第3話 会場を出て歩く
話を戻して、現在に至る。
ルール説明を聞き、阿鼻叫喚になっている会場を後にして、博人は自分の持ち物の確認をした。
「(持ち物は……手首から外れないリストバンドと……金属製のカード……だけか。)」
銀色のリストバンドに触れてみるが何も起こらない。重さも特に感じない。
金属製のようなカードはなめらかな肌触りだが、それだけだ。
ICカードのようにも見える。
――よく見てみると裏面に『HIROTO SAEKI』 と書かれている。個人に割り当てられるカードのようだ。
そこまで確認を終えると博人は船内を探索することにした。
「手始めにこの階から見て回ろう」
誰に伝えるでもなくつぶやくと、あたりを見回しながら進んでいく。
そして、ようやく吹き抜けになっている場所についた。
手すりから眺めるに、今いるのは3階部分。
そして、1階の吹き抜け中央は商業区画のようだ。中央に大きな店があり、そこに続く道沿いには露店のようなものが立ち並んでいる。
「あとで見に行くか」
まずは予定通り3階の探索を続けることに決め、また狭い通路を進んでいく。
すると、番号と名前の書かれた扉があった。
『001 KOUTARO TACHIBANA』 『002 HIKARI SENNJU』
「これは、部屋の番号と名前……?」
次のドアには見慣れた文字があった。『003 HIROTO SAEKI』。
扉のノブに手をかけるが、ピクリともしない。もう一度扉を見てみると、カードをタッチする機械が取り付けられていた。
「本当に何も教えてくれないんだな」
小さくつぶやき、ポケットに入れたICカードを扉にかざす。
カチッ。
かすかな音を合図に、博人は扉を押して中に入った。
そこには、生活に必要最低限のものが置かれていた。
まずはベッドだ。
学校の病室に置かれているような形のベッドだが、クッション等はなく固い。
寝られはするが、これから30日間はとても耐えられそうになかった。
次に机だ。なぜ机があるのか分からないが、子供の勉強机くらいしっかりしている。
ベッドと品質逆だろ。
心の中でツッコミを入れて、机の上を確認する。
『部屋に入ったら必ず読もう☆上』と書かれた紙1枚と消しゴム付き鉛筆1本のみがぽつんと置かれていた。
「まずは読んでみよう」
紙に目を落とすと、こう書かれていた。
『部屋に入ったら必ず読もう(上)
ベッドのクッションは部屋☆の中にありません。
洗面台の水は飲んで、☆いいよ
机の上にある鉛☆筆は、部屋からそーっと持ち出して使うのは
ぜったいにやめよう
☆夜は外に出ても出なくてもよい☆』
博人はその紙だけを机に置き、自分の部屋から出た。
まだ見ていないところはあるが、とりあえず次は2階だ。
降りる手段を探していると、数人のプレイヤーにすれ違った。暗い顔のものはおらず、目を輝かせている。
「こんにちは」
声をかけられた方を見ると、金髪の男が立っていた。
顔の整った青年だ。アイドルか何かだろうか。
「ぼくは おかべ りょう と言います。今さっき、会場を出たところで何もわからなくて・・。
もしよければ、今わかっていることを教えていただけませんか?」
さて、どうしたものか。ここでとれる選択肢は2つ。対価を求めるか、求めないかだ。
教えない選択肢は最初からない。
現状は情報をもつプレイヤーがかなりのアドバンテージをもつだろう。ただ、1人でできることには限界がある。探索にしろ、【スキル】の発見にしろ、情報共有できる仲間がいることに越したことはない。あとは信用できるかどうか・・。
そこはこれから見定めていくしかないな。
そう思い、伝える情報を精査しながら、話し始めた。
「僕は、佐伯博人と言います。私もまだこの狭い通路を見てきただけなのですが・・・。岡部さん、今何を持っていますか?」
岡部さんは、唐突な質問に少し驚いた様子を見せるが、すぐにポケットを探り始めた。
「今持っているのは、カードと紙だけです」
そう言って、博人の持っているのと同じ金属製のカードと薄い小さな紙を取り出して見せた。
「これは、会場でもらいました。チュートリアル特典?だそうです。」
聞いていないのにそんな情報まで教えてくれた。いい奴なのかもしれない。
こちらの情報を渡しておこう。
「ありがとうございます。後で取りに行ってこようと思います。
そのカードですが、この狭い通路の両脇にある自分の客室のルームキーのようです。タッチして中に入ることができました。正直、快適とまではいきませんが、寝ることはできそうでしたよ」
こうして情報交換を終えると、岡部さんは客室フロアに入っていった。
さて、彼はあの紙の謎が解けるのだろうか。次会うときが楽しみだ。
2階に降りる階段はあっさり見つかった。
吹き抜けのちょうど真ん中に階段があったからだ。
人が5,6人並んでも通れるほどの広い階段で、今まで通ってきた道と同じように厚いカーペットが敷かれている。
ただ、途中からカーペットの色がわずかに濃くなった。
2階だ。
2階は商業施設になっているようで、たくさんの店が立ち並んでいた。
閉店時間を過ぎているのか、開いている店はなかった。
仕方なく、さっきの階段に戻り、1階を目指す。またカーペットの色が変わる。
1階だ。
1階に来て真っ先に目に入るのは3階から見たあの大きな店だ。
4本の大理石の柱で屋根を支え、その下には様々な品物が置いてある。
まずは情報を集めておこう。
店に近づくと中にはくまのぬいぐるみがいた。
大きさは、40㎝くらい。抱えて歩きまわるギリギリのサイズとでもいえるだろうか。
そして、かなりボロボロだ。綿が出てしまっている。
目のボタンも1つない。で、ぷかぷか浮いている。
ただ、不思議と怖くなかった。
「いらっしゃい。プレイヤーくん。スキルショップ《ベアーズ》にようこそ。ボクは、チャッピー。ヨロしくね」
チャッピーはふにゃふにゃな首を上下に動かして、くたっとお辞儀をした。
「ここでは、スキルの売り買いができるヨ。売る金額ヤ買えるスキルは日によって違うヨ。ぜひたくさん買って、たくさん売ってね」
ここまで言い終えると、チャッピーは店前で動かなくなった。どうやら、システムで動いているようだ。
「チャッピー、店の品物を買わせてほしいんだけど、品物を見せてくれない?」
チャッピーが いいよ。とうなずいた瞬間、博人の目の前に薄く青色がかった、ウィンドウが出てきた。
『品物一覧0日目 所持金 0S
・スキルE【ステータスウィンドウ】10S
・ランダムステータス小上昇 2S
・称号【探索者】残り1(5個中)
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「チャッピー、この【ステータスウィンドウ】はどんなスキルなの?」
チャッピーは博人のほうにふわふわ寄ってきて、現物を見せてくれた。
なるほど、薄く緑色がかったウィンドウで、ステータスが書かれている。スキルもタッチすると詳細が見られるようだ。必ず必要になるスキルといっても過言ではない。
とりあえず、ほかの品物の説明も聞いてみる。
ランダムステータス小上昇 …STR、VIT、INT、DEX、AGI、LUK、HPを
ランダムで1つ少しだけ上昇させる。
称号【探索者】…すべてを犠牲にして探索をする冒険者に送る称号。
スキルE【視力小上昇】を得る。
ここまで聞き終わったところで、チャッピーが話し出す。
「今はお金がなくて何も買えないから、称号だけもらっておくといいヨ。最後の一個だヨ。」
そのアドバイスを聞き入れ、称号だけもらっておくことにした。
全部で5個あったということは、最低でも4人はもうこの場所にたどり着いていることになる。
―――怪しいのは、最初に出ていった人たちだな。
そんなことを考えながら、チャッピーにお礼を言い、店を後にした。
そのほかの露店には、まだ何も品物は並んでおらず、人もいなかった。
佐伯博人
STR:不明VIT:不明
INT:不明 DEX:不明
AGI:不明LUK:不明+3
HP :不明
【冷静】【視力小上昇】
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【スキル使用可】リアル脱出ゲーム
本編
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