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現在、俺の目の前には、海鼠腸緋音と五十嵐五十鈴の二人が火花を散らしている。
この二人、妙に闘争意識が強く、毎日のように喧嘩をしている。
「今日は何の用ですの?」
「あんたを屈服させるために決闘を申し込みに来たのよ!」
緋音が、ダンッ!と机に果し状を叩きつけた。
果し状って…いつの時代だよ。
それよりも、決闘って何だよ。
「詳しい内容はその果し状に書いてあるわ!直樹!あんた立会人しなさい!」
「はぁ?何で俺なんだよ。ていうか、立会人なんて必要ないだろ?」
「今回は公平公正を貫くために立会人を必要とするのよ。それに、審査員も兼ねてるしね。立会人兼審査員よ!」
「なんでそんな面倒なことを…」
「やるわよねぇ?」
「やるわけないだろ。誰か別の人に…」
「や・る・わ・よ・ね・ぇ・?」
「……はい」
緋音には頭が上がらない。
色々あってな…。
「でも、なんで審査員や立会人が必要なんだ?」
「それは秘密。放課後、教室に残っといてね」
「は、はぁ…」
何をやらかすつもりだ?
警察沙汰にはしたくないぜ?
* *
「じゃじゃーん!第一回、どっちが美味しく作れるかな?料理対決〜!」
「ふふふ、私が勝って、あなたの目障りなその鼻を折ってさしあげましょう!」
お、おーい。何でそんなに乗り気なんだい?
僕には意味が分からないよ。
「何でお料理会に立会人が必要なんだよ。審査員は分かるとして」
「お料理会?そんな甘っちょろいもんじゃないわよ!ここから血沸き肉踊る壮絶な戦いが始まるんだから!」
「それ、喜んでるじゃねーか!ねぇ、五十鈴さんはおかしいと思わないの!?」
「いい機会ですの!この醜い女狐に完勝して、酒池肉林の地位を築いてやりますわ!」
「度胸だけは認めてあげるけど、その生意気な態度が裏目に出ないように気をつけないとね!」
「……直樹君、始めてくださるかしら?」
ふ、震えていらっしゃる…
癇に障ったか?
まぁ、触らぬ神に祟りなしだ。
スルーしよう。
「じゃあ、スタートで」
「……ちょっと」
「何だよ」
「そんな適当なスタートが存在するとでも思ってるわけ?ちゃんと真面目に言いなさいよ!」
「こんな学校の一角で羞恥心と戦ってたまるか!」
「いいから言え!バカヤロウが!」
「ヨーイドン!」
はぁ…
なんでこんなに疲れてんだ?
俺は巻き込まれただけなのにな…
あ、でも味見はできるよな。
吉と出るか凶と出るか…
この二人の腕次第だな。
ここは審査員っぽく、聞きに回ってみるか。
「えー、緋音さん。何を作ろうとしているんですか?」
「っさい!喋んな!気が散る!」
「あ、はい。すいません…」
集中するとキャラ変わるんだな。
一応、五十鈴さんにも聞いておくか。
「じゃぁ五十鈴さん。あなたは何を?」
「私は庶民的なステーキを。どうせあなたがたべるのでしょう?それならば庶民的なものがよろしいかとおもいまして」
…くそう、大分落ち着いているが、こいつ、Sだ。
俺、何かしたか?
「あ!ステーキとか、私とかぶるじゃん!」
「これは失礼しましたわ。ではあなたはサイコロステーキにしたらどうです?中まで火が通ってないといけませんから」
「いい!これで勝負する!」
「では、集中しましょうか」
…これから20分間、俺は突っ立っていた。
椅子が無かったから。
「よし!完成!」
「私もできましたわ」
「な、長かった…」
疲れた…
太陽はとっくの前に傾いている。
「じゃぁ直樹、食べ比べてみろ。あ、誰がどれを作ったかは言わないから」
「面倒臭いなぁ。じゃ、こっちから」
はむ…
外は焦げてて、中は生焼け。
こいつは多分、緋音だな?
五十鈴さんの注意を聞かなかったのか?
結論としては、不味い。
次は五十鈴さんのやつか…
正直不安だな…
ぱく…
…………美味い。
一口齧った途端、中から溢れんばかりの肉汁が。
一流料理店並の美味さだ。
「さぁ、どうだった?」
「……正直、天と地の差だ」
「そんなに差がひらいたの?」
「あぁ。じゃぁ、発表する。勝者は……こっちだ!」
俺は迷わず後者を選んだ。
ふふ、残念だったな緋音。これでお前の時代はもう…
「やった!私の勝ちだ!やった!」
「まさか、この私が…」
しくったぁぁぁ!
やっちまった!
もう戻れない…
終わった…
「よし、直樹。今日は気分がいいから一緒に帰ってあげる」
「何だよ、薮から棒に」
「何よ、嬉しくないの?」
「嬉しくない」
「し、正直すぎよ!」
「だってお前、毎回俺を振り回してばっかじゃん!」
「いいから!ついてきなさいよ」
「えー、面倒くさい」
「いいから」
「はいはい、分かりましたよ」
もう学習しましたよ。
「じゃ、帰りましょう?」
あーあ、疲れた。
「あれ?五十鈴さんは?」
「負けた方は片付けって果し状に書いといたの。正解だったわ」
「……」
恐ろしいよ。
「帰ったら何しようかな?」
「……」
謝れ、俺に。