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クール・エール  作者: 砂押 司
第1部 水の大精霊
7/177

クラス判定試験

氏名 テレジア=リンディア

種族 人間

性別 女

年齢 18歳

魔力 9,540

契約 -

所属 冒険者ギルドCクラス ラルクス支部職員 

備考 - 


着ていたギルド職員の制服から私服 (クリーム色のローブ)に着替えたテレジアに道を挟んで正面にある宿屋の猫足亭へ案内してもらい、2階のフロントで1人部屋をとる。

荷物と鎧、小手を置いて、1階の酒場で奥のテーブルにいるテレジアと合流した。

そのとき見せてもらったテレジアの自陣片カードの内容が、これだ。

当然だが、白字ホワイトである。


俺の自陣片カードとの大きな違いは、契約欄が空欄であること、所属に記載があること、そして魔力の値だ。

自陣片カードに記された俺の魔力の値は5,208,600、約520万であり、ざっくりテレジアの500倍以上である。


「この世界に住む全ての生き物は、必ず魔力を持っています。

同様に、この世界に住む7属性の精霊にその魔力を差し出すことで、様々な現象を引き起こすのが魔法です。

精霊と契約し、直接に魔法を発動することを魔導まどう

魔法陣や魔法具と魔力を使って、契約していない精霊の魔導を使うことを霊術れいじゅつといいます。

私の場合は、精霊と契約していませんので魔導士ではありません。

霊術の方は今日お見せした通り、転移や治療と解毒系、あとは簡単な火属性の攻撃なんかを修めています。

ソーマさんの場合は、水属性の精霊と契約をされているようです。

霊術の方は、多分忘れてしまったのではないかと」


酒場の席で、料理がくるまでの間にテレジアから、自陣片カードの内容と魔法の基礎部分を説明してもらった。

なるほど、魔力を持って発動するのが魔法だが、その発動方法で魔導か霊術かが別れるわけか。

契約した精霊の力を導いて発動するのが、魔導。

陣やアイテムなどの技術的な媒介を使って発動するのが、霊術。


俺の場合は、大精霊のアイザンから力の譲渡を受けている。

経緯はどうあれ。

この部分が、水の精霊との契約にあたっているのだろう。

他の精霊と契約すれば、転移や回復の魔法も使えるようになるのだろうか、とテレジアに聞いてみると、テレジアはカティのカップを片手に首を横に振った。


「精霊は火、水、風、土、木、命、時の7種類とされていますが、契約できるのは1種類だけで、変更することはできません。

過去に複数種類の精霊と契約できた人もいませんし、精霊自身もそう言っているそうです。

ちなみに自陣片カードや転移、正確には【時空間転移テレポート】は時属性の魔法で、私が今日使った【治癒リカバー】は命属性です。

この2つの精霊と契約できる人はめったにいませんので、他の人も霊術で使っていますね。

これだけめちゃくちゃな魔力があるんですから、陣だけ覚えればすぐにソーマさんも使えるようになりますよ」


「ギルドで皆が驚いていたのは、やっぱりこの魔力の数字なのか?」


魚のソテーをフォークで刺しながら、テレジアに問う。

テレジアの自陣片カードと比べて、俺が明らかに異常だと感じられる部分は魔力の値だけだ。

テレジアがどのくらい強いのかはよくわからないが、一般人より魔力が低いということはないだろう。

少なくとも、金属の鎧を咬みちぎれるようなガブラが出てくるかもしれないミッションに、Cクラス冒険者兼ギルド職員として参加できるだけの強さは持っているはずなのだ。


そのテレジアの500倍。

おそらく、この世界の水準に合わせて、相当の異常値なのだと思われる。

逆に、エバたちが反応したのが他の部分なのだとすれば、かなりまずい。

少なくとも、俺にはそれがわからないからだ。

シンプルな答えであって欲しい。


「あたりまえですよ!」


持っていたパンを勢いよく引きちぎりながら、大きな声でテレジアが答える。

シンプルかつパワフルに答えが返ってきた。

店の中の人間が、全員こちらを見ている。

目線でテレジアにそれを伝えると、周りを見回してから顔を真っ赤にして、小さな声で補足してきた。


「……魔物と全然戦わないような一般の人でも500くらいはありますから。

霊術を多用する冒険者で5,000以上、魔法メインで戦う人なら10,000は欲しいですね。

50,000を超えれば、だいたいがAクラス以上の魔導士で、中には上位の精霊と契約できる人もいます。

王国騎士団に所属している魔導士や、宮廷魔導士として有名な人でも、30万以上は聞いたことがないですから」


「なに?

お嬢、痴話げんか?」


大柄な酒場の女主人がカティのおかわりを注ぎに来て、テレジアを冷やかす。

町のギルドマスターの娘だからお嬢、なるほどね。

さらに真っ赤な顔になったテレジアが、この人は新しく来た冒険者で……と説明しているのを眺めながら、俺は今の説明内容を反芻はんすうしていた。


一般人    500

冒険者    5,000

魔法メイン  10,000 (テレジア)

Aクラス以上 50,000 (上位精霊と契約可)

宮廷魔導士  300,000

俺      5,208,600


桁が違う。

確かに、異常値だ。

魔力だけで見れば、国家の最大戦力クラスであろう宮廷魔導士の17倍以上であり、端数の8,600だけでもテレジアといい勝負である。

まぁ、魔力だけの数字であって、総合的な強さはまた別のものさしになることも、理解はできているのだが。


話を聞いた後なら、ギルド応接室での出来事も当然だ。

目の前にいる身元不明の人間の戦力が、国家戦力をはるかに超えている……。

むしろ、あの程度のリアクションで済ませたエバの方がはるかにすごいのではないのだろうか。

自陣片カード白字ホワイトだったため戦闘にはならなかったが、仮に赤字レッドだったとしても、これならどうとでもできたかもしれない。

というか、この世界で俺の敵となり得る存在があるのだろうか?


店主を追い返して荒い息をついているテレジアが、俺の視線に気がついて座り直す。


「なんでしょう?」


「いや……、年上だとは思っていなかった」


「……はぁ?」


それも意外といえば意外だった点だが、今は確かにどうでもいいな。

店主にお嬢と呼ばれてからかわれているのを見て、思考が横に逸れただけだ。

テレジアが怒る前に、話を本筋に戻す。


「いや、すまん。

それで、実際に魔力が100万を超えるような人間は本当にいないのか?」


「……私の知る限りでは、過去を含めても3人ですね。

1人は、創世の大賢者と呼ばれるヤタ様です。

この世界できちんとした歴史書ができるのは、今から約2000年前からですが、ヤタ様はその時代から既に時属性の魔導士として名前が出てくるお方です。

ギルドで母が説明した通り、自陣片カードを作ったのもヤタ様ですし、魔法陣を使った霊術の基本概念もヤタ様が構築されたと言われています。

魔力の正確な値は記録に残っていませんが、一説には1000万以上だったと伝えられています。

2人目は、550年前にバン大陸を滅ぼした『浄火じょうか』です。

元々バン大陸は魔人ダークスが住む大陸で、他の大陸とは一切交流がなかったのですが、550年前に火の大精霊と契約した魔人ダークスの一人が、大陸の全てを焼き払ったと言われています。

その魔人ダークスは自分のことを『浄火』と名乗り、たった一人で東のエルダロン大陸へ侵攻、エルダロン大陸のほとんどを灰に変えましたが、全世界の軍と冒険者の代表による討伐隊が結成され、その鎮圧にあたりました。

『浄火』は倒されましたが、討伐隊の8割と当時エルダロン大陸に住んでいた人間のうち半数、バン大陸の魔人ダークスも合わせると、1千万人以上が犠牲になったとも言われています。

記録に残っている『浄火』の魔力が1200万です。

3人目は、現エルダロン皇国第1皇女のフリーダ様です。

魔力は650万以上。

風の大精霊レムと契約されており、大精霊を護る風竜ハイアもその指揮下にあります。

フリーダ様が契約されたのは3歳のときとされていますが、その3年後にはエルダロンが北のサリガシア大陸を征服しています。

とは言え、元々サリガシアにあった獣人ビーストの3王家もそのまま残されていますし、獣人ビーストの暮らしはむしろ豊かになっているそうですが……。

自陣片カードの登録がある中で、現在の1位がフリーダ様、2位がソーマさんです。

3位はアーネル王国宮廷魔導士のマモー様で29万ですね」


「…………」


「……」


俺は絶句していた。

長い説明を終えたテレジアも、自分が語った内容に顔をひきつらせている。

エルベーナで読んだ地理書によれば、この世界には5つの大陸が存在する。


人間が住む、東のエルダロン大陸と西のカイラン大陸。

獣人ビーストが住む、北のサリガシア大陸。

森人エルフが住む、南のネクタ大陸。

内海を囲むようにこの4大陸が存在しており、エルダロン大陸とネクタ大陸の外側、つまりさらに南東にかつて魔人ダークスが住んでいたバン大陸、通称『死の大陸』は位置している。


100万を超える魔力を持つ者の内。

1人目は霊術を作り。

2人目は大陸2つを滅ぼし。

3人目は大陸2つを実質支配している。


そして、4人目が俺。


魔力520万。

これは冗談抜きで、世界の半分を支配できる値なのだ。

















翌日の朝、約束通りギルドへ向かった。

といっても、道を挟んで真向かいにあるから徒歩数秒だ。

こうして正面から見ると、他の家や猫足亭と比べてもかなり大きくて頑丈な建物だとわかる。

日本でいえば、県庁や県警本部といった扱いなのだから、当然といえば当然なのだが。


1階の正面玄関から入ると、奥にフロントがあり、テレジアとロイ、もう1人初めて見る中年女性の職員が、揃いの制服を着て待機している。

ロイの前には魔導士風の若い女冒険者がおり、何事かを相談していた。

目があったテレジアが会釈してきたので、こちらも目礼を返しフロントへ進む。

玄関からフロントまでの間を歩く間、左側のスペースには巨大なコルクボードが3枚並べられ、無数の紙がピンで留められている。

これが依頼書であり、内容は、


『アリオンの毛皮10枚を持ってきてほしい』

『ロッキーを1体できるだけ無傷で討伐し、引き渡してほしい』

『エリオまで移動する間、護衛をしてほしい』


といったように様々なものが並んでおり、何人かの冒険者がその前で真剣に見比べている。

中には賞金首となっている赤字レッドの討伐依頼や、チョーカとの戦争への傭兵を募集するアーネルからの布告など、公的なものもあった。

報酬もピンキリだが、生活費 (主に食費)を稼ぐためにも早く慣れなければならない。

壁にはパーティーメンバー募集の張り紙もあったので、場合によっては検討が必要になるだろう。


一方、1階の右側のスペースは、冒険者が待機する場所となっている。

6人掛けのテーブルと椅子が8セット並べられており、内1つではパーティーなのであろう6人の冒険者が、地図と依頼書を囲んで話し合いを行っていたが、残りのテーブルは空席だった。

朝一番なので、スペースの割には人がいないのだろう。

左右から何人かの視線を感じたが、無視してテレジアの前に立つ。

お互いに、昨日はどうも、という定型句から今日の判定試験の説明が始まった。


「本日のクラス判定試験ですが、内容はロッキー2体の討伐になります。

ロッキーはDクラス相当の魔物で、川に生息する大型の肉食獣です。

尚、この試験には判定員として私が同行しますが、戦闘には参加しません。

帰りの転移は行いますが、装備はもちろん捕獲方法、途中の食事や補給を含むそれ以外の全ての準備は、ソーマさんの担当となります。

制限時間は、弐の鐘が鳴ってから本日の日没まで。

討伐が完了した段階で、Dクラス冒険者として認定されます。

逆に、制限時間内に討伐できなかった場合、ソーマさんがミッション続行不可能となる状態になった場合、また程度にかかわらず私が負傷した場合も不合格となります。

以上が概要ですが、何か質問はありますか?」


ロッキー。

俺のイメージはどうしてもあの映画俳優なのだが……。

水棲肉食獣というと、ワニとかか。

まぁ、彼も多分肉食だとは思うが。


冗談はさておき、内容としては悪くない。

Dクラスの魔物ということは、ガブラの1つ下のクラスである。

正直、大したことはない。

水覚アイズ】を使えばすぐに見つけられるだろうし、水棲生物というところも相性がいい。

そのまま、水中で仕留めることもできるだろう。

……よって。


「テレジアは、昼食は何がいい?」


聞かなければならないのは、それくらいだった。





弐の鐘が鳴ってからギルドを出発し、ラルクスの東門を出た。

そのまま、川沿いの街道を東へ歩いていく。


ロッキーが生息しているのは東エルベ川、エルベ湖を水源にアーネル北部を西から東へ横断する幅150メートル以上を誇る大河川であり、エルベーナを出てから俺が1週間右手に眺め続けてきた川でもある。

正確には東エルベ川に沿ってラルクス、大陸東端の港町であるラルポートが整備されているのであり、街道がその川沿いに整備されているのは必然なのだ。

ラルクスとラルポートに住む人々にとって、東エルベ川は水源であり、漁場であり、船の行き交う物流経路であり、魔物の潜む危険地帯でもある。

中でも危険性の高く、一般人では太刀打ちできないロッキーの討伐は、コンスタントに依頼が出されるのだと、歩きながらテレジアが説明してくれた。


テレジアには、出発前の質問 (テレジアの注文は猫足亭のサンドイッチだった)にもため息をつかれたが、再度ギルドを訪れた俺の姿にも呆れられたようだった。

弐の鐘が鳴るまでの間、薬などを買うついでに市場に出たのだが、そこで着替えのために墨色の普通服の上下と、黒革のブーツとベルトを買った。

墨色のマントと合わせて、今の俺は完全に黒づくめである。

魔導士っぽい、と自分では思っているのだが、テレジアのセンスではいまひとつだったらしい。


「悪役ですね」


と一言で切って捨てられた。


また、ベルトから下げたナイフと、最低限の薬と財布 (金銀銅貨を数枚ずつ入れた小さな皮袋)を入れた布のポーチの他には、サンドイッチと木製のカップが2つ入ったバスケットしか持っていない点にも絶句された。

聞けば、昨日ガブラに襲われた3人組も俺と同じミッションの途中だったらしい。

かたや馬車1台分の準備、かたや昼食を無視すれば手ぶら。

テレジアの反応も妥当なものだと言える。

なめている、と思われても仕方がない。

動きにくいし、どうせあってもなくても変わらないから胸当てと小手は置いてきた、と明かせばさすがにキレられそうだったので、それは黙っていることにした。


1時間ほど、川に沿って歩き続ける。

その間、テレジアから旅支度の基本について説教があった他、この周囲に生息する魔物の情報や、よくある依頼の中身、討伐が難しい魔物の詳細や、素材下取りの相場についてなどのレクチャーを受けた。

当然ながら、【水覚アイズ】は発動させっぱなしなのだが、今のところ、ロッキーらしきものは感知していない。


ちなみにロッキーの外見はボクサーではなく、軽自動車並みの大きさの巨大ガエルである。

カイラン大陸全域の水場に生息し、動くものであれば何でも食べる。

両生類であるため陸に上がることも可能で、アリオンなどの魔物がその餌食になることもあるという。

地球の感覚で当てはめれば、ちょっとしたUMAである。

体表は灰色で、ざらざらとした分厚い皮に覆われており、一般人の攻撃ではびくともしない。

ロックがその名の由来である。


通常の討伐の際は、まず陸に揚げるところから始めなければならないため、だいたいがウサギやニワトリを餌としての釣りを行うそうだ。

無論、釣り糸ではなくロープを使用し、釣り針も工業用のような大型のものを使う。

その後は打撃か魔法で退治する流れになるのだが、釣りあげる段階で相当の腕力が必要なため、基本的には前衛3人以上のパーティーでないと、クリアはほぼ不可能なミッションとなるらしい。

ソロでの討伐例は年に1件あるかないかです、というのがテレジアの談だった。


……つまり、それほどの難易度のミッションをエバは俺に当てがってきたわけだ。

ただそれは、あの柔和な顔があまり信用できないということの他に重要な情報を俺に与えてもくれる。

すなわち、この世界で冒険者と呼ばれる者のアベレージと、年に1件あるかないかのミッションをそれほど困難に感じていない俺の能力の異常さだ。

それを補強するための「水中で倒せばいいのでは?」という問いに対しても、テレジアはやはり首を横に振った。


「ロッキーの血には弱いですが毒がありますので、水源となる水の中での討伐は禁止されています。

……そもそも!

普通の冒険者にはそんなことは不可能です!」


なるほど、「普通の」冒険者にはそんなことは「不可能」……ね。


「それに、ロッキーの血肉を、……えーっと何かの薬草と煮込んで、上に浮いてくる油を精製したものは、即効性のある止血、消毒の薬として主に戦場で活用されています。

元々の毒は、熱を通せば無害化されるそうでして。

薬屋に持ち込めばかなりの値段で引き取ってもらえますし、ギルドの買い取り相場もかなり高い方ですね」


リアル蝦蟇がまの油か。

ギルドにも死体完品の依頼があったし、小遣い稼ぎをしてもいいかもな。


尚、冗談混じりでテレジアにエイドリアンという魔物がいるか尋ねてみたが、いると言われて吹きだしたのは完全な余談だ。

サリガシア大陸に生息するBクラスの魔物らしいので、いずれ見てみたい。


俺が川の底に潜むロッキーを感知したのは、その15分後だった。





東エルベ川の川幅の平均は約150メートル、最大で180メートルを誇り、中心部の水深は20メートルに達するが、いずれにせよ【水覚アイズ】の範囲内である。

また、左の森からガブラなどが飛びかかってくる可能性もあったため、ラルクスを出てから【水覚アイズ】は常に全開で発動していたのだが、特に疲労などは感じられなかった。

ただし、空腹感が鎌首をもたげてきていたので、さっさと終わらせることにする。


川のほぼ中心、泥の上に沈んでいるロッキーは、【水覚アイズ】によって見えている。

ラッキーなことに3体が近くに集まっているので、全ていただいてしまおう。


まず、一番大型の5メートルほどのロッキーにターゲットを絞り、周りの水の分子運動に干渉。

アリオンを閉じ込めたのと同じように氷の立方体に封じ込め、そのまま静かに持ち上げる。

中ではロッキーが激しく暴れているが、外まで厚さ1メートル以上、1片7メートルの氷の立方体からは絶対に逃げられない。


突如、80メートル先の川の水面から300トンをはるかに超える大質量が持ち上がったのを見て、悲鳴を上げるテレジア。

俺はそのまま氷塊を水平に移動させ、目の前の街道の上に静かに置く。

それがロッキー入りの氷棺だと認識して、テレジアはただ絶句していた。

氷の中で、まだ激しく体を動かしているロッキーを黙らせるため、攻撃される心配の無さそうな横側に回り込み、少しだけ氷を溶かす。

露出したロッキーの体表に、左手を触れた俺は……。


ロッキーの体を構成する、水。

その分子に直接・・干渉し、一瞬の抵抗をねじ伏せて完全に支配した。





生物の体には原則として水分が含まれており、人間なら組成の内60~70%が、両生類はさらにそれを上回る構成率が、水分である。

そして、俺の「水を司る力」はこの生物中の水分にも適用される。

対象に直接触れる。

相手の魔力抵抗を突破する。

この2つを条件に、俺は絶対的な生殺与奪の権を握ることができるのだ。


分子の運動を弱めれば、温度が下がり、氷結し凍死。

逆に強めれば、激しく振動することで温度が上がり、気化し破裂。

いずれの状態にしても、相手は生きていられない。


青殺与奪ペイルリーパー】。


それは文字通り、命を握り潰す能力ちからなのだ。





とは言え、今回は殺すのが目的ではない。

両生類は変温動物のため、体温を奪い去れば動けなくなる。

凍らせると「無傷」でなくなる可能性もあるので、とりあえず5℃くらいまで下げ、冷蔵状態にする。

手を離してとかした氷を元通り埋めれば、チョコの中に入っていそうな生体フィギュアのでき上がりである。


水中での捕獲からここまで、およそ2分。

残りの2体もちゃっちゃと片付け、テレジアの方を振り向いたのはロッキーを感知してから5分後のことだった。

















「でたらめにも程があります」


テレジアの転移でギルドの庭に帰り、ロッキーの氷漬けでロイを唖然とさせた後。

俺はDクラス冒険者の認定を受ける。


「弁当のサンドイッチ、どうしようか?」


俺が手つかずのバスケットを指差すと、テレジアはげんなりとした顔を俺に向けてきた。


氏名 ソーマ (家名なし)

種族 人間

性別 男

年齢 17歳

魔力 5,208,600

契約 水

所属 冒険者ギルドDクラス

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