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- 彼女の事情 - ~好きという気持ち~

「ねぇ! 悠莉、お願い、戻って」

 悠莉の手を振りほどこうと、私は必死に抵抗する。

 そんな私を一瞥しながらも、悠莉は歩みを止めなかった。

「駄目よ…2人共『帰れ』って言ってたでしょ?」

「でも、このままじゃ藤堂君、拓ちゃんに酷い目にあわされるかもしれない。何か…拓ちゃん、怒ってるみたいだったし」

 私が心配そうに呟くと、悠莉がサラッと答えた。

「大丈夫よ、柊なら……あいつ、あぁ見えて私より強いから……拓実ちゃんと同等じゃないかな?」

「え?」

 驚いた顔で悠莉を見ると、意外と言う表情で言葉を続けた。

「柊から聞いてないの? あいつと私、拓実ちゃんの3人は通ってた道場が一緒って」

「……聞いてない。そう言えば藤堂君、自分の事何も話してくれない……」

 悲しげに呟くと、悠莉が慌てた様に言った。

「まぁ……話すタイミングが無かっただけよ。これから追々話してくれるんじゃない?」

「これからって……あるのかな?」

「亜理紗は柊との『これから』は無いと思ってるの?」

 悠莉の問いかけに私は首を振った。

「ううん…私はこれからも藤堂君と一緒に居れたら良いなっては思うけど、でも拓ちゃんが……」

 そう……拓ちゃんはどうやら藤堂君の事を気に入らないみたい……拓ちゃんが彼に何かしら言い掛かりをつけて、困らせないかと気が気じゃない。

「拓実ちゃんか……彼は亜理紗を溺愛してるからねぇ……」

 悠莉が苦笑しながら、私を見た。

「溺愛って……」

「あれは立派なシスコンだわ」

「シスコン……」

 随分な言い様に言葉が出ない私を見ながら、悠莉は楽しそうに続けた。

「そうじゃない? 亜理紗の事が心配で、私にしょっちゅう電話を掛けてきては『男はいないだろうな?』って聞いてくるのよ。私は亜理紗の監視役じゃないってぇの」

「拓ちゃん、今まで悠莉にそんな事聞いてたの?」

 初めて聞く話に驚いて訊ねる。

「そうよ、まぁそんなに頻繁ではないけど……そうねぇ、3カ月に1回位かな?」

 悠莉が考えながらそう答えた。

 拓ちゃん……止めてよ、過保護にも程があるでしょう。

「で、この前電話があった時、私が『亜理紗に気になる人が出来たよ。何かいい感じなの。私はお似合いだと思うよ』って言っちゃったのよね。だから、今日その相手を見に来たんだと思う。まさか柊だとは思わなかったでしょうね。驚いた顔してたから」

 その時の事を思い出しているんだろう。楽しそうに悠莉は話している。

 そして私の方を見ると、申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんね、まさかあんなに反対するとは思わなかったのよ。まだあの事、怒ってるなんて……」

 悠莉の言葉に首を傾げる。

「怒るって? 何、それ」

「えっ? 亜理紗、覚えてないの?」

 驚いた様な悠莉を見て、私は頷いた。

「嘘……あんたが柊を避けてたのって、あの時の事が原因だと思ってたのに」

「え? 何それ……あの時の事って?」

 訊ねる私に、悠莉は小さくため息を吐いた。

「ん…あれは私達が幼稚園生の頃だったと思うんだけど……覚えてない? 拓実ちゃんが試合で優勝して、私達道場の仲間を呼んで家でお祝いしたの。亜理紗もその時いたけど」

 悠莉の言葉に私は思い出そうと、記憶を辿った。

「え、と……何かたくさんの人がいて、戸惑った記憶はある……」

「その時、亜理紗−−−柊に泣かされたじゃない?」

「え? 私が藤堂君に?」

 そんな事あったっけ?

 それじゃ、私と藤堂君って小さい頃に会ってたんだ。

「うん、あの頃の亜理紗って超が付くほどの人見知りだったじゃない? それなのに柊に自分から話かけたから、私驚いちゃったのよ---だからよく覚えてる」

 確かに幼稚園生の頃の私は、一人っ子のせいか拓ちゃんや悠莉以外の人とはまともに話が出来なかった覚えがある。

「で、亜理紗と柊が話をし始めたと思ったら、いきなり亜理紗が泣き出したから拓実ちゃんが柊を問い詰めたんだよね。そしたらあいつ『お前の髪、変な色だな! 目もみんなと違う』って言ったんだって。その後の拓実ちゃん凄く怒ってね、あれ以来柊を家に呼ばなくなったんだよ」

「……そんな」

 そんな出来事---私覚えてない。

「悠莉、やっぱり戻って! 私、覚えてないもん。拓ちゃんが怒る理由なんてない」

 2人の所まで戻る為、悠莉の腕を振りほどこうとする私に悠莉が呟いた。

「でも……あの時以来、亜理紗---自分の外見気にしてるよね。今もそうじゃない? 少なからず柊にも責任はあると私は思ってる」

「それは……でも、最近は髪の色も地毛のままだし、目の色だって昔ほど気にはしてない」

 中学校まではこの赤褐色の髪が目立つからと、私はわざわざ黒に染めていた。瞳はカラコンを入れたいと母親に訴えたが、却下されたのでそのままだった。

「そうだね、高校に入ってからは昔に比べて、亜理紗も自分の外見気にしなくなったから良いんだけど……拓実ちゃんは柊を近づけたくなかったみたい」

「何で? 拓ちゃんには関係ないじゃない。私がいいなら構わないでしょう」

「……まぁ…そうなんだけどね」

 悠莉が曖昧な笑みを浮かべた。

「悠莉、離して! 学校に戻る」

 私がそう言っても、悠莉は私の腕を離してはくれなかった。

「今日は大人しく帰るの! 明日、柊に話を聞けばいいわよ」

「だけどっ」

「拓実ちゃんだって馬鹿じゃない。亜理紗に嫌われる様な事はしないわよ」

 そう言うと、悠莉は私をそのまま家まで送り届けた。



 翌日---

 私は藤堂君に会うべく、学校へ行くとすぐに彼の教室に向かった。

「あ、佐野君……藤堂君は?」

 佐野君を見つけると私は彼を掴まえて、藤堂君の居場所を尋ねる。

「藤堂? まだ来てないよ。何? 急ぎの用事?」

「う、ううん、そう言う訳じゃないけど。じゃ、また後で来るね」

 そう言うと、私は自分の教室へと戻った。

 お昼も藤堂君の教室へと行ったけど、やはり彼の姿は見えなかった。

「あれ? さっきまでいたんだけど……どこ行った?」

 不思議そうに佐野君は言うと、クラスの子達に尋ねたけれど、みんな首を傾げるだけだった。

「ごめんね、ありがとう。帰りにもう1度来るね。藤堂君にそう伝えて」

 がっかりしてそう言う私に、佐野君は了解したとばかりに笑顔で頷いてくれた。


 ---何で? 藤堂君、私の事避けてる?---

 教室に戻りながらそんな事を考えてると、窓の外に彼の後ろ姿が見えた。

「……っ、藤堂……く…」

 呼びかけようとした時、彼の隣に誰かいるのが見て取れた。

 あれは? 悠莉?

 思わず私は2人のいる場所まで走り出していた。



「柊……昨日は拓実ちゃんとどういった話をしたの?」

 悠莉の声が聞こえる場所まで来ると、思わず隠れて2人の会話に聞き耳を立てていた。

 何か……盗み聞きしてるみたいよね……私…

 そんな事を思いながらも、話を聞き漏らすまいと必死に会話に聞き入る。

「拓実さんに小さい頃の事を聞いた。俺……まさか、あの時の女の子が亜理紗だったなんて」

「気づいてなかったんだ」

「あぁ……拓実さんに言われて、あの頃の亜理紗と今の亜理紗が一致した」

「あの時の事がきっかけで、亜理紗は自分の外見にコンプレックスを持ったのよ」

「だから……あんなに自分に自信がないんだな……俺の所為だ…」

 藤堂君が俯く。悠莉は微かにため息を吐くと彼に話し掛けた。

「今更…そんな事言っても仕方ないわよ。それより、これからどうするの? 亜理紗と付き合っていきたいんじゃないの?」

 悠莉の言葉に彼の肩が揺れた。

「……俺に、そんな資格ないだろう? 亜理紗を傷つけたのは俺だ」

「でも、亜理紗はあんたにいて欲しいのよ。それを撥ねつけるの?」

「くっ……」

「ねぇ、柊……私は2人が一緒にいたいのなら、拓実ちゃんを説得してもいいと思ってるんだけど? あんたはどうしたいの? 亜理紗といたいの?……それとも諦める?」

「何で……悠莉、俺に協力しないんじゃなかったのか?」

「勘違いしないでよ……私は亜理紗の味方なの。あの娘があんたの傍にいたいって言うなら協力したいの。ただそれだけよ…あんたの為じゃない」

 悠莉は真っ直ぐ藤堂君を見て言葉を告いだ。

「俺は---亜理紗の傍にいたい。あいつを守りたいと思ってる」

 藤堂君の発した言葉に、悠莉がホッと息を吐いた。

「…判った、拓実ちゃんの事は任せて。あんたは亜理紗とちゃんと話しなさいよ。っていうか、ちゃんと告白しなさいよね。有耶無耶にしたら許さないから!」

「何だよ、それ。当たり前だろっ」

 悠莉の言葉に藤堂君が顔を真っ赤にしている。

 それは遠目にも判り、私はそんな彼を可愛いと思ってしまった。

「じゃ、話はこれで終わり……今日はちゃんと亜理紗を家まで送ってよ」

「判ってる」

 2人はその場所から離れて、それぞれの教室の方へと向かった。私はそんな2人を見送りながら、そこからしばらく動けなかった。




「亜理紗…いる?」

 授業が終わり教室で帰る準備をしていると、藤堂君がやってきた。

「あ、はい」

 亜子や香里が、ニヤニヤと冷やかす様に私達2人を見ていた。 

「帰るか?」

 後ろにいる2人の視線を気にしつつ、私は藤堂君に頷いた。



「あの……藤堂君」

「ん?」

 私が少し前を歩く藤堂君に話し掛けると、彼は私の方を振り返った。

「……亜理紗? どうかしたのか?」

 呼び掛けておきながら黙っている私に、彼は訝しげな視線を向ける。

「亜理紗?」

「昨日……拓ちゃんに何言われたの?」

 私は彼の顔を見ながら問いかけた。

 藤堂君は一瞬、気まずい顔をしたけどボソッと呟いた。

「拓実さんに『お前に亜理紗は任せられない』って、怒られた」

「それって……私が小さい頃、藤堂君に泣かされたから?」

「亜理紗……覚えてるのか?」

 驚いた様に彼が私を見た。

「あ…ううん、昨日、悠莉に聞いて……私は全然覚えてなくて、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ…って言うか、覚えていなくて、俺はホッとした。俺の方こそお前に変なトラウマを残して…悪かった」

「トラウマ?」

「ああ……だって、お前いつも自分に自信が無いだろう? ---自信持っていいよ、お前は可愛いし性格も良い---お前に告白してくる奴は少なくともお前の事をホントに好きだと思う」

 そう言うと、藤堂君は真っ直ぐ私を見た。

「……ホント?」

 私の問いかけに彼は頷いた。

 その真剣な様子に、私は更に問いかけた。

「藤堂君は……私の事、どう思ってるの?」

「え?」

 一瞬、言葉に詰まった後、彼は視線を外した。

 --- やっぱり、好きじゃないんだ。私の事 ---

 思わず俯いた私の頭上から、彼の声が聞こえた。

「……俺は、亜理紗の事好きだよ。最初は男の気持ちを弄ぶような奴だと思ってた…だけど、悠莉に言われて亜理紗の彼氏のフリをしてお前の事を知って行くうちに…好きになってた」

 藤堂君の告白に顔を上げると、いつもの冷静な表情の彼はいなくて頬を赤くして、こちらを見つめていた。

「だけど---悠莉から俺の言葉で亜理紗が傷ついたのを知って、俺が傍にいていいのか判らないんだ…俺は亜理紗の傍にいたいけど、拓実さんの言う様に泣かせる様な奴が亜理紗の傍にいるのはどうかと……」

「わ、私はっ……藤堂君が好きなのっ! ……その、多分初恋だと思う…だからっ、もしも嫌じゃなかったら……私の『彼』になってほしい。拓ちゃんなんて関係ないっ」

 涙が溢れてきたけど、そんな事に構ってられない。

 藤堂君に自分の思いを告げたくて、私は必至で言葉を紡いだ。

「俺で……いいのか? 亜理紗」

「藤堂君が好きなの……藤堂君以外の人は嫌…」

 ポロポロと零れる涙を拭う事もせずに、私は藤堂君に訴えた。

 その時、彼が私の頬を優しく掌で包んでくれた。

「……亜理紗」

「うっ…ひっく、お願いだから一緒にいて?」

 懇願する私の頬をゆっくりと撫でながら、藤堂君の顔が近づいて来る。

 --- え? 何? ---

 次の瞬間、私の唇に彼の唇がそっと触れた。

 それはホントに一瞬の出来事で、すぐに彼の唇は離れて行った。

「いいのか? 俺で?」

 そう問いかける彼の制服のシャツを握りしめる。

「ん…藤堂君がいいの」

「俺、拓実さんに言われて、あの時の女の子がお前だって気づいた……泣かせた事は悪かったと思ってる。ガキだったんだからそこは許して欲しい。だけど、俺はあの時---初めて会った赤毛で灰色の瞳の女の子に見とれてたんだ。すっごく可愛いその子が俺に話し掛けて来た時---嬉しすぎて舞い上がった。そしてつい、傷つける様な事を言ってしまったんだ。その後、謝りたかったのにもう2度と会う事はなかった」

「嘘……」

 意外な告白に思わず、彼を咎める様に見上げる。

「ホントだよ……思えばあれが俺の初恋だな。うん、一目ぼれだった。だからかな……高校に入って亜理紗を見た時、凄く気になった。目がお前の姿を追ってた。だけど、噂を聞いてしまってからは、自分の気持ちが判らなくなった……今は、悠莉に感謝してる」

 そう言って、私を抱き締めてくれた。

「私も、悠莉に感謝しなきゃ」

 彼の背中にそっと腕を回して、ギュッと抱き付いた。

「拓実さんには、何としても許してもらうから……それこそ土下座でもするさ」

「だったら、私も一緒に土下座する」

「いや……亜理紗がそれしたら、俺が余計怒られる。大丈夫だよ……いざとなったら決闘でもするから」

「決闘?」

 何か、物騒な事を言っている藤堂君を見上げると、笑っていた。

「そんな、心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。拓実さんは話せば判ってくれるだろうし、悠莉も説得してくれるって言ってた」

「悠莉に感謝しなきゃ……」

「そうだな。あいつが何か困った時には、助けてやらなきゃ……って言うか、あいつに助けって必要なさそうだけど」

「そんな事ないと思うよ……悠莉にだって好きな人はいるんだし、出来れば上手く行く様に私、協力しようと思う」

「へぇ、あいつにもいるんだ? 好きな奴、誰だろ?」

 面白そうに藤堂君は私の方を見た。私はそんな彼を咎める様に見つめ返す。

「駄目! 女の子の恋心をからかうのは……いくら藤堂君でも許さないから」

「大丈夫だよ、俺だってそこまで馬鹿じゃない……あいつには本当に感謝してるんだ。困ってたらちゃんと相談に乗るよ。決してからかったりなんてしない」

「うん、信じてるから」

「亜理紗、これからもずっと一緒にいような」

「はい、よろしくお願いします」

 お互いそう言うと、にっこりとほほ笑み合った。

 たぶん、まだまだいろんな事があると思うけど、藤堂君が傍にいてくれるなら安心だと私は彼の腕の中で幸せな吐息を漏らした。



 







 

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