ペンバートン、ビン・マリアーニの歴史を知る
ペンバートンの机の上には、コーヒーと煙草と、分厚い医学書。それに混ざって、一冊の風変わりなフランス語のパンフレットが置かれていた。
「ビン・マリアーニ……?」
分厚い眉をひそめながら、彼はその名前を読み上げた。
調査を進めるうちに、彼はとんでもない事実にたどり着く。
「世界初の〇カイン億万長者は、アンジェロ・マリアーニ!!」
「……億万長者? ちょ、ちょっと待て……〇カインで儲かってるだと!?」
驚きを隠せないまま、彼は更に資料を読み進める。
19世紀、フランス人化学者アンジェロ・マリアーニは、コルシカ島からやって来た野心家だった。
マリアーニはある日、南米から届いた「〇カの葉」に目をつけた。そして、それをボルドーワインに漬け込み、とんでもない飲み物を作り上げてしまう。
その名も――
**「Vin Mariani」**
これが、ただの「トニックワイン」ではなかった。
なんと、1オンスあたり6mgの純〇カインを含む、合法の「魔法水」だったのだ。
これがヨーロッパの上流階級に爆発的にヒット。
宣伝文句も強烈だった。
「このワインを飲めば、疲れを知らず、眠らず、創造の極みに至る!」
事実、当時の広告には驚くべき名前の羅列があった。
「ヴィン・マリアーニの愛飲者:ジュール・ヴェルヌ、アーサー・コナン・ドイル、トーマス・エジソン、さらにはビクトリア女王!」
ペンバートンは震える手で、デスクをドン!と叩いた。
「ええっ!? 大作家も、発明王も、女王陛下までも!?
なんだこれ……発明家も偉人も全員バッキバキじゃないか……!」
資料にはさらに、とんでもないことが書かれていた。
エジソンはこのビン・マリアーニについてこう記している。
「このワインを飲めば、私は眠らなくてもメッチャ働ける!」
完全に中毒者の台詞だった。だが、その言葉は、なぜか説得力があった。
そしてペンバートンは知る。
**ビン・マリアーニの大成功に便乗し、類似品が市場に氾濫している**という事実を。
「インカのコカ」
「インカのワイン」
「ペルーの魔法水」――。
いずれも〇カ葉をウリにした、怪しげなドリンクたち。
だが、それだけ**人々が「万能感」に魅了されていた**ということだった。
ペンバートンの中で、何かが燃え上がる。
「俺も……これを作れば、一発当てられる。痛みも和らぐし、もしかしたら……世界だって変えられるかもしれない……!」