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- 彼の事情 -

「何だって?」

 俺は目の前にいる笹井悠莉を呆れたように見た。

 今、俺達は図書館の奥にある閲覧席に向かい合って座っていた。ここは俺の指定席で隠れ処の様なものだ。

 そこに珍しく悠莉が来たと思ったら、こいつはとんでもない事を言った。

「だから、亜理紗の彼氏代理を引き受けて欲しいのよ」

「何の為に? あほらしい…栗原の彼氏になりたい奴は大勢いるだろうが」

 その言葉に悠莉は顔を顰めた。

「それが問題なのよ」

「問題?」

「告白してくる奴の中にはちょっとアブナイのもいて……いわゆるストーカー? 亜理紗は何度かそんな奴につきまとわれてる。そんな時は私が追い払うけど、今回はちょっとお手上げなのよ」

 何だ? ストーカー? 話が物騒だぞ。

 俺は悠莉の方を見た−−−いつになく真剣な顔で俺を見ている。

「こんな事…頼めるの柊くらいだもの。あんただったら亜理紗を守ってくれると思って」

 悠莉が俺を買い被るのは珍しい。思わず身構える。

「おい、悠莉……気持ち悪いんだけど? 何を企んでる?」

 すると、悠莉は肩を竦めた。

「企んでなんかない---純粋に亜理紗を守りたいだけ。彼女は私の大切な親友だもの……柊は亜理紗に興味なんてないでしょう? だからあの子に変な気は起こさないから、亜理紗の身の安全は確保できる。それにあんたは私よりも強いもの。いざとなれば亜理紗を守れる」

 俺は話を聞きながら、栗原亜理紗を思い出していた。

 初めて見た時、派手な女だと思った。苦手なタイプというのが俺の第一印象だった。

 色が白く髪の毛は赤みがかった茶色、瞳はグレーで顔だちは可愛い部類に入るだろう。

 悠莉は日本人形の様な外見だが、栗原はフランス人形と言った感じだろうか。

 対照的な2人は意外にも親友だと言う。

 俺と悠莉は通っていた空手道場が一緒だったから、小さい頃からの付き合いだ。

 こいつは外見とは違い、かなり男っぽい。空手は有段だし、口を開けば辛辣な言葉を発する。そんな奴が一番嫌いそうなのが、この栗原みたいなタイプだと思っていた。

 栗原は男にモテる。

 しかし、飽きたら捨てるとか、人の男を盗るのが好きだとかいろんな噂がある。実際がどうかなんて俺には関係ないけど。

 普通そんな奴は同性に嫌われるのが常だが、この栗原はむしろ女に好かれている---その筆頭がこの悠莉だ。

 俺は少しだけ栗原に興味が沸いた。

「で……俺にメリットは? まさか、何もないのに頼むってのは無いよな?」

 俺の言葉に悠莉が策士の笑みを浮かべる。

「生徒会へ優遇するってのは? かなり魅力的じゃない?」

 確かに……悠莉は次期会長を約束されている。生徒会へ入れば就職、進学にかなり有利だ。俺は一瞬躊躇った。

 そんな俺を見て、更にたたみかける。

「あんただったら、副会長にしてもいい。一応、秀才だし人望もあるみたいだしね。私が推せば誰も文句は言わないとは思うけど、あんただったらみんな納得するでしょう」

 副会長ね……悪くはないな。

「で?具体的には俺は何をすればいいんだ?」

 その言葉に悠莉は満面の笑みを浮かべた。



「……藤堂君」

 少し高めの、しかしハスキーな声が俺を呼ぶ。

 振り返ると栗原亜理紗がこちらを見ていた。

 その表情は強張っていた。しかし、それでもその顔は俺ですら見惚れる程、綺麗で端正な顔立ちだ。

「待たせてしまってごめんなさい……」

「いや--本を読んでいたから、別に気にしてないよ」

 俺は読んでいた本を机に置いた。

あの……悠莉があなたに話した事なんだけど……ごめんなさい、忘れて下さい。迷惑でしょう?」

 栗原は俯きながら、小さな声で呟いた。

「何で? 俺、迷惑とは思ってないけど?」

 俺の言葉に栗原は顔を上げて俺を見つめた。そのグレーの瞳は綺麗で俺はつい見返していた。

 そうか---普通の綺麗な女なら、自分を良く見せようとか気取るとかするのに、栗原にはそんな素振りが一切ないんだ。むしろ、自分に自信が無いように見える。

 何で? あんなにモテるくせに……

「栗原、男どもの告白に迷惑してるんだろう? だったら、いいよ。俺が彼氏のフリして牽制すればいいんじゃない? 別に俺、今は好きな子もいないし、ちょっと面白そうだしね」

「面白い?」

 不思議そうに栗原は首を傾げた。

「あぁ……栗原の彼氏になったって聞いたら、皆がどんな反応するのか見てみたい」

 確かにこの栗原の彼氏という立場は、男どもにとって羨ましいものだろう。その立場に地味で目立たないと思われている俺がなったと知った時の、周りの反応は興味がある。

 妬まれるのか……羨ましがられるのか……

 思わず笑みが零れた。

「でも、いいの? 中にはちょっと危ない感じの人も時々いるから、藤堂君の身に何かあったら申し訳……」

「お前! 危ない目にあったのか?」

 おい、待て! お前は人の心配してる場合か?

 栗原は淡々と説明を始めた。どうやら、慣れているらしい……慣れるなよ。俺は心の中で突っ込む。

「…前に交際を申し込まれたのを断ったら、学校帰り待ち伏せされて……でもその時は悠莉がいてくれたから無事だった」

 あぁ……悠莉な。まぁ、あいつなら大概の男は一発で伸すだろうから、心配は無いが……栗原、お前1人だったらどうするつもりだ。

 俺は、あまりの無防備さにため息が出た。駄目だ、ほっとけない……

「栗原、やっぱり俺が彼氏のフリしてやる。お前……自分がどれだけ可愛いか自覚ないだろ?」

 俺の言葉に栗原は驚いた様に、口を開けてこちらを見ている。おい、口閉じろ---アホみたいだぞ。だけど、それでも可愛いってどういうことだよ。

「……やっぱり自覚無しか…お前、何でモテてるって思ってる?」

 栗原はその質問に顔を顰めて答えた。

「モテてるんじゃないよ…私の外見が派手だから、遊んでるって思われてるだけで…」

 まぁ、中にはそんな考えで近づいて来る奴もいるとは思うが---大抵の男は栗原のこの無防備さに保護欲を掻き立てられるのではないだろうか?

 俺は諭すように言う。

「それが間違い! 栗原、お前は可愛いんだ。少しは自覚しろ」

「可愛いのは悠莉だよ…私じゃない」

 悠莉? 俺から見たら『可愛い』というよりも『男前』という言葉が奴には相応しいと思うが……

「まぁ…笹井も可愛い方だろうけど……栗原の方が可愛い」

 俺が本気でそう言うと、栗原の顔がみるみる赤くなった。

「あ、あの……」

 明らかに動揺している栗原に、俺は思わず笑ってしまった。

「……ぷ…っっ………栗原…お前、面白い…っ…」

 駄目だ、こいつ……面白すぎる!

 俺はここが図書館という事も忘れて、腹を抱えて大笑いした。

「なっ! ……酷いっ! からかったの?」

 栗原が珍しく怒った顔で、俺を睨んでいる。そんな顔も可愛いって思ってしまう。俺、ヤバいかも?

 とりあえず笑いを収めようとするが、なかなか笑いが止まらない。

「もう……いいっ! やっぱり、お断りしますっ!」

 栗原はそう言って、帰ろうとした。

「…ま、待てって……悪かった…栗原の反応があまりにも素直すぎるから、ついからかいたくなった……ごめん」

 俺は慌てて、栗原に向かって謝った。

 栗原はそんな俺の顔をじっと見つめてきた。その表情は意外なものを見たといった感じだった。

 その視線に何故か落ち着かず、俺は眼鏡を外すと目を手の平で押さえ、彼女の視線を遮った。

「あー……ホント悪かった、もうからかわないから…許せ」

 出来るだけ平静を装って、眼鏡をかけ直す。

「で……俺が彼氏代理でも良いんだよな? 大丈夫、お前に手を出したりしないから……笹井にも約束させられたしな?」

 俺の言葉に、栗原は明らかに迷っている様だった。

「藤堂くん…何で彼氏のフリすることOKしたの? 別に私の事が好きな訳じゃないでしょう? 好き好んで面倒な事、引き受けなくても……」

「ゆ……笹井からの頼みだったからな。あいつには借りがある」

 借りというより、取り引きと言った方が正しいが、そんな事をわざわざ言う必要はないだろう。

「何? 借りって。藤堂君と悠莉って仲良かったっけ?」

「仲……良いってわけでもない。悪くもないけどな---とりあえず、しばらくは俺と付き合っている事にしろよ。で、何か面倒な事になったら遠慮なく俺を呼べ」

 悠莉との関係を説明するのは面倒だ。別に言わなくても問題はないし---俺はさり気なく話題を反らした。栗原はそれ以上聞いてはこなかった。

「じゃ……帰るか。送るよ」

 俺は帰る為にバッグを手に取ると、栗原の方を見た。

 彼女は驚いた様に首を振る。

「え? いいわよ。1人で帰れる---」

「栗原、最近変な奴に付きまとわれてるんだろう? 笹井が言ってたぞ。それに付き合ってるんだから一緒に帰るのは当たり前!」

 俺は悠莉から聞いたストーカーの話をすると、栗原に納得させた。

 すると、彼女は俺に向かってニッコリとほほ笑んで、俺の後ろをついてきた---俺は不覚にもその笑顔にドキッとしてしまった。それは俺に向けて初めて見せたうれしそうな笑顔だった。



 校門の前まで来た時に、栗原が俺のジャケットを握りしめた。

 思わず彼女の方を見ると、警戒するような視線を前に向けている。視線の先を辿ると、そこには他校の制服を着た男が立っていた。見るからに自分に自信がある、自己中を全面に押し出した様ないけ好かない奴だ。

 ---こいつか、栗原にストーカーしてるって奴は---

 俺達に気づくと、そいつは俺を無視して栗原に近づく。

「亜理紗! ---遅かったね、待ちくたびれたよ。さぁ、帰ろう」

 そう言って、栗原の腕を掴もうと右手を伸ばしてきた。

 栗原は俺の後ろへ隠れた。震えているのが分かる。俺はカッとして目の前の男に怒気を含んだ声で言った。

「おい…お前、誰だよ?」

「は? 俺は亜理紗の彼氏だよ! そういうお前は誰なんだ? 俺達の邪魔しないでくれ」

 男は俺を睨みつけると、苛立たしげにいい放った。

 そんな奴の神経を逆撫でする様に、鼻で笑ってやる。

「亜理紗と付き合っているのは俺だ--- お前こそ俺達の邪魔するなよな。亜理紗はお前に付きまとわれて迷惑してるんだよ。いい加減、気づけよ。傍から見たら見っともないぜ」

 俺の言葉に男は驚いた顔をした。

「な…っ! 亜理紗、嘘だよな? 彼氏は俺だろう?」

 栗原の腕を掴もうと、俺を押し退ける。

 すると背後の栗原が、俺の制服のジャケットを握りしめたのが分かった。

「いい加減にしろよ! 嫌がってるだろう」

「亜理紗!」

「…わ、私の彼氏は藤堂君よ! 大戸君とは付き合うなんて言った覚えもない」

 俺の背中越しに栗原が、大戸とかいう奴に震える声で言った。

「だ、そうだ。分かっただろう?これ以上、恥をかきたくないならとっとと帰った方がいいぜ」

 俺は目の前の男を睨みながら、有無を言わさぬ口調で告げた。

「…くっ…」

 思った通り、奴は悔しそうに俺達の方を睨んでいる。

 そして『ちっ』と舌打ちをすると、俺に向かって暴言を吐いた。

「おい、お前もどうせすぐにこの女に飽きられて捨てられるぜ! 知ってるだろう? 飽きたらすぐに他の男に乗り換えて、今までの男には見向きもしないって……」

 こいつの言葉に、後ろにいた栗原が俺のジャケットを握りしめたのが分かる。

 俺は栗原を守る様に、目の前の野郎に余裕の笑みを浮かべながら言い放った。

「ああ……知ってる。だけど、余計なお世話だ。俺はお前らとは違う---飽きられる事なんてない−−−それに……亜理紗を逃がすつもりは毛頭ない」

 そう言うと背後にいた栗原を、自分の前に立たせると、彼女の唇にキスをした。

 栗原の身体が強張るのが分かった。俺はその身体を引き寄せたが、彼女が抵抗する気配はない。

「…くっ! ……勝手にしろっ」

 奴は悔しそうに捨て台詞を残して去って行った−−−本当はもう離れてもいいんだけど、俺は何故か離れたくなくてそのままキスを続けていた。

 栗原が頭を反らせて俺から逃げる様に、距離を開けた。

「なっ! 何でこんな事っ……」

 栗原は顔を真っ赤にして怒っている。

「ああいう奴は言っても分からないから、態度で示しただけだよ。まぁ、もう大丈夫だと思うけど……もし、また来る様なら今度はぶちのめしてやるよ」

 それは本音だった。もし今度来たら、遠慮なくぶっ飛ばす。

「だからって……キ、キスする事はないと思うけどっ!」

 栗原が真っ赤になりながら、つっかえつっかえ言うのを見て、俺は首を傾げた。

「……まさかと思うけど…栗原、初めてとか…言わないよな?」

 すると、栗原が顔だけでなく、首筋も赤くなっていった−−−マジか?

「その、まさかなんだけど? 柊---亜理紗に手は出すなって言ったわよね?」

 振り返ると、明らかに不機嫌オーラを纏った悠莉が立っていた−−−やばい、見られた。

「悠莉か…しょうがないだろう。あの男、しつこかったんだから--でも、もう大丈夫だと思うぜ」

 笑いながら言う俺を睨みながら、悠莉は説教口調で言ってきた。

「だからと言って、あんたが亜理紗にキスしてたら意味ないでしょうが。可哀想に…亜理紗、今にも泣きそうじゃない。あぁ、もう! あんたなら安心と思った私が馬鹿だった」

「あ、あの…悠莉、あんまり藤堂君責めないで。私は大丈夫だから、ちょっとビックリしただけだよ」

 今にも俺に掴みかかりそうな悠莉を、栗原は必死に宥めようとしていたが、何か思い付いたらしく俺達に尋ねてきた。

「ねぇ2人って名前呼び合うくらい仲が良いの?」

 お互い1番言われたくない言葉に、俺達2人は固まった。

 俺と悠莉は小さい頃からライバルだった。空手は勿論、勉強にしてもお互いに負けず嫌いだから必死だった。まぁ、そのお陰で今は2人共、文武両道出来てる訳だから結果的には良かったけど。−−−だが、仲が良いとは言えない。あくまでも好敵手ライバルだ。

「仲なんて良くないわよ!」

「仲良いわけないだろう!」

 首を傾げる栗原に訂正しようとしたら、悠莉も同じ考えだったらしく声が被った。

 すると、俺の方を睨みながら怒鳴る。

「とにかく、もうあんたに頼むのやめた! このままだと、亜理紗の貞操が危ない」

 おい−−−みんなが見てるのにその発言は駄目だろう。栗原が真っ赤な顔で狼狽えているのが分かる。俺は、栗原から悠莉に視線を移すと、不敵な笑みを浮かべた。

「それは無理だな……悠莉。校門前でキスしたんだぜ? 一体、何名の生徒が目撃したかな? それなのに、付き合ってないとなると、栗原の評判は更に地に落ちると思うけど……」

「うっ!」

 悔しそうに悠莉が俺を睨みつける。久しぶりにこいつを負かして気分が良い−−−優越感一杯の顔で悠莉を見た。

「と、言う事で---栗原…じゃないな、亜理紗! 帰るぞ」

 栗原に向かって笑みを浮かべると、彼女の肩を抱き寄せて歩き出す。

 戸惑っているのが分かったが、俺は半ば強引に栗原を連れて帰った。



 栗原の家まで送り届けると、栗原は俺に『ありがとう』と言って、家の中へ入ろうとした。咄嗟に俺は呼び止めた。

「亜理紗…今日はごめんな。まさか初めてとは思わなくて…もう、2度とあんな事しないから、安心してくれこれからは彼氏のフリだけをするから」

 あぁ−−−たぶん、栗原は俺の事、許さないだろう。

 俺は彼女から発せられるであろう非難の言葉を覚悟した。

「ううん、こちらこそ、今日は助かった。大戸君には本当に迷惑してたから……キスはびっくりしたけどそんなに嫌ではなかったから……気にしないで」

 意外な言葉に俺は栗原を見た。そこには俺を気遣う様にこちらを見ている彼女がいた。

 怒ってない。

 俺は安心して栗原に笑いかけた。

「じゃ…明日から、よろしく! 亜理紗」

 俺はそう言うと、栗原に見送られながら、家路についた。



 翌日、学校内は俺達の噂でもちきりだった。

 教室に行くと、仲のいいクラスメートの佐野が話しかけてきた。

「おい、藤堂−−−お前、栗原を彼氏から奪って、校門前で熱烈なラブシーンをしたらしいな?」

 −−−何だ? それ……噂って恐ろしい……俺が栗原を彼氏から奪ったって話になってるし−−−

「奪ったって…人聞きの悪い。俺はちゃんと交際を申し込んだよ。それに昨日の奴は彼氏じゃない。栗原に付きまとっていたストーカーだ」

「は? そうなのか? ……なぁんだ、真面目な藤堂も栗原の魅力に惑わされて、略奪愛で道を踏み外したかと思ったのに…」

 おい…佐野…何だ、その残念そうな顔は!

 俺は溜め息をつくと、自分の席に着いた。

 他のクラスメートは興味深々といった感じで、俺達を遠巻きに見ていた。

「佐野---お前は栗原の事はどんな奴だと思ってる?」

 俺の質問に佐野は首を傾げた。

「栗原か? 可愛いし、いつもニコニコしてて見てて何か……癒されるっていうか、良い娘じゃないか? 俺は好きだよ---あ、クラスメートとしてだからな! 安心しろ!」

 焦って言う佐野に俺は苦笑した---佐野には他のクラスに彼女がいる。

「大丈夫だよ………うん、お前はちゃんとあいつの事わかってるんだな」

「何言ってんだよ、俺よりお前だろ! だから好きになったんじゃないのか?」

 呆れたように俺を見る。まぁ、確かに傍から見たらそうなるか。

「そうだな、俺もあいつのそういう所が好きだ」

 俺は昨日の栗原を思い出した。ムキになったり、自分の事より人の事を心配したり、俺がキスした事も許してくれた---あぁ、本当に良い娘だよな。悠莉が栗原を親友と言うのも今なら分かる。守りたいと思う気持ちも。

「うゎー! 惚気るね、藤堂……でも、いい感じだ。栗原の影響かな? 上手くいくといいな」

 佐野は手で仰ぐ仕草をしながら、俺を見てニヤッと笑った。

「当たり前だ! 上手くいかないはずは無いよ」

「なぁ---今度、俺の彼女と4人でデートしようぜ。栗原と香里は仲良いはずだし」

 そうか、佐野の彼女--井上香里--は、栗原の仲の良い友達の1人だ。

「そうだな、あいつがOKなら、行ってもいいよ」

 俺の返事に気を良くした佐野は『約束だぞ』と言って、自分の席へと戻って行った。

 デートか……俺は栗原とのデートプランをいつの間にか考えていた。

 その時はまだ栗原の事は、今までの印象とは180度変わって良い娘だなという印象を持っただけで、恋愛感情など全く無くむしろ悠莉の交換条件の為に付き合っていると俺は思っていた。


   


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