第7話 明かされた、中西さんの隠し事(前編)
「ねぇ。ところで、うちの看板娘として本気を出してくれたりするのかしら? うちとしては出してほしい。でも、そうしたらあなたに注目が集まるし、迷惑をかけちゃうかもしれない。だからね、無理強いはしたくないの。嫌なら嫌って言ってほしい。それで、やっぱりアルバイトに来ないで、って言うつもりもないし」
何のことを言ってるんだろう?……でも中西さんには、その意味がよく分かっているみたいだ。一瞬表情をこわばらせたけど、微かにため息をつき、すぐに小さく笑みを浮かべて返す。
「三春さん、やっぱり気付いてたんですね?」
「昔、同級生にエルフがいてね。あなたみたいに認識阻害を使ってたんだけど、後から解除してくれたの。だから、違和感に気付けたのかな」
三春さんの言葉に、中西さんはため息をつきながら返答する。
「そうです。あまり注目されないように、魔法をかけているんです。皆から見た私は、印象に残らない、とっても平凡な女の子のはずです。三春さんからの見え方はちょっと違うのかもしれないですね」
その会話を聞いていた僕は驚きつつも、中西さんを見つめた。いや、どう考えてもめちゃくちゃ可愛い女の子だ。そんなことがあるのか? 周りにそんな風に気付かれない魔法を使っていたなんて……でも、それなら僕が中西さんの魅力を感じていたのは、どう説明できるんだ?
「認識阻害って……平凡にしか見えないって言うけど、僕から見た中西さんは、ものすごく魅力的な、可愛い女の子なんだけど」
「哲郎くんには、最初から解除してるんだよ」
中西さんは少しだけ頬を染めながら、あっさりと答え合わせをしてくれた。その言葉に、僕は驚きを隠せない。
「なんで、僕だけ?」
「えっと……」中西さんはさらに顔を赤くして小声で答える。「哲郎くんには、ちゃんと私を見てもらいたかったから」
期待していた答えが、そのまま返ってくる。
中西さんが僕にだけ本当の自分を見せていたなんて……そんなこと、知りもしなかった。でも、それが意味することって……えっ、これって、中西さんも僕のことを意識してくれているってことで良いんだよね?
僕はエルフィナさんが「あら、そう。うちの子のこと、『可愛い』って感じてくれてるのね」と僕に話しかけてきたことを思い出していた。あれは、認識阻害魔法がかかっていないことを確認した受け答えだったんだ。
「なるほどねぇ、青春だね」
僕たちのやり取りを見ながら、三春さんがにんまりと笑う。
「うちとしては、お店で働いている間だけでも魔法を解いてくれると、すっごく嬉しいんだけどね。エルフの看板娘とか、めちゃめちゃ繁盛しそうだし」
「やめなさい、三春。目立ちたくない事情があるんだろう? お前だってさっき、自分で言ってただろう。うちの売り上げのために、無理強いするものじゃない」
厨房の奥から、三春さんの旦那さんが声をかけてきた。三春さんはちょっと言い返そうとしたけど、黙り込む。
「あ、いえ。お店だけなら大丈夫です。哲郎くんも一緒だし。それに、皆の前で本当の私を見せることが怖くなくなったら、自信が付きそうだし。じゃあ、三春さん、店長さん。お2人の認識阻害も解除しますね」
雨除けの時とは違って、中西さんは特別に何かをしたわけではなかった。でも、三春さんの反応の変化から、魔法が解けたことはよくわかった。上から下へ、視線がせわしなく移動している。
「えっ、可愛い。めちゃくちゃ可愛いじゃない。こんなに可愛かったの、あなた。まるで別人よ?」
「はい。お店の中限定で、解除しようと思っています。全然印象が違うと思うので、お店を出たら気付かれないと思います。もし写真を撮られても、残せないような設定もできるんです。結構器用なんですよ、この魔法」
「直接触ってこようとする変なお客さんは、うちの旦那に任せておいて。あっ、彼氏君もボディーガードでいるわね」
「もちろんです。中西さんのことは、しっかりと守ります」
旦那さんも厨房から出てきて、中西さんを一目見て息を飲む。
「ああ、俺にも任せておけ。でも確かに、すごい美人さんだな。接客を担当してくれるなら、大助かりだ。時給も弾むから、よろしく頼みます」
これで、京都観光をしていてもスーパーで買い物をしていても注目されなかった理由が、ようやく分かった。そうだよね、変だとは思っていたんだ。でもまさか、魔法で見た目を変えていたとは。そんな魔法を使っていたなんて、全く気づかなかった。
「ごめんね、騙してたみたいになっちゃって、気を悪くしちゃったかな。エルフの間ではよく使われる魔法なの。お母さんも実は使ってるんだよ」
「あっ、エルフィナさんもやっぱりそうなんだ?」
京都観光の時を考えると、エルフィナさんも使っているんだろうなと思っていたけど、やっぱりそうだったのか。でも僕には、最初からとても美人に見えていた。ということは、解除してくれていたのかな?
『えっ、だってお母さんもそうなんでしょう?』
『そうよ。だって、お試ししてみたかったんだもの』
ああ、あの時のこの会話って、そういうことだったのか……不思議に思っていたことが、次々に解消されていく。
「うん。エルフって目立っちゃうから、日常生活で結構不便なんだよ。ストーカーとか、隠し撮りとか……だから、あんまり注目されないように、タレントとか女優になった人も、日常生活では認識阻害を使ってる人が多いんだよ。だからね、あまり気にしないでくれると嬉しいな」
中西さんはちょっと必死になって弁解している。まぁ、使っている理由としては納得だ。特に京都にエルフとか、外国人観光客に揉みくちゃにされそうだ。エルフが住んでいるのは、移住した人を除けば日本だけだからね。
「そうだったんだ……でも、僕には解除してたんだ?」
「うん。さっきも言ったけど、哲郎くんだけには……本当の私を見てもらいたいって思ってたから」
「いやー、お熱いね。うちのざる蕎麦でも食べて、ちょっと冷やしていきなよ」
三春さんがからかいの声を出して、僕たちはバイトの面接中にいい雰囲気を出してしまったいたことに気付いた。それで、お互いに赤面したり苦笑いしたりするくらいしかないのだった。
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