おかしな行商人
**――1885年、冬。ジョージア州。**
南部特有の乾いた風が肌を裂くように吹きつける街道を、
ひとりの **イキったB-BOY風謎男・ロビンソン**と、
甲高い声でギャーギャー喚く **元ヤンやくざの下っ端風・ダービッツ**が歩いていた。
彼らの目的はただひとつ。
**――クロマティック印刷装置の販売。**
それは、「たった一回で二色同時印刷できる」という、当時としては革命的な機械だった。
……が。
ここが南部であることを、今さらながらに後悔していた。
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ロビンソン、ポケットに手を突っ込み、半目でだるそうに呟く。
「だりー……きちー……ねみぃ……おかすぃーねー……」
即座に横から甲高い声が炸裂する。
「いやアニキィーーー!!!いきなり出オチみたいなテンションやめてくださいよぉぉぉ!!!歩きながら寝そうになってるじゃないっすか!!!」
さらに追いツッコミ。
「てかアニキィーー!!!なんでやる気ゼロなんすか!?!?あのプレゼン資料、徹夜で作った俺の努力は!?」
ロビンソンはキザに髪をかき上げ、鼻で笑った。
「南部の冬、舐めてたわ……寒すぎて言葉も凍るぜ……」
「いやいやいや!!アニキィーーが言ってたんすよ!?『これからは南部だ!魂のビジネスは湿地帯から始まる!』って!!」
ロビンソン、ふと立ち止まり、真顔で考え込む。
「……そんなこと、俺……言ったっけ?」
ガクゥッ!!!
「言いましたぁぁぁぁ!!!メモもあるし録音もしてたし、証拠山盛りですよぉぉぉ!!!」
ロビンソン、タバコのように小枝をくわえて吐き捨てるように言う。
「お前、朝からうるせぇな……俺はな、**南部の空気を感じてんだよ……ウッ!!**」
「アニキィーー!!!感じるなぁぁぁぁ!!!感じてる場合じゃないっすよ!!俺ら、**印刷機**売りに来たんですよ!?!?」
ロビンソン、ふっと笑って肩をすくめた。
「まぁ、ビジネスは“匂い”で嗅ぎ分けるもんだろ?」
「アニキィィィーーーーー!!!いやそれカッコいいけど意味わかんないっすぅぅぅ!!!」
「リスペクトだけ湧くのが腹立つぅぅぅぅ!!」
そして次の瞬間、ロビンソンが指さした先に現れたのは——
\*\*「ヤコブ薬店」\*\*の、謎すぎる看板だった。
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だが、その建物の見た目がヤバかった。
ギラギラ光るネオンまがいの看板。
キャバレーのような曲線美を誇る入口。
そして、壁一面を覆い尽くすように貼られた **奇怪な張り紙の群れ**——。
「アニキィーー!!!これはもう確実にヤバい店っすよ!?!?!?!呪いの発信源感出てますよぉぉぉ!!」
ロビンソン、張り紙を舐め回すように読み上げる。
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**【本日のおすすめ】**
* 「魂の炭酸水」:ただの炭酸ですが、飲むとブヒります。
* 「眠れるナマズ茶」:店主曰く、効能は『ナマズと会話ができる』
* 「一撃必殺胃薬」:効きすぎて胃液が逆流します(本当に)
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「……おかすぃーねー……」
「アニキィーーー!!!おかしいのは店のほうですからね!?!?俺ら、ただの営業マンなんすよ!?!?この街じゃ珍しい“真面目な側”なんすよ!?」
ロビンソンはそのままポケットから紙切れを取り出し、掲げた。
**それはマーケティングの心得。**
「世の中ってのはな、人と同じことやってちゃ埋もれるんだよ。俺は“異常”を信じる」
「アニキィーーー!!!それで店選ぶなぁぁぁ!!!」
そして、ロビンソンが指さした一枚の張り紙。
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**「バー毛の処理は当店で」**
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「**バー毛ってなんなのぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!?**」
ダービッツ、絶叫。震えが止まらない。
「アニキィーー!!!やめましょう!!!この店、絶対踏み入れちゃいけない側のやつっすよ!!!俺、未来視えますけどこのあとヤベェ奴らに絡まれる未来しか見えないっすよ!!!」
だが、ロビンソンは静かに、まるで儀式のように、扉のノブに手をかけた。
そして、低く呟いた。
**「逝くッ!!」**
「アニキィィィィィィィィ!!!!!」
「絶対罠あるってぇぇぇぇ!!!!!」
「それ死亡フラグの構えじゃないっすかぁぁぁ!!!」
だがその声も虚しく、ロビンソンの手が引いたその瞬間——
**ヤコブ薬店の扉が、ギィィ……と、音を立てて開かれた。**
クロマテック印刷というのは昔カセットテープなんかに透明のシールに並んだ文字をこすって転写するやつですね。どんな機械なのかはわかりませんがロビンソンは結構やり手だったのかもしれません。




