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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてます。 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ


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19/19

王宮の実態 3

「彼女はエメライン様の護衛です」

「え?」


 確かにものすごい勢いで駆け寄ってきた女性は、コールリッジ公爵騎士団の制服を着ていた。


「こちらにいらしたのですか!」


 あれだけ全速力で走ってきたのに息を切らしていないし、私の前でピタッと足を止めて直立不動になるのはすごいわね。


「よく私がいる場所がわかったわね」

「王宮魔道士部隊まで行くつもりでした」


 なるほど。通り道に私達がいたってことね。


「あちらでエメライン様がグレンダに遭遇しまして」


 いちおうグレンダも公爵令嬢なのに呼び捨て?


「なにやらアメリア様のことで揉めていらっしゃいます。あちらは男性も含めて五名。手出しをする様子はありませんが、エメライン様にかなりひどい態度なので護衛たちが殺気立ってしまっています」


 何をしているのよ。

 昨日の今日で、またやり合っているの?

 下手にこちらから手を出したら大問題よ。


「どこ? 転移したほうが早いわよね」

「すぐそこの回廊の中庭です」

「わかったわ。移動しましょう」


 王宮以外でも、一日にこんなに転移魔法を使うのはひさしぶりよ。

 彼らのすぐ近くに移動するのはまずいだろうと、少し離れた場所に転移したのに、もうグレンダの甲高い声が聞こえてきたわ。


「偉そうに言わないでよ。魔法が全く使えないんだから、本当はアメリアよりあなたのほうが出来損ないでしょう? ちょっとかわいいからって、みんなが気を使ってあなたの前で言わないだけよ」


 昨日、あれだけいろいろ話をして、ロザリンドに何回も注意を受けたのに、グレンダは声が裏返ってもかまわずに早口でまくしたて、勢いよく扇を振り回していた。

 お茶会は参加者以外に会話が聞こえないからまだいいのよ?

 でもここは中庭で、すぐそこの回廊には人が行き来しているの。

 あなたの声が大勢の人に聞こえているのよ?


「魔法が使えないと出来損ないなら、あなたたちもそうでしょう? それとも、魔法が使える人がいるの?」

「私たちのことはいいのよ。大魔道士の娘じゃないんだから」


 ひどい理屈だけど、本気でそう思っている人も大勢いるのでしょうね。


「だから、あなたたちコールリッジ公爵に見放されているんでしょ? そんな出来損ないは娘とは思えないって、見捨てられているのよね」


 ああ、グレンダは周りにこの話を聞かせたくて、わざと大きな声で話をしていたのね。

 そこまでしてエメラインと私を貶めたいの?


「まあ、父親に見放されては公爵令嬢といっても、名前だけですわね」

「どうりで王宮内でコールリッジ公爵とアメリア様が一緒にいるのを、見たことがなかったはずだ。父親に傍に寄るなと言われているんじゃないか?」


 さすがの私も、これは黙っていられないわ。

 今日は王宮でお茶会も夜会もないはずなのに、昼間から派手なドレスをまとって扇をひらひらさせたお嬢さんと、仕事をしていないで遊んでいる貴族の子息たちが、いったい何をほざいているの?


「あら、楽しそうな話ね。私も混ぜて」


 すたすたと近付いて声をかけたら、彼らはぎょっとした顔でこちらを見て固まった。


「い、いつのまに……」

「なによ、話しかけないでよ」

「お姉様」


 先程の位置ではエメラインの表情が見えなかったから心配だったけど、どうやら平気なようね。

 にっこりと何か企んでいそうな笑顔をしているわ。


「ちょうどよかったわ。今……あなたの話をしていたのよ」


 グレンダは扇で顔をほとんど隠して冷静を装っているけど、私の傍にコールリッジ公爵家の騎士と魔道士がいることに気付いて顔をしかめている。


 おかしいわよね。

 親に見放されている私に、どうしてしっかり護衛がいるの?

 そして、どうしてグレンダにはひとりも護衛がついていないの?


「あなたたちがあまりに大きな声で話していたから、中庭の向こうまで聞こえていたわよ。私ね、自分のことを言われても別にかまわないと思っていたの。あなたたちにどう思われようとまったく興味がないから。でもお父様まで侮辱されては許せないわ」


 私が更に歩みを進めると、護衛たちはグレンダの後ろにいる男たちを警戒しながら、いつでも対処できるように動いた。

 剣の柄に手をかけながら騎士が私の横に並んだのだから、かなりの威圧感のはずよ。

 男性陣は何歩か後ろに下がったもの。


「何を言っているの? コールリッジ公爵を侮辱なんてしていないわ」


 でもグレンダと気の強そうな赤いドレスのお嬢さんは気にしていないようね。


「あら、あなたはどなた? 公爵令嬢同士の会話に口を挟むなんて、ずいぶんと礼儀知らずなのね」

「うっ……」


 ああ、そうだわ。

 昨日、私がアーチにつき纏っていると勘違いして話しかけてきた人たちの中に、確か彼女もいたわね。

 そう、グレンダと親しい子だったの。


「自分の発言が、コールリッジ公爵を侮辱していることになるということすらわからずに、あんなに大きな声で話をしていたの? 大魔道士のコールリッジ公爵にとっては魔法が優れているかどうかが重要で、父親としての愛情がない。家族を見放すような冷たい人間だって、遠回しに言いたいのでしょう? 貴族らしい嫌味ね」


 白々しく口元で手を合わせて微笑む。

 こういう表情は、ローズおば様からしっかりと叩き込まれているのよ。


「そ、そんなことは……」

「彼女の言うことなんて誰も聞かないわよ。出来損ないなのに我儘を言って王宮魔道士になって、王太子殿下にまでまとわりつくずうずうしい女なんだから」


 グレンダはまだそんなことを言っているの?

 自分に都合の悪い話は、すべて聞かなかったことにしてしまっているのか、忘れてしまっているのか、どちらにしても精神的にかなり危ういわ。


「おかしいわね。親に見放された子供なのに、いったい誰が私の我儘を聞いてくれているって言うの?」

「……」

「それにあなた」


 赤いドレスの女性に笑いかけた。


「昨日も会ったわよね? 今度、私に何かしたら家族全員に責任を取らせるってアーチが言っていたのを忘れたの?」

「そんなの……大丈夫だって……」


 はっとして彼女が視線を向けたグレンダは、きついまなざしで私を睨んでいて気付かない。

 何がどう大丈夫なのか、ぜひ説明してほしいものだわ。


「うるさい! うるさいうるさい! 親に見放された出来損ないの魔道士が、偉そうに意見しないで! あんたなんか王都から出て行けばいいのよ。邪魔なの! 辛気臭い顔を……え」


 ヒステリックに叫んでいたグレンダが、驚きに目を見開いた。

 私もびっくりよ。

 まさかこの場にお父様が転移してくるとは思いもしなかったわ。

 私は怖くて人が集まっている中央に転移なんて出来ないけど、お父様はまったく気にしないようで、私とグレンダの間のスペースに姿を現した。


「私の娘を侮辱するのは許さん」

「お父様!?」


 どうして? なんでここで騒ぎが起こっているってわかったの?


「私が娘を見放しただと。そんなくだらないことを言っているのはどこの馬鹿共だ!」


 魔力の強さをわからない一般の人でも、お父様の強大な魔力は強烈な威圧感として感じられる。

 突然目の前に英雄公爵が激怒して現れただけでも、だいぶ恐怖なはずよ。

 そのうえ魔力を溢れさせているのだから、後ろで黙って立っていた女性は失神してしまったのに、周りの男たちは動けなくてそのまま放置している。

 かわいそうなのでシンディーに支えてあげるように指示を出した。


「な、なんで……」


 グレンダと赤いドレスのお嬢さんは、血の気が引いて顔色が白くなっているけど、どうにか立っているだけ頑張っているわ。


「お父様、会議中ではなかったのですか?」

「これ以上、この者達の戯言など聞いていられるか」


 聞いている?


「ふふふ。ルイ、ちゃんと送れていたみたいね」


 エメラインが、それは嬉しそうに微笑んだ。


「はい。これでばっちりと。相手の顔は全員分、アップで送ってありますから、もう身元の確認も済んでいるのではないですか」


 ルイと呼ばれた護衛の魔道士が高々と掲げたのは、ダンジョン攻略で中にいる人の様子を見るために開発された魔道具だ。

 映像と声を対になっている魔道具に送ることが出来るのよ。


「あなたたちが私とお姉様を見放していると言っていたお父様に、今までの会話も映像も全て届けておいたの」


 それで今日はおとなしかったのね。

 相手がひどい態度を取ってくれればくれるほど、私たちには有利ですもんね。


「あらグレンダ? どうしてそんなに顔色が悪いのかしら? お父様は私たちを娘と思っていないのでしょう? だったら心配ないじゃない?」


 お父様のこの怒りようを見て心配ないわけがないでしょう。

 あ、後ろにいた男が逃げようとしてる……と思ったら、彼らの目の前に近衛騎士が三人も転移してきた。

 たぶん今は王宮魔道士より、近衛配属の魔道士のほうが優秀なんじゃないかしら。


「おい、周りの者を近付けるな」


 ダンおじ様も来たの!?

 うわ、いつのまにか近衛が十人以上転移してきて、見物人が私たちに近付かないように警備に当たり始めている。

 いくら騎士団長だからって、国王陛下付きの第一騎士団の精鋭にこの場の警備をさせるのはいいの?


「ふうん、この子、どこの娘なの?」

「モンクトン子爵家の娘ですよ」


 ローズおば様とアーチまで来た!

 昨日のお茶会でのグレンダの態度が問題になって、王族と公爵家の人間が集まって会議をしていたところに、この騒ぎを中継した効果はとんでもなく大きかったようね。


「みなさん、会議中なのに大丈夫なんですか?」

 国王夫妻を放置して飛び出してきたんじゃないでしょうね。


「アンブローズが突然転移しちゃったんですもの。そのままにはしておけないじゃない? 彼らが魔法で吹き飛ばされるのは気にしないけど、王宮まで壊したら大問題でしょう?」


 いえ、ローズおば様。魔法を使用した時点で大問題ですわ。

 グレンダの暴言なんて霞んでしまいます。


「心配するな。宰相が魔力処理施設の報告をしていたところに、グレンダが暴れている映像を見せられたからさ、父上も母上もたいそうお怒りで、ランプリングの責任問題になり捕縛されて牢にいれられた」


 うわあ、エメライン、恐ろしい子。

 一気に事態が動き出してしまったわ。


「ねえ、アーチ。子爵家の娘が公爵家令嬢にあの態度よ? ありえないでしょう?」


 それなのにまだ容赦なくやるつもりなの?


「もちろんだ。モンクトン子爵は昨日のおまえの態度を泣いて謝罪していたというのに、更にこの騒ぎだ」


 アーチの言葉に、さっきまで自信満々に私を出来損ないだと喚いていた令嬢は、その場にへたり込んだ。


「まったく彼が気の毒だよ。これでモンクトン子爵家は取り潰し、国外追放確実だな」

「モンクトンだけじゃなく、ここにいる全員の家を親類縁者含めて追放するくらいはしてもらうぞ」


 お父様、悪役っぽいからやめてください。

 しかも美しい顔で笑みを浮かべて言わないで。


 でも……私を庇ってくれたお父様の背中がたのもしくて、来てくれたことが嬉しくて涙ぐみそうになったわ。

 今日ここでグレンダに遭遇するってエメラインはわかっていたわけではないでしょうから、普段から護衛に魔道具を持たせていたのでしょう?

 そうして証拠を集めていたのかもしれない。


 ……それなのに私は、出来損ないなのは本当のことだからなんて納得して、聞き流しているだけで何もしなかった。

 そんな私の態度が相手を増長させて、余計に家族を傷つけてしまったのではない?

 反省しなくては。


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