眷族化
「ただいま。遅くなった。」
「「「「「お帰りー。」」」」」
「無事に済んだの?」
「国王と皇帝と教皇の3者揃い踏みだからね。きっとうまく収まるだろう。あっちでも3勢力に分かれて行動する様なすぐに全滅するだろうな。」
「今日はこの後どうするの?アリス、魔族の所で戦いたい。今日からは遠慮しなくていいんでしょう?」
「じゃあ、準備出来たら行こうか。」
「旦那様、迷宮へは行かないのですか?食材を仕入れたいとミミは願うのですが。」
「何か足りない者があるの?」
「いえ、そろそろ新しい食材を仕入れたいなと。」
「ミミ、食材の仕入れと言うのは街の市場に行くものだよ。」
「迷宮は食材庫ではないのですか?」
「「「「「違うー」」」」」
その後、迷宮を梯子して最後は魔大陸でしばらく狩りをした。用心しているのか魔族とエンカウントしなかったので魔物狩りになってしまってアリスは物足りなかったみたい。
それから俺達は、新しい迷宮を渡り歩いて、現在は4つの迷宮をメインで攻略している。迷宮の最下層攻略は可能なんだけど、迷宮を完全制覇すると迷宮から魔物が出なくなって、食料確保が出来なくなるので、おいしい迷宮だけは残すことにした。
3国はトップの交代は恙無く終わったみたい。王国は国王と第一王女の両方が一度にいなくなったのでいろいろ大変だったみたいだけど、こう言う国は権力機構と言うのはトップが変わっても問題ないみたいで国内が乱れることもなかったようだ。
帝国の方が権力の移行は時間がかかった。皇帝が死んだのかどうかが解らなかったし、召喚した勇者全員が消えただけでなく、お抱えのS級冒険者パーティーも全員消えてしまったからだ。精鋭の第一騎士団は残っている者の、遠征部隊の柱である第二騎士団の精鋭も揃って東大陸に向かって行方不明になり、帝国一極に傾きかけていた軍事バランスが崩れ出した。
また東大陸と接していた場所に突然大海が現れており、大陸の東側には突然の大山脈が発生していることに気がついた大陸の人々が、勇者召喚が精霊の怒りに触れたためにこのような天変地異が起きたのだと噂が出るのに時間はかからなかった。また勇者召喚を行っていた聖精霊教会の権威が次第に落ち、他の属性精霊の信仰へ宗旨替えを行う教会が増えてきている。
二週間後、東海岸の端、最初に3国の人たちを集めてた場所に行ってみた。その後のこの辺りの状況を確認しておこうと思ったのだ。
すると、この場所に小さな宿営が築かれていた。行ってみると、教皇国で召喚された中国のお姉さん達8人と。帝国で召喚された日本人の4人の12名だった。
「こんにちは。ここで集落を作って暮らすことにしたんですか?」
俺が声をかけると、全員、土魔法で作ったと思われる小屋から出てきて俺の前に片膝をついた。
「えっと俺はあなた達の上司でもないし、片膝は要らないけど。」
「ここに残った者は、リュウザキ様の力をみてリュウザキ様に忠誠を誓うことを決めた者達です。いつか必ず、この場所に戻って下さると思ってここに残ることにしました。」
「他の人たちはどうしたんですか?」
「全員、この大陸からの脱出方法を探すためにこの地を出立しました。一部の者達は魔族と戦い、魔王を倒し、この大陸に国を興すためにチームを組み出て行きました。」
「俺が戻ってこなかったらどうしてたの?この場所で生涯暮らすつもりだったの?」
「リュウザキ様のお言葉によれば、私たちはすでにこの世界から出ることはできません。元の世界に戻れないのならどこで暮らしても私達に違いはありません。あの時リュウザキ様は、この地で私達に残る唯一のアドバンテージは、この地の魔族がリュウザキ様のパーティーと私たちの区別がつかないことだとおっしゃいました。また、皇帝も本来魔族はあの山を越えて西大陸へはやってこないと言っていました。さらにはリュウザキ様が、あの山の向こうに広がっていた大森林内の魔物と近くの魔族を全滅させとおっしゃいました。つまりこの地は東大陸の中で一番安全な場所だと言うことです。さらにはリュウザキ様はあの時に、私達に大量の食糧を残して下さいました。このことから推察して、再びリュウザキ様がこの場所に来て下さると考えたのです。」
「他の人は誘わなかったの?」
「勿論、全体の議論の場で私の考えを述べましたが、結局耳を傾けてくれたのがここに残った12名のみです。」
「リンメイさんが今言ったことは、私たちも似た様な事を考えていましたからすぐに賛同したんです。結局はリュウザキ様は信用できないと言う考えが主流になり、脱出経路を探す隊に加わった者が一番多くなりましたが。」
「自分達で考え判断し、生きる方法を探し、実際にこうして生き残るための最大限の努力をしてるし、そう言う人に手助けするのは吝かじゃないよ。ただし、あなた達も気が付いているだろうけど、異世界からこの世界に来た俺達の力は、この世界、特に力と能力が未熟な西大陸の人たちにとって害悪にしかならないと思ってる。特にどこか一つの勢力と結びつくとかね。あなた達がこの世界の囚われ人であることを認識して、この世界から逃れられない運命だと認識しているなら、この場所より多少住みやすい場所を提供できるよ。ただし、西大陸で住むことはできないけど。」
「私たちは、すでにリュウザキ様に忠誠を誓うことを決めています。リュウザキ様が決めた場所で生活させて下さり、リュウザキ様が決めた役割があるならそれに従いたいと思います。」
「あんまり重い忠誠とかはいらないんだけど、そこまでの覚悟があるなら俺の眷族魔法を受け入れるかい?服従魔法じゃないから、奴隷契約みたいなものではなく、俺の目的のために自分達で考えて自分達で行動してもらうために、俺の能力を一部使えるようにしてあげる代わりに、俺に対して絶対の忠誠を誓ってもらう魔法だけど。俺にしか使えないオリジナルの魔法だから、自分達で解除したり他の人の干渉を受けたりできないある意味強力な魔法だけど。」
「「「「「是非お願いします。」」」」」
「じゃあ、送るから頭の中で「認証」と考えてね。」
「これは、身体に力が漲ってきます。リュウザキ様の力を認識できます。私たちと次元が違う力の波動を感じます。」
「眷族化したから、上位者の力の波動を感じるのかもしれない。あと眷族間での念話が可能だからね。荷物は各自これに詰めてね、マジックボックスになってるから各自一つずつ持ってね。準備が出来たらすぐにここに集合、取り敢えず俺の亜空間領域に入って貰って、別の場所に連れて行くからね。」
12名は満面の笑みを浮かべながら、マジックボックスバックを受け取って唯一ある建物の中に入って行った。1分もしないで戻ってきて整列している。こうしてみると美人揃いだ。年上なんだろうけど、幼く見える人もいる。日本人の4名はショートカットの活発そうな人たちだ。元々アスリートみたいだし身体は引き締まっているんだろうけど、ごつい感じでもなく綺麗な手足をしている。
その後、予定していた山脈の中の開けた場所に転移し、亜空間領域から皆を出した。
「ここは、西と東の大陸をつないでいる山脈の中。標高的には5000メートルを超えてるけど、この山脈全体を結界で覆っていてこの辺りの気候も温暖になるようなっている。水も湧いてるし、畑を作ることも可能だと思う。後最初に言ったように山脈全体を多重結界で覆っているので魔族側からも人族側からも侵入もここから出ることもできない。ただし、感じている人もいるだろうけど、この場所は大きな魔力だまりがあるので周囲には魔物が発するし、野生の動物もたくさん生息している。生活するのに十分な環境だと思う。一応、この場所から同心円状に俺が結界を張っているのでこっちには魔物は入ってこない。それと、取り敢えず、住宅を作っているので自由に使って。何か質問はある?」
「私たちはここで何をしたらいいんでしょう?」
「それは自分達で考えてね。俺から何かをして欲しいってことはないし、土魔法を使えるみたいだから畑を作ったりしてもいいし。俺の妻達は自由にいろいろ研究したり、料理したり、機織りしたりしてるよ。」
とか話してたら、彩達が転移してきた。この場所に移住させることは前から決めていたんだよね。
「拓哉、忘れものだよ。女の子しかいないからってボーっとしてたの?」
「おっ、そんなことないぞ。だって服とか下着とか俺から渡すわけにはいかないだろう?説明が終わったら、彩達に来てもらって配って貰うつもりだったよ。」
「それはそうだけど、わー綺麗な人ばっかりだね。こっちは私達がやっとくから拓哉はお風呂でも作ってあげてたら?残る人の人数とか男女の比率とかが解らないからお風呂は後から作るって言ってたでしょう?大きなお風呂1つでいいんじゃない。」
「おう、ジャグジーもつけようかな。」
「「当然。」」
ジャグジー派の2人の返事がハモッたところで、俺は住宅に隣接している場所に共同浴場を作りに行った。その間に彩達5人は、下着や服、武器や防具、当座の食糧などを渡すんだろう。
取り敢えずはシャワーと大浴場、ジャグジー風呂は欠かせないな。サウナも作った方がいいのかな。作ってないとリリアナにダメ出しされそうだし作っておくか。湯船は大理石風の岩風呂と、総檜の2つを作った。両方とも20人ぐらい入ってもOKぐらいだ。あと、シャワーは魔道具で作ってる。細かい調整は難しいけど一応は温水が出るようにしている。
ちなみに住宅は10畳ぐらいのワンルームにベッドを置いている。キッチンは共同だ。一応10人分ぐらいの料理はできるようにしている。実はこの日残っている人数は、俺は10人前後だと予想していた。全体の0.5%だ。残るとして身分制度に染まっていない帝国か教皇国の召喚者からだと考えていたので両方の召喚者75名から考えたら10名と言うのは多すぎるので彩達5人は、もっと少ないと考えていたようだ。しかも男女のペアーで2組とか、1組だけとか。俺は男は残らないって予想してたんだけどね。あんな状況で俺を信用するなんて普通の感覚では出来ないと俺自身も思ったし。
ともかく、部屋が無駄にならなくてよかった。向かい合わせの部屋で6部屋全部で12部屋の棟を作った時には無駄―とかダメ出しされたのにな。そう言えば彩達、人数分ちゃんと準備してたのか?一人あたりの数を減らしたんだろうか。さっき残りの人数を念話で彩達に伝えてから作ったにしては早すぎるしね。
そんなことを考えながら戻ってみると、みんなでお茶を楽しんでいるけどどういうこと?
「作り終わったぞー。案内するから皆こっちに来て。」
そう言って、玄関から入って家の中を案内した。日本風に玄関で靴を脱ぐスタイルにしたけど中国人のお姉さん達も違和感なく靴を脱いで上がってきた。あれ?中国って靴脱ぐんだったけ?まあいいか。
「こっちがダイニングであっちがリビングね。キッチンは共同だけど10人分は余裕で作れる仕様にしている。で、こっちが個室ね。ベッドと寝具しかないけど後は自分達で何とかしてね。で、こっちがトイレ。水洗式ね、ちなみに水は魔力だまりから魔力を自然吸収して水魔法で上のタンクに水が貯まるようにしてるから。トイレットペーパーは現時点で開発中でまだ試作品しかないから、簡易のウォシュレットを付けてる。手を当てると自分の魔力で動くようになってるから。
でここが今作ったお風呂。温泉を直接引いてるからかけ流し状態、あとこっちがジャグジー風呂。ウォシュレットと同じようにここに手を当てると泡が出るようにしてるから。こっちはサウナね。横の水風呂はいいとして、こっちがシャワー。そままだと水だけど、ここのダイアルを合わせて手をかざすと上のタンク分だけお湯になるから、細かい温度調整は現時点では無理。」
「リュウザキ様、ここは全てリュウザキ様がお一人で作って下さったんですか?」
「そうだよ。調子が悪かったら言ってくれ修理可能だぞ。要望があれば出来る範囲できいてやれるし遠慮なく言ってね。」
12名は若干、放心している感じだ。いろいろあって疲れているんだろうな。
「彩達の用事は済んだ?」
「大丈夫だよ。今度裁縫とか教えてあげることにしたんだけどいい?」
「それは別に構わないけど、彼女達が自立できるための手助けならね。」
「ミミは料理の指導を頼まれましたぞ、旦那様。」
「そうか、ミミの料理を食べたら皆ミミの料理の虜になるからなぁー。」
「タクヤさん、武術の指導なども行っていいのでしょうか?」
「あー、確かにスキル持ってるのに勿体ないね。持っているスキルごとにメニュー作ってやるといいかもね。」
「リリーも魔法の指導をやってあげたい、たっくんいい?」
「リリアナの負担がかからない範囲でやってあげたらいいよ。」
「お兄ちゃん、畑とかも作っていいんでしょう?アリス達の分も作りたいし作ってもいい?薬草園とかも作りたいし。」
「アリスが一人で作るのか?ボッチなのか?」
「違うよー、こっちのお姉さん、農業詳しいんだって。一緒にやるんだようぅ。アリスボッチじゃないしぃ。」
「冗談だよ。一応土壌改良は済ませているんだよ、実は。畑とかやりたくなったらすぐにできるようにね。そっちを使うといいよ。」
こうして新しく人を招き入れた場所が、後に大きな街に発展して行くんだけど、それはまだまだ先の話だ。
その日、俺達6人で露天風呂に入っている時に、これからのことでいろいろ意見が出た。
「拓哉、これからあの12人どうするの?」
「どうするって言ってもな。一応生活できる環境を整えて、自分の生き方を考える余裕が出てきたら、自分達でどうしたいか結論を出すんじゃないか?それに、魔大陸に送った奴の中で、まだ連れ出した方がいい奴も出てくるかもしれないし。」
「たっくんは優しいね。テンバの国を救ってくれた時もそうだったけど、必要な手助けはするけど、それ以上の干渉はしないよね。」
「そうか?まあテンバの国は元々自立していた国だからな。なかったのはお金と自信だけって感じだったし。リリアナの御先祖さん達がよく国を治めてたってことなんじゃないか。」
「黒竜の恐怖が常にあったから。自分達の非力さを皆知ってるんだよ。だから協力しないと生きていけないって解ってるからね。大きな家族みたいなものだよ。」
「話しはもどるけど、たっくんとしてはあの子たちにどうなって欲しいの?なんだかんだと言っても異世界転移者なんでしょう?たっくんや彩と同じように高いポテンシャルを持っているなら、それを活かせるようにしてあげた方がいいんじゃない?」
「異世界転移者って言っても、俺と彩は別枠だしなぁ。異世界転移者って言っても西大陸の一般人と比べたら能力が高めなんだろうけど、魔大陸だと精々下級魔族程度だからなー。それでも高いと言えば高いんだろうけど、そっからどうしたいかは、結局のところ自分の意思だからなぁー。」
「拓哉、あの子達も迷宮とかで集中して戦力を上げるっているのはダメなの?」
「ダメじゃないけど、結構手間がかかるぞ。俺の能力を付与する訳じゃないんだし。アクセサリーとかで強制的に能力値を上げても、地力がついてなければ意味ないし。」
結局しばらくは、彼女達が結論を出すのを待とうと言うことになった。それまではあまり俺達が接触すると、俺達に依存してしまうかもしれないから、最小限のサポートだけすることにした。




