訓練開始
昨晩の悟の話から一晩が明け、新システムを用いた訓練の初日となった。前日に読んだ資料通り、対象となる訓練兵は装置の上に立ち、様々なコードが接続されるヘッドマウントディスプレイを被った。この装置は、足元が全方位に対応したベルトコンベアになっており、装置に乗った訓練兵が歩いた方向と逆向きに回転する。また、足元には送風機があり、空気圧の調整によって悪路などの外部環境を再現する仕組みになっている。
「へぇ、これはすごいや…」
隣の装置から悟の声が聞こえてきた。慶斗も自分が被るディスプレイに移る光景に驚いていた。見渡す限りの草原には、草木や岩が点在している。目を凝らすと、川らしき流水も見受けられた。
『各自小隊ごとに集合し、以後指揮官の命に従え。』
「以外にこれは、しんどいかもな…」
息を荒くしながら悟が慶斗の横で呟いた。反対側に蹲る葵もかなり厳しい表情をしている。開始直後、3割の戦力を削られたクローバー小隊属する旅団は、その後もじわじわと消耗戦を強いられていた。
『訓練開始』
開始の合図がヘルメット内に響いて、たった5秒後、空から火の玉が落ちてきたのだ。わけもわからないまま炎に包まれる者、避けることに必死になって隊列を乱す者。乃木の指示さえ聞く日まもなく、旅団は蜘蛛の子を散らすようにバラバラに行動を始めてしまった。慶斗達のクローバー小隊には偶然か直撃コースで火の玉は落ちて来なかったため、すぐに付近の岩陰へと身を隠した。
「おい、今のなんだよ!?」
「多分、魔法使役族じゃないかな。資料の設定的に。…どこから撃ってきたんだ?」
ミラーを取り出し、周囲を確認するが、それらしき人影は見当たらない。相手が身を隠せそうな場所もない。
『クローバー1、状況を報告せよ。』
「現在、開始地点付近に潜伏中。クローバー1、2、3共に負傷なし。」
『了解。これより全小隊は樹林帯を防御陣型で進行する。』
乃木が指示を飛ばしてくる。とりあえずその指示に従い、慶斗達は岩陰から木々の生い茂る地点へと移動を始めた。