4 Let's スタート②
見渡す限り、草原と森、そして背後には海。一見すれば、そんな場所に留まったところで進展は無く、面白味に欠けている。
ただ、クロガネという男はそんな今の状況を酷く楽しんでいた。
敵がいないのであれば、好都合。何も気にせず、『スキル』の乱用を行える。ここは、まさに恰好の練習場だった。
「…そろそろMP切れか」
そういって、確認の為に再び『飛行』を発動していたクロガネは、一旦『ステータス』を覗き、ゆっくりと身体が降下していくと、一息付いてその場で腰を下してしゃがみ込む。
どうもこの異世界でのMPは、いくら使用してMPが底を尽きようとも、身体を休めるなど一定の休憩をとることで回復出来るらしかった。
乱れた呼吸を整え、高ぶる鼓動を抑え込む。そして全身を脱力させ、そのまま寝そべる。ただ全身の力を抜いているだけなのだが、この行為だけで、数分後にはMPは満タン状態になっていた。
「ふー。しょっぱなでMP尽きた時は、どうやってこのMPを回復させようか迷ったが…ぞんざい楽で助かった」
そういって、安堵の息を漏らす。
それもそのはず。いくら持っていた『スキル』が強力だったとしても、MPが底を尽いていて使えないのでは意味がない。
序盤でもしや詰んだかとまで考えたが、一応救済機能…というべきなのかどうか定かではないが、身体を休めるだけでHPはともかくMPだけは回復出来るという点は、今のクロガネにとってはとても素晴らしいお助け機能だった。
「うっし。んじゃ、手あたり次第に試せる事は試してみるか」
もう一度『ステータス』を覗き、MPが満タンになった事を確認すると、頬を両手で軽く叩き、気合を入れて起き上がる。
一応、初めにこの『スキル』を知った時点で、どういう仕組みか容易に想像できてはいたのだが、念には念を。再度確認をすることから始める。
「まずは…この『スキル』の機能性だな」
一番初めに正確に知っておくべきこと。それは、空欄となった『スキル』の中へ新たな『スキル』を上書きした時、その『スキル』の有効期限は何処までの範囲か。というものだ。
現状の『ステータス』では、今ある『スキル』は『飛行』という文字が記入されたままの状態で表示されている。
そしてその状態をしっかりと確認した後、『バツ』を選択し『タブ』を消去を試みる。
完全に『ステータス』画面が消された事を確認すると、クロガネはもう一度『ステータス』画面を表示させる。
すると、先ほど『タブ』を閉じる前まであった『飛行』という『スキル』は、何も無い空欄に戻っていた。
「…やっぱり、一度『タブ』を消去する事で、作成された『スキル』は元の空欄へと戻るようだな」
一度、こうなることは初めの『スキル』で検証済みだった。だからこれはただの再確認といったところ。二度同じ現象の確認が取れたことで、確信を持つ。
この『スキル』は、『タブ』が開いている間は作成した『スキル』が有効となり、『バツ』による消去で無効化。使用していた『スキル』は初期化され、再度使用の際は『スキル』の作成が必要となるようだ。
尚、作成と消去を繰り返す中で、この『スキル』にはある注意点があった。
それは『スキル』の作成による、MPの消費があること。
『ステータス』画面を開いたり消したりする行為自体には、MPの消耗は無い。
ただ、空欄に『スキル』を埋め込むことで、僅かばかりのMPの減少が見受けられた。
「……『火』」
そういって、クロガネは空欄に新たな『スキル』の作成。そして、その時に使用されたMPの量に違いがあるか検証する。
そして得た結果としては、作成する『スキル』の種類によっても、MPの消費量に影響する事が判明した。
これらの消費の仕方も、後に重視されるであろうことから一度だけではなく、数度に渡っての確認を得ている。
それらによって得た答えが、『飛行』の『スキル』を作成したとき、必ずMPは20減少し、『火』という『スキル』を作成した時、MPの減少は必ずしも5という数値だった。
次にその結果を踏まえ、今度は『加速』と『炎』とどちらも新しい『スキル』を作成し、その減少を検証。
「……この様子だと、まだ使用範囲は狭いみたいだな」
すると、『加速』と作成した時のMPの減少は100と、作っただけで底を尽く結果に。加えて『炎』と作成したときのMPの減少は50と、『火』の時の10倍もの使用が求められた。
作成だけでもこの消費量。使用するには相当なMPが必要になると予想される。
「……これは後々に試すことになりそうだが…。逆も同じなのか?」
そこで、今度は逆の効果を持つ『スキル』の作成を試みる。
『飛行』の逆として『下降』を作成し、『火』の逆として『水』を、『加速』は『減速』とし、『炎』は『氷』としてそれぞれ作成する形をとってみる。
すると『下降』の消費MPは20、『水』は5、『減速』は100、『氷』は50と、逆の効果を発揮する能力もどうやら同じ消費を要するようだった。
途中、MPが足りていない状態での『減速』の作成を試みたが、空欄に『減速』と打ち込まれた瞬間に、その文字は『タブ』を閉じる事なく勝手に消失し空欄に戻る。作成の強制的な中断といったところか。それによるMPだけの減少といったペナルティらしきものは無かったものの、MP残量が規定の量を達していない場合での作成は不可能と見てとれる。
又、二文字だった『飛行』や『下降』は消費MPが20だったのに対し、一文字の『炎』や『氷』は消費MPが50と高かったりしたというところから、『スキル』の種類によるMPの減少を見た限り、あまり文字数という点に関係はないらしく、如何にその『スキル』が強力かで消費量の判断が行われていると考えられる。
ただ、本当に文字数による消費の変化は無いか、今度は少し長めの『スキル』を作成しようかと考えたのだが、それはどうもまだ不可能らしい。
この空欄に、現状で入力可能文字数は二文字なのか、口にしている途中で記入される文字が途切れてしまい、それ以上の言葉を受け付けないからだ。
「となると、今扱える規定数は二文字までが限界か」
まだ、現状として例えたのは、LVが低いからという意味が一番にある。
一定量のLVが上がれば、入力数の開放が設けられる可能性があるということ。また、今あるMP量では、三文字以上の『スキル』作成を行うには足らないという可能性。
無論、どちらもLVが上がれば必然的に分かってくるだろうから、その真意を確かめるのは、この先の事となりそうだ。
「……ふむ。取りあえず整理してみるか」
この『スキル』は、一つの表示された『タブ』の空欄に、一つの『スキル』を作成可能。
右端にある『最小化』を選択することで、作成した『スキル』の保持が可能。別の『スキル』が必要な場合は『バツ』を選択し、一度初期化することで、再度『スキル』の作成が可能となる。
作成された『スキル』による効力によって、使用とは異なるMP消費が求められ、効力の反転による使用量の変化は無し。内容によっては使用できない『スキル』が存在する。
制限文字数が存在し、可能入力数は確認したところでは二文字までが限界となる。
「だが、それでも十分に狂った能力に違いはない」
あとに必要性があるとすれば、実践の積み重ねによる扱いの慣れか。
LVが低い以上、これ以上の検証は時間の無駄ととっていいだろうしな。
「…さて、大体の能力は把握したことだし、そろそろ次の行動に移るとするか」
再びMPが完全に回復したことを確認したうえで、クロガネは降ろしていた腰をゆっくりと持ち上げると、口元に大きく引き裂いた笑みを浮かべる。
ゆっくりとした動作で歩き、しかし着実に歩を進めるその動きは、刻々とこの異世界を食らっていく。
喉を潤し、絶望なる欲望は強大に。
『面白い』を探す、底知れぬ探求心。
「っくく…さあ、始めるとしますか」
この異世界を食らい尽くすその日まで、この歩みは止めはしない。
「この素晴らしき、新たな意味無き人生を」