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8/13

− 彼の事情 − 〜ままならない想い〜

 亜理紗が男と腕を組んでいるのを見た日から、俺はモヤモヤとした感情を持て余していた。

 本当は彼女に問い詰めたいけど、そんな資格は俺にはないし。

 だからここしばらく、俺は亜理紗を避けて過ごした。

 会いたいけど……もしも彼氏の事を告げられたら、俺は平静でいられるか自信がなかったから。


 そうやって、数日が経ったある日。

 掃除当番だった俺はゴミ捨てに行く途中で、佐野からカラオケに行こうと誘われた。


「カラオケ?」

「あぁ、香里が栗原も誘って行こうって言っててさ。どうだ、たまには息抜きに」

 佐野はそう言って笑っていた。

 俺が躊躇っていると、佐野がぼつりと呟いた。

「藤堂、何があったか知らないけど、栗原…最近元気がないらしいぞ。香里が言ってた。お前達---喧嘩でもしたか? お前も最近変だよな? 栗原と一緒に帰らないで1人で図書館に籠ったりして」


 佐野……気づいてたのか。


 俺はポツリと呟いた。

「俺……今は冷静に亜理紗と話出来ないと思う。だから行かない方が良いんじゃないかな」

「何があった? あんなに仲良かったのに……」


 仲が良いか……佐野達にはそんな風に見えてたんだ。


「悪い、それは言えない。たぶん、俺の気持ちの問題だと思う」

 そう……亜理紗に彼氏がいたという事実が受け入れられない−−−それだけだ。

 そして受け入れられない理由も解っている。


 ---栗原亜理紗に惚れてしまった---


 気づくのが遅いんだよな、いや……気づいていたけどその事に目を逸らしていた。恋愛なんて面倒な事に関わりたくなくて。


「でも、栗原はお前が来るって聞いて、嬉しそうだったって香里が言ってたぞ。いいのか? 仲直りするなら、今日がチャンスだぞ」


 嬉しそうだった? 亜理紗が? 佐野の言葉を信じたいけど……


「あぁっ! 鬱陶しいな、ほらさっさと掃除を終わらせようぜ!」

 逡巡する俺に痺れを切らした佐野が、俺を半ば強引に引っ張って行く。

 たぶん……いや、確実に今の俺はへたれだ。

 引きずられながら俺はそんな事を思っていた。



 掃除を終えても行くのを躊躇っていた俺を、佐野は駅近くにあるカラオケ店まで強引に連れて来た。

 佐野は店の中に入ると、フロントで2人がいる部屋を教えてもらい、その部屋へ向かう。

 番号を確認してからドアを開くと、中から大音量の音楽と、楽しそうに歌う女の声が聴こえてきた。

「おい、凄い盛り上がってるな」

「おっそーい! やっぱり2人だけだと盛り上がりにも限界があるわよ」

「悪い悪い、掃除に手間どってさ……おい藤堂、早く入れよ」

 俺の背中を押しながら、佐野は部屋の中に入る様に促す。

 中に入ると井上が腕組みして、俺を睨んだ。

「藤堂君! 遅いよ。亜理紗がお待ちかねよ。ほらっ、隣に座る!」

 そして亜理紗の隣の席を指差した。

「……あぁ」

 俺は亜理紗の顔を見ることが出来ずに、彼女から少し離れた場所へ腰を下ろした。

 亜理紗がこちらを窺う様に見ているのが雰囲気で解るが、俺は気づかない振りをした。

「あ、何飲む?」

 メニュー表を差し出しながら、亜理紗は俺に訊ねてきた。

「ん……アイスコーヒーでいい」

 目も合わせずに俺は答えた。

「判った……佐野君は?」

 亜理紗は佐野にも訊ねてから、電話で俺達の注文を伝えていた。

 注文を終えると、再び俺の隣に座った。

 先程よりも距離が近く、彼女が付けている香水の香りが俺の鼻腔を擽る。思わず身体が強張った。

 だけど、佐野や井上が心配そうに俺達を見ているのが判るから、出来るだけ普通の態度で接するように努力した。



「あっ、私、トイレ行ってくるね」

 井上がそう言って部屋から出て行くと、しばらくして佐野の携帯が鳴り、あいつも部屋を出ていった。

 すると部屋の中には俺と亜理紗の2人きりになった。

 だから俺は、この前から聞きたかった事をつい口にしていた。

「……何で言わなかった?」

「は? あ、あの何を?」

 俺の問いかけに、亜理紗はきょとんとした顔で答えた。

「っ、彼氏がいる事だよ!」

 怒った様な口調で俺が言うと、亜理紗は黙ったまま俺を見つめていた。


 何で……答えないんだよ!


「え…っと、彼氏って誰の?……でしょう?」

 しばらくの沈黙の後に、亜理紗は俺に訊ねてきた。その態度に思わずムッとした俺は口調が強くなるのが解った。

「お前以外に誰がいるよ!」

 俺の言葉に一瞬、固まってしまっていた亜理紗は我に返ると聞き返してきた。

「ち、ちょっと待ってよ! 彼氏って何の事?」

「とぼけるのか?」

「とぼけてなんかない! 何でそんな事言うの?」

「じゃ、聞くけど……この前の『これから1人で帰る。ごめん、今まで迷惑かけて』っていうのは、どういう意味だ?」

「そ……それは…」

 答えきれずに黙り込む亜理紗を見て、俺は軽く失望していた。


 ---彼氏が出来て俺にはもう用が無いから、距離を置こうとしていたのか---


 何か言いたげに俺を見ている彼女を、睨んでから俺は呟いた。

「……もう…いい…」

 亜理紗が俯いたのを見て、俺は立ち上がった。

「え? 藤堂君! 帰るの?」

 部屋を出ようといている俺に、亜理紗が驚いた様に声をかけて来たので、振り向いて一言彼女へ投げつけた。

「嘘を吐くような奴とは一緒にいたくない」

 何も言わない亜理紗に一瞥すると、俺はそのまま部屋を出た。

 佐野や井上に会う事が出来なかった俺は、佐野へ先に帰るというメールを送り、カラオケ店をあとにした。



「おい……藤堂! 昨日、俺達がいない間に何があった?」

 翌日、学校に行くと佐野が咎める様に訊ねてきた。

「別に何も……メールで用事を思い出したって入れただろ」

「確かに……だけど栗原の件は? 泣きじゃくって、理由を聞いても判らないって言うだけで、結局俺達2人で家に送ったけど」


 −−−亜理紗が泣いた? 何で?−−−


 俺は思ってもいなかった事を言われて、少し狼狽えた。

「なぁ……藤堂。ホントどうしたんだよ。俺には相談なんて出来ないか?」

 心配する佐野に曖昧な笑みを浮かべると、俺は首を振った。

「そうじゃない……俺が単に諦めが悪くて、つい彼女に当たってしまっただけだ……すまない、心配させて。もう亜理紗には近づかないから」

 俺の言葉に佐野が驚いた顔をした。

「待て! 藤堂落ち着け。お前、栗原と別れるつもりか?」

「別れるも何も……最初から付き合ってない」

「……どういう意味だよ?」

 俺は佐野に、悠莉と交わした約束を話した。

 その話を聞いた佐野は、呆れた顔をしながら俺を見た。

「……お前…頭は良いのに馬鹿か? 確かに最初は彼氏役をを演じてただろうな。でも今は本気で好きなんだろ? お前を見てたら判るよ。何でちゃんと好きって言わないんだ? 近づかないって何だ? 意味が判んねぇ」

「あいつにはもう彼氏がいるよ。楽しそうに歩いているのを見かけた」

「嘘だろ?!」

 佐野が信じられないといった顔で俺を見た。

「嘘じゃない……笑顔で男と腕を組んでたよ」

「……はぁ、栗原が? 信じらんねぇ、香里は何も言ってなかったけど」

「内緒なんじゃないか……笹井も知らないはずだ……もういいだろ。この話は終わりだ」

 そう言って、俺はまだ何か言いたげな佐野から離れて、自分の席へ座った。



「藤堂君、いる?」

 昼休み---俺の教室に悠莉がやって来た。

 教室にいた男子生徒は、才色兼備と名高い悠莉が来たことで色めきたった。

「何の用だ? 笹井……」

 俺は佐野や他の男子と話していた輪の中から出ると、悠莉のいる入り口の方まで歩いて行く。

「話しがあるの……とっても大事な」

 そう言った悠莉は笑顔を浮かべていたが、その眼は憤怒の光を湛えていた。

「…わかった」

 おそらく亜理紗の事だろう。

 悠莉は俺に背を向けると歩き出した。ついて来いという事だと思った俺は、そのまま悠莉の後をついて行く。

 たどり着いたのは屋上だった。さすがに誰もいない。

 悠莉は屋上の中ほどまで歩いて行くと、俺の方を振り向いた。

「昨日の件は……亜理紗や香里から聞いた。何で亜理紗を『泣かせた』の? 理由を聞かせて貰いましょうか?」

 その声は怒りを含んでいた。悠莉が誤魔化しが効く奴では無い事はよく知っている。

 俺は正直に答えた。

「……男がいるのに、それを隠してた。俺が聞いても白を切るから……つい」

 そう言った瞬間---腹部に衝撃が走った。一瞬何が起こったか解らなくて、思わず腹を押さえながら蹲る。

 どうやら悠莉に腹を蹴られたらしい。馬鹿野郎……お前の足蹴りは凶器だって知ってるだろうが!

「悠莉っ! 藤堂君っ!」

 その時、亜理紗が俺達の所へと駆けてきた。

 何でここに?

 蹲りながらも俺は、亜理紗や悠莉を視界の隅に捉えていた。

「……あんた、最低っ! 見損なったわ。今まで亜理紗の何を見てたのよ!」

「藤堂君っ! 大丈夫? 悠莉、幾らなんでもやり過ぎよ!」

 亜理紗が俺を抱き起しながら、悠莉へ怒った口調で言うのが聞こえた。

「亜理紗、こんな奴、放っときなさい。心配する価値もない」

 冷ややかな悠莉の声。

「悠莉っ!」

 亜理紗が悠莉を宥めようとしているのが判ったが、俺はそんな彼女の手を振りほどくと立ち上がった。

「こいつの言う通りだよ。放っとけよ……迷惑だ」

「藤堂君……」

 地面に座り込んでいる亜理紗を見下ろしながら、俺は悠莉以上の冷ややかな態度で言い放った。

 そんな俺に悠莉が怒った口調で訊ねてきた。

「柊……前言撤回する。もう私はあんたに協力しないから。勿論、亜理紗の彼氏になんて認めない。それでも、いいのよね?」

「……あぁ、もう近づかないから、安心しろ」

「藤堂君……本気なの?」

 今にも泣きそうな声で亜理紗が俺に聞いた。

 一瞬---そんな彼女を見て胸が痛んだが、俺は一言だけ告げた。

「あぁ」

 俺はそれだけ言うと、2人を見る事無く屋上を後にした。



 あの日から数日経った。

 俺は前の様に、図書館に通い始めた。

 そう……亜理紗と知り合う前の生活に戻っただけだ……そう思っていた。

 だけど、何か物足りない……そんな風に感じていた。


「おい、藤堂! 悪い……この問題の解き方教えてくれないか?」

 今日は図書館が書庫の整理で閉館だから帰ろうと思っていたら、佐野が問題集を持ってやって来た。

「何だよ?」

「ん……この問題だけど、どんなに考えても解き方が解らん」

「貸せ……あぁ、これは……」

 俺はその問題を、佐野に解る様に説明しながら解き始めた。

「サンキュ! 助かった。帰るんだろ? 途中まで一緒に行こうぜ」

 佐野は笑顔でそう言うと、俺を促した。



 校舎を出て校門の近くまで来ると、佐野が笑いながら手を振っている。

 その視線を追うと、亜理紗が門の前に立っていた。

 思わず顔を顰めてしまった俺に、彼女は気遣う様に話し掛けてきた。

「あ、あの……藤堂君、は、話があるんだけど」

「俺は話す事なんてない」


 頼む! これ以上俺の気持ちをかき乱さないでくれ。


「おい、藤堂、栗原は話を聞いて欲しくて、わざわざ待ってたんだぞ。少しくらい聞いてやれよ。栗原、俺は帰るからこいつと話しろよ」

 佐野は俺を宥める様に言うと、亜理紗と俺を残して帰って行った。


「……何なんだよ、話って」

 2人っきりが気まずくて、俺は亜理紗の顔を見ずに話を切り出した。

「あのね、この前言っていた『男』って、私本当に心当たりがないの。誰かと見間違ってないかな?」

 亜理紗がおずおずと切り出した。

 何だよ! それ!

 彼女の言葉にムッとして、ついこの前見かけた事を話した。

「お前が……これから1人で帰るって言った日、俺はお前の後を追った。その時、仲良さそうに男と腕を組んでいるお前を見かけたんだよ」

 驚いた様に彼女は俺を見た。

 そして俺を見ながら、ゆっくりと話し始めた。

「……それ、確かに私だと思う……だけど、一緒にいたのは彼氏なんかじゃないよ。あれは私の従兄弟で、半年ぶりに会ったから嬉しくてそのまま家まで一緒に帰っただけ……」


 ---は? 従兄弟? 彼氏じゃないのか?---


 亜理紗の意外な言葉に俺は戸惑った。


「……従兄弟?」

「うん、パパのお姉さんの子供で、5つ上だからお兄さんみたいな存在。私も拓ちゃんも一人っ子だから本当の兄妹みたいに仲が良いの」


 亜理紗が、あの日の事を説明し始めた。


 あの日、西平と別れて家に帰る途中だった彼女は、大学の休みを利用して帰って来た従兄弟と偶然会ったと言う。兄の様に思っている人物の出現に嬉しくて腕を組んで家まで帰った……と言うのが、彼女の言い分だった。


 俺は亜理紗の言葉を信じたかったけど、嘘じゃないかと思う気持ちも拭えなかった。

 そんな俺を見て、彼女は更に言葉を続けた。

「私自身、身に覚えのない事を言われて疑問もあったし、誤解も解きたかっただけなの。信じてくれなくてもいい。ごめんね、今まで迷惑かけて。もう話し掛けないから」

 目に涙を浮かべながら亜理紗が走り去ろうとした時、俺は彼女の腕を掴んでいた。

「本当なんだな? 今、言った事」

 俺がそう訊ねると、彼女は頷いてから顔を隠す様に俯いてしまった。


 亜理紗は嘘は言って無い。あの涙を信じよう。


 そう思った瞬間……気持ちが楽になって、俺は彼女を抱き締めていた。

「え? ち、ちょっと……藤堂君?」

 腕の中の彼女が焦っているのが判る。

「ごめん……俺、お前が彼氏出来たから、俺にはもう用がなくてあんな事言ったと思ってた……それに俺が問い詰めても彼氏はいないなんて言うから、ムカついてお前に当たった。男らしくないよな」

 亜理紗を抱き締めたまま俺はそう告げた。

 すると俺の言葉に、今迄逃げようと必死だった彼女が静かになった。

「もう、いいよ。ごめんね、嫌な思いさせて。これからは近づかないから……」


 ---は?! 今、何て?---


 亜理紗の言葉に、自分が緊張するのが判った。

「え? 近づかないって…」

「だって、『一緒にいたくない』『近づかない』って、藤堂君が言ったんだよ。そんなに迷惑だったって知らなくてごめんね」

 そう言って俺から離れようと亜理紗は必死で身体を捩っていたが、俺はそんな彼女を逃がさない様に更に強く抱き締めた。

「ごめん、それ撤回したい……謝るから…土下座してもいい。もう一度亜理紗の傍にいてもいいか? もう傷つける様な事は言わない。泣かせることもしないから」

 懇願する俺の言葉に、亜理紗は逃げようとしていたのを止めて腕の中でじっとしていた。


 許してくれるのかな?

 黙ったままの彼女の反応が怖くて、俺がただ抱き締めていると背後から男の声が聞こえてきた。

「柊! 亜理紗から離れろ! お前には亜理紗は任せられない」

 誰だ?

 俺達が声のする方を見ると、そこにいたのは長身の男だった。所謂イケメンと言われるものに属する容貌だが、表情は硬く俺達を睨んでいる。

 何で? 彼がここに? それに亜理紗って……

 

「拓ちゃん!」

 亜理紗が驚いた様に叫んだ。


 ---まさか……亜理紗の従兄弟って……---


「拓実さん……?」

 彼は俺と悠莉が通っている道場の先輩で、俺が小さい頃から目標としてきた人であると共に、もっとも苦手な男だった。


「柊……久しぶりだな。元気そうで何より……亜理紗を放してもらおうか?」

「拓実さんが、亜理紗の従兄弟なんですか?」

 俺は、にこやかに…だけど有無を言わせない態度でこちらを見る彼に訊ねた。

「あぁ、亜理紗の父親と俺の母親が姉弟でね……亜理紗とは兄妹の様に育った。だから亜理紗は大事な妹だ」

「拓ちゃん……私、藤堂君と帰るから」

 亜理紗が俺にしがみつきながら、拓実さんに懇願する。

「亜理紗、ごめんな……俺は柊と話があるから、悠莉と帰ってくれ」

 そう言って、いつの間にかそこにいた悠莉を指差した。

「でも……」

「亜理紗、悠莉と帰って……」

 俺は亜理紗を放すと、傍にやって来た悠莉に彼女を任せた。

 悠莉は俺達を気にする亜理紗を家に連れ帰る為、半ば強制的に彼女の腕を掴むとそのまま校門を2人で出て行く。

 その後姿を見送りながら俺は、拓実さんに訊ねた。

「……で、話って何ですか?」

 拓実さんは俺をじっと見ながら、口を開いた。

「お前には亜理紗は任せられない……あの子を泣かせる様な奴にはな」

「それは…今回は俺の誤解の所為で、彼女を泣かせてしまって悪かったと思ってます。だけど、これからは絶対泣かせるような事はないですから……」

「……泣かせた? お前、また・・泣かせたのか!」

 俺の言葉に拓実さんの表情が険しくなった。


 ---また? ってどういう意味だ?---


「拓実さん、またってどういう意味ですか? 俺が泣かせてしまったのは今回が初めてです」

「お前! 忘れたのか? 10年程前にお前は亜理紗を泣かせただろう! だから俺はあの日以来、お前を家に呼ばなかったんだ。またあいつを泣かせると思って」

「は? 10年前?」

 思いがけない話に俺が戸惑っていると、睨むようにこちらを見てから話を続けた。

「あれは俺が空手の試合で優勝した時だ。お祝いをするという事で、お前達道場の仲間を家に呼んだ。その時たまたま遊びに来ていた亜理紗を見て、お前が『変な髪の色だな! 目もみんなと違う』って言ったから亜理紗は泣き出して、それ以来あいつは自分の外見を気にする様になったんだ」


 ---そういえば……そんな事あったような…---


 記憶を辿ると昔はよく家に呼んでくれたはずなのに、確かにいつの頃からか拓実さんの家に呼ばれなくなった。

 そして彼の家で見たという女の子---その子は髪が綺麗な赤褐色をしていて、瞳も明るいグレーでとても綺麗で珍しく、そんな風に言った記憶がある。

「あれは……亜理紗だったんだ?」

「そうだよ。だからお前には近づけたくなかったんだ。それなのに悠莉の奴」

 腹立たしげに拓実さんは呟いた。


 最大の難関……


 その時、俺は前に悠莉が言っていた言葉を思い出した。


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