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二重定義のアルティメットワン  作者: 零﨑那奈
プロローグ -The wheel of fate-
1/10

プロローグ

”作品全体の”プロローグです。

 自分には『世界を生み出す能力』というものがあった。


 我ながら突飛な能力だと思う。おとぎ話にあるような魔法が存在していたとしても格別に異様なものだ。

 火を放ったり、氷漬けにしたり魔法の定番と言えばそんなところだと思うのだが、自分に宿っていた能力の前では児戯に等しく見劣りするものだ。


 地球規模、あるいは宇宙全体の規模を『生み出す』ことが出来る。

 それほどの能力を持つものがいるのなら、神様と呼ぶことに疑いはないだろう。

 仮に自分以外の人間が、その能力を持っていたら自分だってそう呼ぶだろう。


 だがそう呼ぶ人間はいない。

 みんな神の存在を信じなかったわけではない。自分が生きてきた限り、そこまで信心深い人が今までいなかったのは確かだし、ましてや自分を神として崇め奉ってほしいなんて願望があったわけでもない。

 そう呼ばれることがなかったのは至極単純な話だ。そこには誰も―いや『何も』なかったからだ。


 

 一面が、砂の世界だった。



 見渡す限り、地平線の彼方までが砂、砂、砂。

 赤く燃える夕日だけが眩い光を飛ばすが、自分と傍らの『それ』しか影を生まない。

 ファンタジックな言い方をすれば、光に溢れた世界だろうか。


 建物といった構造物、なし。

 

 草・花・木・雑草といった植物、なし。

 

 生き物、なし。―足跡に至るまで、なし。

 

 無論、人間も…自分と傍らの友以外、なし。

 

 果ては砂の地面の起伏すらも、なし。


 そう、それがこの『光に溢れた何もない世界』だった。

 どうして世界がこんなことになっているのか、無論自分は初めからこの世界で生きてきたわけではない。

 それまで学校に通って、仲の良い友人と笑いあって、時にはともに困難に立ち向かって。

 そんな普通の範疇に入るようなただの学生生活を送っていたのだから。

 もっとも今いるこの場所は学校なんて建物は見る影もないし、友達がいるなんて言っても信用されないほどに自分が独りだということはわかっている。

 

 その理由はかつて教えられた自分の能力ですべて説明がついた。


 だからこの世界を見たときに、


 ――自分は失敗したんだ。


 そう思わざるを得なかった。


 一面砂の何もない世界を望んで生み出したわけではない。

 自分は皆を守るために力を使ったのだ。

 非常な『現実』を前に、次々と倒れていく仲間を助けたいがために。


 その結果がこれだった。助けるはずだった仲間はおろか一切の生命がいない世界。


 この世界で目を覚まして、初めは目を疑った。

 けれどそれが不思議なことに、夢ではないと悟ってもいた。

 そして次第に誰もいない世界だというのに、無性に置いて行かれた寂しさが顔を出した。


 声や環境音といったものが、いやそれを生み出すものが存在しないのだから、ひたすらに静かだ。

 聞こえる音があるとすれば砂を踏みしめる自分の足音くらい。

 無音の生み出す言いようのない恐怖は耐えがたいものがあった。

 気が狂うのではないかと、そう思えるほどに。


 だから、この世界で最初にそれを見つけた時は心から安堵した。


 それは真っ黒な棺桶。

 彫刻のような装飾がない木製の箱に過ぎなかったが、その中の友の存在を知って、自分は独りじゃないと思うことが出来た。

 何をする気力も失せていたが、その時はすがるように駆けていったものだ。

 自分以外の生物がたった一人でもいる、盲目なわけではない棺桶の友はまだ生きている。

 目を覚まさないだけだ。


 よくよく縁のある友だった。

 学園ではいつも一緒にいた異性の友達。恋愛感情があったわけではない。

 ただいつも一緒にいれば楽しかった。

 悪ふざけして、遠慮のない会話をして、そんな信頼し合える関係だった。

 悪友というのが一番しっくりくると思う。

 時には互いを助け合う相棒でもあったし、高め合うライバルでもあった。

 

 そんな友が、


 世界がこんなことになっても変わらずいてくれた事実に涙があふれた。

 まだ目を覚まさないけど、この友がいてくれたおかげで、また頑張ろうと思えた。


 ――諦めたくない。


 そんな思いが胸にこみ上げてきた。

 この大切な友がいた『日常』、それを取り戻したいと。

 自分にはその術があるのだからなおさらそう思えた。


 だけどその前に、


 ――認めてほしい。


 そんな思いもあった。

 こんな場所でもそう思ってしまったのは、見つけたのが友だったからかもしれない。

 何かと意見が割れて対立することも多かったから、そんな気持ちが湧き上がってきたのか。

 

 知らないところで勝手にやる、というのがフェアじゃない気がしたのだ。

 どこまでも対等な存在としていたかったし、いてほしかったから。

 ただ、この友なら自分とは違う答えを出すのだろう。そんな期待は確かにある。


 だからまずは友の目覚めを待つことにした。

 もしも自分と同じ境遇に置かれたら、友はどんな道を辿るだろう。

 自分と同じ道、あるいはまったく違う道を行くのだろうか。


 そう思って、棺桶から露出する友の顔に振れる。

 振れた指から友の頭、縁をとるように青白い光が包み込む。


 ――待ってるよ。


 友の顔を微笑んで見つめる。

 この世界で初めて笑ったことには気づかなかった。


 地平線の彼方にあった夕日が堕ちていった。



 友が目覚めるまで、自分はこれまでのことを振り返ってるとしよう。

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