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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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闇しぃ太郎

小さな箱庭の中の赤い宝石〜大切な宝物

作者: しぃ太郎
掲載日:2025/10/16

よくあるゆるふわ設定です。

ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。

 幼い頃から、父も母も家に居なかった。

 貴族の家なんてこんなことは当たり前でしょう。


 父は仕事に、そして密かに通っている愛人の所へ。

 母は夜毎行われるパーティーへ出向き酒に溺れ。

 

 ――こんなものよ。これが当たり前。

 

 そう気付いたのは11歳の時だった。

 

 私の知っている人間は皆汚い部分を抱えていた。

 父には愛人が居て。

 母にも外に愛する人が居て。


 そして、私はそんな汚い寄せ集めで生まれてきた。

 母によく似た緑眼。父と母には似ていない黒髪。

 

 いつか、父が言っていた。ただの政略結婚だからと、母と結婚前にいくつか契約を交わしていたらしい。


 前妻との子供が既にいるから、誰の子を産もうが関係無いと。お互いに自由にしていいと。


 ――だから、不義の子なんて公然の秘密。よくある話で特に珍しくも面白くもない。


 父に似てない私は、母の事をよく知っているので何処かで理解していたのだ。

 

 ――やっぱり私は不義の子なんだわ。




 ある春の日。確か12歳の時だ。


「ルビー!ここに隠れていたのか」

 ひょいと机の下を覗くお兄様と目が合った。

 綺麗な金髪に空の様な青色の瞳。


 見つかった気まずさに視線を落としながら、私はなんて言い訳をしようか考えた。


 今日は母が主催のお茶会の日だった。

 花が綻ぶ庭園で貴婦人とその子供たちが賑やかに、楽しそうに過ごしている。


 ――でも、私があの場に行くとコソコソと内緒話をするんだもの。お母様の機嫌もどんどん悪くなるんだもの。


「クリフお兄様。立派な紳士なら見ないふりしてくださる?わたしにも都合というものがありますの」


 そんな私に、顔を綻ばせるクリフォードお兄様。当時彼は15歳。私の3つ上だった。


 口元に手を当てて、咳払いしたお兄様は私に手を差し出して言った。


「では、お嬢様?もしお手隙なら、私にお時間をくださいませんか?美味しいお菓子を用意していますので是非」


 小さな紳士の手を、小さな彼の優しさを、拒める人は居ないだろう。


 その時の私だってそうだった。お兄様は私が他人になんて言われているか知っているし、どう扱われているかわかっていた。


「ありがとうございます。ありがたくいただきますわ」


 私が鼻を啜る音を聞き逃してくれ、私が下を向いて袖で涙を拭っても気付かない振りをしてくれた。


 私に居場所のない時、兄はこうやって助けていてくれたのだ。



 ◇◇◇


 

 兄は伯爵家の嫡男としての教育、私は淑女教育。

 私たち自身には無関心な両親の元で厳しく教育され、お互いに戦友のような感情が芽生えていた。

 

「クリフお兄様、体の具合はどう?大丈夫?まだ顔色が悪いわ…。お水を持ってくるわね」

 

 私と違って綺麗な金髪碧眼のお兄様。


 この家で、家族として会話が出来る大切な人。

  だから、私の家族はお兄様だけ。


「心配かけちゃったね、ルビー。大丈夫、すぐに良くなるよ。治ったらまた2人で色々な本を読もう。暖かい日には外でピクニックもいいね」

 

 お兄様だけが私の心の拠り所なのだ。

 ちょっとした事でも、この人に何かあると心配で仕方がない。

 

「早く元気になって下さいね。この家で、お兄様の声が聞こえないのは寂しすぎます」

 

 お兄様とは色々な感情が共有出来た。寂しさ、悲しさ、そして2人で遊ぶ楽しさ。子供としての普通の感情はお兄様に教えてもらった。

 

 昔は、本当にお兄様が理想の男の子で。

 ――本気で結婚したいなんて思っていたの。

 

 お見舞いに行ったその後、病状が危なくなったお兄様にも両親が見舞いに来ることがなく。

 

 私には、何処にもぶつける場所がない怒りだけが溜まっていった。

 

 ――私は不義の子かもしれないけれど、お兄様はちゃんとした伯爵の父の元に生まれた嫡男でしょう!?

 

「お父様、クリフォードお兄様が居なくなれば伯爵家はどうするのです?何故、そこまで放って置くのですか!」

 

 思えば、無謀だっかもしれない。あの気難しい父に抗議するなど。


 けれど、不安も不満も限界まで溜まってしまい私の心は耐えられなかった。


「あれは、私の息子なんかでは無い。私には子どもなんて作れないんだ!お前も俺の娘なんかじゃない。俺とお前達はみんな他人だ!お前たちなんて顔も見たくないんだ!出ていけ!」 

 

 12歳の冬の初め。

 ――私は酒に酔ったお父様から聞いてしまった。

 

 兄も知っているのだろう。

 こんなに口の軽い父親だ。きっと、兄の前でも口を滑らし罵っているだろう。 

 

 私は、まだ熱で寝込んでいるお兄様の部屋へ向かった。

 体の弱い兄は季節の変わり目に体調を崩しやすい。


 まだ熱が高いだろうか?

 でも、無性に兄の手を握ってあげたかった。


 ――私達には、これからも私達だけでいい。


「ルビー……?」

 

 まだ熱に浮かされた兄が、ぼんやりとした目で私を見る。


「お兄様には、私がいるわ。大丈夫よ」


 幼い子にするように頭を撫でる。

 親に甘えた事なんてない私達は、お互いに甘え、お互いに甘やかす方法しか知らなかったのだ。



 ◇◇◇



 私が16歳の秋。もうすぐデビュタントという時期に、お母様が離婚して家を出て行った。


 そういう契約だったらしい。


 お兄様は、体格もすっかり大人になり体調を崩す事もなくなった。今やご令嬢や貴婦人に大人気だ。


「お兄様、デビュタントボールでは私とファーストダンスを踊ってね。それから、初めてのお酒を一緒に飲みましょう!」


「光栄だな、俺のお姫様。今のうちに沢山独り占めしておかないとね。きっと皆、ルビーの魅力に気付いて求婚状が山のように来るだろうな」


「ふふふ。だとしても、お兄様とはずっと家族ですよ」


 兄は目を細めて私を見る。


「そうだね。ずっと君の家族だよ。あの小さかったルビーがもう大人の女性になるなんてね」


 その日が楽しみだわ。これから社交界に出る不安もあるけれど、ようやく成人として認められる。


 (これでクリフお兄様にも少しは安心させてあげられる。私のことばかり構って、自分には無頓着なんだもの)


 ドレスは純白で、お兄様の髪色の薔薇のブローチを付けよう。ダンスをして楽しく過ごし、素敵な夜にしよう。


 そう思って、期待を胸にベッドに入った。


 ――後5日。どんな日になるだろう。


 ◇◇◇


 デビュタント当日。

 お兄様にエスコートされて、乗り込んだ馬車の外。


 (なんて綺麗なの。キラキラとした宝石みたい)


 贅沢なほどに明るく照らされた庭園や、驚くほど立派な建物。人も多すぎる。こんな所で失敗なんてしたら…。


「ルビー?大丈夫だよ。俺がついてるから。何も心配しないで楽しんでこよう」


 いつもの穏やかな笑顔に、少し安堵する。

 そうね。何があってもお兄様がいるわ。失敗しても後でお兄様が慰めてくれるもの。






「いっぱい練習してダンスが上手くなったね。見た?ルビーが可愛いから、皆君を見ているよ。お兄様は少し寂しいよ」


 ――ふふ。お兄様の方が皆の視線を奪っているわ。物腰が優雅で穏やかな素敵な紳士。私の自慢のお兄様。


 デビュタントの挨拶も失敗しなかった。

 今のこの瞬間のお兄様とのダンスもとても夢みたいに素敵な時間だわ。


 ダンスの間、お兄様の瞳を見ながら夢の様な時間を堪能した。


 あの日の春の空の様な綺麗な青色の瞳。小さな紳士が心配して探してくれたのよね。

 何故、この瞬間に思い出すのかしら。


 でも、胸が暖かくなる。ずっとお兄様と一緒だったんだもの。感慨深いからかかもしれない。



 ◇◇◇


「クリフォード!妹君に紹介してくれよ!」 

 

 お兄様と同年代の若い令息たちが声を掛けてきた。


 次々と男性に紹介されるが、流石に覚えられない。

 取り繕うように相槌を打つ。


 その中の、亜麻色の髪に同色の瞳の男性がよく話しかけてくれた。

 

「――疲れたかな?クリフォードは、小伯爵としてあぁやって囲まれる事が多いんだ。少し外しても大丈夫だよ。飲み物でも取ってこようか」

 

「ええ。お気遣いありがとうございます」


 彼はランドル卿と名乗った。

 彼の話は面白く、社交界では人気もありそうだと感じる。


 (勧められるまま、お酒をのみすぎてしまったかも)

 

「大丈夫かい?ルビー。もう遅い時間だからそろそろ帰ろうか。馬車まで行こう。だいぶ酔っているみたいだから足元に気をつけて」

 

 お兄様が差し出した手を取り、談笑してる人達に断りを入れた。


「今日は楽しい時間をありがとうございました。またお会いしたら、よろしくお願いします」

 最後にランドル卿にも声を掛けて会場を出る。


 ――素敵な夜だった。お兄様とダンスをして。華やかな人々に会って。最高のデビュタントになったわ。


「あれが家の馬車だな。先にタウンハウスに帰っていてくれるかい?俺もすぐに戻るよ」

「ええ、大丈夫」


 お兄様が居ない寂しさもあったが仕方がない。

 ふらつきながら馬車に乗り込み、酔いが回っていた私は深く眠り入ってしまった。





 気がつくと、ベッドに寝かされていた。

 いつの間にか帰ってきていたらしい。

 

 (タウンハウスの部屋ってこんな感じだったかしら)


 酔いすぎて頭が働かないらしい。

 喉が渇き、ドレスも脱ぎたいから使用人を呼ぶベルを鳴らした。


 そこで入ってきた人々に私は仰天して声をあげた。


「ランドル卿!?それに後ろの方たちはさっきの……!…故ここに?いえ、それよりもすぐに出ていってください!」

 

「それは無理かなぁ?君は父親に売られたんだよ。賭博で負けた父親の為に君がその身体で支払う、とね。俺とこいつらにしっかりと払って貰おうかな。……可哀想に。震えて怖がる姿がゾクゾクするね」

 

 ランドル卿と後ろの2人の男達が嘲るように笑った。


「な、なにを…。そんな」

 

 意味のある言葉が出てこない。そして、あの父ならあり得るとも思う。

 

 ――私はこれから?

 

 誰かに助けを求めて辺りを見回す、が。

 更に男達の笑い声があがった。


「大好きなお兄様に期待しているのかい?あいつだって父親が君を売ったことくらい把握しているでしょ?」

 

 無理やりベッドに押し付けられ、男の身体に伸し掛かられる。

 

 ――お兄様、知っていたんですか。今日のキラキラとした思い出のその後に、私がこんな扱いをされる事を。

 

 両手をベッドに縫い付けられ、無理やり唇を奪われる。


「大体、血も繋がってないんでしょ?もしかしたら、あいつも混ざりたかったかな。誘ってやれば良かったか。君のこんな姿をあいつも見てみたかったかもね、知ったら悔しがるかなぁ」

 

「…は、…やめ……」

 

 しつこい口付けから逃げられない。

 身動きが取れない。脳裏を諦観の念が埋め尽くす。


 ――お兄様。私の唯一の家族。私を裏切ったのですか。こんな形で、私は捨てられるのですか。

 

 ―――ガン!ガン!

 

 諦めて目を瞑り。

 やり過ごそうと顔を背けた私の耳に、男達のうめき声と倒れ込む音が聞こえる。


「な、お前…!なに…」


 後ろの男性2人が血塗れでベッドの上に倒れ、私を押し倒しているランドル卿も殴り倒された。


「あ……お兄様……。来てくれたのですか……」


 手に血塗れの燭台を持ち、月明かりの中ベッドに横たわる私を見下ろす彼は。


 ――壮絶に美しかった。その笑顔が。その狂気を隠しきれていないその瞳が。


「ルビー、ルビー。怖い思いをさせたね。悪い奴らは俺が全部消してあげるからね。誰にもルビーを傷つけさせないから」


 ギュウギュウと力強い腕で抱き込まれる。


「お兄様。来てくれないかと思いました。とうとうお兄様にまで捨てられてしまったのかと」


「俺はずっと昔からルビーを愛しているよ。俺は君が居るから生きていけるんだ。そうじゃなかったら、もうとっくの昔にこんな人生なんて諦めている」

 

 涙が零れ落ちる。怖かった。身体を暴かれる事よりも、お兄様に捨てられたのかもしれないと。そう考えてしまう事がどうしょうもなく怖かった。


「ちょっと目を瞑って待っててくれるかな?これから証拠隠滅する必要があるし、きっちり止めを刺しておかないと面倒だからね。あの父親も何とかしないとな」

 

 血だらけで、血塗れで。

 

 それでも大好きな、私のお兄様。そして美しいお兄様が浮かべるその表情。


 ――あぁ、こちらを魅了し狂わせる美しさだわ。


 彼のその狂気に溺れて、そのまま飲み込まれて食べられてしまいたい。


 ――『私達には、これからも私達だけでいい』


 いつかのお兄様に言ったその言葉が今の状況にぴったりな気がした。



 翌日、顔を潰され身ぐるみを剥がれた男性の遺体が3体川で発見された。

しかし、身元を明らかに出来る物も無く。

 

 同時期に若い放蕩貴族が3人消えたが、碌でもない場所に出入りしていた彼らは、何らかの事件に巻き込まれたのだろうと噂され、すぐに忘れ去られた。


 そしてお父様は田舎に療養へ行き、お兄様に爵位を譲ったのだ。


 ◇◇◇


 ――若き伯爵、クリフォード卿には愛妻がいる。


 身体が弱く滅多に姿を見せないが、領地の館で子供たちと穏やかに暮らしているらしい。


 伯爵はその美貌で女性を虜にするが、彼は笑顔すら彼女たちに向けやしない。


 そして。周りが妻や子ども達の悪評を言おうものなら……。

 


「クリフ!今日ねルイが初めて歩いたのよ!貴方に見せたかったわ。もう一度頑張ってくれるかしら?」

 

 黒髪に緑眼の美しい妻と2人の子供たちを抱きしめて、今日も彼は彼女に伝える。

 

「ルビー、俺はずっと昔からルビーを愛しているよ。俺は君達が居るから生きていけるんだ」

 

 美しい妻は嬉しそうに笑った。

 彼が用意した、この箱庭の中で幸せそうに。


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