- 彼女の事情 -
不定期で気長に書いて行こうと思います。
一応、『彼女』と『彼』の両方の視点を載せていく予定です。
念のためのR15とさせていただきます。
私、栗原亜理紗は父が日本人、母が日本とイギリスのハーフで私自身はクォーター。その為外見は母譲りの赤褐色の髪にグレーの瞳。
その派手な外見の為、遊んで見られる様で、やたらと男の人から告白されます。
だけどこう見えて結婚するまでは清廉潔白でと、中身はかなり古風な考えを持っています。だから好きな人と付き合っても、キスすらなかなか許さない私に、彼らは面倒くさそうに距離を置いて自然消滅……
もう、諦めました(泣)---本当に私を大切に思ってくれる人が現れるのは……どうせ、この外見しか見てないのよね。どの人も……なので、最近は告白されても全て断ってます。もう、傷つきたくもないしね。
せっかくの高校生活も、悲しい独り身ですよ。私には一生、相思相愛の相手など現れないかもしれない。今のうちにおひとり様生活慣れておかなきゃだめかしら?
そんな事を考えている私に、ある日幼馴染で親友の笹井悠莉が、とんでもない事を言い出した。
「ねぇ、亜理紗。あんた、彼氏作らない?」
「へっ?」
意外な悠莉の言葉に私は思わず、彼女の顔を凝視した。
悠莉は私と対照的な長い黒髪と、大きな黒い瞳の美少女。頭も良く学年で常に上位にいる才色兼備。ついでに空手も有段者−−−神様、不公平です。
「どうしたの? 悠莉の言葉とは思えないんですが?」
そう、悠莉はいつも私に言い寄ってくる男を蹴散らしているのだ。そんな彼女の言葉とは到底思えない。何があったんだ。
「ん? いやぁ、亜理紗に彼氏が出来れば、頻繁に男も寄ってこないだろうし、私もあんたの身辺警護しなくていいし?」
身辺警護って……確かに悠莉には感謝している。告白してくる男の中には変な奴も少なからずいて、そんな奴は悠莉が撃退してくれている。
だけど、彼氏なんて早々出来るものではない……
まして、私は今はまだ彼氏なんて欲しいとも思ってない。
そんな私の胸中を知ってか、悠莉が笑いながらある提案をした。
「……だから、本当の彼氏でなくていいんだって。お飾りでもいれば『虫よけ』にはなるでしょ?」
『虫よけ』って……そんな、相手に失礼だと思うけど。
顔をしかめる私を面白そうに見ながら、悠莉は更に続ける。
「最適な奴がいるのよ、『虫よけ』にうってつけが」
誰だ? そんな失礼な事を言われてしまっている気の毒な男は……
私は違う意味で興味が出てきた。そんな私へ悠莉はニヤッと笑うと、声を潜めて相手の名を告げた。
「……無理だよ…っていうか、嫌だ!」
その名前を聞いて私は目いっぱい拒否した。
「なんでぇ、打ってつけだよ。人畜無害っぽいし」
悠莉は私の態度に不満顔だけど。
「何でって……だって、彼……怖いよ」
私は言いにくそうに悠莉に告げた。
「怖い? そう? どっちかて言うと、ボーっとしてて何考えているか解らないって感じだけど」
悠莉はそう言っているが、私には怖いと思う理由があった。
だって……彼---藤堂 柊---の私を見る目は……軽蔑……それが何故かは解らないけど……
自分を見つめていた彼の目を思い出す。それは眼鏡をかけていてもはっきりと解る程に蔑んだような目つきだった。
あの視線を思い出し、私は身体が震えるのを感じた。
そんな私に気づかない悠莉は、自分の考えを語りだした。
「要するに、藤堂と付き合っている事にすれば、亜理紗に告白してくる男どもは減ると思うんだよね。一応藤堂って地味で目立たないけど秀才だし、顔もそこそこじゃない? 男子には一目置かれてるようだし−−−文句言う奴いないでしょ。それになによりあいつは、女に興味なさそうだし? 亜理紗の身は安全って……どう、この考え」
藤堂君の意見は完全無視の悠莉の考えに、私は呆れていた。
自分の考えに満足している悠莉は、そんな私の態度に全く気付いていない。
「あのさ…悠莉。藤堂君の意思無視してない?」
私は悠莉の考えの甘さを指摘する。
「は? 藤堂だって、亜理紗と形だけでも付き合えるなら喜ぶんじゃない? 男子の羨望の的だよ」
「いや、いや、悠莉、馬鹿な事言わない。もうこの話はおしまい。いいわね」
私はそう言うと、話を打ち切った。
だが私は忘れていた−−−悠莉が自分の考えを簡単には覆さない性格という事を。
その事に気付いたのは、藤堂君から了承の返事を貰ったと悠莉から聞かされた時だった。
「………今、何て言った?」
「だからぁ、藤堂に話を持ちかけたら『俺は別に構わないけど』って! 良かったねぇ、これで少しは男どもも静かになるよ」
私は悠莉の言葉に唖然とした。
−−−藤堂君が了承した? 何で? 私の事、絶対嫌いだよね?
何も言わない私に悠莉は更に言葉を続ける。
「で…今日の放課後、図書館で待ってるって−−−藤堂が言ってたよ」
「悠莉、無理無理! やっぱり駄目だよ−−−彼に失礼だって」
尚も抵抗すると呆れたように、悠莉は小さく溜め息をつく。
「そこんとこは大丈夫! ちゃんと事情は話したから」
「『虫よけ』って言ったの?!」
「まさかぁ…いくら私でもそこまで失礼発言しないよ。ただ、亜理紗が困ってるから助けて欲しい−−−って言っただけ」
悠莉は懇願するような表情を作って、その時の事を話す。
私はその光景を想像し眩暈がしてきた。
……まずいよー絶対、藤堂君、私に対して印象悪くしてるって……
またあの目つきで見られたら、今度こそ私は確実に泣く!
ホントに怖いんだよー藤堂君---うぅーっ、会いたくないよぉ
「悠莉……放課後、一緒に図書館行ってくれるよね?!」
悠莉の手を握りしめ懇願する。目には涙が滲んできた。
「亜理紗ぁ、藤堂は『1人で来てほしい』って……だから、私は一緒に行けない、ごめんね」
その言葉に私は一瞬で固まった。
私はどうすればいいの?
藤堂君との対面を考えると、私は憂鬱になっていた。
放課後---
1人で図書館に向かいながら、私はどうやって藤堂君に謝って、悠莉の言った言葉を撤回しようかと考えていた。
(ごめんなさい。悠莉が勝手に藤堂君にお願いしたみたいだけど、私は大丈夫だから彼女の言った事は忘れて下さい)
うん……これでいいかな? 怒らないでくれたらいいんだけど……
図書館の中に入り、彼がいると言っていた一番奥の閲覧コーナーの席へ向かう。
---いた!---
彼は奥の机に向かって本を読んでいた。その横顔は整っており、同時に冷たい印象を与える。
「……藤堂君」
小さな声で彼の名前を呼ぶと、彼はゆっくりと私の方へ振り向いた。
その表情からは何を考えているのかは解らない。
「待たせてしまってごめんなさい……」
彼は読んでいた本を置いた。
「いや--本を読んでいたから、別に気にしてないよ」
「あの……悠莉があなたに話した事なんだけど……ごめんなさい、忘れて下さい。迷惑でしょう?」
私は彼の視線を避けるように俯いた。
「何で? 俺、迷惑とは思ってないけど?」
その意外な言葉に私は思わず顔を上げ、彼の顔を見つめる。
藤堂君の顔には私が気にしていた蔑んだ表情はなく、優しげな微笑みが浮かんでいた。
その表情に私は不覚にも見とれてしまった。
「栗原、男どもの告白に迷惑してるんだろう? だったら、いいよ。俺が彼氏のフリして牽制すればいいんじゃない? 別に俺、今は好きな子もいないし、ちょっと面白そうだしね」
「面白い?」
「あぁ……栗原の彼氏になったって聞いたら、皆がどんな反応するのか見てみたい」
楽しそうに藤堂君は私を見ている。
「でも、いいの? 中にはちょっと危ない感じの人も時々いるから、藤堂君の身に何かあったら申し訳……」
「お前! 危ない目にあったのか?」
藤堂君は私の言葉を遮って尋ねた。
「…前に交際を申し込まれたのを断ったら、学校帰り待ち伏せされて……でもその時は悠莉がいてくれたから無事だった」
私の話に藤堂君はハァーッと息を吐いた。
「栗原、やっぱり俺が彼氏のフリしてやる。お前……自分がどれだけ可愛いか自覚ないだろ?」
はいっ? …今、何ておっしゃいました?
藤堂君の口から信じられない言葉が出てきた為、私はあんぐりと口を開けて彼を凝視してしまった。
そんな私を呆れたように藤堂君は見ている。
「……やっぱり自覚無しか…お前、何でモテてるって思ってる?」
「モテてるんじゃないよ…私の外見が派手だから、遊んでるって思われてるだけで…」
「それが間違い! 栗原、お前は可愛いんだ。少しは自覚しろ」
「可愛いのは悠莉だよ…私じゃない」
私の言葉に藤堂君は顔をしかめた。
「まぁ…笹井も可愛い方だろうけど……栗原の方が可愛い」
あまりにもキッパリと断言され、私の顔はみるみる赤くなった。
「あ、あの……」
「……ぷ…っっ………栗原…お前、面白い…っ…」
そう言うと藤堂君は肩を震わせ---次の瞬間、お腹を抱えて大笑いした。
「なっ! ……酷いっ! からかったの?」
怒っている私を見て、藤堂君は笑いを抑えようとするがなかなか止まらない。
「もう……いいっ! やっぱり、お断りしますっ!」
私は笑いが止まらない彼を無視して帰ろうとした。
「…ま、待てって……悪かった…栗原の反応があまりにも素直すぎるから、ついからかいたくなった……ごめん」
まだ笑いの残った表情のまま、藤堂君は謝った。
私はそんな彼を見上げて、その顔をじっと見つめた−−−いつもクールな表情の彼が、こんなに笑うなんて意外だった。
そんな私の視線を避ける様に、彼は眼鏡を外すと涙が滲んでいたのか、目を手の平で押さえた。
「あー……ホント悪かった、もうからかわないから…許せ」
そして眼鏡をかけ直すと、いつもの冷静沈着な彼に戻っていた。
「で…俺が彼氏代理でも良いんだよな? 大丈夫、お前に手を出したりしないから…笹井にも約束させられたしな?」
私はどうしようか迷った。断るなら今しかない。だけど、藤堂君なら安全だろう…私の事が好きではないから。
「藤堂くん…何で彼氏のフリすることOKしたの? 別に私の事が好きな訳じゃないでしょう? 好き好んで面倒な事、引き受けなくても……」
「ゆ……笹井からの頼みだったからな。あいつには借りがある」
借り? …藤堂君が? …意外な話に彼を見た。
「何? 借りって。藤堂君と悠莉って仲良かったっけ?」
「仲……良いってわけでもない。悪くもないけどな---とりあえず、しばらくは俺と付き合っている事にしろよ。で、何か面倒な事になったら遠慮なく俺を呼べ」
そう言って、藤堂君は話を終わらせた。
私は断るはずで来たのに、何故か付き合っている事になってしまった。
まぁ、本当はその方が助かると言えば助かる。
実は1人、厄介な人がいるのだ。
その人は大戸君と言って他校の生徒なのだけど、私が何度も断っているのにもかかわらず、定期的に私の周りに現れては彼氏の様な顔で接してくる。顔は確かに良いのだが、性格が自己中心的で私の気持ちは完全に無視。もう、生理的に受け付けない。
最近また、待ち伏せされている。悠莉が撃退してくれるけど、それも気休めにしかならない。
「じゃ……帰るか。送るよ」
藤堂君は帰る支度をすると、私の方を見た。
「え? いいわよ。1人で帰れる---」
「栗原、最近変な奴に付きまとわれてるんだろう? 笹井が言ってたぞ。それに付き合ってるんだから一緒に帰るのは当たり前!」
悠莉、藤堂君に話したんだ---だから、了解してくれたのかな?
私は少し嬉しくなった。
さっきまで怖いと思っていたのに、意外にも話しやすいし、何故か悠莉と一緒にいる様な感じで、とても安心できる。多分、彼が私に対して自然に接してくれてるからかもしれない。
私は藤堂君にニッコリと笑いかけると、帰る為に歩き出した彼の後ろからついて行った。
藤堂君の後をついて行きながら校門の前まで来ると、そこに例の大戸君が待ち構えていた。
「亜理紗! ---遅かったね、待ちくたびれたよ。さぁ、帰ろう」
そう言って、私の腕を掴もうと右手を伸ばしてきた。
私は咄嗟に藤堂君の後ろに隠れる。
「おい…お前、誰だよ?」
藤堂君は私を庇うように、大戸君の前に立ちはだかる。
「は? 俺は亜理紗の彼氏だよ! そういうお前は誰なんだ? 俺達の邪魔しないでくれ」
大戸君は苛立ちの混じった声で言う。
そんな彼の言葉を藤堂君は鼻で笑った。
「亜理紗と付き合っているのは俺だ--- お前こそ俺達の邪魔するなよな。亜理紗はお前に付きまとわれて迷惑してるんだよ。いい加減、気づけよ。傍から見たら見っともないぜ」
「な…っ! 亜理紗、嘘だよな? 彼氏は俺だろう?」
大戸君は藤堂君を押しのけて私の腕を掴もうとした。
いや! 怖い!
思わず藤堂君の制服のジャケットを握りしめる。
「いい加減にしろよ! 嫌がってるだろう」
「亜理紗!」
「…わ、私の彼氏は藤堂君よ! 大戸君とは付き合うなんて言った覚えもない」
藤堂君の背中越しに、震える声で私は大戸君へ言った。
「だ、そうだ。分かっただろう? これ以上、恥をかきたくないならとっとと帰った方がいいぜ」
背中越しに聞こえる藤堂君の声は低く怒っているみたいだった。
「…くっ…」
そんな彼の迫力に圧された様に、大戸君は言葉を失った。
そして背中越しに見ていた私を睨むと『ちっ』と舌打ちをして、藤堂君に向かって言葉を投げつける。
「おい、お前もどうせすぐにこの女に飽きられて捨てられるぜ! 知ってるだろう? 飽きたらすぐに他の男に乗り換えて、今までの男には見向きもしないって……」
酷い---私はそんな事、1度もしたことない。振られた男の人たちが腹いせに有る事無い事、好きに言い触らしているだけ。
私は藤堂君のジャケットをギュッと握りしめる。悔しさで目の前が滲んできた。
「ああ……知ってる。だけど、余計なお世話だ。俺はお前らとは違う---飽きられる事なんてない」
藤堂君は余裕の態度で、大戸君を黙らせた。
「それに……亜理紗を逃がすつもりは毛頭ない」
そう言って背中に隠れていた私を自分の前に立たせると、大戸君へ見せつけるように私にキスをした。
な、何?
突然の出来事に何が起こってるのか、私の頭は理解できずに彼のするがままになっていた。
藤堂君の唇は私の唇を優しく覆い、私を守るように自分の身体に引き寄せた。
「…くっ! ……勝手にしろっ」
私の背後で大戸君が捨て台詞を残して、去って行くのが分かった。それでも藤堂君は私を離してはくれない。
だんだん頭がはっきりしてきた私は、顔を反らして彼の唇から逃れるとその腕からも距離を置いた。
「なっ! 何でこんな事っ……」
顔を真っ赤にしている私とは対照的に、藤堂君は冷静に私を見つめている。
「ああいう奴は言っても分からないから、態度で示しただけだよ。まぁ、もう大丈夫だと思うけど……もし、また来る様なら今度はぶちのめしてやるよ」
何やら冷静な口調の割に、言ってる事は物騒な気がしますけど。
「だからって……キ、キスする事はないと思うけどっ!」
私が真っ赤になりながら、つっかえつっかえ言うのを見て藤堂君は首を傾げた。
「……まさかと思うけど…栗原、初めてとか…言わないよな?」
彼の言葉に私は言葉を失い、全身が赤くなるのが分かる。
「その、まさかなんだけど? 柊---亜理紗に手は出すなって言ったわよね?」
背後から怒りを含んだ声が聞こえた---この声は悠莉。
「悠莉か…しょうがないだろう。あの男、しつこかったんだから--でも、もう大丈夫だと思うぜ」
「だからと言って、あんたが亜理紗にキスしてたら意味ないでしょうが。可哀想に…亜理紗、今にも泣きそうじゃない。あぁ、もう! あんたなら安心と思った私が馬鹿だった」
「あ、あの…悠莉、あんまり藤堂君責めないで。私は大丈夫だから、ちょっとビックリしただけだよ」
今にも藤堂君に食って掛かりそうな悠莉を宥めながら、私はふとある事に気づいた。
「ねぇ、2人って名前呼び合うくらい仲が良いの?」
私の言葉に今度は2人が固まった。
あれ? 何かまずいこと聞いた? ……私。
「仲なんて良くないわよ!」
「仲良いわけないだろう!」
2人がハモった。
「とにかく、もうあんたに頼むのやめた! このままだと、亜理紗の貞操が危ない」
ゆ、悠莉、そんな事大きな声で言わないでよぉ。恥ずかしいんだけど……
怒り心頭の悠莉と、真っ赤になっておろおろしている私を一瞥して、藤堂君は何故か不敵な笑みを浮かべた。
「それは無理だな……悠莉。校門前でキスしたんだぜ? 一体、何名の生徒が目撃したかな? それなのに、付き合ってないとなると、栗原の評判は更に地に落ちると思うけど……」
「うっ!」
悔しそうに悠莉が藤堂君を睨んでいる。彼は優越感一杯の顔で悠莉を見ている。
「と、言う事で---栗原…じゃないな、亜理紗! 帰るぞ」
呆然と2人のやりとりを見ていた私に、笑みを浮かべると藤堂君は私の肩を抱き寄せて歩き出す。
「え? …ち、ちょっと、藤堂君! 待って、悠莉…」
私は悠莉の方を振り返ったけど、悠莉は何故か諦めの表情でこちらを見ている。
何で? え? 私の意思はどこへ?
半分引きずられるように、私は藤堂君と一緒に帰る羽目になった。
翌日、学校では私と藤堂君の話で持ちきりだった。
「あーりーさっ! 良かったねー彼氏出来て! それもっ、あの藤堂君でしょ? いやぁ、めでたい---私達、応援するからね」
教室に行くと、悠莉以下、亜子と香里が嬉しそうに近づいてきた。悠莉は仏頂面だったけど…
「あの……」
どう言っていいのか分からず、言葉が続かない私をそっちのけで、2人は盛り上がっている。
「藤堂君って地味だけど頭良いし、運動神経もいいじゃない?それに落ち着いているから、何か大人な感じよね? お子ちゃまな亜理紗を優しくリードしてくれそうじゃない?」
「どこがっ!」
亜子の言葉に悠莉が物凄い勢いで反論する。その気迫に2人は息を呑む。
「ゆ、悠莉、どうしたのよ? 亜理紗に彼氏出来たんだよ? 喜んであげようよ」
香里が宥めるように言う。悠莉は鼻息荒く私に向かって言い放った。
「亜理紗、柊は止めとこう。私が悪かった。奴を甘く見てた」
「悠莉?」
2人は悠莉の剣幕に首を傾げる。
私は悠莉を落ち着かせるように、ゆっくりと話し掛ける。
「大丈夫だよ! 悠莉。藤堂君は優しいよ。あの後も私をきちんと家に送ってくれたし……それに、謝ってくれた」
家に着いてお礼を言って、玄関を開けようとした時、藤堂君が呼びかけた。
「亜理紗…今日はごめんな。まさか初めてとは思わなくて…もう、2度とあんな事しないから、安心してくれ---これからは彼氏のフリだけをするから」
思わず振り向くと、藤堂君は下を向いて項垂れていた。かなり落ち込んでいるみたいだった。
「ううん、こちらこそ、今日は助かった。大戸君には本当に迷惑してたから……キスはびっくりしたけどそんなに嫌ではなかったから……気にしないで」
私の言葉に藤堂君は顔を上げると、じっとこちらを見た後にっこりと笑った。
不覚にもその笑顔に思わずドキッとした。
「じゃ…明日から、よろしく! 亜理紗」
そう言うと彼は帰って行った。
「それじゃ何? 亜理紗はそのままで良いって思ってるの?」
悠莉は一言一言確かめる様に言う。
私は一瞬考えて、悠莉を見た。
「最初は藤堂君、怖かった…でも、話しているうちに優しいなって思ったの。それに話しやすかった、悠莉と話しているみたいだったし」
最後の言葉は気に入らなかったらしく、顔を顰めている。
「だから、しばらくはお願いしようかなと思って」
私の言葉を聞き終わると、悠莉はため息をついた。
「わかった。元はと言えば私が始めたことだもんね。でも…柊に何かされたらすぐに私に言うのよ、いいわね」
念を押すように言われ、私はとりあえず頷いた。
その日から、私と藤堂君は全校生徒公認のカップル? になった。