クローバー小隊
「いやぁ、今日もお疲れちゃん。」
陽気な声で悟が話しかける。演習場の隅にあるロッカールームへと続く入り口には、服を黄色く汚した三人が立っていた。周りにも同じように黄色いや赤で服を汚した人が、三々五々と入り口に入っていく。
「今週の演習は連戦連勝。今月MVPも夢じゃないってか?」
「心臓に2発、脳に1発。悟はおそらく3回死んでる。」
歩くのを止め、慶斗は静かに死亡宣告をした。悟は、開いている左腕を上げ、ポリポリと頭を掻こうとした指がヘルメットに当たったことに気付く。そのまま腕を下げ、やれやれと言った感じで溜息をついた。
「えっと、私は2回死んでる事になるのか…」
葵も、自分の服についた汚れの位置とその数を数えた。
「二人とも、理解、できる?もしこれが本物の銃だ…」
「理解していないのは君の方だよ、クローバー1。いや、楠宮慶斗。」
突然上から降ってきた声は、先ほどの演習中の無線と同じものだった。見上げれば、いつの間にか演習を見渡す為のステージに一人のスーツ姿の男がいた。
「理解していないのは君の方だよ。」
更にもう一度、念押しするかのように、同じ言葉を投げかけてくる。慶斗は意図的に目を逸らすが、靴音を響かせながらスーツの男は距離を縮めてきた。
「私の指揮するクローバー小隊は、連戦連勝。更に言えば、私の指揮する一個旅団は演習において優秀な成績を収めている。これらの戦果は、私が指揮する故のもの。勿論、正式なルールに則った上でね。」
乃木は、未だに目を合わせない慶斗に対して言葉を続ける。
「私達が行っている演習は、ルールに沿って行われるゲームだ。それ以外の何ものでもない。君を見ていると、どうやら自分が小隊の指揮を取りたいと見える。聞こうじゃないか。楠宮慶斗の素晴らしい戦術とやらを。」