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クール・エール  作者: 砂押 司
第2部 カイラン南北戦争

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ショート・エール 赤は罪より出でて、罰なる証 後編

「で、取引だったか?」


「ふふふ、旦那様が納得できるようなものを、あなた方はお持ちなのですね?」


黒い瞳が無感動に細められ、赤い瞳が楽しげに歪む。

ソーマとミレイユ、どこか似ているような気もする2人だったが、しかしその視線は対照的だった。

ただ、どちらにせよこれだけは変わらない。


虚を突いて逃げたり。

一撃を加えようとしたり。

中途半端な交渉をすれば。

……死ぬ。


「……命だけは、助けてほしい」


もはや私にできることはただ心から正直に、嘆願することだけだった。


「対価は?」


「……何を渡せば、納得してくれる?」


「何を、用意できるんだ?」


間をおかず無感情に重ねられるソーマの問いに、嘘偽りなく私たちが渡せるものを頭の中で並べる。

命以外のものは、全て。


「アジトに戻れば、今まで集めた装備や金がある。

後は、……私の、いや、私たちの……体くらいだ」


「ふふふ、妥当な評価ですわー」


自分1人では足りるわけがないと思い、後ろの25人の尊厳も天秤の皿に積みこんだ。

彼女らを率いる者として情けない限りだが、背後から批判や失望の声も気配も上がらないのはただ単にそれが事実、この2人の前において私たちの価値はその程度しかないと、本人たちもわかっているからだ。


ミレイユと呼ばれた女は赤い唇を三日月型にして、その査定判断が正しい、そう微笑む。

町の食堂でメニューを開いて、料理の名前とその横に書いてある値段を眺めながら、旨いか不味いか、そして高いか安いかを検討するような。

そんな無遠慮な赤い視線が、私たちの全身を這い回っていた。


「……とりあえず、最初の質問に答えてもらおうか?

前にも2度、リーカンからウォルへ向かう商隊が襲われてるんだが、それもお前らか?」


が、肝心の魔王の方の関心を引くことはできなかったようだ。

確かに、隣の美しい女がこの男の愛人なのだとしたら、それでも無理はないだろう。

大多数の男が、私たち26人を生涯奴隷にすることより、この女と一夜を共にすることを選択する。

それほどの美しさと妖しさ、そして危うさを、ミレイユはその身から漂わせていた。


ただ、ソーマの瞳に映っているのはそういう感情でもない。

何か……もっと無機質な、「何か」だ。


「違う、1度はスティンガーという同業者だ。

もう1度の方は、……知らない」


「……ふーん」


「本当だ、信じてくれ!」


「じゃあ、そのスティンガーって奴らのアジトは?」


無法の存在である赤字レッドにも、最低限の仁義はある。

同業者の情報を漏らさないことは、その最低限の1つだ。

もしこれが明らかになれば、ストリームはこの世界の赤字レッド全員を敵に回すことになる。

待ち受けているのは、死すらも生ぬるい地獄だろう。


「王都の南西、……南エルベ小山脈の山中の洞窟だ」


「人数は?」


だがここで答えなければ、この場所がその地獄になりかねない。

ソーマは、夕方になったら迎えに来てくれ、とあの少女に言った。

つまり、夕方まではここにいるつもりなのだ。


それだけの時間、この2人はここで何をするつもりなのか。


スティンガーの構成人員。

他に交流のある、全ての盗賊団の名前とアジト、構成員。

私たちストリームのアジトの場所。

盗品を換金するルートや、自陣片カードの確認が特に甘い集落の名前。


カラカラの舌と喉を必死に動かして、ソーマの問いに誠実に答えていく。

毛穴から噴きだす冷たい汗と一緒に、私たちの未来も流れ出しているようだった。

仮に、生きてこの場所から出られたとしてもストリームは解散して、死ぬまで逃亡生活を送るしかないだろう。

それでも、今この場で殺されるよりはずっといい。


「……知らない」


何を聞かれても私がその言葉しか出せなくなるまで、黒い瞳による尋問は続いた。





「そうか……じゃあ、もういい」


ソーマのそんな言葉と同時に無数の氷弾が現れたのは、私が何も答えられなくなってからすぐだった。

拳よりも大きく細長い木の実のような形をしたその氷塊は、ソーマの頭上の空間に100近い数が、葬列のように並んで私たちを見下ろしている。


「な……ん、で……?」


同じ水属性魔導士として理解ができない規模の魔導の顕現。

そして、それを躊躇いなく撃とうとしているその視線に、私たちの心臓は握り潰されそうになる。

恐怖と理不尽にままならない呼吸の中、気力で絞り出した疑問の声に、ソーマは不思議そうな顔をした。


「なんで、って……。

別に取引に応じると言った覚えも、助けてやると約束した覚えもないんだが?

自分の領地に来てもらう行商隊を襲った盗賊を根絶やしにするのは、当たり前のことだろうが」


「そ、そんな……」


「そんな悪人を見るような顔をされてもな……。

完全にお前らの方が、悪いと思うんだが?」


「他の、盗賊団の……情報……」


「ああ、あれは元から拷問してでも聞きだすつもりだったからな。

手間が省けて良かったよ」


ふふふ、と笑うミレイユの隣で、ソーマは淡々と答える。

そこには罪悪感は当然として、興奮や喜悦のような歪んだ感情すらもなかった。

黒い瞳には思慮の末の落ち着きと穏やかな理性の色があり、だからこそ恐ろしい。

この男は、正気なのだ。


喉が渇いたので、水を飲む。

品物を買ったので、お金を払う。


そういった、ただやるべきことをこなすという意思だけが、そこには存在していた。

その過程で非情な行動を忌避し相手に慈悲をかけるというストッパーが、この男からはごっそりと抜け落ちている。

完璧に証明され尽くした数式の結果に従うように、この男の思考と行動には躊躇いがない。

その数式において、私たちは排除するべきだ、と断じられたのだ。


ソーマの目には、もはや私たちの姿は同じ人間として映っていないのかもしれない。

事実、涙を流して許しを乞いはじめ、奴隷でもいいから生かしてほしいとわめきだした私たち26人を見て尚、魔王の瞳には何も。

憐れみどころか、苛立ちさえも浮かばない。


『氷』。


眼前の黒衣の魔導士がこう呼ばれる理由を、私たちはようやく理解できていた。


「よろしいですか、旦那様?」


「……なんだ?」


その凍てついた魔導士の前に跪いたのは、私たちのやり取りを見てずっと微笑んでいたミレイユだ。

超然としたソーマの興味を引くことができる存在も、また人の域を超えた怪物。

それでも、私たちはそのミレイユにすがらざるを得ない。

同じ女として、欠片ほどだけでも同情してくれるなら。


「お許しいただけるのならば、わたくしにやらせていただきたいですわー」


だがその赤い唇から吐き出されたのは、小さく燃え広がりだした赤い炎のような殺意だった。


「たまにはわたくしも運動しませんと、体がなまってしまいます。

それに、日々旦那様からいただいている魔力の素晴らしさをご覧いただくというのも、一興ではございませんか?」


「……」


そうだった。

あれは同じ女かもしれないが、私たちと同じ立場の人間ではない。

あの魔王の後ろに立つことを許された、おそらくは竜に匹敵する暴力の化身なのだ。

にこやかに見上げる赤い瞳と、ソーマの冷めきった黒い瞳が交錯する。


「……まぁ、いいか。

わかったミレイユ、お前の好きにしていい。

ただし、【吸魔血成ヴァンピング】は許さん。

他の魔導と【散闇思遠バッティング】は好きに使っていいぞ」


「ふふふ、……さすがは旦那様です。

でもご心配なさらずとも、このたちの血なんて飲むに値しませんわー」


なぜか嬉しそうに恥じらった様子を見せるミレイユの表情に、ソーマは不快そうに眉をしかめる。

そのままその黒い瞳は私たちを見渡して、小さく溜息をついた。


「というわけで、お前ら。

ミレイユに勝てたら見逃してやる。

……ああ、これは約束だ」


「ふふふ、せっかくのチャンスなのですから、頑張ってくださいね?」


いまだ浮かんだままだった無数の氷弾は天へと昇り、氷の壁からパキパキと広がりだしていた天井に吸収され、その一部となった。

どうでもよさそうに、死刑宣告とたいして変わらない一言を付け加えたソーマは、振り返りもせずにこの場から離れていく。


それを見送った後、笑顔のままのミレイユが振り返った。

若い男が見れば情欲をたぎらせ。

幼い子供が見れば無性に甘えたくなり。

老いた人間ですらも深い親愛を寄せるだろう、その美しい笑い顔を見た瞬間。


私たちの背筋には、極大の悪寒が走った。


皿に載せられた、料理の気持ち。

どう分解されて、どう味を付けられて、どう食いちぎられて、どう噛み砕かれて、どう飲み込まれるか。

体験したこともないはずの、そんな凄まじい破壊の予感が体を襲う。


捕食者。


ゆらりと立ちあがり抱擁するように両手を広げたミレイユが、手近にいたエンジュの顔を両手で包み込み。

涙を流して震え続けるエンジュに、優しく微笑みかけてから。


そのまま、首を、引きちぎった、のを。


私たちは、そんな単語を想い浮かべながらぼんやりと見つめていた。


「大いなる大炎たいえんの子、永久とこしえなる熱のつむたちよ、契約の下その力を示せ……」


エンジュの頭をそのまま足元に捨てた悪鬼の赤い唇が、まるで恋歌こいうたうたうかのように火の精霊への契約詠唱を終えたのを聞いて。

首から上を失った後そのまま崩れ落ちて、周りの地面を真っ赤に汚していくエンジュの血が足元を濡らすのを感じて。


ようやく、私は我に返った。


同時に、周囲の24名の仲間たちも動き出す。

杖を構え、契約詠唱を始める者。

短剣を抜き放ち、ミレイユに投げつける者。

ボウガンを構える者。


そして、逃げる者。


が、その場から後ろを向いて逃げだした4人が20メートルも走った途端に、その足元が爆発した!

5メートル近い火柱と矢弾となった地面の破片が、4人を引き裂き、空へと舞い上げる。

猛烈な熱風と赤い閃光の後、地面や粉々になった4人が、周囲に固形の雨となって降り注いだ。

……まさか、【地駆火エクスマイン】!?


「逃げるなんて、つれないですわー」


制御の難しさから高位魔導士でもあまり使わない火属性魔導を、あの一瞬で最低でも4つ展開した、そのミレイユは。

顔面に短剣が突き刺さり、心臓に矢が突き刺さり、顔の右半分と右腕、お腹を半分と左膝から下を中位魔導の乱射で吹き飛ばされた状態で微笑んでいた。

赤い雨がドチャドチャと降り注ぎ、吐きそうなほどの濃密な血臭が漂う中、半壊した美女の体に周囲から灰が集まる。


傷口を覆いながら白い肌や赤い瞳、露出過多の黒いドレスまでが復元されていく光景。

5人分の死体で地面を赤く汚し、傷一つない美しい顔で微笑むミレイユの姿は。

ここが既に地獄であることを、私たちに実感させていた。


魔人ダークス……?」


その美しい姿と、血のように赤い瞳。

素手で人の頭をちぎり取る膂力。

人外の再生能力。

そして、血への執着をにおわせる発言。


呆然としながらガイーユが漏らした悪鬼の正体が、私を含む20人にさらなる絶望を与える。

凄惨にもかかわらず、どこか幻想的で退廃的な周囲の状況に、私たちは恐慌を超えて一種の虚脱のような状態に陥っていた。


「ふふふ、構えなくていいのですか?」


吹き飛ばされる前と同じものが復元されたミレイユの右手から、細い炎が伸びる。

それは1メートルほどの剣の形となり、暗い赤から真紅、朱色から黄色、やがて白へと、徐々にその色を変えていった。


火属性高位魔導【爆剣プロード】。

刀身の色と共にどんどん熱を高めていく剣は白い斬撃となって、そのガイーユの左肩から胸へと吸い込まれて。

体内を駆け巡る爆炎は、瞬時に蒸発した傷口と、傷口より上の出口。

つまりは目、耳、鼻、口など、体内を噴き上がる炎熱で強制的に上を向かされたガイーユの顔のあなという孔から噴き上がる!

巨大な松明となったガイーユは数秒で黒い炭と白い灰に変わり、その場に崩れ落ちた。


水流撃ストリーム】!


私の盗賊団の名前の由来となっている、水属性高位魔導。

自分の生涯で最速の詠唱と最高の威力でもって放たれた、50トンに及ぶ太い水流の一撃。

恋人と仲間たちを殺された怒りを込めた私の渾身の魔導は、暗い赤に戻っていた炎の剣ごとミレイユの上半身を吹き飛ばした。

……しかし、やはり。


「ふふふ、旦那様の前で水を操ったその了見だけは、褒めてさし上げますわー」


残った下半身に集まる灰によって即座に上半身を復元し、そのままコロコロと笑う悪鬼には、全くの無意味のようだった。





しばらくして、氷の牢獄の中には私を含め3人しか立っている者はいなくなった。


いや、そのうちの1人であるソーマは、離れたところで座っているから2人だろうか。

氷で作ったイスに腰掛けた魔王は、これも氷で作られたテーブルに肘をつき、頬杖のままでこちらを眺めている。

その黒い瞳に映る感情は、ここからでは読み取ることはできなかった。


もう1人は私の眼前で息一つ切らさず、変わらない笑みを浮かべている魔人ダークスだ。

左右の手に握った2本の【爆剣プロード】による剣舞と、足元にランダムに埋め込まれた【地駆火エクスマイン】の罠によって、ストリームは私1人だけになっていた。

炭化か、爆砕。

いずれかによって死んでいった仲間たちの遺体は、その全てが原形をとどめていない。


黒と、白と、赤。

カイラン大荒野の黄色い大地を3色でまだらに染め上げたその当人は。

それでも尚、美しく。

そして赤い瞳を細めて、笑顔を浮かべている。


私と仲間たちが気力の限りに打ち込み続けた全ての攻撃は、結局その顔に傷を残すどころか、その表情を変えさせることすらできなかった。


「……殺せ」


炎の斬撃で消し炭となった杖を捨て、仲間の血肉でベットリと汚れた鉄の胸当てを外して投げ捨てる。

……もういい。


どうせ、何も……変えられない。


「……そうですね」


私たちがキャラバンを囲んだように。

ミレイユと私の周りを、炎が円となって駆け巡った。


「少しだけ、旦那様にも内緒のお話をしましょうか」


氷の天井まで達する、巨大な炎の竜巻の中には、私とミレイユだけがいる。

高熱と息苦しさに意識が遠のいていく私に、眼前の悪鬼は美しく笑いかけていた。


「わたくしはですね……、あなた方のような人たちが大嫌いなのですわー」


全身を赤く照らされたミレイユは笑顔で、そう吐き捨てる。


「恵まれた生を受けておきながら、その弱さと愚かさから自分の名前を赤く染めてしまう軽挙……。

本当に、吐き気がするほど許せません」


その笑みは徐々に、仮面のような無表情となっていく。


皮膚が焼け、髪が燃えだしているのに。

私は、寒さを感じはじめていた。


「他者を傷つけ、けがし、奪い、殺し……。

その必要がないのに、その身を罪に堕とし。

いざ罰される側になれば、みじめに命乞いをする」


死人のような、無表情。

だが。

その赤い瞳には、深い嫌悪の色が映っていた。

その赤い唇から、深い憎悪の声がこぼれていた。


「そして、すぐに諦める」


肉が焦げ、視界が赤く染まる。

もう熱さも、痛みすらも感じない。

それでも、寒かった。


「……馬鹿にしているのですか?」


笑顔も、妖艶さも、無邪気さもない。

その炎よりも血よりも赤い瞳に宿るのは、静かな熾火おきびのように積み重ねられた怒りと。

……そして無数の感情を内包して燃え上がる、激情。


ソーマの瞳に宿る凍てついた色が、「何もない」ゆえの闇なのだとすれば。

この女が常に浮かべている笑顔は、「おびただしいまでの感情」が混ざりあった結果の炎だったのだと。


私は、灰になりながら理解した。


蒸発していく意識の中で、私は川に捨ててしまった自分の自陣片カードの色。

血の色と同じ、ミレイユの瞳の色と同じ。

自分の名前の形をした、あの赤い色を。


最後に、思い出していた。

















ミレイユによる火属性中位魔導【渦炎旋トルネイム】が解除されるのを確認して、俺は【氷鎧凍装コキュートス】の中で溜息をついた。


あの女団長も周りにばらまかれていた団員たちも、巻き起こされた巨大な火炎旋風によって骨すら残さず灰になっている。

凄まじいまでの熱量は氷の天井をほぼ蒸発させ、周囲の氷の壁すらその厚みを半分以下にしてしまっていた。

熱気や酸欠から身を守るために【氷鎧凍装コキュートス】を維持したまま、氷の壁を消す。

いまだ立ちすくんでいるミレイユの長い髪が風になびき、周囲のけた空気が一掃されたのを確認してから、俺は立ちあがった。

氷鎧凍装コキュートス】を解いて、オレンジ色に染まり出した空の下で前を向いたままのミレイユのもとへ歩きだす。





今回、俺がミレイユとシズイを連れて自ら商隊の護衛に付いたのは、襲撃の実行犯を捕獲し、そのネットワークを把握するためである。

ウォルへの商隊の派遣に際しては、商人ギルドのイラには相場から見ても充分に余裕のある費用をきちんと払っているし、当然その中には護衛料も含まれている。

リーカンの冒険者ギルドから派遣された冒険者のクラスと人数は、商隊の護衛としてなんら遜色のないものだ。

にもかかわらず商隊が襲撃され、その荷物を全て奪われるという事件が2度も起きたのは、俺としても予想外のことだった。


どうやら、この世界の盗賊団は俺が思っていた以上に情報弱者らしく、俺やウォルの恐さがきちんと伝わっていないらしい。

俺のことに後から気付いたらしいあの女盗賊団にしても、同じ様子だった。

したがってこの2件、今日の未遂も合わせれば3件の襲撃事件は不幸な事故であり、別に俺にもイラにも責任はない。

実を言うと、最初は宰相のユーチカか将軍のナンキあたりの指図による国ぐるみの嫌がらせも疑っていたのだが、さすがにそれは俺の勘繰りすぎだったようだ。


が、いずれにせよこれをきっかけに「ウォルに行くのは危険」などという噂が立たれても困る。

ついでに言えば「盗賊団に好き勝手されている大精霊」も、かなり恰好悪い。

よって俺は今後、今日得られた情報を基に手当たり次第に国内の盗賊団を叩き潰していくつもりでいた。

殺し尽くせばいずれ襲撃は起きなくなるし、後から討伐の事実を公表すれば多少は市民からのイメージも良くなるだろう。


尚、このことを騎士団なりギルドなりに伝えて共同戦線を張らないのは、討伐の際に行う「盗賊団への事情聴取」を見られないためである。

今日の女盗賊団にしろ、口が裂けても言わない、と言った瞬間に口を裂いてやろうと思っていたのだが、その必要もなかった。

どうせ殺す相手なのだからそれが一番手っ取り早いはずなのに、この世界でも拷問は非合法だ。


俺に言わせれば、生贄や奴隷を黙認する世界の住人に人権について語られる筋合いはないのだが、さすがに騎士団の前で堂々とやるわけにもいかない。

今日のミレイユの闘い方にしても、あいつが指名手配犯だということを別にしても、絶対に見せられないだろう。


そのミレイユだが、……やはり強かった。


王都での中途半端な骸骨姿しか見る機会のなかったミレイユの戦闘力は、魔人ダークスの回復能力も合わさって凄まじいものになっている。

エレニアたちに比べれば体の動きはゆっくりとしたものだが、ダメージを受けるという概念がないミレイユにとってそれは弱点になっていない。

金属装備ごと人体を引きちぎる握力と腕力は、一般人が見れば精神を破壊されるであろうスプラッタな光景を一面に作り出していた。

その上で、あの魔導。


残虐兵器の代名詞でもある地雷を仕掛ける【地駆火エクスマイン】。

鉄の鎧すら融解させて貫通し、斬りつけた相手を体内から焼き殺す【爆剣プロード】。


その制御の困難さから高位魔導とされている魔法を、ミレイユは平然と使いこなしている。

最後の【渦炎旋トルネイム】にしても、半径50メートルを軽く灰にする規模だ。

あんな存在が【散闇思遠バッティング】で突然現れ、【吸魔血成ヴァンピング】でどこまでも強くなるのだから、過去にこの世界で魔人ダークスが恐れられたのは当然のことだろう。


南の空に浮かんだシズイの影をみとめて、その魔人ダークスは小さく手を振っていた。


「ご苦労だったな」


「ふふふ、お粗末さまでした」


俺が声をかけると、ミレイユは軽く頭を下げて笑みを返してきた。

なぜかその笑顔が寂しげに見えるが、夕日のせいの錯覚だろう。

戦闘前に炯々(けいけい)と輝いていた瞳には落ち着きが戻り、いつもの赤い色が浮かんでいた。


濃くなってきた夕焼けよりも赤い、血の色のような赤色だ。





同じ色に染まりつつある大地の上には俺とミレイユの、2つの黒い影だけが長く落ちていた。

この世界の魔法ですが、


契約なし→霊術(詠唱の代わりに魔法陣を描く)

精霊と契約→その属性の魔法は契約詠唱をすれば発動できる

上位精霊と契約→詠唱短縮か無詠唱が可能


となります。

いちいち描写していませんが、アリスやエレニア達もその都度契約詠唱はしていますので。

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