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- 彼の事情 - ~何でだよ…~

 亜理紗とは毎日一緒に帰ってはいるが、祭りの日以来何となくぎくしゃくしてる。

 怒ってる訳ではないようだけど、前より距離感がある気がする。


 −−−まぁ、俺が悪いんだけど−−−


「はあっ…」

 後ろをついて来る亜理紗がため息をついた。

 思わず俺は振り向いて彼女を見た。

「どうした? 亜理紗」

「ううんっ……何でもない」

 訊ねた俺に、亜理紗は慌てて首を振った。

「ふうーん……」


 その表情……何でもないって顔じゃないぞ。


 俺は亜理紗の辛そうな顔を見つめていたが、何も言わずにそのまま前を向き歩き出す。


 何で辛そうな顔すんだよ。俺と一緒が嫌なのか?


 彼女の表情の原因が判らない為に、俺は亜理紗にどう接していいのか悩んでいた。


「え?」

 驚いた様な亜理紗の声が聞こえたので、振り返ると悠莉が彼女の肩を掴んでいた。

「……はあっ…やっと追いついた…」

「悠莉…どうして?」

 肩を掴まれて驚いている亜理紗を見て、息を切らしていた悠莉が笑った。

「ん? 今日の亜理紗何か変だったから、気になって……生徒会ほっぽって来ちゃった」

「ほっぽってって……悠莉、だってあなた時期会長なのに…駄目じゃない」

「大丈夫よ、それに私には生徒会よりも亜理紗の方が大事」

「悠莉…」

 悠莉の言葉に亜理紗が俯いた。

「おい、悠莉…亜理紗は俺と帰るんだ。お前、邪魔!」

 俺の存在をすっかり忘れて話をしている2人に声を掛ける。

 何か、面白くない。

 悠莉はともかく、亜理紗に忘れられているのかと思うと、つい不機嫌な声になった。

 そんな俺を悠莉は気にしてない様だった。

「あ…柊、今日はもういいわよ! 私が亜理紗を送るから」

 何でもない事の様に悠莉が言う。

 おい、冗談じゃない。亜理紗との貴重な時間をお前に潰されてたまるかっ!

「はあっ?! お前、人の話を聞けっ! 俺が送るって言ってるだろうがっ」

「たまにはガールズトークしたいのっ、あんたは邪魔!」

「お前なぁ!!」

 不穏な空気が漂い始めた俺達を、亜理紗が心配そうに見ているのに気づき、今回は俺が折れる事にした。

「判ったよ……今日は帰る…だけど明日の朝は俺が、亜理紗を迎えに行くからな! いいな、悠莉」

 朝はいつも悠莉と登校しているのを知ってる俺は、その権利を主張する。

「良いわよ、そこは譲って上げるわ」

 悠莉は勝ち誇った様な笑顔で俺に頷いた。

 俺は明日の朝の迎えの権利を獲得した事で、亜理紗へ念を押す。

「亜理紗…明日の朝は俺が迎えに行くから、いいな!」

 微笑みながら亜理紗は頷いてくれたので、俺は安堵した。

「じゃ、明日な…おいっ、悠莉! お前、ちゃんと送っていけよ」

「判ってるわよ、当たり前でしょうが」

 呆れた様な悠莉の声に、俺は彼女を睨むように一瞥するとそのまま家へ帰った。



 翌日、俺はいつもより早く目覚めた。

 今日は亜理紗と一緒に登校する約束だ。

 亜理紗の家と俺の家は2駅離れている為、彼女の家まで迎えに行こうと早めに家を出た。



「おはよう!」

 迎えに来た俺を見て亜理紗は驚いた顔をしたけど、そのあとすぐにニッコリと笑った。

「おはよう、藤堂君……わざわざ来てくれなくても、駅前で待ってくれてたら良かったのに」

「俺が来たかったんだからいいんだよ。気にするな」

 そう言って、俺は亜理紗の前を歩き始めた。

 その後を亜理紗がついて来る。

 俺はこの前から気になっていた事を聞こうと、彼女の方を振り向いた。

「……亜理紗、俺と並んで歩くの嫌なのか?」

「え? 何で?」

「だって、いつも俺の後ろを歩いているだろ」

 そう、出来れば俺から離れて歩きたいのかと思うほど、視界に入らないくらい後ろを歩いて来る。

 そんな俺の言葉に、亜理紗は焦った様に言い訳を始めた。

「違うよ。藤堂君が歩くのが早いから、ついて行くのがやっとなだけで」

「ホントか?」

 俺が疑う様な視線を向けると、亜理紗は力強く頷いた。

 その真剣な表情に嘘はついてないと感じて、俺は少しホッとした。

「良かった! もしかしたら、俺と一緒にいるのが嫌で離れて歩いてるのかと思ってたから」

 嬉しくて思わず彼女の手を握りしめた。

 亜理紗が驚いて俺を見る。俺は彼女の反応が怖くて恐る恐るその表情を窺う。

「嫌か? 俺と手を繋ぐの?」

 頬を染めながら亜理紗が首を振る。

「ううんっ、前にも言ったでしょ? 安心するって……でも、ホントは迷惑かもと思って」

 その言葉に勇気を貰い、更に彼女の手を握りしめる。

「迷惑なんかじゃないよ、ただ亜理紗はみんなに見られるの……嫌なんじゃないか?」

「嫌じゃないよ、ただ恥ずかしいかな」

 更に頬を赤く染めて亜理紗は俯いた。

「判った…学校に近づいたら手を離すから」

 俺はそう言うと亜理紗の手を握りしめたまま、学校へと向かった。

 だけどその手を離したくなくて、彼女が何も言わない事を良い事に教室の前まで手を繋いでいた。

 その後、佐野にはからかわれたけど、他の男共には牽制になったと俺は満足した。



 だけどそれだけでは物足りないと思った俺は、この前から考えていた事を実行に移した。


 昼食時間……俺は悠莉を呼び出した。

 悠莉は何か感じたらしく、生徒会室へと場所を移動した。

 生徒会室の中には、会議用の机と数客の椅子が並んでいた。その中の1つに座った悠莉は俺に視線を向ける。

「……で、何の用? 柊」

「俺、亜理紗の彼氏役を降りたいんだ」

「は?」

 思ってもみなかった事を言われたのだろう、悠莉は呆気にとられた顔をして俺を見た。

 普段の俺ならそんな悠莉の顔を見て、『おお、珍しいもんが見れた』と思うだろうが、今の俺にはそんな気持ちの余裕なんてない。

「……どういう事? 亜理紗の彼氏役を降りたいなんて」

 気を取り直した悠莉は冷静な表情で、俺を問い詰める。

「だから、もう見せかけの彼氏なんて嫌なんだよ」

 顔が熱くなるのが判る。恐らく赤くなってるだろう。

 そんな俺の様子を見て、悠莉の表情が面白いものを見たと言った顔に変わる。

「柊……それじゃ、あの約束は無しでいいの?」

 完全に面白がっている悠莉に、顔を赤くしながらも憮然と答える。

「生徒会役員か?……そんなの、もうどうでもいいよ」

 亜理紗に比べれば、役員なんかくそくらえだ。

「ふーん、役員の話蹴る程、亜理紗の彼氏役・・・は嫌なんだ?」

 ニヤニヤ笑いながら、俺へ訊ねてくる。


 ---畜生! 覚えてろよ、悠莉---


 悔しいが今はこいつには逆らわない方が良い。

「ああ! そうだよっ、悪いか」

 半ば自棄になっている俺は、悠莉に喧嘩腰の口調で答える。

 そんな俺に、あいつはくすくすと笑った。 

「ふぅーん、女が苦手なあんたがねぇ。いやぁ、私でも予想が出来なかった展開だわ」

「うるせ!」

 ふて腐れた俺に、悠莉はふと真面目な顔で言った。

「柊……亜理紗は本当に純粋な良い子なんだよ。あの子を大事にする自信はあるんでしょうね? そうでなきゃ、私はあんたを認めない」

「俺だってまさか……亜理紗の事、好きになるとは思ってなかった。ただ守りたいって気持ちは最初からあったけどな」

 そんな俺の言葉に悠莉はホッと息をついた。

「ねぇ……柊、私はあんたがいい加減な奴じゃないって知ってる。だからあんたを応援してもいい。だけどね……亜理紗と付き合うには難関が待ってるよ。覚悟出来る?」

「難関? あいつの両親か?」

「いやいや……あの方たちはすっごくオープンだから、亜理紗に彼氏なんて出来た日には、赤飯炊いてお祝いするでしょうよ……両親よりも厄介な人物、その人に認めて貰わないと……」


 両親よりも厄介って……誰だ?


 考え込んだ俺に、悠莉は励ますようにさらに言葉を続けた。

「私も出来るだけ協力する……でも、本気? そうでないなら止めてよね」

「あいつが良い……絶対に泣かせないから、協力してくれ」

 俺はそう言って頭を下げた。

「ち、ちょっと! 柊」

 驚いた様に悠莉が叫ぶ。

 そうだろうな……たぶん、初めてだ。悠莉に頭下げるのは。

「わかった! 何とかあの人を説得できるようにするから……はぁ、自分が蒔いた種とはいえ…」

 諦めた様な悠莉の声に俺は少し笑った。

「じゃ、よろしく」

 俺は悠莉にそう言うと、生徒会室を後にした。


 しかし、俺が出ていった後、悠莉が『……でも柊には前科・・があるのよねぇ……亜理紗の相手が柊だと知ったら……』そう呟きながら頭を抱えてたなんて、知るよしも無かった。


 放課後

 亜理紗と一緒に帰ろうと、さっさと教室を出て彼女の教室へと向かった。

 教室に行くと、入口付近にいた西平が俺を見て亜理紗へと声を掛ける。

「亜理紗! 彼氏がお迎えよ」

 西平の声に、帰り支度をしていた亜理紗の動きが止まった。

 そして俺の方を見た。

 俺はそんな亜理紗に満面の笑みを浮かべた。


 今日、帰りに俺の気持ちを亜理紗に伝えよう。


 そんな事を思っていると、視線が合った亜理紗はフッとその視線を逸らした。


 は? 今、視線を逸らされた?


 いつもの彼女と何かが違う。


 怒ってるのか?


 俺は自分が緊張してくるのが判る。

 俯いてじっと立っている亜理紗の方へと近づく。

「亜理紗、どうかしたのか?」

 声をかけると、亜理紗の身体がピクっと震えた。

「な、何でもない……あ、あのね、藤堂君。今日は私、亜子達と約束したから……ごめん、先に帰って」

 視線を合わせないまま、亜理紗は早口で答えた。

「え?」

 初めてだった……先に帰ってもいいと言われたのは。

 いつも俺が迎えに来ると、冷やかされながらも嬉しそうにしてた。

 だけど今は……

「それから、明日から1人で帰るね。藤堂君も私なんて気にしないで。ごめんね、今まで迷惑かけて」

 その言葉に俺は本気で焦った。

「お前、何言ってるんだ?」


 何で? 俺、亜理紗を怒らせるような事、何かしたか?


 理由が判らず混乱している俺の横を通って、彼女は友人の西平の傍へと歩いて行く。

「亜子! 帰ろう」

「は? 亜理紗?……」

 亜理紗は俺の方を見ることなく、西平を引っ張る様に教室を出て行った。

 俺は混乱したまま、帰って行く亜理紗の後ろ姿をただ見つめていた。



 我に返った俺は、亜理紗の跡を追った。


 −−−何なんだよ、俺が何かしたのか? だったら理由を言えよ−−−


 苛立ちながらも亜理紗の姿を探す。


 いた!


 かなり前を歩いている彼女を見つけた。

 俺は声をかけようと慌てて近づいて行く。

 あと少しで追い付くと思った時、亜理紗の隣に背の高い男の後ろ姿が見えた。


 −−−ナンパか?


 慌てて俺が2人に近づこうとした瞬間、亜理紗がその男の腕に自ら腕を絡めるのを見てしまった。

 その横顔は嬉しそうで、男に何か話しかけている。相手の男の顔は見えなかった。


 亜理紗があんなに嬉しそうに接する奴って……


 思い付く事は1つしかない。

 男がいたって事だよな。あんなに親しそうなんだから、結構な付き合いだろう。


 男に免疫が無いように見えてたのは、ただの幻想だったんだな……いや俺の勝手な思い込みか……

 悠莉は知ってるのだろうか? 亜理紗に彼氏がいる事。

 否、知ってたら俺に亜理紗の彼氏役なんて頼まないはずだ。


 やっぱり最初の印象は合ってたって事だよな。


 そんな風に考えながらも、俺はショックを受けていて、目の前の2人が見えなくなってからも動く事が出来なかった。


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