第8話 告白と、僕たちの初めて(後編)
まさか、新生活の3日目にして、こんな場面が来るとは思ってもいなかった。でも、僕は勇気を振り絞って、中西さんに恋心を告白する。
「チアリさん、聞いてください。僕は、君のことが好きです。引越しの日に会った時から、君に夢中でした。とても明るくて、フレンドリーで。4年間、お隣さんとして過ごすことができるんだと思うと、とても嬉しかった。ご飯を作ってくれた時も最高な気持ちだったし、一緒にアルバイトをしたいって言われた時にも、本当に嬉しかった」
「うん、私もこの3日間、とっても楽しかったよ」
「だから、恋人としてお付き合いさせてください」
「……哲郎くん、私みたいな女のことを、好きって言ってくれるの?」
中西さんの目に、涙が浮かぶ。ああ、これまでの中西さんは頑張ってくれてたんだな。まぁ、こんなに可愛いエルフさんが『私みたいな女』って、自己評価が低すぎだと思うけど。僕は握ったままの手に、力をこめる。
「もちろん。君に嘘をつくなんてできないよ、チアリさん」
「……本当に?」
「うん。本当の気持ちだよ。僕には、君しか見えていない。こんな時に、嘘なんてつかないよ」
小さな声で問い返す中西さんは、普段見せる元気で無邪気な姿とは違っていた。まるで、心の奥底に隠していた弱さを、ほんの少しだけ見せてくれたかのような儚さがあった。僕はその姿に胸を打たれて、もう一度ゆっくりと頷く。
「嬉しい……でも、こんなに早く返事をもらえるなんて思ってなかったから、ちょっとびっくりした。ありがとう、哲郎くん。好きって、言ってくれて」
「うん。でも焦らなくて良いよ。もっと一緒にいたい。一緒の時間を過ごしながら、もっとお互いを好きになっていこうよ」
自分でも驚くくらい穏やかな気持ちで、中西さんに好意を伝えることができた。彼女が魔法で隠していたのは、単に外見だけじゃない。本当の自分を周囲に隠し続けてきたその強さと弱さが、僕の目の前にある。
チアリさんは少しだけ目を伏せて、ぽつりと呟くように言った。
「やっぱり哲郎くんって、すごく優しいんだね」
「優しいっていうよりも、ただ正直に答えたかっただけだよ。チアリさんが正直に自分の気持ちを伝えてくれたから、僕もそうしたくなったんだ」
「でもね、哲郎くん。私には、まだたくさん隠していることがあるかもしれない。それでも……それでも、私を見ていてくれる?」
「もちろんだよ。僕だって、チアリさんに隠してること、いっぱいあるよ。だって僕たち、知り合ってまだ3日目なんだから」
中西さんは一歩ずつ、自分の殻を破ろうとしている。焦ることはない。僕だって、恋愛経験はないんだから、まぁお互い様だ。
でも、僕は忘れていた。中西さんは、ちょっとハードルが低い女の子だってことを。
「哲郎くん、好き。大好き。だから、これはお礼なんだよ」
「えっ、チアリさん」
明るい声を出しながら、中西さんが抱き着いてくる。こんなに女の子と至近距離で接触したのは初めてだ。変な匂いとかしてないよね? 抱きしめ返した方が良いのかな? ダメだ、主導権を取られてしまって考えがまとまらない。童貞の僕には刺激が強すぎる。
「ねっ、チアリさんじゃなくて、チアリちゃんって呼んでほしいな」
「分かったよ、チアリちゃん」
「ありがとう。私の好きの気持ち、受け取ってください」
中西さんの顔が、僕に寄せられてくる。女の子の甘いにおいが鼻腔をくすぐり、プラチナブロンドの髪の毛が首筋をなでる。やわらかい唇が、目の前にある。
「本当に良いの?」
「うん、ちょっと恥ずかしいけど。ファーストキスは、哲郎くんからしてほしいな」
僕は顔をさらに近づけて、唇を触れ合わせる。中西さんは耳を赤くしながら、目を閉じて僕のキスを受け入れてくれている。指を絡み合わせて、唇を舌で湿らせる。中西さんがこくんと頷くのを確認してから、もっと丁寧に舐めていく。何分くらい、そうしていただろうか。そっと唇を離すと、中西さんはようやく目を開けた。
「……舌、入れてくれても良いのに」
「ファーストキスは、軽い方が良いかなって思って」
「じゃあ、セカンドキスをしてほしいな」
「うん。次は、僕から……」
そう言って、中西さんをそっと抱き寄せて、唇を重ねる。お互いの鼓動が重なって、心地よい優しさが流れ込んできた。舌をゆっくりと入れて、指と同じように絡み合わせていく。口の中はすごく熱い。中西さんが火照っているのが伝わってくる。
「んっ……好きだよ、哲郎くん」
「うん、僕も大好きだよ」
お互いの心が通っていくのを感じる。ハーフエルフの特徴としての耳を触り、髪の毛を手櫛ですきながら、僕たちは時間を忘れて好きな人同士のキスを続けた。開けている窓から春風がふわりと吹き抜けて、僕たちの静かな空間を包み込んでくる。
こうして僕たちは早くも3日目にして、お隣さん同士の関係から、恋人同士の関係に進展したのだった。
そして僕たちの関係はさらに進展し、様々な経験をしていくことになるけど、それはまた別の話。
ご愛読いただきありがとうございました……と言いたいところですが、R15版の表現では限界を感じたため、哲郎くんの妄想が炸裂しているノクターン版を連載開始しています。引き続きお読みいただける方は、作者名の「柚子故障」もしくは「中西さん」で検索されてください。どうぞ、よろしくお願いいたします。




