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生活魔法しか使えないのに英雄たちに愛されてます。 落ちこぼれ魔道士と救国の五英雄  作者: 風間レイ


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10/19

物好きな若き英雄  3

「つき纏う? アメリアが? 俺に? そんな楽しそうなこと、一度もしてもらったことがないぞ!」


 ああ……やっぱり我が国の王太子は馬鹿でした。

 大声で何を言っているんだか。


「なるほど。だから近衛の制服を着ていても、英雄の息子である俺では役に立たないだろうと思ったわけか」

「いえ、あの……その」


 ユーグのほうは、もっと露骨に不機嫌さを顔に出している。

 それにしても、そんな噂を真に受けてアーチに近付いてくるなんて、しっかりしている礼儀正しい男性に見えるのに、あまり賢明な人ではないようだ。

 さっきから後ろのお嬢さんたちが、やたら髪やドレスを整えていたのは、アーチの目に留まりたかったからなのね。


「おまえは今くだらない噂を真に受けて、コールリッジ公爵令嬢だけではなく、俺やブライアーズ近衛第二部隊隊長も侮辱したと理解しているのか?」

「と、とんでもございません。そんなつもりはまったく」

「五人も揃っていて、誰もこの馬鹿を止めようとはしなかったのか!」

「王太子殿下」


 これはまずいわ。

 急いでアーチに駆け寄り声をかけた。


「この方は殿下を心配してくださったのですし、礼儀に反することもなさってはいません。むしろ、そのような噂があると知れてよかったではないですか」


 声をかけてきた方たちのほうに顔を向けたら、全員揃って戸惑いの表情を浮かべた。

 彼らも私の顔を見るのは、今回が初めてだったのかもしれない。

 だとしたら、イメージしていたずうずうしくて我儘な出来損ない魔道士と、実際の私がかけ離れていてもおかしくないわ。


「この方が、アメリア公爵令嬢?」

「馴れ馴れしく名前で呼ぶな。この男のどこが礼儀正しいんだ!」

「も、申し訳ありません」


 仲間と会話する時に名前を呼び捨てにしているんでしょう。

 それでつい、動揺しているせいで言い間違えたのね。


「どうやら私の誤解だったようです。本当に申し訳ありませんでした」


 髪を後ろで結わいて黒い魔道士のローブを纏った姿は、彼らからしたらあまりにも地味でやぼったく見えるのでしょう。

 もし、妹のエメラインを知っているのなら、姉妹の違いに驚くのではないかしら。


 私っておとなしそうに見えるらしいのよ。

 だから初対面の相手は、会話を始めるとこんなにはっきりと物を言うタイプなのかとたいてい驚くんだけど、私は次期公爵になる長女なのよ?

 自分の意見も言えないなんてありえないわよ。


「いいえ、お気になさらず。噂をされるのはいつものことですから」

「そうやって許すから、相手がつけあがるんだ」

「重要なのは、誰がそんな噂を広めているのかということです。殿下も私も常日頃から誤解を生むような行動はしていませんから、勘違いをしたということではないでしょう。ということは、誰かが故意に広めたはずです」

「……誤解……うん、まあ」


 納得がいかないのかアーチはまだ不満そうだ。

 王太子ともあろう方が、そのように感情を簡単に顔に出してはいけないのではないかしら?

 不満そうといえば、声をかけてきた男性ふたりはまずいことをしたと青い顔をしているのに、彼らの後ろにいる女の子たちは露骨な敵意を私に向け、不満そうに睨んでいる。

 アーチもそれに気付いたようで一層目つきが険しくなった。


「ユーグ、彼女らがどこの家の者か確認し、呼び出して厳重注意しろ。次にまたアメリアに何かした場合は、家族全員に責任を取らせると言っておけ」

「そんな……」

「なんで……」


 アーチの言葉が聞こえた後、女の子たちが戸惑いの声をあげかけたが、一瞬でその場が静まり返った。


 たぶんアーチがこわい顔で睨んでいるのでしょう。

 彼は普段から、目つきがあまりよろしくはないのよ。


 なにしろ十二歳で魔獣との戦いの最前線で剣をふるっていた人だから、王太子というよりは歴戦の戦士のような威圧感がある……らしい。

 私はもう彼の顔を見慣れてしまっているし、性格もよく知っているので威圧感は別に感じないからわからないわ。


「わかってますよ。俺としてもこのままにはしておけません」

「ふたりとも待って。生活魔法しか使えないからって私が馬鹿にされているのは、今更でしょう?」

「馬鹿にされている? 今のように直接何か言われたりするのか?」


 なんでアーチはそんなに驚いているの?

 王宮魔道士たちは前からひどい態度だし、たぶんその影響で、最近は何の関係もない人からも出来損ないの魔道士だって言われることもあるわ。


「ちゃんと反論しているんだろうな」

「そういう人たちは私が何か言おうとすると逃げるんです。反論されると思っていなくて慌てるのでしょう」


 言っても平気な相手だと思っていたのに、傷ついた顔もしないし泣きもしないで、平然と反論し近付いてくるから驚くみたい。

 私は公爵令嬢だから、反撃されたら困るのよ。


「そんなのんびりしている場合か」

「殿下、声が大きいです」

「うっ」


 ユーグに注意されたアーチは、近衛騎士に連れられて歩き出した人たちをちらっと見てから周りをぐるっと見回し、私のすぐ横に近付いてきて声を落とした。

 だいぶ人が集まってきているものね。

 すっかり注目の的になってしまっているわ。


「おまえは生活魔法以外も出来るじゃないか」

「出来ますよ。ランク4までですけど」

「全国から優秀な人材だけを集めている王宮魔道士団の入団条件がランク4の魔法が使えることなんだぞ?」

「でも魔法陣がなければ使えませんから」

「そんなことはたいしたことではない。ランク4ができれば優秀なんだ」

「入団する時はそうでしょうけど、きっと彼らは毎日の訓練でもっと上位の魔法も使えるようになっているはずですよ?」

「そうだとしても、間違った噂が流れているじゃないか」

「ですね。なんでなんでしょう。特に去年あたりからひどくなっている気がします」

「ひどくだと」


 でも、私が生活魔法しか使えないと思われているということは、英雄たちも知っているはずよ?

 それでも彼らが放置しているのだから、アーチが心配しなくてもいいのではない?


「いや、彼らは確かに優秀だが感覚がまともじゃない」


 まともじゃないと言われている中にお父様も含まれているんだけど、実の娘なのに頷いてしまいそうになった。

 素敵な人たちなのよ?

 お父様だって強くて優しくて素敵なのは間違いないの。

 でも……天才とナントカっていわれるように、確かに何を考えているかわからない時があるし、魔法以外はダメダメだったりもするのよ。


「ともかく、このままにはしておけないぞ」

「わかりました。でも今はもう時間がありませんから移動しましょう。ロザリンド王女をお待たせしてしまいます」

「そうだった。あとは馬車の中で話そう。ユーグ、噂の出所を必ず突き止めろよ。アメリアに関して悪意のある噂を流すなど、絶対に許さん」

「そうやっておまえがアメリアを特別扱いするから、妬んでいるやつがたくさんいるんだよ。だが、だからといって放置は出来ないな。出来るだけ早く突き止めるさ」


 アーチだけじゃなくて、ユーグが傍にいることで妬む御令嬢もたくさんいるんだけどな。

 生活魔法しか使えない地味な女のくせに、王太子殿下と公爵家嫡男に特別扱いされるなんてどういうこと!? って。


 そんなの答えは決まっているでしょう? 親が英雄で公爵令嬢だからよ。

 なぜみんな、そこを忘れているような態度なの?


 王宮魔道士たちが失礼な態度を取るのはわかるのよ?

 彼らにとっては、魔道士としての実力が高いかどうかが部隊での上下関係の目安になっているのだから。


「ほら、馬車に乗るんだ」

「押さないでよ。シェリー、先に乗ってちょうだい」


 腕を掴んで来ようとするアーチの手を振り払って、先に護衛に馬車に乗るように指示を出した。


「ちゃんと護衛も乗せると言っているだろう」

「そんな無理やり押し込もうとすると誘拐しているみたいに見えますよ。また噂になります」

「馬鹿言え。そんな噂が流れたら英雄たちに殺される」

「それは困りますね。では実行犯はユーグだということで」

「そこのふたり、じゃれていないでさっさと乗ってくれないかな。そんなことをしているから噂になるんだよ」


 ひどい噂をたてられ、王太子に有無を言わさず馬車に押し込まれ、連れて行かれる私を少しは誰か同情してほしいものだわ。

 英雄の子供として生まれた以上、優秀でなくてはいけないという圧力に負けず、これでも必死に努力して毎日けなげに頑張っているのに。


「すまないな。俺のせいで嫌な思いをさせた」


 馬車に乗り、座り心地のいい椅子に身を落ち着かせてすぐに、アーチは申し訳なさそうに頭を下げた。


「アメリアを悪く言う噂があるというのは聞いていたが、ここまでとは思わずに甘く考えていた。王宮魔道士部隊でも、あんな態度を取るやつがいるなんて知りもしなかった。陛下の命令でしかたなく所属してもらっているというのに、申し訳ない」


 だからといって、王族が簡単に頭をさげてはいけないでしょう。


「いいえ、まったく気にしていません」


 そうよ。気にする必要なんてないわ。

 私の顔も知らないくせに適当な噂を信じ込む人たちがおかしいのよ。

 出来損ないだとか、地味な女だって言われるのは仕方ない。事実だから。


 でも私はコールリッジ公爵家の跡継ぎなのよ?

 王太子であるアーチにつき纏うわけがないじゃない。


「それより、ロザリンド王女はなぜ今になってお茶会を開くことにしたのか聞いていますか? 三年ぶりですよ?」

「いや、俺は何も聞いていないんだ。……父に何か言われたんじゃないか?」


 国王陛下に?

 いったい何があるんでしょうか。


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