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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてます。 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ


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王宮の実態   4

「だ、だってグレンダが……」

「そうですよ。グレンダが集まりがあるたびにずっと言っていたんです。だから」

「黙れ。言われた言葉を繰り返すだけならオウムにも出来る。おまえたちには知能がないのか。ダン、早くこいつらを地下牢に連れて行け」


私もまったく同意見だけど、アーチの言い方はストレートで容赦がないのよ。

戦場では簡潔な命令が求められるせいで王宮でもそういう話し方をしてしまって、貴族たちに反感を持たれていないでしょうね。


「どうせ明日には平民になるやつらだ。このままそのへんに鎖でつないでおけばいい」


 ダンおじ様、そこは止めるところです!


「アーチ! ダンおじ様! ちゃんと法律に沿って動かなくてはなりません。地下牢ではなく取調室に連れて行ってください」


 ふたりして不満そうな顔でこちらを見ない!

 いくら近衛が警備してくれているからって、周りに人が集まってきているんですよ。


「王妃様はロザリンド王女が何度もグレンダに注意をしたのに、まったく無視をしている態度に心を痛めておいでなのです。それに私やエメラインの気持ちも慮ってくださっているのでしょう。それは大変ありがたいのですけど、私たちは大丈夫ですわ。こうして皆様が駆けつけてくださったのですもの」


 周りにいる見物人を意識して、悲し気に俯いてお父様の腕に身を寄せた。

 こういう時、令嬢は女優にならなくてはいけないのよ……ってローズおば様が言っていたわ。


「そのとおりよ、アメリア。王族の方々は今回のことにとても心を痛めているわ。コールリッジ公爵といえば家族思いで有名なのに、娘を見放すなんて噂を信じる人間がいるなんて」


 さすがローズおば様、美しい。

 愁いを帯びた表情が絶品だわ。


「おそらく彼らに反省を促すために一時的に地下牢にいれることにしたのでしょうね。悪意のある偽りの噂を故意に広め、公共の場で公爵家を誹謗中傷した罪は重いわ」


 ……ローズおば様も地下牢にはいれたいのね。

 べつに私も彼らを庇う気はないのよ?

 王妃様や英雄公爵たちが悪者にされなければいいの。


「な、なによ。私は由緒あるランプリング公爵家の……」

「その由緒ある公爵家の品位を落としているのがあなたなのよ」


 ローズおば様がグレンダのすぐ目の前まで近づいて、扇の先を彼女に突き付けた。


「ランプリングもまさか、娘と叔父に足を引っ張られて失脚するとは思わなかったんじゃない? 由緒正しいランプリング公爵家も今日で終わりよ」

「なんで!? この出来損ないに本当のことを……ひっ!」


 お父様、雷をピカピカさせながら近付いては駄目です。

 ちょっと誰か押さえててよ。

 アーチ、あなた王太子でしょ?

 この場を治めるのはあなたの仕事でしょう。


「だ、だってずるいじゃない。私のほうが」


 グレンダだけはまだ私に対する憎しみのほうが恐怖より強いみたい。

 なんでそんなに嫌われているの?

 何もしていないわよね?


「ねえ、グレンダとそこのあなた。そう、子爵令嬢だったあなた」


 護衛に今のこの様子もずっと会議室に送らせ続けていたエメラインが、にこやかにグレンダとへたり込んだお嬢さんの傍に近付いた。


「あなたたち、お姉様を地味だってさんざん馬鹿にしていたけど、本気で言っているの? あなたたちは口紅をつけてアイシャドウにアイライン、他にも侍女にあらゆる化粧をしてもらっているでしょ? そりゃあ華やかにもなるわよ。でもね」


 エメラインはそこで振り返って、さあご覧下さいと言いたげに私のほうを手で示した。


「お姉様は、ほぼ素顔なの。お化粧していないの」

「あ……」


 え? 今更何を驚いているの?

 今まで何回も顔を合わせているじゃない。

 私が化粧をしていないことくらい、女性なら見ればわかるでしょう。


「それでも地味としか言えないあたりは正直よね。もしお姉様があなた達みたいに化粧をしたら、今の私と同じくらいに華やかになるわよ」


 嘘です! それはありえない!

 さすがにここでそんなことは口に出して言えないけど、でも言わなくてもわかるでしょう?

 お父様似のエメラインとお母様似の私が、化粧したからって同じにはならないわよ。


「まあ、そういうこと? この子たち、アメリアより自分たちが可愛いのにアーチがアメリアばかり気にするから嫉妬していたの!?」

「そうなんですよ。ローズおば様も言ってください。お姉様は磨けば光るんです」

「当たり前じゃない。天使の笑顔といわれたコリンナによく似た娘なのよ」


 やめて! よりによって、容姿の優劣!?

 そんなはずはないわよね。


「うそ……うそ……」

「そんな……私のほうが可愛いって……」

「は?」


 今まで敵意むき出しだったグレンダが、急に泣き出した。

 あの子爵令嬢なんて、ぶつぶつと同じ言葉を呟いている。

 つまり、やっぱり顔が問題だったの!?


「嘘でしょう? 私が化粧をしていると思っていたの!?」

「素顔で王宮に来る令嬢なんていないわよ!」


 え? ここにいるんですけど。

 それより化粧をしてこの顔だったら、私の侍女は全員クビになるんじゃないかしら。

 それに、口紅をつけているかどうかくらいは見たらわかるでしょう?

 自分に都合のいい事しか視界に入っていないんじゃないの?


「エメライン、それはあまり大きい声で言わないでくれ。ライバルが増えるじゃないか」

「どうせ相手にされてないじゃない」

「うっ……」


 アーチとエメラインはこんな状況なのに、そんな冗談を言い合っているなんて不謹慎よ。

 容姿の優劣なんかで人の価値を決めるのは間違っているわ。


「くだらん。アメリアのほうが可愛いに決まっているだろう」


 お父様まで何を言っているんですか!


「お父様は少し黙っていてください。そして魔力をどうにかしてください」


 先程から指先から漏れた魔力が、パチパチと発光してうるさいんですよ。

 まさか、雷魔法で失神させるくらいはしても平気だと思ってはいませんよね?

 もう近衛がほとんどの者を捕まえて、犯罪者用の馬車に乗せているんですから、残っているのは女の子だけなんですよ。

 子供相手にパチパチさせるのは大人げないわ。


「彼女はまず詫びるべきだ。愛する娘たちを汚い言葉で愚弄した者を許しはしない」

「ありがとう。お父様が来てくれて嬉しかった」

「来るに決まっているだろう」


 私の言葉に照れくさそうな顔になったお父様は、もういつもの優しい父親の顔に戻っていた。

 そこにエメラインもきて父に抱き着いたので、グレンダのことは許してはいないだろうけど、今は放置することにしたみたい。

 ふたりの近衛に挟まれて、引きずられるように連れて行かれるグレンダは、俯いて泣いているようだった。


 力が抜けた手から落ちた扇を、騎士のひとりが気付いて拾い上げ、彼女が乗った馬車に運んでいくのが見えた。

 一度も謝罪の言葉を言わなかったグレンダは、彼にはお礼を言うのかしら。


「七年前は公爵家のままでいられたランプリングが、こんなことで没落するなんて皮肉ですね」

「この七年で王宮の力関係が大きく変わって、彼の周りにはもう優秀な人間は残っていないんだよ」


 お父様のダンジョン対策室は外交を優位に進めるための重要な部門になり、近衛騎士団長も宰相も英雄公爵が任に就いている。

 由緒正しい公爵家だなんて言っているのは今では本人たちだけで、この国を実際に動かしているのは英雄公爵家とその賛同者たちだ。

 七年前、ランプリング公爵が私たちを殺すように指示を出した証拠は見つからなかったけど、英雄たちは徐々に彼の権力を削って追い詰めていたのね。


「さて、私ももう会議に戻らないと」


 気付いたら、その場にはもうお父様と私とエメライン、そして警護の者達だけしか残っていなかった。

 国王陛下と王妃様も参加していた会議の途中だったので、ローズおば様もアーチもすぐに帰ったみたい。


「わざわざありがとうございました」

「もっと早く、こんなひどいことを言われていると教えてほしかったよ」


 お父様に優しく抱きしめられながら、首を傾げた。

 こんなひどいことを言われたこと、今まであったかしら。


「お父様が私を見放しているなんて、今日初めて聞きましたよ。エメラインは? 言われたことあるの?」

「ないわ。たぶん、アーチと結婚できないと昨日聞いて自棄になって、どうにかして私とお姉様を傷つけたかったんじゃないかしら」


 だからって、あんな態度に出るなんて。


「そうか。それならいいんだ。……おまえたちはどうするんだ?」

「私は辞表を出しに行きますよ」

「私は帰ります。お母様に報告しなくちゃ。きっと心配して待っているわ」

「そうか。では気を付けて。おまえたち、頼むぞ」


 護衛に声をかけてからお父様は転移で会議室に帰っていった。

 そういえばいつのまにかグレンが合流しているわ。

 この騒ぎで思っていた以上に時間を取られてしまったのね。


エメラインがお母様に報告してくれるのはありがたいわ。

 辞表を出しに行くだけだと言って出かけたのに、もうお昼を過ぎてしまっているんですもの。


「じゃあ行きましょう。少し考えたいから歩いていくわ」


 結局、自分より容姿が劣っている私が、アーチと仲良くしているのが気に入らなかった令嬢とグレンダ。

 七年前、さっさと国外に避難したのに、ランプリング公爵のおかげで王宮魔道士部隊の責任者のままでいられたくせに、全く仕事をしないで社交界で遊びまくり、邪魔な中堅どころの魔道士を配置換えしたり地方に飛ばしたりして、組織をめちゃくちゃにしてしまった長老。


 ……くだらない。

 なんて愚かなんでしょう。


 彼らが異常なだけで、王宮にはこんな人たちばかりではないとわかってはいるのよ?

 毎日、忙しく働いてくださっている人たちがたくさんいるわ。

 私の仕事ぶりを褒めてくれる人もいる。

 だけどグレンダ達の話を真に受けて、私の顔も知らないくせに、陰で悪い噂をささやきあって喜んでいる人がいることもまた事実だわ。


「べつにどうでもよくない?」


 なんでそんな人たちのために悩まないといけないの?

 国のために働くのは、もうお父様が何年もやってくれているのだもの。

 私は違う道を進んでもいいんじゃないかしら。


 ……そうだ! 領地に帰ろう。

 もう王宮にいなくてはいけない理由はないのだ。


「急いで辞表を出しちゃうわよ。そして帰ってお母様に相談しなくては。転移するから集まって」


 決めたなら即行動よ。

 お父様が放置している領地が気になっていたんですもの。

 くだらない人達に振り回されている時間があったら、領民のために動かなくちゃ。


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