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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてます。 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ


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嬉しい変化とひび割れた関係  2

 ええ!? それで三年ぶりにお茶会を開催したの!?

 いったい何が始まるのかと警戒していたから、私ここに来て、まだお茶さえ飲んでいないのよ?


「よりによってマシュー? あの男、性格悪いでしょう」

「エメライン」

「あ、悪い男ではないのよ。でもなんというか屈折しているというか、性格が黒いっていうか」


 マシューって天才肌で権力やお金に興味がなくて、父親のように王宮で働かされるのは嫌だと言って、領地に引っ込んで滅多に王都に顔を出さなかったの。

 彼が領地経営に精を出しているおかげで、タイラー公爵家の領地は王都に次ぐ我が国で二番目に大きな街になっている。

 綿密な都市計画に沿って発展していて、貧民街もなく治安もいいのよ。


「私も最初はあまりいい印象ではなかったのよ。会話をしていると、私は何も知らないんだって思い知らされて。それで悔しくて勉強したら、いろいろと教えてくれるようになって」


 幸せいっぱいの様子で話すセレストは、いかにも恋する乙女という感じでとても可愛らしいけど、公爵家同士の縁組でマシューは長男ですもの。両家の親どころか国にとっても喜ばしい組み合わせだわ。

 だからつまりはそういうことでしょう?

 純粋な恋愛関係と考えなければ、べつに意外でもなんでもない話よ。


「そうなのね。……もしかしてもう婚約の話が?」

「ち、違うわ。まだそんな具体的な話は何もないのよ。マシューは自分から各公爵家に説明して承認を得るまで待ってほしいって言ってくれているの。でも、待っているばかりは嫌だったのよ。特にあなたたちには私から話さなくちゃ。そして今までのことを謝らなくちゃいけないわ」

「その話を聞いてね、じゃあお茶会を開きましょうって私が言いだしたの」


 ロザリンドの一存なのか陛下も絡んでいるのか……。

 アーチは知っているのかしら。


「少し前まで、いくら大きな功績があったからと、伯爵を一気に公爵にするなんてと反対していた私が、その英雄公爵家の跡取りと付き合うなんて、あなたたちにとっては許せることではないかもしれないけど」

「え? まったく問題ないけど? ねえ、お姉様」

「そうね。タイラー公爵家の婚姻関係に私達が口を出すのはおかしいでしょう?」


 英雄公爵家だと一括りにされることは確かに多いけど、親戚ではないのよ?

 親しい間柄だとしても、他人の私たちがどうこう言っていい話ではないわ。


「それに、歴史ある公爵家と英雄公爵家がいつまでも仲が悪いというのは、この国の将来にとって問題でしょうから、たぶんどこかの家同士で政略結婚が行われるだろうとは考えていたわ」

「お姉様の予想通りになりましたわね」


 エメラインってば、余計なことを言わないで。


「予想通りってどういうこと?」


 ほら、ロザリンドが興味を持ってしまったわ。


「うちは七年前の事件があったので政略結婚を命じられることはないでしょう? ブライアーズ公爵家はダンおじ様があの性格だから、たとえ王命でもおとなしく政略結婚に応じるとは思えないわ。そうなると、タイラー公爵家しかないじゃない?」

「エメライン、およしなさい」


 エメラインのまっすぐな性格も意見をはっきりと言えるところも長所ではあるけれど、こういう時はもう少し、注意して発言してほしいわ。

 それに七年前の事件という言い方は駄目よ。

 あの夜のことを、彼女たちは知らないはずなんだから。


「でもお姉様、セレストがマシューに騙されているかもしれません」

「あなたのマシューに対する評価は厳しすぎるわよ。確かに計算高いところはあるけれど」

「あの……ふたりが反対しないということは、コールリッジ公爵も反対しないと考えてもいいのかしら」


 セレストはエメラインの話を聞いてもショックを受けてはいないみたいだった。

 どちらかというと嬉しそう?


「そうでしょうね。ただ政略結婚ならちゃんとそう言うべきでしょう? 気があるふりをして近付くなんて最低よ」

「ああ、違うの。その話はもうマシューから聞いているの」

「え?」


 テーブルを挟んでエメラインとセレストが話し始めたので、私は何かいただこうと手を伸ばした。

 朝食を食べてから何も口にしていないのだから、この話のためにお茶会が開催されたのなら、もうゆっくり王宮パティシエの力作をいただいてもいいんじゃない?


「マシューは国王陛下に、私かドリーンのどちらかと結婚する気はないかと遠回しに勧められたそうなの。タイラー公爵も無理にとは言わないが、好きな相手がまだいないのなら国のことを考えて相手を選んでほしいって言ったそうよ。それで選べるのなら、実際に会って話をしてみたいと約束を取り付けようとしていた時に、偶然私と町の本屋でばったり遭遇したんですって」


 偶然会ったふたりが言葉を交わすうちに互いを気に入って、相手を意識し始めるなんて、まるで小説のような展開ね。

 それが王命で結婚を命じられた、滅多に自分で町まで買い物になんて行かない公爵家の人間同士だなんて、本当にあり得るのかなんて考える私は、だいぶ可愛くない性格なのでしょうね。


「それでセレストをすぐに気に入ったから、私に会う気はなくなったみたい。私はマシューにはまったく会っていないのよ」


 ドリーンが呆れた顔で笑った。


「つまりマシューは政略結婚を命じられたからセレストに近付いたって、自分から明かしたってこと?」

「そうなの」

「嘘でしょう!? あの男がそんなことを正直に話すなんてびっくりよ」

「心配しないでセレスト。コールリッジ公爵家はふたりの関係を全面的に応援するわ」

「そうね。あの男が全部話して、そのうえで結婚したいって言っているのなら本気なんでしょうし、反対する理由がないわ……って、え? ちょっと」


 セレストの大きな目にぶわっと涙が溢れ出すのを見て、エメラインは慌てて腰を浮かせてハンカチを差し出した。


「ありがとう。あなたたちにそんなふうに言ってもらえるなんて、嬉しい」

「よかったわね、セレスト」


 セレストもドリーンも今まではいつも気位が高そうな様子で、睨みつけるようにこちらを見ていたから、こちらから歩み寄る気にならなくて距離を置いていた。

 それがマシューとセレストが話をすることで、ここまで変わるなんて恋ってすごいわね。


「そんなに喜んでもらえるなら、もう少し私の意見を言ってもいい? これはあくまで私の想像で、本人に確認しないと本当かどうかわからないんだけど」


 涙に濡れた瞳に微笑みかけた。


「私の予想ではタイラー公爵家が政略結婚の相手に選ばれると話したわよね? で、実際にそうなった」

「そうね」


 ロザリンドが身を乗り出して頷いた。

 この王女様は少し好奇心旺盛すぎるのが心配よ。


「お行儀が悪いですわよ」

「いいから早く話しなさいよ」

「でも、タイラー公爵が了承してもマシューは嫌がるだろうなって思っていたの。王都の貴族が嫌いだし、申し訳ないけど由緒ある公爵家の人たちの態度に苛立っていたから」

「……」


 身に覚えがあるセレストとドリーンは、気まずげに俯いた。


「でも引き受けたんでしょう? そして偶然、セレストが買い物をする本屋に行った」

「あ!」

「なるほど!」


 エメラインとロザリンドが同時に嬉しそうな声をあげた。


「あの男、実は前からセレストのことが気になっていたんじゃない?」

「ありえるわね。渡りに船でいそいそとセレストに会うために本屋に行ったのかも」

「……え」


 セレストってば大丈夫?

 先程から赤くなったり涙ぐんだり、感情の起伏が激しくて大変そう。


「でも……」


 エメライン、もうセレストをそっとしておいてあげましょうよ。


「だったらセレストにそう言えばいいじゃない。なんで政略結婚の話はして、その話はしないのよ」

「そこがマシューらしいじゃない」

「……まったくわからない」


 そう? 実は前から片思いしていたなんて言い出せないのよ。

 それなら政略結婚の相手を確認しようとしたって話のほうが、マシューのイメージに合うでしょう?


「それは、マシューには聞かないであげたほうがいいかもしれないわね」


 お茶会を開催したロザリンドも嬉しそうだ。


「結婚して、何年かしたらぽろっと白状するかもしれないし、何十年も経ってどちらかが旅立つときに言うかもしれない。それを待つのも楽しいじゃない?」

「ええ……ええ、そうですね」


 うーーん。言い出してしまった手前、私はそっとマシューに聞いておいたほうがいいかも。

 答えなくていいけど、こういう話が出ていたのだから、セレストのために話を合わせなさいよって。


「そうなのね。セレストはタイラー公爵家に嫁ぐの」


 ずっと静かにしていたグレンダが、口元にうっすらと笑みを浮かべながら呟いた。

 エメラインと同じ年の十六歳だけど、灰色がかった大きな瞳の印象が強いせいか実年齢より幼く見える。

 服装も化粧も可愛らしさを追求している感じだから、狙ってやっているんじゃないかってエメラインは言っていたわ。


「じゃあ、王太子殿下には、私とドリーンのどちらかを結婚相手に選んでいただかなくてはいけませんわね」


 そう言ってグレンダは笑みを深くした。



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