表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてます。 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/19

物好きな若き英雄  1

 王宮魔道士部隊の建物は、王宮の東側の門からほど近い場所にぽつんと建っている。

 魔道訓練場が併設されているため、誤って事故でも起こっては大変だということで、周囲に建物を建てないことになったのだそうだ。

 うちの魔道訓練場なんて、母屋から渡り廊下で移動できる距離にあるのに……。


 建物の前まで馬車で送る。どうせなら顔を出して娘をよろしくと挨拶もすると駄々をこねる父をどうにか宥めて、王宮正門を入ってすぐの場所で馬車を降りてから、せめて東門までは送ってもらえばよかったと気付いた。


 いいえ。こんなに歩かなくてはいけないのなら、自分の馬車で来ればよかった。

 まだ午前中だというのに、もう一日の気力を使い果たした気分よ。 


「これが昨日の報告書です」

「ご苦労様でした」


 王宮魔道士部隊の使用する建物の一階には、扉を入ってすぐに受け付けスペースがあり、その奥に事務仕事をする人たちの仕事場と、魔道士たちの休憩スペースが用意されている。

 本来は来客用の打ち合わせスペースだったようだけど、関係者以外がこの建物を訪れることは滅多にないので、いつのまにか暇そうにしている人たちのたまり場になってしまっていた。


 あの方たちは訓練はしないのかしら。それとも訓練場が狭くて、一度に使用できる人数が限られていて順番待ちをしているの?

 一度も行ったことがないからわからないわ。


「次の仕事の予定は決まっていますか?」

「少々お待ちください」


 事務係の人達も魔道士なのだけど、他の王宮魔道士たちとはタイプの違う人が多くて、私に対しても礼儀正しく接してくれる。

 真面目に仕事をこなす優秀な方たちだから、魔道士たちに理不尽な文句を言われている姿を見かけると気の毒になってしまう。


 何人かうちに連れて帰っては駄目かしら。

 職場環境も雇用条件も、うちのほうがずっといいと思うのよ?


「なんだ、出来損ないがいるじゃねえか!」


 突然背後から叫ばれ、私は目を閉じて怒りを抑えた。

 こんなことで怒るだけ無駄だ。

 王宮魔道士になるほど優秀な彼らからしたら、生活魔法しかまともに使えない私は、この場にいるだけでも不愉快な存在なのでしょう。


「おい、どうせ暇なんだろう? 王子宮の掃除はおまえがやれよ」


 彼らも貴族の子息であるはずなのに、どうしてこんなに下品で横暴なの?

 親は魔法が使えればそれでいいと思って、礼儀作法を学ばせなかったのかしら。

 魔道士部隊の同僚なので、仰々しい態度を取れなどというつもりはないけれど、公爵家の人間に対してあまりにもひどい態度だわ。

 特に去年あたりから、こういう人間が増えたような気がする。


「彼女は、今日は休みなんだよ」


 私が答えるより早く、事務係の方が答えてくれた。


「そんなことは知るかよ。いるんだからやれるだろう」

「与えられた仕事を、正規の手続きを踏まずに勝手に他の者に押し付けることは許されない。どんな仕事もきみの評価に繋がるということを……」

「事務員が偉そうに意見するな!」

「我々も魔道士だし、事務をする人間がいなくては、組織は成り立たないんだということを、きみたちは理解していないようだね」


 まあ、素敵。

 この事務係の方は……、そうそうフィンリーという方だったはずよ。

 名前を覚えるのが苦手な私が憶えているくらいに優秀な方だわ。


「きさま! 俺はコンクエスト伯爵家の人間なんだぞ!」

「え? ここで身分を持ち出すの?」


 口に出してしまってから面倒なことになったと一瞬思ったけど、常日頃からお仕事を頑張っている方々に対して、その態度はあまりにも失礼よ。


「なんだと!」


 たぶんこれは、弱い犬ほどよく吼えるというやつね。


「先程からの態度を見る限り、あなたにとっては使える魔法の強さが人間の上下関係を計る重要な要因なのだと思っていたのですが……結局は身分なのですね。それでしたら、私に対する失礼な態度をまずは詫びていただきたいですわ。私はコールリッジ公爵家の娘ですから」

「っ!」


 しまったという顔をしたということは、私の身分は知っていたのね。


「そして、こちらの方はフィンリー子爵。爵位をお持ちなんですよ? あなたより身分が上の方なんです」

「う、うちはランプリング公爵家に連なる家系で」

「でも公爵家の人間ではないでしょう? 爵位もない。はっ! まさか生活魔法が使えないのですか? それで仕事を変わってほしいと?」

「そんなわけがあるか!」


 そばかすの浮いた白い肌に感情を隠そうともしない青い瞳。

 いったいいくつなのかしら。危うい幼さを感じるわ。


「こんな近くで話しているのに大声を出さないでいただけます? こちらにいる方々は仕事をなさっているのですよ」

「生活魔法しか出来ない落ちこぼれが偉そうに!」


 この空間にいる人間全員が、彼の怒鳴り声に迷惑そうな顔をしているというのに、いい加減、威嚇しても無駄だということに気付いてくれないものでしょうか。

 ここには彼より優秀な魔道士はいないの?

 強い魔道士の注意なら聞くのでしょう?


「生活魔法というのは、人々の生活を豊かにする魔法です。国に雇われている以上、王宮で過ごす方々が、より良い職場環境で働けるように尽力することが我々の仕事です」

「黙れ。公爵令嬢だから生活魔法しか使えないくせに王宮魔道士になれたんだろう? 他に役に立てないんだから、黙って言う通りにすればいいんだよ」


 ん? 入り口のドアの向こうに人影が。

 ここの人間ならばいいけれど、来客だった場合、また王宮魔道士の評価が下がってしまうわ。


「おい、聞いてんのかよ!」


 彼の後ろにいるふたりの魔道士は、一緒に仕事をすることになっているメンバーなのかしら?

 だったら、彼を止めればいいのに他人事のように立っているのはなんなの?


「きさま! 無視すんな!」

「なんだ。暴漢が暴れてでもいるのか?」


 やはり扉の外に人がいたのね。

 それもとてもやばい人が。


「受付まで声が聞こえてきていたぞ。喚いていたのはおまえか?」


 事務仕事をしていた人たちがいっせいに立ち上がり、胸に手を当てて頭を下げた。

 もちろん私も同じように挨拶しようとして、


「おはよう、アメリア。もしかして絡まれていたのはきみなのか?」


 挨拶する前に声をかけられた。

 彼はアーチボルト・バラクロフ。

 七年前、十二歳という若さで四英雄と共に軍を指揮し、スタンピードから人々を守り抜いた若き英雄であり、我が国の王太子だ。


「聞こえていたのではないのですか?」

「それでもいちおう確認だけはしようかと思ってさ。まさか公爵令嬢のきみに、あんな失礼な態度を取る馬鹿がいるとは思わないじゃないか」


 しかも彼は見た目がとてもいい。

 意志の強そうな切れ長の目に、印象的なコバルトブルーの瞳を持っている。

 その瞳に男らしい整った顔立ちと美しい黒髪、鍛えた逞しい長身の体まで揃ったら、魂ごと奪われる御令嬢が多数いたとしても仕方ないのかもしれない。


 でも私は、アーチの瞳はちょっと苦手。

 じっと見つめられると落ち着かなくなる。


「きみ、長老を呼んできてくれ。連絡はしてある」

「かしこまりました」


 アーチに見惚れていた若い女性が、声をかけられてはっとして顔をあげ、頬を赤らめて慌てて奥に引っ込んだ。


「で? 彼はきみに仕事を押し付けようとしていたようだが?」

「そのようですね」

「きみはこれから、妹のお茶会に参加するのではなかったかな?」

「はい。これからそのお話をして断ろうとしていたところでした」


 知らない人にとってはわかりにくいだろうけど、アーチは今、かなり不機嫌だ。

 これは面倒なことになるなと思って、アーチの横にいた近衛騎士団の制服を着た青年と目を合わせようとしたのに、すっと横を向かれてしまった。


 おのれ、ユーグ・ブライアーズ。

 王太子付きの近衛騎士団第二部隊隊長なのだから、彼の扱い方は熟知しているでしょう。

 どうにかしなさいよ。


「今日は……そうか。俺の住処の外壁を掃除してくれる予定があったな。アメリアが掃除してくれるのも大変嬉しいが、あいにく彼女には大切な用事がある。まさかとは思うが、王宮魔道士にとっては大声で恫喝して仕事を押し付けるのが、日常的な状況だったりはしないだろうな」

「い、いえ……そんな……」


 アーチの威圧に耐えられなくて、三人の魔道士は真っ青になって震えている。

 これはどうしましょう。

 でも下手に庇うと余計に機嫌を損ねそうなのよね。


「おや、うちの者が何か粗相を仕出かしましたかな」


 ちょうどいいところに気取った様子で長老が転移してきた。

 白い長髪に長い顎髭。

 いかにも魔法使いですという姿で王宮魔道士のローブを着た彼は、ランプリング公爵家という後ろ盾を最大限に活かして、いっさい功績をあげていないというのに王宮魔道士部隊の隊長の座に、ずっと座り続けている男だ。


「彼らだけではない。王宮魔道士に対する苦情が王宮中から寄せられている。もはやランプリング公爵家でも庇いきれないほどの量だぞ」

「……それは申し訳ない。どうも魔道士というのは変わり者が多いようで」

「それ以前の問題だ。おまえたちは隊員の育成を怠っているようだな。今もそこの馬鹿者どもが、自分の仕事を勝手に公爵令嬢に押し付けようと恫喝していた」

「まさか。何か誤解があるのでしょう。コールリッジ王宮魔道士、本当に彼らはあなたに仕事を押し付けようとしていたのですか?」

「はい。断ったら大声で怒鳴られました」


 え? なんで驚いているの? 私が彼らを庇うとでも思ったの?

 それとも、あなたに逆らえなくて嘘を言うとでも?

 彼は私をどんな人間だと思っているのかしら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ