無視して続ける。


「言ってしまえば神の力。すべての始まりを生み出すことが出来る”究極の存在”、名づけるなら…、」


 闇に包まれた絶望の世界。

 それを救うことが出来る一発逆転の、クロの言葉を借りるなら勇者の力。


 キオが名づけたその異能の名は、



「『原初アルティメットワン』。」

【桜が散るまであと二日】

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