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誰も知らない物語

作者: トレクナル

読んでくれた方たちに独特なものを食べていただけたらと思います

僕は今虐められている。

 もう慣れた。小学生の頃からもう九年間ずっとだ。でも、一回も学校を休んだことはない。それは、父親がろくに働きもせずに家にいるからだ。何処にそんな金があるのか、いつも酒を飲んでいる。そして家で見つかろうものなら、まるで虫を潰すかのように殴ったり、蹴ったりしてくる。

母はいない。父は母がいるときからずっとこんな風だったので僕が小四の時に父に愛想を尽かして出ていった。僕への愛など、出ていくときに連れて行かなかったことからわかるだろう。 そしてまた、今日も今日とて虐められた。

だから僕は、死ぬために家を出ようと思う。


家を出ると決めても、行き先が無いのはつまらない。だから、幽霊に会える所、所謂心霊スポットを回ろうと思う。幽霊に殺されるなんて、なんて皮肉だろう。おもわず笑みがこぼれてしまった。おおまかな行き先が決まったので、今度は場所について調べようと思うので明日、学校のパソコンを使おうと思う。

* * *

今日も今日とて上履きはなく、スリッパである。親は学費は出してくれてはいる(どちらかはわからない)が、給食費や教科書は出してくれていないので、当然教科書、ノートも無く、上履きなんてもっての他だろう。――うちの親は世間体だけは気にしているので、学校だけは行かせて貰えているが、それ以外を用意しないのは、本末転倒だと思う。靴は自分で買った。家にあるものをたまに売って小遣い稼ぎしているので、そこそこお金はある――だから学校に行く意味等、何も無いのだが、今日は初めて学校に行く意味ができて少し嬉しい。

幸い、勉強しなくても大丈夫な頭はある(あの両親から生まれてきたのに、何故なのだろう)ので、授業中は寝ている。それでもテストで満点取れるのも、いじめの一因だろう。給食の時も、食べるものがないので勿論寝ている。そして昼休み、遂にパソコンを使える時間だ。別に授業中に使ってもいいのだが、貴重な睡眠時間を削りたくないので昼休みに使っている。

〜〜〜〜〜〜

良い所を見つけた。青木ヶ原樹海だ。自殺の名所ということで、なかなか怨念が留まっていそうだ。山梨県にあるので、曰く付きの場所を巡りながら行けば三週間位で着くだろう。

最終的な目的地も決まったし、とっとと行こう。今から家に帰れば父も寝ているだろう。そう帰ろうとしたとき、

「おい貧乏。」

出口付近によく知らない人がいた。

「俺の言うこと聞いたらもういじめやめてもいいぜ? 」

何やらにやにやしている。無視して出ようとしたが、何人かで来ていたのか、出られない。

「おい何無視してんだよ。」

(お前らと交わす言葉なんてねぇよ。)

もう生きている人間と何て喋らないと決めたので(いつ? 今)思っていても口には出さない。つまらなくなってきたので、ボーッと見ていると、

「お前通りたいのか? じゃあ俺の言うこと聞いたら通してやるよ。」

(どんだけ言うこと聞かせたいんだよ。支配欲強いな。)

あいつらの思い通りになるのは癪なので、窓際に行った。

「お前何してんだよ。」

そいつは無視されるのが耐えられないのか、はたまた俺のやっていることが理解できないからか苛立ちを隠さずに聞いてきた。

(こんなことも分からない等流石クズだな。)

窓をあけ、窓のさんに足を掛け、何も言われないうちに飛び降りる。例え三階でも、着地に気を付ければどうってこと等ない。そして俺は帰路についた。


* * *


あれから二週間が経った。家出してから、とても快適だった。何より、近くに人の気配がしない事がこんなに楽とは思わなかった。二千円位持ってきていたがまだ半分は残っている。金は飲み物代としか使っていない。食べ物は基本一週間に一回食べればもつし、何よりデパートやスーパーでの試食がいつもの食生活より遥かに良いものだったので、全く困らなかった。それに何処でも寝られるから、寝床には困らない。風呂は川に入れば大丈夫だったので全くもって不自由はない。幽霊にも会った。だがそれはトンネルにいる少女だったので流石に小さい女の子に人殺しはさせれないので諦めた。その子は小さいうちにそこに捨てられ、そのまま餓死し、死体は誰にも見つからないまま風化して消えたそうだ。遊び相手が欲しかったと呟いていたので、一緒に遊んでいたら、いつの間にか消えていた。戻ってくるかなと待っていたら、生きた人間などが来たので睨んでいたら逃げていった。その子がいつ帰ってきても良いようにトンネルを掃除して、また青木ヶ原樹海を目指し、今に至る。先程

地図を見たらあと三、四日で着きそうなので、また気合いを入れて行こうと思う。


* * *


それから三日後、青木ヶ原樹海に着いた。着くまでにまた、幽霊に会えた。今度は中年のサラリーマンだった。どうやら仕事や人間関係が嫌になって首を吊ったそうな。あまりにも酒が呑みたいと駄々をこねるので、有り金(千円)はたいて酒を買って、一緒に呑んだ。自殺の理由といい、話がとても合ったので、遂に殺してくれと言えずに、おっさんは、

「こんな旨い酒が飲めるとはな、ありがとよ。お前さんの気持ちは変わらねぇと思うが、お前さんのような良いやつに出来れば死んで欲しくはねぇよ。じゃあな。」

と、言い残し消えてしまった。分かっていたのに言わない気遣いが胸に染みて、柄にもなく泣いてしまった。そんな風に思いだしている間にも樹海に入っていく。わざと遊歩道からはずれ、深い方深い方へ進んでいく。

そして出会った。

「恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい」

俺は今、首を絞められている。

「怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい……」

(やった、やっと死ねる。やっとこのこの腐った人生から解放される。)

「恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい恨めしい怨めしい……」

その呪詛のような言葉を聞きながら俺は意識を手放した。


『あぁ、恨めしい、怨めしい……』

そこは真っ暗な場所。その中で、独りの女性が泣いている。呪詛のような言葉を言いながら泣いている。

『あぁ悲しい、あぁ寂しい。何故、何故なの? 何故私は呪わずにはいられないの? 』

泣いている泣いている泣いている。

何故悲しんでいるのかも、何故寂しんでいりのかもわからずに泣いている。

それは遠い昔のこと、ある麗しい女性がいた。麗し過ぎる女性だった。だから嫉妬された。何人もの女がその女性を対象に丑の刻参りをした。多くの女に丑の刻参りされたが為に、その女性は呪われ、死んでしまった。しかし、死んでもなお呪われたが為に、その女性の精神の他に、恨めしい、怨めしいという精神ができてしまった。


「悲しい……寂しい……」

「あぁ、悲しいな、寂しいな。辛いよ痛いよ死んでもなお呪われるなんて……」

そう、恨めしい、怨めしい、悲しい、寂しい、

「でもね、もういいんだよ。恨まなくても、怨まなくても、悲しまなくても、寂しがらなくても、俺が共にいよう。だから、殺してくれ、恨めしさも、怨めしさも、悲しさも寂しさも、辛いことは全部もらってやる。だから、最後に辛いことを、君が一番望んでいないことをしてくれ。」

俺がそう言うと、首を締める力が増した。

(あぁ死ねる。もう少しだ、もう少しで君や、あの少女やおっさんと会える。)

そうして俺は永遠に目を閉じた。


優しい男性の声、包んでくれるような女性の声、一緒に遊んだ少女の声、酒を呑み交わしたおっさんの声、泣き腫らしたような声で精一杯に言う

『ありがとう』を聞きながら………………


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― 新着の感想 ―
[良い点] 状況の悲惨さから日常を離れて幽霊と会話する非日常へ移行するという発想のよさ。 [一言] こんにちは。 出だしが良くて最後まで読みました。 最後に主人公は死んでしまうけど、もし生きていたら…
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