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絆のトレーニングノート After Six:走り出す未来  作者: たまに何かを書く人
第2章 きらめきの絆、夏を越えて

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20/21

第九節 つながる想い、広がる未来

夏休みも、残りわずかとなったある日。

午前中の部活動を終えた部員たちは、次々と校門を後にしていた。

合宿後も続いているチーム・トレノのトレーニング。

今日も部活後にメニューをこなし、それぞれの午後を過ごすことになっていた。

「じゃあ、また明日ね!」

「うん、おつかれー!」

ハル、ユキ、リン、まひろと一緒に、さちは部活後の帰り道を歩いていた。

4人は同じ方向にある自転車置き場へと向かい、それぞれの自転車にまたがる。

合宿のあと、泳ぐことの楽しさが、自分のなかで少しずつ形になってきていた。

風を受けながらペダルをこいでいると、それだけで自然と笑みがこぼれた。

家に帰ると、母の真由美は仕事で不在だった。

制服を脱いでシャワーを浴び、濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に入る。

着替えを終え、ベッドに腰を下ろすと、カーテン越しの夏の光が床に淡く広がっていた。

……泳ぐの、楽しいな」

ぽつりとこぼれた言葉。

気づけば、何かに導かれるように立ち上がっていた。

なんか、体が泳ぎたがってる……

タオルを洗濯かごに放り込み、ロッカーから水泳バッグを取り出す。

水着、キャップ、ゴーグル。忘れ物なし。

中身を確認し、水泳バッグを肩にかけて家を出た。

向かったのは──かつて通っていたスイミングスクール。

自然と、足がその道を選んでいた。

卒業式を終えた数日後、スイミングスクールでは、さち・ハル・ユキの3人に向けて、小

さな送別会が開かれていた。

いつも元気なコーチが、あのとき言ってくれた言葉を、さちは忘れていない。

「お前たち、卒業おめでとう! でもな、卒業しても、いつでも来いよ! 待ってるから

な!」

その言葉は、ずっと胸の中に残っていた。

スクールの扉を開けると、空気の匂いは変わっていなかった。

プールでは、コーチが強化選手コースの小学生たちに指導している最中だった。

壁には、ハルとユキが全国大会に出場したときの集合写真が貼られていた。

その中に、さちの姿もあった。

「おお、さちじゃないか!」

プールから上がったコーチが、明るい声で声をかけてきた。

「久しぶりだな。元気にしてたか? 中学校でもがんばってるって聞いたぞ」

「コーチ、お久しぶりです! 活躍ってほどじゃないですけど、がんばってます!」

少し照れながら笑うと、さちは尋ねた。

「泳ぎたくなって来ちゃいました。隅で少しだけ泳いでもいいですか?」

コーチは笑ってうなずいた。

「いいぞ! ……でもせっかくだから、今日は手伝ってくれないか? 強化コースの子たち

に教えてやってくれ。指導するのも、きっといい経験になるぞ」

「えっ、私が……?」

一瞬ためらったが、コーチの「一緒にやるから大丈夫だ」のひとことで背中を押され、さち

はうなずいた。

「わかりました。がんばってみます!」

着替えてプールサイドに戻ると、小学生たちが整列していた。

コーチが紹介する。

「今日はすばらしい先生が来てくれたぞ。ここの卒業生で、今は中学校の水泳部で活躍して

いる、さち先生だ!」

「せ、先生なんて……」

思わず照れ笑いがこぼれる。

でも、目の前の子たちは、まっすぐな目で「よろしくお願いします!」と声をそろえてくれ

た。

一緒に泳ぎながら、フォームや呼吸のタイミングを伝えていく。

最初はぎこちなかったが、コーチと並んで教えていくうちに、自然と声が出るようになっ

ていた。

やがて、休憩時間。

プールサイドのベンチに座っていると、一人の女の子がそっと近づいてきた。

「さち先生……あの、わたし……」

俯きがちに、ぽつぽつと口を開く。

「泳ぎがぎこちないって言われて……タイムも全然縮まらないし……泳ぐとき、いつも緊張

しちゃって……」

さちはその子の目線に合わせてしゃがみ、穏やかに微笑んだ。

「最近まで、私も同じだったよ。緊張して、うまく泳げなくて……」

合宿の夜、西園寺先生にかけられた言葉を思い出す。

「楽しく泳いでればね、自然と体が動くようになるよ。泳ぐって、本当はすごく楽しいこと

なんだよ」

その言葉に、少女ははにかみながら

……はいっ!」

と元気に答え、またプールへ戻っていった。

その様子を見ていたコーチが、そっと近づいてくる。

……さち、お前、本当に成長したな。技術を教えるよりも難しいことがある。それは、気

持ちの部分に寄り添うことだ。あの子、きっと変わるよ。ありがとうな」

……いえ、私のほうこそ、勉強になりました」

少し照れくさそうに、でもまっすぐ胸を張って答える。

練習の終わる頃、あの子の泳ぎは確かに変わっていた。

少しだけ力が抜けていて、前よりもしなやかだった。

「うまくなってるよ! 今のすごく良かった!」

声をかけると、少女は嬉しそうに笑った。

練習が終わり、タオルで髪を拭きながらさちは言った。

「泳ぐこと以外にも、大切なことがあるって、今日気づけました。ありがとうございまし

た!」

帰り際、コーチが手を振る。

「また来いよ! いつでも待ってるからな。今度はハルとユキも一緒にな!」

「はい、また来ます!」

夕陽がオレンジ色に街を染めていく。

その光に照らされながら、さちは自分の成長をほんの少しだけ感じていた。

もうすぐ、2学期が始まる。

今年の夏は、本当に、いい夏だったな──

心のなかでそうつぶやきながら、さちはゆっくりと家路についた。


挿絵(By みてみん)

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