コールリッジ魔道団 3
「もしかしてあなたたちはランク4の魔法を使えないの?」
「使えます!」
「使えますけど、あなたの魔法とは違います」
「ええ!? 私の知らない新しい魔法が使えるの!?」
それは是非とも見てみたいわ。
「お嬢様、そういう意味ではありません。以前から、お嬢様の魔力が少々異質だというお話は出ていたじゃないですか。彼らの知っているアイスニードルと、お嬢様のアイスニードルは別物なんです」
ケインの説明に周りの魔道士たちが首を何度も縦に振っている。
訓練場には五十人くらいの人間がいるのに、全員いっせいに首を縦に振るのは気持ち悪いからやめてほしい。
確かに私の魔力の強さと魔法の理解力がありながら、ランク4までしか攻撃魔法が使えないのはおかしいとお父様も言っていたわ。
生活魔法だけはもっと上位の魔法が使えるなんて話は、今まで誰も聞いたことがないそうなの。
「そうだとしても、彼らもこれから訓練を続ければもっと強くなるでしょう。ひとまずリンジーには暗器の練習もしてもらいたいわ。魔法ももっと練習してもらえばエメラインの護衛が出来るようになるでしょう」
「それとこの話は他言無用だ」
キャメロンが腰に手を当てながら、新人たちを見下ろしながらきつい口調で言った。
「いいな。お嬢様の身の安全を守るためだ。部隊の者以外に話すなよ」
「え? そうなの?」
いったいどのあたりが私の身の安全に関係するの?
魔法陣がないとランク4の魔法を使えないことは、王宮魔道士はみんな知っているわよ?
「はい。……言えませんよ」
「そうだよな」
男ふたりが小さな声で呟き、リンジーはうんうんと何度も頷いている。
おかしいわ。彼らにわかって私に理解できないなんてどういうこと?
「あの……」
取り押さえられたまま、リンジーが必死な面持ちで私を見た。
「私をアメリア様の護衛部隊に配属していただくわけにはいきませんか?」
「??」
私の護衛? 急に何を言い出すのよ?
はっ。もしかしてこんな情けない人間は、自分がしっかり守らないと危ないと思われたのかも。
「護衛対象より弱い護衛なんて役に立つわけがねえだろうが!」
「お嬢様は次期公爵になるお方なのよ。新人を傍に置くわけにはいかないわ」
そんな言い方をしなくてもいいでしょう?
グレンもシンディーも優秀だけど、性格がきついのが難点よ。
でも実際、彼女がエメラインの護衛になるのだって、まだ何か月も先の話よ?
きちんと訓練をして強くならなかったら、部隊に残ることもできないわ。
「私にはこれ以上護衛はいりませんし、お父様の許可が出ない限りエメラインの護衛にもなれないので、どちらにしてもまだ先の話よ。うちの魔道団には優秀な魔道士がたくさんいるのだから、実力をつけないと追い出されてしまうわよ」
今日は王宮に行かなくてはいけないというのに、ひとりの戦闘試験だけでこんなに時間がかかってしまったわ。
あとのふたりは手早く……あら? この強大すぎて離れていても圧を感じる魔力はお父様だわ。
「さすがに日帰りで帰宅したので寝坊しなかったのですね」
しばらく家を離れて帰ってくると、お母様にべったりになって朝寝坊するお父様が、いつもよりはゆっくりとはいえこの時間に起きてくるなんて、本当にとんぼ返りしてきたのね。
「アメリア、いるのかい?」
ものすごい巨大な魔力が勢い良く扉を開けて、にゅっと姿を現したと思ったら、優しい声で私の名を呼んだものだから、新人の子たちは呆気に取られてしまっている。
化け物級の大魔道士で英雄という立場にふさわしく、見た目も華やかな美形ですものね。
家族だけしかいない時には表情豊かだからいいんだけど、普段は無表情でいることが多いせいで人間らしさがなくて怖がられるくらいに顔が整っている。
なにを考えているのかわからないとよく言われるそうよ。
娘の私にとっては、ひたすらに甘い父親でしかないのだけど。
「お父様、ここにいます。新人の試験をしていたところです」
「おはよう。朝からご苦労様。そろそろ朝食の時間だよ」
「そうですね。では残りのふたりの試験は明日にしましょう。先程の試験を見ていたのですから、明日までに傾向と対策を練ってきてくださいね。楽しみにしています」
にっこりと笑顔で言ったのだけど、横にお父様がいるものだから緊張してしまっているのかもしれないわ。三人とも顔を強張らせて直立不動のまま動けなくなっていた。
「お父様、魔力を押さえる指輪はどうなさったのです?」
「壊れたんだ」
本当にもう。
魔力が強すぎるというのも考えものだわ。
「そういえば話を聞いたよ。昨日もひとりで水晶宮の壁面を綺麗にしたんだってね。見事だったと王宮修繕管理部門の部長が褒めていたよ」
私は歩きだそうとしたのに、父は足を止めたまま嬉しそうに話し始めた。
そうやって、団員に娘自慢をするのはやめてくださいと何度も言っているのに。
「なぜもうディクソン部長と話をしているのですか? あ、昨日こちらに帰ってきてから王宮に?」
「そうだよ。あまりにむかついたからね。今後はもう、他国の要請にうちの部隊を派遣するのは断ることにした。ダンジョン対策室の責任者もやめると陛下に話したんだ」
「やめる? それで陛下はなんと?」
「仕方ないなって」
許可したということ?
「他国に行くたびに私も魔道士たちも、あらゆる方法で勧誘をされて、時には軟禁しようとしてくることもあったと話したら、それはまずいので辞めてかまわないと言われたんだよ」
「ああ……英雄と優秀な魔道士を他国に取られるわけにはいかなくて、許可をだしたんですね」
「そういうことだね。それに我々が王宮魔道士部隊を辞めてもう七年だよ? その後もさんざん国のために動いたんだ。もうこれ以上、あちらも文句をつけられないよ」
「そうですね。むしろ遅いくらいですね」
王宮魔道士部隊の隊長は、王家の親戚であるランプリング公爵の叔父に当たり、けっこうな年齢であるために長老と呼ばれている。
彼は七年前のスタンピードの時、真っ先に国外に避難した人間のひとりだ。
そのために父と共に最前線に立った魔道士たちは、平和になった後に王宮魔道士として働くのを拒み、公爵になったコールリッジ家の魔道団に移籍した。
優秀な魔道士が国の組織からごっそりいなくなってしまって、コールリッジ公爵家の戦力が国の戦力より強くなってしまったのだから大問題よ。
それで陛下は父をダンジョン対策室なんていうにわかごしらえの部署に配属し、コールリッジ公爵家の魔道士を使って働かせることにして、更に娘の私を王宮魔道士部隊に入隊させたの。
英雄コールリッジは国王に忠実だということを、周りに見せたかったのね。
「王宮魔道士だけでなんとかなると思っているのでしょうか」
いいえ、あれからもう七年。王宮魔道士部隊にだって、優秀な若い人材が育っているはず……よね。
私が心配することではないわ。
「王女のお茶会に招待されているんだって? 嫌なら参加しなくてもいいんだよ? 三年ぶりだったか? ランプリングの子供も招待されているんじゃないかい?」
英雄公爵家と、長い歴史を持つ由緒正しい公爵家はあまり仲がいいとは言えないのよ。
特にランプリング公爵家とうちには強いわだかまりがあるの。
四人の英雄のうち、聖女だったローズおば様と宰相になったコンラッドおじ様は夫婦で英雄になったから、英雄公爵家も三家、王族の親戚公爵家も三家。
三対三で派閥争いのようになってしまっている。
あちらの御令嬢方からすれば、ついこの間まで伯爵令嬢だった私とエメラインが、自分たちと同じ身分になるなんて認められなかったのでしょうね。
英雄と国王が学生時代からの友人だったので、英雄の子供たちと王族の子供たちが幼少の頃から親しくしていたのも不満なのでしょう。
「でも、ロザリンド主催のお茶会ですもの。出席しないわけにはいかないでしょう?」
「そんなことはないよ。王族には山ほど貸しがあるんだ。どうとでもなるから無理をする必要はないんだよ。いいかい? 何かあったらすぐに知らせるんだ。用事があるから私も王宮にいるからね」
知らせるわけがないじゃないですか。
お父様がお茶会に乗り込んできたりしたら大騒ぎになってしまいます。
様子を見に忍んできたりしないでくださいよ?
他の英雄を連れてくるなんて、絶対に駄目ですからね?
「王宮まで一緒に行こう」
「昨日の報告書を提出しなければいけませんから、早めに家を出るのです。時間があわないのではないですか?」
「後片付けをするだけだから大丈夫。何時に行ってもいいんだ」
後片付け?
それは執務室の整理をするということでしょうか。
お父様が?
視線を感じてさっと入り口に目を向けたら、父の執事と副官が悲壮な顔で立っていた。
「……今日だけで片づけようとしないでくださいね。ひとまず全て屋敷に運んでもらえれば私が整理しますから」
「それでは、アメリアが忙しくなってしまうだろう?」
「そのくらいはなんてことありませんし、勉強にもなるので大丈夫です」
入り口の執事と副官が、ほっと胸に手を当てて安堵したのが見えた。
天才魔道士に事務仕事まで覚えろというのが無理なのでしょうけど、部下に丸投げしてしまうのは困ってしまう。
優秀で真面目な部下たちのおかげで問題が起きていないだけで、気付いたら全財産横領されていたなんてこともありえるのですよ?
「いいですね。私がチェックします」
執事と副官が深々と頭を下げる姿を見て、少しはまずいと思ってくれなくては困ります。
王宮の仕事を辞めるのはいい機会ですし、今後は公爵の仕事をしっかりやってもらいましょう。




