無限倉庫
城門から出てしばらく歩いた後、横を歩く宮部に話をした。
「なあ宮部、お前なんで嘘ついて出て来たんだ?」
「やっぱり龍崎君、私たちのステイタス見えるのね。」
「なんでそう思うんだ。」
「龍崎君の様子をずっと見てたもん。クラス全員だけじゃなくって、城の人たちも全員チェックしてたでしょう?」
「よく見てたな。」
「で、本当は龍崎君も勇者なんでしょう?」
「いや、本当に勇者じゃないよ。あの場で嘘は何もついてないよ。」
「嘘はついてないけど、本当のことは話してないってことね。」
「降参。よくわかるな、宮部がそんなやつだとは思ってなかったよ。」
「だって、いつも見てるし・・・」
「はあ?いつもって、いつ?」
「えっ、えっと、中学の時からずっとクラス一緒だし・・・」
「それは、宮部も特待生なんだからクラスがAクラスになるのは当たり前だけどさ。」
「もう、いいじゃない。ここはAクラスじゃないんだし。で、龍崎君は全員のステイタスが見れるの?」
「いや、多分それ以上の情報を見れてると思うよ。宮部、お前、経験値とか体力、魔力、あと補正とかの項目見える?」
「えっ、そういう項目もあるの?私に見えるのは、こんな感じだよ。」
氏名 宮部彩
年齢 17歳
種族 人族
職業 勇者(仮)
レベル 1
スキル 火魔法、水魔法、風魔法
かわいらしいメモ帳に書き出したのは、やはりステイタスで見れる項目だけだ。
「俺も、「ステイタス」を唱えて見れるのはそれと同じものなんだ。でも何も唱えなくても俺には更に詳しい情報が見れるみたいだ。」
「そう言うの皆に教えてあげたら龍崎君もクラスの役に立ったんじゃない?」
「宮部、お前さ、この国王とかの話、変だと思わないか?それに実は皆が目を覚ます前に俺は目覚めていたんだけど、その時、あの宰相がよからぬ会話をしてたんだよ。隷属の首輪がどうだとか。」
「隷属の首輪?」
「ああ、それに、魔王が侵攻してくるって話もどうかと思うぞ。そんな時にわざわざパーティーなんか開くか?それに街の様子をみて尚更おかしいと感じたよ。平穏な感じじゃないか?これって変だと思うぜ。」
「そしたら、クラスの皆に話をしてあげなきゃ。」
「いいや、俺が言っても寧ろ反感を買うだけだし、かえって魔王討伐を煽ることになるんじゃないかあのカースト信者達の。まあ、的場直也には一言忠告はしといたから後はあいつらの自己責任だろう。」
「そうだねぇ。私が言っても無駄だしね。」
「と言っても、宮部は残って生活した方がいいんじゃないのか?魔王討伐に出なきゃ王宮にいる方が安全だろうし。」
「私は龍崎君と一緒の方がよかったから・・・」
「まあ、その辺りも宮部自身の人生だし俺がとやかくは言えないんだろうけど。」
「それで龍崎君はこれからどうするの?」
「俺は、出来るだけ早くこの国を出るつもり。」
「国を出るの?」
「そのつもり。隷属の首輪をつけようとしている奴らだしな、俺をこの先ほっとくとも思えないし。支度金がなくなった頃合いに何か仕掛けてくる可能性もあるし、何よりこの世界のことを知るためにはこの国を離れた方がいいかなぁって思ってる。」
「龍崎君で凄いね。私そこまでの覚悟はなかったなぁ。でも、やっぱりこの世界で龍崎君と一緒にいた方が一番安全だと思う。女の勘で。」
「まあ、いいや。まずは服装をか武器とかを整えるか。」
その後、通りを歩きながら俺が商品を鑑定していって、質のいいものを扱っている武器・防具屋を見つけてその工房に入った。
店は奥が工房になっているらしく俺達が店に入っても店の奥で作業を続けていた。ドワーフ族で鍛冶と練金がLV3となっている。並べられた商品はどれも価値が高い。彩が商品を見ている間、俺はドワーフの作業をじっくりと眺めてその工程をみていた。インゴットをハンマーで打ちつけていると数十回目に光に包まれて剣が出来た。鍛冶スキルなのか練金スキルなのか解らないけど、ファンタジーの世界だな。元の世界の物理法則を無視した工程だ。
「なんだ、兄ちゃん、見ねえ顔だが鍛冶に興味があるのか?」
「はい、今日、この世界に召喚されたので、いろんなことに興味があります。」
「おっ、王宮が言っていた勇者さんか?」
「俺は違いますけどね。勇者と一緒に召喚されたんですけど勇者じゃないみたいです。」
「おーそうかい。まあ、勇者じゃなくても身体が丈夫なら生きていけるさ。」
これって慰められてる?
「今使っているのは鍛冶スキルですか?」
「おーそうだ。まあ簡単には取得できねえけどな。10年ぐれえハンマー振ってれば物になるやつもいるけどな。ドワーフ族じゃねえと、もっとかかるかもしれねえぞ。」
「練金スキルと言うのは何に使うんですか?」
「兄ちゃん詳しいね。練金はこうした鉱石から鉱物を精製する時に使うんじゃ。まあこっちはドワーフ族以外だとまず無理じゃな。」
「そうなんですね。そう言えば武器とか防具とかに魔法が付与されているものがあるそうですが、そう言うのも何かのスキルですか?」
「城で魔法の武具でも見せられたかい?ああ言うのは滅多にないぞ。本当に出来のいいやつが出来た時に、神殿に行って付加して貰うこともあるけど、滅多に魔法の武具には変わらねえな。だから今ある魔法の武具の大部分は迷宮から出てきたものがほとんどだな。」
「迷宮から出るんですか?」
「と言っても階層主のドロップで出ることがあるかもってぐらいで、数えるぐらいしか出回ってないぞ。」
「ちなみに、こちらの武器は親父さんが作ったものですか?」
「おう、うちの商品は全部俺が作ってる。」
「こっちの杖と、あっちの杖は同じ価格ですけど。」
「同じ材質で作ったやつだからな、価格が同じなのは当たり前だろう。兄ちゃんには違う材質に見えるのかい?」
「いえ、そう言う訳ではないんですか。取り敢えず、俺達は初心者なので金貨5枚程度で揃えられる武器と防具を探しているんですけど、お勧めはないですか?」
「金貨5枚もあれはかなりいいものが揃えられるけどよ、そっちのお譲ちゃんもかい?」
「はい。彼女は魔法職なのでそっち系統でいいものを。俺は取り敢えず剣を一本。あと野宿するのに便利な物とかあれば。」
「魔法職なら、インナーとマントとブーツでいんじゃないか。武器は近接戦闘もやるならメイスがいいけど、後方で戦うだけなら杖でもいいぜ。兄ちゃんの方は線が細そうだからな、インナーでいいやつを付けて、ブーツと籠手でいいんじゃないか。剣は細身剣かナイフがいいんじゃねえか。兄ちゃん体術スキル持ってるだろう?立ち姿に隙がねえな。」
親父さんのお勧めを聞きながら俺と彩の装備を整えた。二人分で金貨5枚だった。一人当たり5枚のつもりだったけど、結構まけてくれた。
「野宿の準備なら、この先の雑貨やで全部揃うから相談しな。」
「いろいろありがとうございました。」
「いいってことよ。俺も楽しかったぜ。しかし本当に異世界から召喚なんて出来るんだなぁ。」
雑貨店に向かいながら、彩が話しかけてきた、
「龍崎君、さっきのお店で武器や防具を選ぶ時、何を見てたの?みんな同じじゃなかったの?」
「俺も確信は持てないけど、武器を鑑定すると空欄が空いてるのがあるんだよね。」
「空欄?」
「うん、空欄。で俺の推論だけど、この空欄があるものなら魔法付与ができるんじゃないかと思う。さっきの親父さんはこの空欄は見えないみたいだし、おそらくこの世界の人はこれが見えないんじゃないかと思う。」
「じゃあ、これを神殿に持って行ったら魔法の武具になるの?」
「多分ね。それはすぐにやらなくてもいいだろうけど、どうせならその可能性のある物がいいかと思ってね。」
「雑貨屋の前に服を買って着替えようか。学生服のままだとやっぱり目立つし。」
「荷物が一杯になってきたね。バッグとかも買った方がいいのかな。」
「そっちも買いに行こう。そう言えばこういう異世界転移だとアイテムボックスとか使えそうだけどね。」
「アイテムボックス!。ダメみたいだよ。多分ないんじゃないかな。スキルとかにもないんでしょう?」
「俺が見る限り、そう言うのはないね。うーん、まあ確かに、そこまで便利なものがある感じではないよね。・・・・・ってあった。」
「えっ、何が?」
「アイテムボックス?無限倉庫って考えたら出てきた。宮部さん見える?」
「見えないよう。・・・・無限倉庫・・・・。私には出来ないみたい。」
「まあ、そっちもあとでゆっくり検討しよう。取り敢えずリュックと服を揃えよう。」
その後、中古服屋とバッグ屋を回って着替えたら、見た目は周りを歩いている冒険者風の人たちと変わりない感じなった。そう思ってじっくり周りをみてみると、奴隷連れで歩いている人が多い。冒険者風のパーティーも大きな荷物を持った奴隷を連れてるし、商人風の人も奴隷に荷物を持たせてる。やはりアイテムボックスなどのスキルはこの世界では珍しいか、もしかしたらないのかもしれない。と同時にこの世界では奴隷と言うのは俺が考えてるよりももっと普通のことなのかもしれないな。隷属の首輪を付けてる人たくさんいるし。鑑定してもそれ以上の情報が出てこないからどんな効果があるのかわからないけど。