魔法発動
翌朝、日が昇るころに起きてお互い後ろ向きで着替えを済ませて宿を出た。おいしそうな香りを出してる食堂で朝食を済ませて、いよいよこの街を出ることにする。
「彩、何か買っておきたい物はある?次の街まで徒歩だと2日程かかるみたい。馬でも調達できればもっと速く移動できるんだろうけど、馬に乗ったり馬の世話とかやったことないからね。」
「うん、大丈夫。食料とか飲み物も半年分ぐらい買い込んだんじゃない昨日で。服とか雑貨とかも買ってるししばらくは大丈夫だと思う。でも大丈夫かな?街の外に出たら、野生の動物とか魔物とかもたまに出るんでしょう?」
「街道から離れた森の中とかだとそうかもね。でも出来れば途中で戦いの練習の為に野生動物とか弱い魔物相手に戦ってみようと思ってる。」
「少し怖いなぁー。」
「彩は俺が守るから。俺は少しは戦えると思う。」
「拓哉のスキル?」
「うん、剣を使えるみたいだから。」
実は今朝、宿の中庭で剣の素振りをやっている冒険者を見学していたら、剣術と体術のスキルがついた。誰もいなくなった中庭でさっきの冒険者の姿を思い出しながら剣を振ってみたら、スキルレベルが上がった。経験値と能力値の変化はないからこっちは実際に魔物や動物などを相手にしないとダメなのかもしれない。その辺りは街を出て旅の途中で確かめる予定だ。
王都を出るのは簡単に出来た。しかし入って来る人たちの手続きをみていると、入場するのにお金と自分のステイタスを見せないといけないようだ。「ステイタス・オープン」と唱えると自分以外の人にも自分のステイタスを見せることができるようだ。試しに彩とお互いにやってみたら自分が見ているのと同じものが相手に見せられるようだ。俺達の場合、職業欄が「異世界転移者」と「勇者(仮)」になっているのでそれをどうするか要検討だけど、出る時にはステイタスを見せる必要ないみたいなのでサッサと王都を出ることにした。
王都の城壁が見えなくなる辺りまでくると街道は細くなり、森の側を通るようになる。この辺りは冒険者ギルドの方で常時、魔物や野生動物の討伐依頼が出ているようで比較的安全な場所みたいだ。俺と彩はおしゃべりをしながら半分ピクニック気分で道を進んだ。
「そう言えば、彩は料理とかできる?」
「うーん、あんまり得意じゃないかな。再婚家庭だからあんまりお母さんからいろいろ教わったりしてないんだ。」
「そうなんだ。でも、彩は元の世界に待ってる人いるんだろう?」
「どうだろうね。心配はしてくれるかもだけど、案外安心しているかも。下の妹と仲が悪い訳じゃないけど、家では私の居場所ない感じだったしね。」
「彩もいろいろあったんだな。まあともかくだ、この世界に来てしまった以上、こっちの世界で生きて行く最低限の知識と能力は見に着けないといけないからな、彩もいろいろ頑張ってみようぜ。」
「うん、ありがと。やっぱり拓哉って優しいね。中学の時からそう思ってたんだ。」
「優しいか?まあいいや。いずれにせよ、今はこの世界で唯一信頼してるのは彩だけだしな。頼りにしてるよ。」
「えー、世界で一番好きって、そんな急に・・・」
「いや、好きって・・・」
彩が上目遣いでウルウルしてみてるから、何も言わずそのままにした。嫌われてないなら支障はないしまあいいかって感じだ。
俺は歩きながらも周囲の警戒を続けている、城門の方の様子や、先に広がる森の様子などを見ながら歩いていると、「超視覚」と「超感覚」というスキルを取得できた。自分の鑑定をしながら検討したところ、スキルの中には剣術などレベルがあるものと、超視覚などスキルレベルがないものがあることがわかった。この違いがなんなのか不明だけど、恐らくはスキルレベルがあるのはアクティブスキル系で、スキルレベルがないのはパッシブスキル系じゃないかと思う。
ただ、なんで俺だけがこんなに簡単にスキルが習得できるのかが不明なんだよな。彩にも話しながらいろいろ試して貰ってるけどスキルが増えることはないみたいだし。
武器工房のドワーフの親父が言ってたように、本来スキルは同じことを年単位で繰り返して、やっと習得できる類のものらしいし、こうして何の苦労もなく習得できるのは俺に何らかの力が働いているからだろうな。補正項目にある習熟と、固有スキルの賢者がその能力の原因なんだろうけど、どうやってそうなるのかは不明のままだ。
そうそう、俺達がこの国を出て向かっているのはガノ王国という国だ。昨日いろんな人から集めた情報を集約すると、このアルガイアという世界には、人族、獣人族、妖精族、竜人族、魔族の大きく5つの種族が住んでいて、種族の劣化種族という感じで魔物という外敵がいるらしい。例えば人族の劣化種としてゴブリン、妖精族の劣化種としてドリュアスなどがいるらしい。いずれにせよ言葉が通じない者、人を襲ってくるものを魔物と称しているとのことだ。
また5つの種族はそれぞれがいくつかの国を形成していて、人族の国家だけが大小様々な国家間で争いを起こしているらしく、現在アルンガルト王国とドボルグ帝国、聖精霊教皇国の3大国があるそうだ。
また、魔族は4つの種族の共通の敵となっているようで、大陸の中央にある大きな山脈を隔てた東側に魔族の国を作っているらしい。
大体、こんな感じだ。この中で俺がガノ王国に行こうと思ったのは、ガノ王国は一番古い王国で、王祖は魔族から大陸の西半分を切り取った異世界からの勇者達によって作られた国と言うことだったからだ。街の人々はその伝承を知っているために、アルンガルト王国に勇者一行が召喚されたことによって、魔族の住む大陸の残り半分を征服できると考えているようだ。
あの王と名乗ってたやつの言ってた話とえらい違いだなぁと思ったけど、俺には関係ないからいいか。いずれにせよ、過去に俺達と同じようにこの世界に召喚されたやつがいるなら、俺と彩がこの世界で生きて行くのに一番最適な環境なのかもしれないと判断してガノ王国に行くことにした。
森に入り索敵を利かせて周囲の気配を探った。
「彩、この先に一匹だけ魔物か野生動物かがいるみたいだ。試しに戦ってみるから、彩は安全な場所で見ていてくれ。」
そう言って彩を連れて森の中でやや開けた場所で相手が来るのを待った。
現れたのは猪みたいな魔物だ。ボアーというらしい。鑑定するとスキルは突進のみで体力は俺よりもかなり低い。レベルは8だ。
ボアーは俺の姿を目に入れるといきなり突進してきた。十分に引きつけて突進をギリギリでかわし、すれ違いざまに首を一閃した。骨を断ちきる固い感触があるかと思ったけど、豆腐を切るように抵抗なくサクッと切れた。
自分のステイタスを確認すると経験値400、レベルが3に上がり能力値がかなり増えていた。
氏名 龍崎拓哉
年齢 17歳
性別 男性
種族 人族
職業 異世界転移者
レベル 3
経験値 400
体力 350
魔力 250
筋力 350
敏捷 200
回避 200
防御 200
知恵 500
精神 350
幸運 300
固有スキル 賢者
スキル 超聴覚、超視覚、超感覚、索敵、気配遮断、剣術(LV2)、体術(LV2)
補正 異世界転移者(自動翻訳、能力値上昇)、習熟
「拓哉って何か武術とかやってたの?拓哉の動き一瞬見えなくなってたよ。」
「あっちでは特に何もやってなかったよ。これもこっちの世界に飛ばされた時に身に着いた能力なんだろうな。でもこの猪、ボアーって言う魔物らしいけどどうしようか。」
「お肉として保存してた方がいいのかなぁ。」
「血抜きとかしないといけないんだろうな。どうやるんだろう?」
切断した方を下にしてボアーを持ちあげてみた。多分100㎏を越えてると思うけど問題なく持ち上げることが出来た。全身の血管から残りの血液が出て行く感じをイメージすると
一瞬で血液が流れ出して血抜きが完了した。スキルで水魔法を取得してた。
「えっ、今のもスキル?」
「あーうん。水魔法かな多分。」
「えー、拓哉、魔法も使えるの?」
「どうなんだろう?頭でイメージしたら発動した。」
「イメージ?」
「多分、魔法ってイメージを具現化する力じゃないのかなー。ちょっと待って他のをやってみる。」
取り敢えずボアーをそのまま無限倉庫に入れて、魔法を使ってみた。
水魔法のスキルが出たからそっちからやってみるか。まず野球のボールぐらいの大きさの水の塊をイメージして、それを向かいの木に向かって打ち出すイメージ。ズバッて音を立てて幹にぶつかり穴を開けた。自分のステイタスを確認すると、水魔法がLV2となり魔力が240になっていた。消費魔力が10?いや、水抜きで使ったから消費魔力は5か。王宮にいた魔法使いっぽいやつらの魔力が大抵200前後が多かったから、俺や彩みたいな異世界転移者は魔力でいえば多い方みたいだな。でも消費魔力から言えば、初級魔法って感じかもしれない。
「えっと、拓哉、それって彩も使えるの?」
「大丈夫じゃないか?俺に出来るんだし。」
「呪文とかはいらないの?」
「俺は頭の中でイメージしたらできるけどな。こう身体の中の熱を集める感じ。」
「そんなの感じないようぅ。」
「ほら、俺の手を握ってみ。俺の手のひらが温かくなるの感じないか?」
「えっ、えっ、手を握られてる・・・温かいと言うより熱いかも・・・」
「おっ、そうかすまん。急に悪かったな。まあ、徐々に練習しようぜ。俺に使えたってことは彩にも間違いなく使えるってことだしな。」
その後、先を進みながら頭の中でいろいろイメージを働かせてみた。その結果、氷、火、風、雷、土の5つの魔法スキルを取得できた。水魔法を加えて6つだ。的田達を見た時に聖魔法っていう魔法スキルがあったけど、これは取得できなかった。聖魔法ってイメージがなぁ。ちなみに魔法はイメージした時点で魔力を消費するようだ。手のひらに魔力を集めるだけだけど魔力が5ずつ減少した。しかし、毎分ごとに1ずつ回復するようだ。魔力を全部使い切っても、最悪しばらく休めば魔力が回復することが分かって、遠慮なく魔力の練習が出来る。