インチキ新聞と大統領の秘密の酒
**1884年、アトランタ——とある、ちょっと怪しい薬局の奥。**
ペンバートン博士は、今朝も変わらず新聞をバッサリ開き、
痛み止めの価格にブチギレていた。
「また値上がりだと!?この一瓶でどれだけの魂が救われるってんだ!!財布のほうが先に死ぬわ!!」
薬局の店主が、飽きた顔で言った。
「博士、それ毎日言ってるけど……結局、買って帰ってるじゃん。」
「言うなあああああ!!!それを言っちゃあオシマイだあああ!!!俺だってなぁ! 買いたくて買ってるわけじゃねぇんだよ!!!でもな!!」
「痛みに勝てる奴なんて、いねぇんだよッ!!!!!」
バシィッ!! 新聞が机に叩きつけられる。
そして——博士の視線は、広告欄のとある“闇に吸い寄せられていく。
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紙面には、毎度おなじみの**ヤバすぎる薬の広告**が並ぶ。
* **「めっちゃ痩せる。1日1杯で爆痩せ!ダイエット革命!(○田來未)」**
* **「これは便利!?服用すれば24時間賢者タイム」**
博士は半眼になりながら呟いた。
「バカか……お前ら全員バカか……」
しかしそのとき——
妙に地味な、でもやたらと現実味のある一文が目に飛び込んでくる。
> 「元大統領ユリシーズ・グラント、末期がんの痛みを『ビン・マリアーニ』で和らげる。」
「……んん?」
二度見。からの三度見。からの凝視。
「……ちょっと待て、あの英雄・グラントが!?俺より先に痛み止め問題を突破してんの!?」
記事にはこう続いていた。
「薬用酒“ビン・マリアーニ”の服用により、グラント大統領は回想録を執筆中。本人曰く、『苦痛が和らぎ、筆が進む』とのこと。」
博士、新聞を凝視。
「なんだそれ……めちゃくちゃ羨ましいんですけど……」
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「……いや、まてよ」
博士は思考を巡らせる。
「この新聞、普段は“飲むだけで万病完治”みたいなインチキ薬ばっかり載せてるよな……」
店主がコーヒーを啜りながら首をかしげる。
「“エリクサー”だっけ?知られている限りすべての病」を癒し、「足の不自由なひとは、これを二、三回服用すれば、松葉杖なしで歩けるようになるとか?」
「そうそう!!!“飲むだけで聖人になれる”みたいなやつ!!!」
「博士、あれ……ただのウイスキーだぞ?」
「知ってるよ!!でもな!!」
バンっと博士は、机を叩いた。
「もし本当に痛みが和らぐんなら……話は別だろうがああああああ!!!」
店主「うわぁ……ついに広告信じ始めた……」
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博士は江頭?のように目がギラリと光る。
「もし俺が……この“ビン・マリアーニ”みたいな飲み物を作れたら……」
「……まさか博士、お前……?」
「儲かる!!!!!(即答)」
「やっぱりぃぃぃぃぃ!!」
「ってか今の時点でラリってる体も治せるし金も稼げるとか、一石二鳥じゃね!?」
「お前それ言ってて恥ずかしくないの!?」
「むしろ誇らしいわ!!!」
こうして——
**アトランタの片隅で、“あの飲み物”の開発計画が、ひっそりと、そして全力で始まったのであった。**
当時の新聞は一面以外のほとんどが広告だったようです。
特に薬の広告が多く、怪しい薬が蔓延してました。
保険制度のないアメリカならではですね。