レンタル家族の延滞料金が払えない!
よろしくお願いします。
僕の家族は、レンタルだ。それはいい。問題は、延滞料金が発生してしまっていること。そして、その料金がなかなか払えないということだ。
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「ちょっと〜。映画の予約してあるって言ったじゃない。なんで間も開けずにレストランの予約もしちゃうのよ。慌ただしくなっちゃうじゃない」
そう文句を言うのは僕の妻(レンタル)。初めて会った頃はお互い遠慮もあったはずだが、十年一緒にいるとここまで気安い関係になる。
絶世の美女というわけでもないが、僕にとって愛らしい女性だ。
「その日って俺、服買っていい?」声変わりした息子(レンタル)がそう聞いてくる。生意気だが、大事な息子だ。レンタルできるのは十六歳からなので、養子という形で妻と出会ってからしばらくして迎え入れた。今は大学三年生だ。
成人した娘(レンタル)もいるが、現在は留学中。
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最初はふとした気の迷いから始めたこのレンタル。恋人もおらず、友達もおらず、両親とも疎遠。仕事はそれなりに順調だが同僚との関わりも希薄。そんな寂しさを埋めるために、誕生日の一日だけ、レンタルの申込みをした。
初回サービスとして、一日目が気に入ったらもう一日だけ無料で追加というプランがあったのがいけない。
来てくれた女性が、さすがのプロだと思わせる家族の暖かさを演出してくれたせいで、翌日の一人の食事が余計寂しかったのも、いけない。
追加でもう一日申込みをした。キャンセルをしなければ自動で延長というのもずるい。
その次の日も、次の日も。サービスプランではないが、利用を続けた。
こうしてズルズルと、楽しい日々は続いた。
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このレンタルは一年契約だ。それを過ぎると延滞料金がかかる。バカ高いわけではないが、ボーナスを待つ必要がある程度の額だ。
夏のボーナスで延滞料金を払ったら、『利用状況の良い優良顧客なので、初回延滞料金は大幅割引をします』と、払った金額の一部を返金してくれた。
それに味をしめてしまった。延長しても、たいしたことはない、と。
そこで、また、延長した。
妻(レンタル)との暮らしも満ち足りていたが、ポツリと、「子供は持てないけどな」と言ってしまった。
妻(レンタル)は寂しそうに笑った。
翌日、子供のレンタルプランのパンフレットが届いた。
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うまくできている。次第にそう気がついた。
延滞料金が払えなくなると、分割プランを勧められたのだ。利用を継続する場合に限り、通常料金に延滞料金分の分割払いを上乗せして支払えるというプラン。もし契約を止めたら、その場で一括払いをしなくてはいけない。
妻の派遣元も商売だ。ころころ顧客が変わるよりも固定客に割高で利用してもらった方がいいに決まっている。優良顧客には延滞料金を足枷に、長々と利用させるような仕組みになっているのだ。
とは言え生活を我慢すれば、一括払いでも払える金額を貯められるだろう。子供たち(レンタル)の大学も行かせる必要はない。
でも、一度契約をしたのだ。しかも数日ではなく長期プランで。つまり、彼らの生活を請け負ったということでもある。責任がある。少しでも幸せに暮らしていてほしい。
気がついたのだ。彼ら(レンタル)は仕事として家族をやっているわけだが、悪い人間ではないと。アコギなのは派遣元だ。
でも、そんな生活ももうじき終わる。息子が大学を卒業すれば、ある程度生活に余裕ができる。
そんな彼ら(レンタル)を派遣元から救ってやる、という気持ちと、しかし彼らを自分の元から解放してやらなければ、という気持ちと、もう少しこの幸せな時を送っていたい、という気持ちに揺れながら、タイムリミットなんか来なければいいと思っていた。
きっとそんな僕をバカだと笑っていることだろう。
¥¥¥¥¥レンタル妻視点
あの人は、とてもバカだ。
レンタルされた妻の身として、そう思う。
私は天涯孤独の身で、日々をなんとなく生きていた。融通の効く資格を持っていたので、いつでもどこでも働ける。そんな余裕から、ちょっと違う仕事をしてみたくなって、レンタル家族という仕事をやってみた。
持病を治したいという目的もあった。何も命に関わると言うわけでもないけれど、纏まった休暇と纏まったお金が欲しかったのだ。
行った先で出会った人は、とても優しい人だった。派遣先が難がある人だった場合は安全のため即通報して逃げられる仕組みや、緊急連絡をして派遣元の人が駆けつける仕組みがあったのだが、そんな心配は無用な人だった。
一途で、不器用で、ちょっと計画性のない人だけれど、とても優しい人。こんなにも人を愛せる人が寂しく暮らしていたからか、すぐにこのレンタル家族にのめり込んでしまった。
実は私はこのレンタル期間が終わったら、改めて告白しようと思っている。本当に結婚してほしいと。
なんの事はない。私もこの人にのめり込んでしまったのだ。
でも、この人は本当にバカだ。レンタル期間中はプロポーズなどしてはいけないという事になっている。だから、早くレンタルを終えて告白したいというのに、些細な幸せにこだわって、無駄に支出して、また延滞料金が払えなくなっている。
でも、大丈夫。私は金額も知っている。今までこの人との暮らしで何一つ不自由することがなかったから、このレンタルで得たお金には手を付けていない。
息子が大学を卒業したら、私が延滞料金を払ってあげよう。残りのお金もすべてこの人に捧げよう。
でも、告白して断られたらどうしよう。
タイムリミットまで、期待と不安で胸がいっぱいになる。
¥¥¥¥¥レンタル息子視点
うちの両親はバカだと思う。
レンタルなんてバイトをしている得体のしれない俺を、大事に育ててくれている。血の繋がった姉ちゃんと一緒にレンタルしてくれた。
もとの家はろくな環境じゃなくて、せめて高校を卒業したくて、この怪しげなバイトに応募した。
幸せな三年間はあっという間に過ぎて、就職して終わりかと思っていたら、父親(借り主)は「ちゃんと大学にいけ」と言った。
口論にまでなった。
夜ベッドで嬉し泣きしたのは内緒だ。
この怪しげな仕事はだいぶアコギみたいで、延滞料金を課して客を逃さないようにしているらしい。
先に大学を出してもらえて留学までしている姉ちゃんと相談して、その延滞料金資金を貯めることにした。二人で貯めたのでだいぶ余裕がある。
このまま、両親の結婚式も挙げられるだろう。
恩返しのためにも俺の大学まで待ってもらうことにしている。申し訳ない気もするけれど、卒業が最大の恩返しだ。
タイムリミットまで後少し。いまからワクワクしてる。
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