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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてます。 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ


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大魔道士はポンコツ説   1

 七年ぶりの帰省なのだ。

まずは屋敷全体を眺めたかったので、お母様とエメラインとそれぞれの侍女や護衛を連れて、玄関前広場に続く道に転移した。


「門はあっちよね? こんなに屋敷まで距離があった?」


 エメラインも私も七年前は子供だったから、憶えていないこともたくさんあるんだけど、風景も建物もしっかりと見覚えがあって、懐かしさが胸にこみあげてきた。


「嫌な記憶より楽しかった記憶のほうがたくさんある場所なんだもの。こわくなんてなかったわ」

「そうね。それより憶えていたより庭が広くてびっくりよ」


 王都に比べたら田舎だから、土地はいくらでもあるのよ。

 公爵になって周囲の土地をもらって、今では広大な領地を持っているのに、一度も行ったことがないという情けなさ。


 その土地の人達にしてみたら急に領主が変わったのに、放置されていたのでしょう?

 それともきちんと管理がされているのかしら。

 見に行くのがこわいわ。


「懐かしいわ。壊されたところを修理する時に、少し広くしてもらったはずなんだけど」


 お母様にとっては嫁いできてからずっと住んでいた屋敷だから、いろんな思い出が詰まっているんだろうな。

 予想していたよりは綺麗に管理されていて安心したわ。

 でも、あそこも、向こうも、修理が必要だ。

 中も確認して、できるところは私が……。


「いえ、それでは領民の仕事を奪ってしまう。早く修理しなくてはいけない場所だけ、私が直しましょう」

「その噴水はずっと使われていないみたいよ? それに花壇に花が全くないわ」


 本当だわ。庭の花壇に何も植えられていない。

 雑草は取り除かれて綺麗にされているのに、地面がむき出しよ。


「お、おかえりなさいませ」


 玄関の扉が開いて、先に来ていた執事長と侍女長、そしてこちらの屋敷の家令と侍女長が外に出てきた。

 七年あれば子供は大人になってしまうけど、ある程度の年齢以上の人はちょっと老けて見えるだけだから、ふたりのことはもちろんひと目でわかったわ。


「ふたりとも……ひさしぶり……」


 申し訳なさが溢れたのか、それとも懐かしさからか、お母様の声は涙に濡れていた。


「奥様、おかえりなさいませ。まあ、アメリア様にエメライン様、すっかり大きくなられて」

「おかえりなさいませ。さあ、中にどうぞ」


 懐かしいし、聞きたいことも話したいこともいっぱいあるけど、ちょっと待って。

 侍女長の制服が使い込まれすぎて黒光りしていない?

 エプロンだって何か所か繕った跡があるわ。

 家令の服装も執事長と並ぶとかなり流行遅れでくたびれているのがはっきりわかる。


「おかえりなさいませ」


 出迎えてくれた使用人たちも、ほとんどが見覚えのある顔ばかりだ。

 何人か若い子もいるけど、制服は同じように古臭い。

 屋敷の中も掃除が行き届いて綺麗なのに、どこか薄暗い気がするわ。


「魔道具が古いんじゃない?」


 エメラインの言う通りだわ。

 私が子供の頃のままの魔道具を使っているんだ。


「こちらへどうぞ」

「待ちなさい。すぐに帳簿を揃えてちょうだい。この屋敷の予算はどうなっているの?」


 私がずかずかと近寄りながら聞くと、家令は視線を泳がせて俯いてしまった。


「アメリア様、七年前から予算がいっさい増えていないそうです」


 代わりに執事長が教えてくれた。


「私も先ほど、同じ質問をしたんです。兵舎のほうは騎士団も魔道団も全体で一括して予算を組んでいるのですが、こちらは王都の屋敷とは別予算になっているために旦那様が放置していらしたようです」

「「「なんですって!!」」」


 お母様と娘ふたりで同時に叫んでしまったわ。


「なんて申し訳ない。大変な思いをさせてごめんなさい」

「奥様、そんな、とんでもないです」


 そんな扱いを受けていながら、こんなに暖かく私たちを出迎えてくれたの?


「七年前、私たち全員が無事だったのはお嬢様方のおかげですし、旦那様は国を守った英雄です。その方達の屋敷をお守りする光栄な仕事をさせていただいているのに不満なんてありません」


 家令のこの人は確かジョンソンさんだったはず。

 むしろ屋敷がこんな寂しい様子で申し訳ないと、肩を落としている様子が気の毒すぎるわ。

 もう初老といっていいお年なのに、頼りにならないお父様の代わりに使用人たちをまとめてくれていたのだから怒っていいのに。


「やっぱり帳簿をすぐに揃えて。足りない分を補充しないと。制服も魔道具も全て新調しましょう。みんなの給金も据え置きのままなの?」

「……はい」


 なんてこと!! それでも働き続けてくれるなんて、お父様に土下座させようかしら。


「過去にさかのぼって補填するわ。お母様、この状況で働いてくれていたのだから、感謝の報奨金も出さなくてはいけないのではないでしょうか」


 若い使用人たちから控えめな歓声が上がった。

 年配の人達にたしなめられているけど、喜んでもらえるのなら私としても嬉しいのよ。 


「そうね。そのあたりも今夜話をしましょう。照明以外にも調理場と水回り、暖炉の様子も確認しなくてはいけないわね」


 恐怖なんて感じている暇はなかった。

 落ち着いたら思い出してしまうこともあるかもしれないけど、今はそれよりもこの屋敷を何とかしなくてはいけないわ。


「あ、あの、食事の支度や洗濯などは兵舎のほうで使用人の分もさせていただいていましたので、私たちは不便なく仕事をしておりました。ただこちらのお屋敷のほうは、どうせ家族が住まないのだから、掃除だけしておいてくれればいいというのが旦那様の指示でしたので、壊れた物をそのままにしてあるのです。引っ越しをお考えと伺ったのですが、今のままでは奥様方がお住まいになるのはむずかしいかと」


 お父様ったら、そんな指示を出していたの!?

 それで花壇に花が植わっていなかったのね。


「あなたたちの部屋は屋敷内にあるのではないの?」

「眠るだけですので」


 あああああ、なんですって!

 こんなことになっているなんて思いもしなかったわ。


「お母様、このままにはしておけませんわ。お父様に断固抗議をしなければ」

「ええ。アメリア、やっておしまいなさい」


 お母様の許可が出たのだから遠慮しませんよ。

 魔法以外は駄目な人だとはわかっていたけど、ここまでだったとは……。

 これでは公爵としての役割放棄です。

 休憩室でさぼっていた王宮魔道士たちと変わらないわ。


「たぶんお姉様がやっちゃったほうが早いわよ。お父様は魔法で活躍してもらいましょう。あと、見た目がいいから対外的に動いてもらえばいいのよ」

「そうね。確かにそうなんだけどね、そこまではっきりと言葉にしちゃ駄目」

「やあね。他所ではこんな話し方もしないし、こんなことを言ったりもしないわ。私は、おしとやかなのに華やかで美しい令嬢として有名なのを忘れたの?」


 そうだったわね。エメラインはいろんな顔の使い分けが上手いのよね。


「さて、私も自分の部屋を見てきましょう。こっちの家具は片づけてもらわないといけないわね。子供に合わせた物ばかりだから、もう使えないわ」


 お気に入りだったドレスも、読書用の机も、置いていったものは全て十歳の私に合わせた物ばかり。

 七年前の事件を境に、私たち家族の生活は全く変わってしまって、ここにはその時に置き去りにされた物達が眠ったままだ。


「あら?」


 噂をすればなんとやら。

 この強大な魔力はお父様だわ。


「みんな、向こう側の壁の近くまで移動して」


 これは転移魔法じゃなくて、空間を繋げる魔法だわ。

 巻き込まれたら大変よ。


「まだ会議中のはずなのに、どうしたのかしら」


お母様とエメラインにも少し離れてもらう。

使用人たちがバタバタと移動している間にも空間が歪んで、壁が捩じれたように見え始め、やがて壁の一部が上下に開いてどこかの部屋と繋がった。

 壁を壊して大きな開口部を作ってしまったようにも見えるけど、壁の向こうに見えているのは隣の部屋ではなくて、重厚な家具の置かれた見覚えのない広い部屋だった。


「アメリア!! 領地に帰ったってどういうことなんだ!?」


 お父様がこんなに動揺しているのを、ひさしぶりに見たわ。

 私を見つけてほっとしたのか嬉しそうに駆け寄ってくるけど、そんな顔をしても駄目よ。

 みんなへの申し訳なさと、いい加減なことをしていたお父様への怒りのほうが大きいの。


「お父様、何をしてくれているんですか」


 腕を組んで、壁の穴を通ってこちらへ来ようとしているお父様の前に立ちはだかった。


「何をって?」

「こちらの屋敷の管理を放置していたそうですね。使用人たちの予算も七年前から変わっていないと聞きましたよ」

「そう……だったかな?」


 私が何を怒っているのかわからないのか、お父様は不思議そうな顔で私の背後にずらりと並んでいる使用人たちを眺めた。


「あ、コリンナもエメラインもいたのか」

「話は終わっていません」

「アメリア、なんで怒っているんだい? 私はちゃんと問題はないのかと会うたびに家令や侍女長に聞いていたよ?」

「公爵であるお父様に、待遇をよくしてくれとか給金をあげてくれとか、彼らが言えるわけがないじゃないですか!」

「そうかな」

「そうだからこうなっているんでしょう!!」


 怒りに任せて、不思議そうに首を傾げているお父様に向けて、空気を圧縮して風魔法で勢いをつけた衝撃波を叩きつけた。

 いろんな属性の魔法を重ね掛けしたけど、すべて最初に憶える基本魔法だから私でも無詠唱で出来るのよ。

 油断していたのかお父様はもろに衝撃波を食らって、壁の穴の中に吹っ飛んでいった。


「きゃあ!」

「お父様!?」

「アメリア、やりすぎよ」


 そんな騒がないで。

 これくらいでお父様がどうにかなるわけがないじゃない。


「訓練ではもっと強い魔法を使っているので大丈夫です」


 魔道士は常日頃から複数の防御魔法を展開しているのがたしなみだと、教えてくれたのはお父様なのだから、当然防御魔法でしっかり守られているわよ。

 お母様たちの位置からは穴の向こうが見えていないようだけど、私からは、空中で体勢を立て直したお父様の様子がしっかり見えているわ。


「アメリア、もしかしてかなり怒っているのかな」

「嫌だわ。お父様ったら、ようやく気付いたんですか?」


 娘に突然攻撃を食らって、怒りもせずにしゅんと肩を落とす当主はおそらくお父様くらいでしょう。

 でも今日はしっかり反省してもらわないと困るので、ずかずかと穴を通ってお父様に近付き、がしっと手首を掴んだ。


「話はまだ終わっていませんよ。いったいどういうつもりか……」


 そういえばこの部屋は、どこなんだろう。

 視線を感じるような気がするんだけど……。


「アメリア? いったい……」

「え?」


 はっとして横を向いたら、大きな黒いテーブルとその周りに置かれた椅子に腰かけた公爵たちの姿が見えた。

 一番奥には国王夫妻もいらっしゃるじゃない。

 アーチもいるし、壁際に立っている人の中にユーグとルイスまでいるわ。


「あら、皆様お揃いでしたのね」


 お父様ってば会議中の部屋の壁を使って、空間を繋いだの!?

 国の一番偉い人達の目の前で大魔道士を吹っ飛ばして、王宮の部屋に乱入してしまったわ。


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